衝撃的な犬への意識の違いと、バリで広がる動物保護活動の兆し<海外情報レポート・バリ編②>
バリ島を拠点にペットアロマセラピストとして活動されているすとうさんに伺う、バリ島の動物福祉事情。
前回は、バリにおける動物福祉のリアルな現状をお届けしてまいりました。
国が違えば動物に対する意識もこんなに変わるのか、と驚かれた方も多いのではないでしょうか?
今回のレポートでは、根底にあるバリ特有の文化・宗教的な背景や現在行われている動物福祉への取り組みなどについてお伝えします。
Profile
すとう えり
🐾経歴🐾
ペットアロマウェルビーイング協会(Pet Aroma Well-being Association 略称:PAW)代表
仙台で「アロマアトリエ ファイブエレメンツ」を開業し、専門学校アニマルインターカレッジ(仙台)、中央動物専門学校(東京)などの教育機関にて“動物のためのアロマセラピー”の講師を務める。また、日本アロマコーディネータースクール「ペットアロマ講座」、全日本動物専門教育協会「ホリスティックアニマルアロマセラピー」の通信・通学講座開設にも携わる。
現在はバリ島を拠点にアロマアトリエ「Five elements Aroma Bali」を主宰し、インドネシアの天然原料を用いたハンドメイドソープやハーブウォーターなど、素材や工程にこだわったオリジナルアロマ商品のプロデュースに取り組み、バリ島と日本を繋いでいる。
(過去のすとうさんへの取材記事はこちら)
「生まれ変わったら人間になる」?衝撃的な意識の違い
ー犬に対する意識の違いについて衝撃を受けたことがあれば教えてください。
「一緒に移住してきた愛犬が虹の橋を渡り、別れの悲しみに暮れた時に、『エリは面白い。犬が死んでそんなに泣いているなんて。また新しい犬を飼えばいい。』
と家族から笑われました。
また以前、家族が代々守るお寺の大改築のため、大々的な祭事が行われた時のことです。セレモニーの準備をしていると、親戚が誇らしげな満面の笑みを浮かべながら、きれいな茶毛の犬を連れてきました。
生贄のための犬です。
彼らの思想では、『生贄に選ばれた犬は神に捧げられ、生まれ変わったら人間になれる。だからとても幸せなことなのだ』ということでした。私はあまりにも衝撃的で、耐えきれずに震え、号泣しながら家に帰りました」
ー他にも、犬に対する意識の違いを感じたエピソードはありますか?
「北スラウェシ島のマナド人の中には、今でも犬食文化を持つ人たちがいます。
私のバリ島に住む友人の話ですが、彼女の家の建て始めの頃に敷地に子犬が迷い込んで来て、大工さんも私の友人も可愛がってお世話をしていました。家が完成間近になった頃、すくすく成長した犬の姿が見られなくて友人が探していると、大工さんたちが鍋料理にして食べてしまったという事実を知り、とてもショックを受けていました。
『あんなに可愛がっていたのに、どうして大工さんたちは食べてしまうことができるのだろうか?』と。『そのまま飼うつもりでいたのに』と悔やんでいました」
多様性の中の統一が保たれている場所
ーそうした文化の違いは、どのような背景から生み出されると思いますか?
「まず、バリ島の犬について話をするには、インドネシア・バリ島についても知っておいて頂きたいことがあります。
インドネシアは赤道に沿った1万4000以上の島々からなる多民族国家で、300以上の民族、700以上の言語があると言われています。国民のアイデンティティとしての宗教は大変重要で、国民は何らかの宗教を信仰しています。
バリ島においては、島民の約90%がヒンドゥ教を信仰していると言われていますが、近年は海外や他の島から移住してきている人も非常に多く、多種多様な宗教、文化、慣習が混在していて、『多様性の中の統一』が保たれている特異な場所でもあります」
インドネシア人口の約9割のイスラム教徒は、犬は不浄であるとの教えを信じて怖がる人も多いのも確かですが、犬に対する考えは、個人によるところが大きいです」
◆参考:イスラム教(約87%)、キリスト教(約10%)、ヒンドゥ教(約1.7%)、仏教(約0.7%)、儒教(約0.05%)の割合
ー生贄や犬食は日本人からするとショッキングな話題ではありますが、こうした宗教観が影響しているのでしょうか?
