日本の動物福祉の課題

公益社団法人アニマル・ドネーション(以下、アニドネ)はビジョンとして「日本の動物福祉を世界トップクラスに」を掲げ、「人と動物が共に幸せに暮らせる社会作り」を目的に活動しています。

「動物福祉」はアニマルウェルフェア(Animal Welfare)という言葉で日本でも見聞きする機会が増えています。 アニマルウェルフェア(Animal Welfare)は欧州で提唱され始めた概念で、国際的にも「5つの自由」という指標があります。

5つの自由

1、飢えや渇きからの自由
2、痛み、負傷、病気からの自由
3、恐怖や抑圧からの自由
4、不快からの自由
5、自然な行動をする自由

日本でも、農林水産省が家畜に対するアニマルウェルフェアを「快適性に配慮した家畜の飼 養管理」と定義し、日々の観察や記録、丁寧な取り扱い、良質な飼料や水の給与等の適正な飼養管理のあり方を関係者が認識することが必要と、アニマルウェルフェアの普及を推進しています。

犬や猫のペットを飼養する一般市民とペット事業関係者も、アニマルウェルフェアを理解して、動物の行動習性や快適さを守りながら、人と動物が共に幸せに暮らせる住環境や制度を整えていきたいと願っています。

しかしながら、動物の「自然な行動習性」や「生存する権利」が、人の住環境や社会制度と合わずに、アニマルウェルフェアが脅かされている現実や課題もあります。

アニドネでは、それらの現実や課題について、「共存共栄」の精神で、改善に向けて取り組んでいきたいと考え、課題に取り組んでいる団体と共に、日本の動物福祉の向上に励んでいきます。

日本の動物福祉の課題とアニドネの取り組み事例

高齢の飼い主の不安を解消するために

ペットと暮らす大きな幸せがある一方で、「自分が飼えなくなったらこの子はどうなるのだろう?」という不安を抱える高齢者・単身者は多く、ペットと暮らすことを諦めたり、飼い主に先立たれて残されたペットが行き場に困るケースが増えています。

 

動物には社会保障制度も無く、飼い主を失った途端に快適だった生活環境も失い、生命の危険にさらされる現実があります。 アニドネでは、動物を愛する高齢者の不安を和らげ、残されたペットが安心して暮らせるために、2017年から「遺贈」事業をスタートさせました。

 

また、ペットを飼っていることと緊急連絡先を示す「動物レスキューカード」を携帯所持して、急病や災害で自分が身動きが取れなくなっ時にも自宅にいるペットが救出される仕組みを普及推進しています。

アニドネ遺贈サイト

 

「動物レスキューカード」とは

飼養しているペットの情報、かかりつけ動物病院、家族・知人などの緊急連絡先を書いた名刺サイズのカード。飼い主が携帯所持していれば、そのカードを見てペットの存在を知り、緊急連絡先にペットのレスキュー連絡が入れることができます。

 

猫の構造的な課題を改善するために

※TNRとは、「Trap(捕獲する)」「Neuter(不妊去勢手術する)」「Return(元の場所に戻す)」の略語。
 手術したことがすぐわかるよう耳の先をカットして、術後の経過が良好なら元の場所に戻します。
 猫を放置するのではなく、ご飯をあげたり、食べ終えたら後片付けや掃除をして地域ぐるみで猫の暮らしを見守っていきます。
 TNR活動は猫の殺処分を減らすのに最も有効な手段と考えられています。

 

行政による動物の引き取り、殺処分の過半数が、所有者不明の幼齢猫(離乳していない子猫)となっています。数時間おきにミルクを与える幼齢猫を保護するための職員の負担は大きく、所有者不明で引き取り頭数も多い現状では、殺処分を選択せざるを得ない現実があります。

つまり「行政による殺処分ゼロ」を実現するためには、飼い主のいない外猫の出産をコントロールしなくてはいけません。 このような猫の構造的な課題について、不幸に絶たれる命を減らすために外猫の不妊去勢を行ったり、1代かぎりの寿命をまっとうさせるために食料や水を給与する活動として、地域猫、TNR活動があります。

地域猫、TNR活動は、猫の出産・頭数増加のスピードを上回る活動頻度や、多様な価値観が集まる地域コミュニティ内で理解を得る難しさなど、乗り越えるハードルは高いです。10~15年単位で実績が見えてくる息の長い活動ながら、これまでは個人や数人単位で草の根的に活動されているケースが多く、広く認知や協力を得て、大きく確実な実績を上げることが困難な現実がありました。

 

アニドネでは、猫に関する構造的な課題を重要テーマと考えて、難易度の高い幼齢猫の保護・譲渡を積極的に行っている保護団体や、地域猫、TNR活動の成功事例を持ち、その普及に努めている団体を支援しています。

 

地域猫、TNR活動に力を入れているアニドネ認定団体の紹介

一匹でも犬・ねこを救う会
動物愛護団体LYSTA
ねこたまご
ねりまねこ
動物いのちの会いわて
もりねこ

 

猫の繁殖図

猫は1回の出産で2〜8頭の子猫を産み、子猫は生後5ヵ月頃から妊娠可能になります。
妊娠期間は約2ヵ月なので、年に2〜3回も出産ができるのです。

 

猫の引き取り、処分の状況

行政施設での動物の引き取り、処分のデータ

出典:令和4年度 環境省データ

 

アニマルウェルフェアの理解を広めるために

動物にとっての「快適さ」「幸せ」を理解することがアニマルウェルフェアを尊重するために大切です。

 

しかし、動物にとっての「自然な行動習性」を理解しないままペットと暮らした結果、関係性を上手く築けなかったり、ストレスのかかる住環境を作っていたり、健康に良くない食料を与えていたり、意図せず不適切な飼養をしてしまっていると、これはアニマルウェルフェアに反してしまいます。

また、動物の命や可愛さを優先するあまり、自分でコントロールできないほどに飼養頭数が増えてしまい、かえって動物の生活環境を悪化させてしまう「多頭崩壊」もアニマルウェルフェアに反しています。多頭崩壊は近隣コミュニティとのトラブルになるケースも多く、「人と動物が共に幸せに暮らせる社会」から大きく逸脱してしまいます。

そして、ペットの販売や繁殖など、動物取扱事業についても、アニマルウェルフェアにかなった事業活動を行って欲しいと、動物愛護法の改正が求められたり、メディアやSNSで話題に挙がることが増えています。

 

アニドネでは、保護された犬猫を人慣れトレーニングしてから譲渡する保護団体の取り組みを丁寧にヒアリングして、各団体の特色として紹介しています。 また、適切なペット飼養や動物取扱事業のあり方、アニマルウェルフェアの考えを普及する活動の様子を各団体の活動レポートを通じて紹介しています。

 

各団体のポリシーや特色がわかる認定団体一覧

認定団体の日々のがんばりがわかる活動レポート