第二種動物取扱業の規制
非営利の動物保護団体であっても、シェルターで動物を飼養または保管するためには、第二種動物取扱業者として都道府県知事や政令指定都市の長に届け出を行なわなければならない場合があります。第二種動物取扱業の対象となるのは、合計10頭以上の犬・猫・ウサギなどの中型の哺乳類・鳥類・爬虫類を取り扱う場合です。
飼育環境について
令和元年に動物愛護管理法が一部改正し、「第一種動物取扱業者及び第二種動物取扱業者が取り扱う動物の管理の方法等の基準を定める省令」(飼養管理基準に関する省令)が制定されたことで、具体的な基準の導入が始まっています(令和3年6月1日から施行)。そのため、第二種動物取扱業者を保有している保護団体などは遵守しなければなりません。事業内容によらず動物取扱業者が守るべき項目は以下のようなものです(一部抜粋)。
1.飼養施設の管理、ケージ等の規模
- 飼育施設の広さや運動スペース
・寝床や休息場所となるケージと運動スペースを分離するタイプ「分離型(ケージ飼養型)」
・寝床や休息場所と運動スペースを一体とするタイプ「一体型(平飼い型)」
のどちらかの基準を満たす必要があります。
※経過措置として、既存事業者は令和4年6月1日から適用
2.従業員数
従業員1人あたりの上限飼育数
犬:1人あたり20頭、猫:1人あたり30頭
※経過措置として、既存事業者は段階的に適用され、第二種動物取扱業は令和7年6月1日に完全施行
3.環境管理
・飼養施設に温度計・湿度計を設置し、低温・高温により動物の健康に支障が生じるおそれがないように管理。
・臭気により飼養環境、周辺環境を損なわないよう清潔を保つ。
出典:環境省「動物取扱業における犬猫の飼養管理基準の解釈と運用指針~守るべき基準のポイント~」
健康管理について
シェルターには、異なる環境で生活していた猫を1箇所で飼養するため、一頭でも感染症にかかった猫がいれば、あっという間に全体に広まってしまう恐れがあります。そのため、シェルターに受け入れる時点から個々の猫の健康管理をきちんと行う必要があります。
- ◇エリア分け
新しく猫を迎える際は、最低でも2週間は別の部屋に隔離し、医療チェックによって検査の結果が出るのを待ちます。お世話をする人がウイルスを運んでしまうことがあるため、使い捨ての手袋を着用するなどの感染対策を行いましょう。
また、シェルターでは健康な成猫と病気のある猫、怪我をしている猫とで生活エリアを分けるほか、必要に応じて妊娠・出産エリア、子猫専用エリア、老猫エリアなどを別に設けます。
- ◇動線を考えた設計
ケージや部屋の並びは、健康なエリア→病気や怪我のエリア→感染症(疑いも含む)のエリアという流れになるように設計するのが理想です。少なくとも、感染症にかかっている(疑いがある)猫は、部屋自体を分ける必要があります。そして、スタッフがケアや掃除をするときは、健康なエリアから感染症のエリアヘ、一方通行で動きます。
たとえば、母猫と乳飲み子猫→子猫→ワクチン接種済みの健康な成猫→ワクチン未摂取の成猫→病気や怪我の成猫→感染症にかかっている(疑いも含む)の猫、という流れです。
- ◇生体管理
複数のスタッフがケアに関わるシェルターでは、間違って薬を投与したり、感染症にかかっている(疑いがある)猫と健康な猫とを一緒にしたりしないために、個々の猫の識別を明確にしておくことが大切です。
首輪に情報を記した札をつける、ケージに写真と情報を貼っておくほかに、個別の管理シートに詳細な情報を記載し、保管します。そして、それらはいつでもスタッフが確認できるようにしておきます。
※「動物個体カルテ」は以下よりダウンロードできます。団体の方針に沿った内容にアレンジすることも可能です。
- ◇健康チェック
スタッフがご飯を与えるときや清掃する際に、猫の様子を確認するのに加え、毎日、決まった項目について健康チェックを行います。
なお動物愛護管理法において、1年以上継続して飼養または保管を行う猫については、年1回以上の獣医師による健康診断を実施し、診断書を5年間保存する義務があります。また適正な飼養に関する事項として、被毛に糞尿等が固着した状態、体表が毛玉で覆われた状態、爪が異常に伸びている状態にしないことが定められています。
※「健康チェックシート」は以下よりダウンロードできます。団体の方針に沿った内容にアレンジすることも可能です。
衛生管理について
シェルターではとくに感染症に対しての注意が必要です。そのため衛生管理の徹底には細心の注意を払わなければなりません。
- ◇清掃
1日1回は各ゲージと運動スペースの清掃を行います。
健康な猫の場合は、ケージから出さずに汚れだけをきれいにする部分清掃と、ケージから猫を出して全体をきれいにする完全清掃を併用することで、猫のストレスを軽減することができます。汚れている場所は、汚物などを取り除いてから洗剤を使って水洗いをして消毒、乾燥させます。
なお、感染症のケージを清掃する人は、使い捨ての手袋と靴カバーを使用し、清掃に使用した用具は使ったら消毒を行い、手袋と靴カバーはケージごとに破棄します。できれば、清掃用具は飼養エリアごとに専門のものを用意するとより安心です。
- ◇消毒
消毒液には、下記のようなさまざまな種類があります。それぞれの特徴をよく理解し、適切な使用方法で用いることが大事です。
・界面活性剤系
・両性界面活性剤
・ピグアナイド系
・アルコール系
・塩素系
・ヨウ素系
・フェノール系
・アルデヒド系
・過酸化物系
<塩素系の消毒剤の例>
出典:環境省 平成19年3月「人と動物の共通感染症に関するガイドライン」
スタッフによるケアについて
保護猫は、今後、一般家庭での飼育が想定されるので、シェルターで一時預かりしている場合も、近い将来、家庭動物として周囲の生活環境に適応していかれるよう社会化を促進する必要があります。
個体の状態によって必要な触れ合いの時間は異なりますが、体を優しくなでる・さわるなどのスキンシップや、猫じゃらしなどの遊具を用いて、毎日人と触れ合う時間を作ってください。
動物愛護管理法においても、運動スペース分離型で飼養する場合は、1日3時間以上運動スペース内で自由に運動させる、遊具を用いた活動等を通じて、猫との触れ合いを毎日行うと定められています。食事や排泄のお世話だけに止まらない毎日のコミュニケーションが、保護猫を新しい家族との生活に適応させるのに役立ちます。