保護活動マニュアル

STEP1| 犬の保護について

STEP1| 猫の保護について

多頭飼育崩壊から犬猫を保護する際の注意点

この記事は 犬 猫 に当てはまる内容です

全国各地で多発している犬猫の多頭飼育崩壊。保護団体には様々なルートから通報や保護の依頼が入ります。犬猫の保護のために多頭飼育崩壊現場に立ち入る際の注意点や元所有者との間で取るべき手続きについて説明します。

多頭飼育崩壊に陥る理由とは

「多頭飼育崩壊」とは、多数の動物を飼育している中で適切な管理ができなくなることにより、飼い主の生活状況の悪化、動物の状態の悪化、周辺の生活環境の悪化のいずれか、または複数の問題が生じている状況を指します。

劣悪な環境での飼育は、『動物に対して身体的・精神的に不必要な苦痛や苦悩を与える故意・不作為の行為』とみなされ、動物虐待として動物愛護管理法違反となります。保護団体には一般の方からの相談が入ることもあると思いますが、自らの判断で動かずに必ず行政と連携をとりましょう。

多頭飼育崩壊に陥る要因のひとつとして、動物の高い繁殖力への理解がないままに不妊去勢をせず飼い始め、動物の管理ができなくなることが挙げられます。ボランティア自身が収容能力以上の頭数を保護してしまい、飼育困難な状態に陥り崩壊となった事例もあります。
近年では、感染症や飢餓などに適切に対処できないにもかかわらず、動物を多数集め、手放せない人を「アニマルホーダー」と呼び、アメリカ精神医学会では、この状態を精神疾患の一種と位置づけているということも念頭におく必要があります。
(2013,Diagnostic & Statistical Manual of Mental Disorders;DSM-5)

 

多頭飼育崩壊現場に入る前の事前準備

1. 「飼い主本人が対象動物の所有権を放棄することに同意しているか」の確認

多頭飼育崩壊現場への保護依頼は、犬猫の所有者本人ではなく、不適切な飼育となっている状況を見かねた第三者から入る場合がほとんどです。その場合、「飼い主本人が対象動物の所有権を放棄することに同意しているか」を必ず事前に確認する必要があります。

もしも飼い主が行方不明だったり、死亡や施設入居などで直接コミュニケーションを取ることが不可能な場合は、トラブルを防ぐため、行政に相談して介入してもらいましょう。

なお飼い主が飼育権を放棄することに同意をしていない場合は、「動物虐待から犬猫を保護する際の動き方」のページを参照してください。

2. 犬猫の状態の確認

飼い主本人または相談者に犬猫の状態の確認をします。

「犬または猫が何頭いるのか」、「食べ物・飲み水はあるのか」、「暑さ・寒さはしのげる環境なのか」、「犬猫の見た目から判断できる健康状態はどのような様子か」、「妊娠している犬猫の有無」、「幼齢の犬猫の有無」、「人に慣れている具合はどうか」、「どのように捕獲可能か」、「おおよその年齢と性別の内訳」、「不妊去勢の実施状況」、「ワクチンの接種履歴」などを確認します。

3. 収容可能な頭数の確認

保護団体などでシェルターを持っている場合はシェルターの空き状況、預かりボランティアを抱えている場合は預かりボランティア宅の受け入れ可否状況を事前に確認します。

保護した犬猫の状態は悪いことが多く、医療費の負担が通常よりも発生すると想定し、物理的な収容能力だけでなく経済的な余力も併せて確認しましょう。

対象動物の全頭保護を1団体で行うことが難しいと分かったら、他団体への協力要請をします。

4. 収容場所の確保、医療機関の手配

事前に入手した情報を元に収容場所の見当を付けておきます。また保護後、初期医療・トリミングを行うことになるため、医療機関の受け入れ体制などを確認し、保護に入る日を確定させます。

 

多頭飼育崩壊からの保護時に気を付けなければいけないこと

1. 動物の所有権について

日本の法律では、動物は飼い主の所有物、つまり、「物」として扱われるため、「所有権」について理解しておく必要があります。民法第206条では、所有権の内容として、「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する」と定めています。

このことから、飼い主が所有権を放棄していない動物を勝手に保護することは窃盗に当たります。また、保護した後に、飼い主に「譲渡したつもりはない」と言われると、動物を返却する義務が生じる可能性もあります。

よって保護に際しては、飼い主と保護団体との間で、所有権を放棄・譲渡する契約の締結が必須となります。保護した後に契約書を取り交わそうとすると、手放したくないと意を翻す人もいるため、必ず保護に入る前に締結してください。

