動物の専門家インタビュー

ペット産業は『幸せ産業』である

profile穏やかな風貌そのままの優しい口調で ペット産業に関するお話をしてくださった越村氏。

ただ、話されている内容は日本のペット産業を 長く牽引されてきた経験があるからこそ 的確であり、また強い信念を感じるお話でした。

『自分はビジネスマンだから結果を出す』と。 これからのペット産業がどうあるべきか、を語っていただきました。

(2013年3月取材)

Profile

interview image

Yoshio Koshimura/1948年生まれ

一般社団法人ペットフード協会 会長
ペットフード公正取引協議会 会長
ペットとの共生推進協議会 副会長(第1回シンポジウム実行委員長)
一般社団法人日本ペット栄養学会 理事
一般社団法人国際経営者協会 理事
人とペットの豊かな暮らしフェア、インターペット実行委員長
日本ヒルズ・コルゲート株式会社 名誉会長

 

―まず、ペット業界での経歴をお聞かせください。

「はい、大学を卒業してNTT系列の電気通信分野の海外コンサルティング会社の海外営業部門の後、1978年6月日本コルゲート・パルモリーブ株式会社(現日本ヒルズ・コルゲート株式会社)に入社しました。

その当時、日本でペット部門(米国ヒルズペットニュートリションインク)を立ち上げるということで、犬・猫用ペットフードの事業化に従事いたしました。

初年度1億円の売り上げを、私が社長を退任する2009年末までの31年間で269億円にまで伸ばし、消費者購入ベースのSCIマーケットシェアで業界No. 1、ブランド別シェアNo. 1(サイエンス・ダイエット)、犬用ドライシェアNo. 1を達成しました。

現在、日本ヒルズ・コルゲート株式会社では、名誉会長の職に従事しております。

また、2009年5月から、一般社団法人ペットフード協会・ペットフード公正取引協議会の両会長に就任させていただき、業界発展のための活動をしております。

ここ数年では、国内外からペット業界および他業界の出展社の皆様を含め、一般の飼い主様も楽しむことができ、約5万人近くが集まる、ペットの本格的な国際見本市であるインターペットで実行委員長を務めました。

また、2012年12月に初めて開催したペットとの共生推進協議会による第1回シンポジウムでも実行委員長を務めさせていただきました。」

―越村さんにとって、ペットとはどのような存在ですか。

interview_image

「これまで、多くの犬や猫達を含むペットと暮らしてきました。一方的に人間が可愛がるだけではなく、彼らは与えたことに必ず返してくれる素晴らしい存在だと思っています。

うちで飼った猫達は大変に長寿でして、本にも紹介されました(*下記『長寿猫』*著:藤村かおり)。

ペット達と一緒に過ごす時間はこの上なく素晴らしいと同時に、悲しいことに限りがあるものです。ただ、そのことで『命』や『時間』の大切さを自然と教えてくれていると思っています。

ペットの存在自体が、人間の豊かな情緒を育ててくれている、というふうに感じますね。

アメリカには『犬のいない家庭は完全な家庭ではない』ということわざがあります。

まさにその通りで、オオカミを祖先として持つ犬が1万2000年前から(他諸説では3万年前)人間と暮らしてきたのは必然であったように思います。

現在においても、ペットと暮らすことで、人間の生活の質が向上すると考えております。」

―『ペット産業』は、今後どのように発展をしていくのでしょうか?

interview image

「私はペット産業は、単に商業的に発展する事業とは捉えずに『幸せ産業』だと定義しています。

というのは、ペットと暮らすことによって、人間の暮らしの向上が図られる、という結果があるからです。

これは日本を含め諸外国のさまざまな研究結果として実証されているのですが、ペットと暮らすことにより高齢者の医療費削減の効果があるというデータがでています。

ペットを飼っている方なら判ると思いますが、一緒に過ごすとリラックスするという癒し効果以外に、犬であれば散歩に出るので活動的になりますし、猫でもお世話することで飼い主に活力がもらえます。それが医療面でもプラスとなっているのです。

また、日本ではまだ一般的ではないのですが、動物介在教育という分野があります(アメリカでは研究が進んでいる)。

例えば、リードプログラム(子供が犬に対して読み聞かせをすることで、子供たちの読む力があがる)といった面では教育産業でもあります。

そして、小さいころからペットに接することで命の大切さを学べますので、平和産業といってもいいでしょう。つまり、究極的には人間に幸せをもたらしてくれる『幸せ産業』といっても過言ではない、と私は思っています。