「バリ島に暮らす犬は、飼う人やその環境によって様々な価値観が混在しています。私はバリヒンドゥ教の家に嫁ぎましたので、バリ人、ヒンドゥ教の人たちの『犬』の存在価値に触れる機会が一番多いのです。そのような考えは古くからのバリ人と犬の間で築かれてきた関係性や、バリヒンドゥ教の『死は終わりを意味しない』というような死生観や輪廻転生を信じる思想からきているのです。私にとって想像をはるかに越える、理解の難しい意識の違いでした。
また私は決して犬食をすることはありませんが、バリのような多国籍多文化の地では、他文化を否定するのは難しい場合も多いのです」
ーすとうさんから見て、動物福祉への意識向上のためにはどんなことが必要だと思いますか?
「文化や宗教の違いといえばそれまでですが、犬食については狂犬病ウィルスの危険性があることなどがあまり広く知られていないことも原因だと思います。ペットを家族として迎えることができるのは、経済的・精神的の安定基盤があってこそできることです。この根本の問題が解決されない限り、動物福祉への意識向上は容易なことではないと思います」
民間ボランティアが動物福祉に積極的に取り組んでいる
ー行政や民間のボランティアなどでは動物福祉に関する取り組みが行われているのでしょうか?
「バリ島は世界でも有名な観光地で、狂犬病対策にはインドネシアの中でも特に熱心です。バリ島にはバリ人によるヒンドゥ教を主とした地域に根付いた町内会のようなコミュニティがあります。
バリ島狂犬病撲滅のために行政と『バンジャール』と呼ばれる地域コミュニティが連携して、狂犬病ワクチンの無料接種を行っていて、予防接種の証明書を発行しています。観光業への悪影響を考慮して狂犬病には特に熱心ですが、動物福祉に関して行政はあまり関与してこない状況で、だからこそ民間ボランティアの力が大きいんです。
バリ島の保護団体やシェルターの数は明確には分からないですか、大きな組織から小さく活動している人も多いと思います。あまりにもひどい飼い方をしている人からレスキューして里親を探す活動家もいます」
◆◇民間ボランティアや活動家の方々が運営しているサイト◇◆
https://www.dogmeatfreeindonesia.org/
http://www.thebalistreetdog.com/
ー他にも動物福祉に関しての取り組みがあれば教えてください。
「以前、私の娘が学校で動物愛護について子供達で出来ることを考え、計画して、行動する。という課題がありました。
子供達は学校のまわりにいる野良猫たちのことについて考え、猫の避妊・去勢手術をするための募金活動をしました。そして地域にある動物病院に猫の避妊・去勢手術のボランティアを引き受けてほしいと子供達が直接交渉して実現させたことがあります。
また獣医さんが学校に来て、動物愛護精神を伝えるイベントを開催することもありました。
学校では『Pet Day』というイベントが開催され、自分の家族である動物たちを友達に紹介したり、触れ合ったりすることで、動物福祉の心を育む機会もあります。
しかし、これはインターナショナルスクールや比較的豊かな家庭の子供達が通う学校で主に行われていることです」
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海外情報レポートバリ編は、愛犬を溺愛するあまりペットセラピストの資格を取得した、アニドネライターの安心院(あじみ)が執筆を担当させていただきました。
今回のレポートの中では生贄や犬食などの衝撃的な文化が残っているという事実や、多民族・多宗教なバリならではの宗教観についてお伝えしました。
日本に住んでいると、こうした現状があることも思わず耳を塞いでしまいたくなりますが、まずは今自分たちがいる世界以外で実際に起こっている現実を知っていくことが大切なのだと感じました。
全3回にわたってお送りするバリの動物福祉事情。
ついにラストになる次回は、バリに住むすとうさんにお聞きした、動物と人間が共生していくために大事なマインドをお届けします!
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