※弁護士監修の「引取り契約書(譲渡契約書)」を以下よりダウンロードすることができます。

2. 住居の侵入罪について

刑法第130条に定められる「住居侵入罪」では、「人の住居若しくは人の看守する邸宅などに侵入、あるいは要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった場合、3年以下の懲役または10万円以下の罰金に処する」とあります。よって、動物を保護しなければならない明らかな状況が認められても、住居の所有者の合意がない上で敷地に立ち入ることは住居侵入罪に該当します。

事前に保護のために立ち入りをする日時について合意していても、その時になると意を翻すこともあります。住居に立ち入ることに関してあらかじめ書面にて合意を取り付け、行政にも共有しておきましょう。

※弁護士監修の犬・猫引取りのための住居立ち入りについての覚書」を以下よりダウンロードすることができます。

 

多頭飼育崩壊現場に入る際の準備

現場への保護は防御服で入ります。多頭飼育崩壊現場は想像を絶するような劣悪な環境であるケースもあります。自身の身を守ると同時にシェルター等に感染症を持ち帰らぬように、足の先から頭部・髪の毛の先まで全身洗浄または廃棄が出来るようにしましょう。また、足元は長靴、手元は厚手のゴム手袋、服装はレインスーツなどを着用し、髪の毛にも臭いが付着するためシャワーキャップなどでしっかり覆います。現場によってはアンモニア臭が目と鼻を刺激するため、マスクで鼻と口元はしっかりと覆い、目元もゴーグルを着用しましょう。

頭数に応じて捕獲器や捕獲網、ケージ、クレートなどを準備し持参します。

 

多頭飼育崩壊現場から保護した後にすべきこと

1. 保護した犬猫のケア

保護した動物は、状態が悪い場合がほとんどです。ワクチン接種や血液検査、不妊去勢手術などの基本的な健康管理が行われていない場合が多いため、保護後は隔離が必要になるケースもあります。また、近親交配による先天的疾患を患っている場合や、すでに妊娠しているケースも考えられます。速やかに初期医療チェックを受け、全頭の健康状態を把握しておきましょう。

人慣れしていない場合や、問題行動をしてしまう場合も多く、一般家庭で生活できるようトレーニングするためには時間がかかることも想定されますが、焦らず愛情をもって心のケアもしてあげてください。 

▶保護犬・保護猫の主な感染症についてはこちら
▶保護犬の医療チェックについてはこちら
▶保護猫の医療チェックについてはこちら

2. 元飼い主のケア

多頭飼育崩壊を起こす飼い主の中には、社会福祉サービスなどの支援が必要とされる状況であっても、それを認識していない人や、支援を受けること自体を拒否する人もいます。寄り添いながら適切な支援を見極め、気長な気持ちで生活改善につなげていく必要があります。

多頭飼育崩壊が同じ飼い主によって再び引き起こされることのないよう、地域の人も巻き込んで、定期的に様子を見たり、会話したりできるような関係性を築いておくことが大切です。その後の状況把握を行う際には、ケアマネージャーなど信頼関係がすでにできている人にお願いするのも良いでしょう。また、動物に強く執着している場合は、不妊去勢手術を実施の上、飼育可能な個体数だけを飼い主の手元へ残すこともあります。いずれも、状況に応じた臨機応変な対応が必要となります。

 

※弁護士監修の「引取り契約書(譲渡契約書)」「犬・猫引取りのための住居立ち入りについての覚書」は、保護団体および保護活動をされている方の判断と責任において、ダウンロードし利用できます。なお、公益社団法人アニマル・ドネーションは利用について責任を負いません。

多頭飼育崩壊から犬猫を保護する際のアドバイス

私たちが愛護活動・保護活動をする中で、切っても切り離せないのが、不適正な飼育をする方、不妊去勢手術を施さず猫を増やし続ける餌やりさんなどの存在です。猫の問題が生じる背景はさまざまですが、そのような方々の中には精神的あるいは経済的な事情を抱えていることが原因で、外部との接触を断ったり地域のコミュニティーから孤立したりして生活している方が少なくありません。

各団体、活動家それぞれに明確な活動意義、目標とするゴールがあると思いますが、まずは当事者である方々へ理解を促すことが重要と言えます。いきなり第三者である私たちが「なぜここまで猫を増やしたんですか?」「なぜ手術をしないんですか?」と自分たちの正義を押し付けるのではなく、「猫のお世話をしてくれてありがとう」「このままだと(あなたが)大変だから、一緒にがんばりましょう」と、寄り添う姿勢が大事なのではないかと考えています。
(新潟動物ネットワーク)