動物の医療を通じて人の幸せに貢献
『ペットは家族の一員』という言葉は、もはや古いとおっしゃる小林氏。
『ペットは社会の一員』にすべきだと。
人間の医者になるつもりが獣医師になったという経歴だからこそ、動物業界だけでなく社会全体の構造を変える使命がある、という強い信念を持ちアグレッシブに活動をされています。
日本の動物業界の問題点や今後必要なこと等、小林先生のアイデア満載のお話をお伺いしました。
(2012年12月取材)
Profile
Motoo Kobayashi/1959年生まれ 北里大学卒業 成城こばやし動物病院 院長・獣医師 公益社団法人 東京都獣医師会 副会長 一般社団法人 東京城南地域獣医療推進協会 理事 現在、Department of EpidemiologyでPhD(博士課程) 東日本大震災 東京都動物救援本部事務局 |
―まず、先生のさまざまなご活動内容をお聞かせください。
「はい。僕が院長を務める『成城こばやし動物病院』における日々の臨床のかたわら、院外にもたくさんのフィールドを拡げています。
東京都獣医師会の副会長として組織運営に携わると同時に、東日本大震災で被災した動物たちを東京都で受け入れる際に救援本部の事務局長として活動しています。
また、それ以外には、東京都の中央区、港区、千代田区、世田谷区など9つの区から42人の有志の先生達と共に『TRVA(一般社団法人 東京城南地域獣医医療推進協会)』という組織を作り、夜間救急動物医療センターを立ち上げました。これは、夜間専門の動物医療施設です。
そして、最近では富士通さんから発売された犬の歩数計『わんダント』(開発者インタビューはこちら)のアドバイザーをしております。
それから、アジアで開催されているFASAVA(Federation of Asian Small Animal Veterinary Association)の会議等にも東京都獣医師会の代表として参加しております。
この会議は、アジア各国の小動物医療従事者が一堂に会しよりよい未来に向けて協調していくことをその目的としているものです。日本の動物医療面を諸外国にアピールする外交活動と捉えております。」
―なぜ、そのように多岐にわたる活動をされているのでしょうか。
「それは、しょっちゅう聞かれる質問ですね。僕にはミッションがあるんです。
それは『動物の医療を通じて人の幸せに貢献する』ということ。
一般的に「獣医師です」と自己紹介すると「あ、動物のお医者さんですね」と言われることがほとんどですが、そのイメージからすると僕はちょっと変っているかもしれません。
僕は実は人の医者を目指していたんです。
ただ、2回ほど受験に失敗し、親にもこれ以上の迷惑はかけられないと思い、仕方なく獣医学部に進学したという過去があるんです。
ですから、若い時分は本当に自分はこの道で生きていくのか、とずいぶんと悩みました。
そんな頃、結婚をすることになりまして。一家の長になるわけですから、あまりいい加減にも生きてられず(笑)自分で契機を作りました。興味の持てない日本の動物医療と、当時最先端と言われているアメリカの動物医療の違いを探りに、ニューヨークのマンハッタンのAnimal Medical Centerという大きな動物医療施設に一年間お世話になったんです。
そこで目の当たりにしたのは『動物が元気になると社会も人も元気になる』という姿でした。
その光景に触れ本当に嬉しくなりそこからは猛勉強をしましたよ。
医者を志したのも『人のためになりたい』という気持ちでした。
ですから、動物の医療を通じて人の幸せに貢献するために僕に何ができるのかを日々問い続けながら活動しているうちに、いろいろな組織運営に携わることになったんです。」
―なるほど。先生がおっしゃる『動物は家族の一員ではなく社会の一員』というのもそのポリシーからですか?
「そうですね。もう家族の一員というのは当たり前だと思うんです。
ですが、もし社会の一員として考えたら、今の日本の現実はどうしょうか。
まだまだ、公共機関ですらペット同伴というのは実現できておりませんし、ペットを原因とする地域トラブルも多いのが日本の現状です。
ペットが好きだとか興味がないとかではなく、社会全体としてペットと向き合うべきだと考えているんです。
例えば、病気になった一人住まいの高齢者が泣く泣くペットを手放す話はよく聞きます。
社会の一員として、人間だけでなく動物もサポートする仕組みが必要なんですよね。
逆にペット好きの方が社会に迷惑をかけないようマナーの向上をはかり、地域一体となって動物に優しい社会を構築するべきだと思います。
東日本大震災でも、大変残念なことにペットの同行避難が全部のエリアで認められたわけではありませんでした。
こういったことを解決するためには、僕は法律の整備がとても重要だと思っています。
そのためには声高に訴える個人だけの活動ではなく『組織』で活動すべきだと常に考えています。」
―今後、どのような活動をしていかれるのでしょうか。
「はい常にやりたいことだらけですが(笑)、若い獣医師を対象にした育成塾は、実現したいことのひとつですね。これからの日本の動物医療は彼らの活躍にかかっているのです。
もはや国内だけではなくその可能性を世界に向けていただきたい。初手から世界標準でなくてはならないのです。そんな彼らを応援したいのです。
業界をより魅力的に変革するために若い活力のある獣医師達の活動をサポートできたら嬉しいですね。
また、先ほどご紹介したTRVA(夜間の動物専門施設の運営)は、地域の動物医療のセーフティーネットのモデルケースにすべく引き続きがんばりたいですね。
獣医師達が連携することで、飼い主さんたちもいつでも病院に行けるという安心感も与えられるし、ネットワークの活用によって医療機材やサービス等も充実しより高い医療レベルが提供できます。
このTRVAの活動は富士通さんと共同開発をした動物専門のクラウドシステムで医療データの管理をしています。
IT化が進んでいないと言われている動物医療業界において今後IT化がどんどん進めば、それこそアニマル・ドネーションさんが解決したいと考えていらっしゃる『動物福祉面の向上』等も図れるのではないか、と大きな期待を寄せています。
僕一人の力は知れています。ですが、僕が旗振り役となり大きなムーブメントが形成され、動物だけでなく人のためになる社会全体がデザインできれば、やっと僕もゆっくりできるかもしれません(笑)。
それまでは、世の中の役に立つために、頑張り続けるつもりです。」
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|