実際、昨今のペット産業には他業種からの参入が多くなってきております。

ペットと暮らすための住宅や、ペットと遠出を楽しむための自動車産業、また高齢化社会に対応したペットと住める高齢者向けホーム等々。

ここ数年で、ペットは家族であり共に過ごすという価値観の転換が起きています。

というのは、前述したように、ペットと暮らす意味や価値、というのが多くの方に認められその必要性が高まっているからだと思うのです。

ですから、ペット産業のみで考えるのではなく、より高く広い視点で『人とペットとの真の共生』を実現するためになにが必要なのか、を考えるとおのずと答えが出てくるのではないかと思っています。

ペットが人に与えてくれる生きる元気や心身の健康をペット業界が一丸となって発信することにより、人類が生命あるものすべてに温かい思いやりの心を持ち笑顔あふれる『ペットとの幸せな暮らし』と『優しい社会』を実現することを目指すべきでしょう。ペット産業は日本の経済発展に寄与できると思っています。」

―今後の取り組みをお聞かせください。

interview_image

「私もいい歳になってきましたが(笑)これまでの経験を生かして、業界発展にさらに寄与したいと思っています。

今後日本は、本格的な高齢化社会に突入します(*参考:2050年には65歳以上の人口39.6%)。無縁社会や孤独死など、高齢化社会ならではの問題に待ったなしで直面しています。

例えば、アメリカのタイガープレイス(ペットと暮らせる高齢者施設)のような施設が出来ることにより、豊かな高齢社会となるに違いありません。他にも、ペットと暮らす高齢者のケア(散歩代行サービスや動物病院への定期健診代行サービス等)の発展も望まれるところです。

また、アニマル・ドネーションさんもテーマとしておられる、ペットの殺処分ゼロの実現も経済の発展と言う意味でも重要です。

私共の試算によりますと、現在処分されている犬猫がペットとして生きることにより年間140億円以上の経済効果となりますし、行政が行っている処分のための経費(施設、人件費、殺処分の経費)、推計約50億円も削減できます。

このように、業界を発展させていくためには、業界内で頑張っている方々の横のつながりを強化し、一丸となって、ペットとの共生の重要性を発信すべきだと思います。

その啓発活動の一環として、2012年に私が実行委員長として開催した『ペットとの共生推進協議会』の第1回シンポジウムには、458名の方々がお集まりになられました。とても手ごたえを感じたイベントでした。

そして、私には夢があります。

『ペットと人が真の共生』をしているリアルなコミュニティを日本のどこかに造るということです。

現状起きている人間社会やペット業界での諸問題がクリアされ、人もペットもお互いを支え合い幸せに過ごせる街があれば、どんなにかすばらしいことでしょう。

私は長くビジネスの一線にいました。

ですので、これは夢でなく実現してこそ意味があると考えます。

このモデルケースが具現化できれば、世界から称賛されることでしょう。必ずやカタチにしたいと思っています。」

image

越村氏と愛猫が紹介された『長寿猫』。

越村氏の飼われた猫のマリーちゃんは19歳、シロちゃんは18歳まで生きたそうです。

この本によると、猫の19歳は、人間の歳に換算すると90歳を越えているそうです。

 
image 現在、共に暮らす、メイちゃんとレオちゃん。
image

越村さんが名誉会長を務める「ヒルズ・コルゲート株式会社」のHP。

米国本社で世界95カ国に販売拠点を持っています。

2005年11月1 日に世界で初めて「扶養ペット慶弔規定」を社内で制定し、2006年6月19日、財団法人日本動物愛護協会より、「動物の愛護及び管理に関する法律の趣旨に沿うものとして」感謝状を授与されました。

2010 年6月には公益社団法人日本動物病院福祉協会より、Bustad Award (福祉功労賞)を受賞しています。

image

こちらは、会長を務められる「一般社団法人ペットフード協会」のHP。

国内でペットフードを製造または販売する企業99社で構成され、ペットフード市場の90%以上が会員社によってカバーされています。

よりよいペットライフの実現に貢献すべく、ペットフードの安全性や品質向上のための普及啓発事業をメインに、ペットに係ることを広く手掛けています。