動物虐待とはどのような状態か
一般市民から通報や相談を受けた際、まずはその内容が動物虐待にあたるのかどうかを判断しなくてはなりません。そのために、動物虐待に関する正しい知識を身につけましょう。
動物虐待とは、「動物に対して、身体的・精神的に不必要な苦痛や苦悩を与える故意・不作為の行為」を意味し、それらの行為は動物愛護管理法によって罪として定められています。
虐待には大きく2つのケースがあります。一つは、動物に暴力を与える、怒鳴り続けるなど、故意に動物を虐待しているケース。もう一つは、ネグレクトのケースです。ネグレクトとは、必要最低限の行動や精神的ニーズを満たさないこと。たとえば、ご飯を与えない、水を与えない、健康管理を行わない、病気のまま放置する、ゴミや糞尿まみれの環境におくなど、飼い主としてやらなければならない行為をしないことをさします。
ネグレクトによる動物虐待は、飼い主の敷地内や屋内など私的空間で行われていることが多いため、他人が外からその様子を正確に観察するのが難しく、また飼い主本人は“虐待”と認識していないことも多いのです。
通報を受けた際にとるべき行動
一般市民からの通報があったら、まずすべきことは通報者から細かく聞き取りをすることです。「いつ」「どんな状況」「何をしていたか」「何をしていなかったか」など、できるだけ詳細な情報を聞き取ります。
通報者に確認すべきこと
- ◇ご飯が腐っていたり、固まっていたりしないか
- ◇水入れはきれいか、藻が生えていないか
- ◇被毛が伸び放題になって、毛玉に覆われていないか
- ◇糞尿やゴミが散乱したままになっていないか、悪臭がひどくないか
- ◇狭いゲージに閉じ込められていないか、リードが短すぎないか
- ◇暑過ぎる、寒過ぎる環境ではないか
- ◇ぐったりしていないか、ケガをしていないか
など、犬や猫が置かれている環境と、見た目の健康状態を細かく聞き取っていきます。
もし、詳細がはっきりしない場合は、通報者に改めて様子を観察してもらうことを依頼し、報告を受けます。現場が保護団体から近い場合など、通報者に同行して確認しても良いでしょう。日時と状態のメモ、写真や動画などの記録は、警察や自治体に通報する際に役立ちます。
ただし、観察する際や記録を残す際は、不法侵入にならないよう、また自身に危害が及ばないよう注意が必要です。そのような恐れがある場合は、けっして無理をせず、警察や動物愛護センター、地方自治体に調査、指導をお願いしてください。
なお、状態を聞き取る際には、環境省が策定した「動物虐待に対応するガイドライン」に紹介されている下記の指標が参考になります。
「動物の5つの自由(フリーダム)」
1.飢えと渇きからの自由
2.不快からの自由
3.痛み、負傷、病気からの自由
4.恐怖や抑圧からの自由
5.自然な行動をとる(本来の習性を発揮する)自由
▶<基礎知識>国際的な動物福祉の基本「5つの自由」についてはこちら
「タフツ・アニマル・ケア&コンディション尺度(TACC)」
1.身体的状態の尺度
2.気候における安全性の尺度
3.環境状態の尺度
4.身体的なケアの尺度
どこに、どのように連絡すればよいか
聞き取り調査を行った結果、飼い主が虐待を行っていると判断できる場合は、通報者から速やかに警察へ連絡するようにお願いします。その際、通報者には場所や状況などを詳しく報告するようアドバイスを行いましょう。
また、ネグレクト型の虐待が疑われる場合は、警察または市役所、区役所などの地方自治体に通報するようお願いします。環境省のホームページには、地方自治体動物虐待等通報窓口一覧が紹介されています。
基本的に保護団体は、通報者と警察や地方自治体との橋渡し役を務めると良いでしょう。複数の人から通報がいくことで、行政に動いてもらうための後押しになる場合もあるようです。
動物虐待の難しさと取るべき行動
環境省が策定した「動物虐待等に関する対応ガイドライン」には、市民から動物虐待および虐待の疑いに関する相談や通報を受けた地方自治体の対応について、以下のように書かれています。
・地方自治体は虐待を行っていると思われる行為者に対して、任意の現場確認や聞き取り、必要に応じて報告徴収、立入検査を行い、情報の収集を行う。
・虐待または虐待の恐れがあると判断された場合は、改善命令または勧告を行う。
・それでも改善が認められなければ刑事告発行う。
しかしながら、人の所有物である犬や猫の飼育状況を正確に把握するのは難しく、警察や地方自治体に相談や通報をしても、ある程度の証拠がないと、なかなか速やかに動いてもらえないケースもあります。
虐待として認められず、行政に動いてもらえない場合
動物を虐待から救うためには、法律に則った対応が必要です。基本的に人に飼育されている犬や猫は、法の下では人の所有物であり、所有者である飼い主の許可なく保護することはできないからです。
通報者から「行政に動いてもらえなくて…」との相談を受けた場合は、あきらめずに何度でも行政に働きかけることをアドバイスします。
飼い主が所有権放棄をしない場合
警察や地方自治体からの改善命令に飼い主が従わない場合は、所有権の放棄を申し入れ、承諾されれば自治体や動物保護団体が保護することになります。
ただし、虐待している、または虐待につながる行為を行っている本人には、その自覚がないことが多く、所有権の放棄を執拗に拒むケースが多々あります。
そうした飼い主から動物を保護するために求められるのは、法律に関する知識と同時に、飼い主の心を開くコミュニケーションスキルです。ときには、ソーシャルワーカーなど福祉局の担当者との協働が必要なケースもあります。
保護当日〜保護後の動き方
地方自治体から虐待動物の保護を依頼された場合は、速やかに対応します。現場へはひとりでは行かずに必ず複数人で訪問するようにしてください。
引き取りに行った当日に「やはり手放さない」と飼い主の気持ちが変わることも想定されます。また、反対に放棄を何度お願いしても「NO」と言っていた飼い主が、ある日突然「手放そうか」と言うことも。そうした飼い主の揺れ動く気持ちにいつでも速やかに対応できるよう、訪問時にはケージを用意していくなど準備を万端にしておきます。
引き取ることが決まったら必ず「引き取り契約書」を締結します。
無事に動物を保護した後も、再び動物を虐待することのないよう通報者と情報交換を行うようにしてください。
※弁護士監修の「引取り契約書(譲渡契約書)」「犬・猫引取りのための住居立ち入りについての覚書」は、保護団体および保護活動をされている方の判断と責任において、ダウンロードし利用できます。なお、公益社団法人アニマル・ドネーションは利用について責任を負いません。