動物の専門家インタビュー

動物は最後の友達。作品を通してだれでも動物と暮らせる社会を作る

犬猫たちへの深い愛情で多くのドキュメンタリー作品を撮り続けてきた映像演出家・作家・脚本家の山田 あかねさん。アニドネでは、2015年にもインタビューを実施しています。それから約6年。(STORY with Pet インタビュー記事はこちら
獣医学部に実在した動物愛護サークルがモデルの映画『犬部!』公開にあたり、脚本を手がけた山田さんに、映画化の裏話から動物たちへの想いまで、お話を伺いました。

(2021年7月取材)

Profile

 

山田 あかねさん

東京都出身。映像演出家・作家。脚本家。映画『犬に名前をつける日』(15)をはじめ、犬と猫の命をテーマにした映像作品・本を数多く手がける。本作をきっかけに主人公・花井颯太のモデルであり「犬部」を作った獣医師・太田快作を1年間取材し「ザ・ノンフィクション 花子と先生の18年~人生を変えた犬~』(フジテレビ・20)を演出した。さらに取材を重ね、「犬は愛情を食べて生きている」(光文社より6月30日発売予定)を執筆。多頭飼育崩壊を描いた「ザ・ノンフィクション犬と猫の向こう側」(フジテレビ・18)では第45回日本放送文化基金優秀賞受賞。本作の映画小説版も手がける。

 

 


「面白おかしい」動物モノを作りたくなかった

ー『犬部!』映画化のオファーを受けた時のお気持ちを聞かせてください。

 

「まず、『犬部!』原案で描かれているのは20年前の日本だったので、時代設定にすごく難しさを感じました。
というのも、この20年で日本の動物福祉をめぐる現状は大きく変わっています。当時は動物福祉に関わる人も少なく、世間からの風当たりも強かった中、犬部の学生が動物を助けるために孤軍奮闘したという事実を、観ている人にどうやって伝えようかと。20年という月日はものすごい昔でもなく、かといって今でもない。物語としてどう成立させるか、悩みましたね。

 

もう一つ感じたのは、動物福祉を『エンタメ作品』として描くことへのジレンマです。私は動物に関するドキュメンタリーを多く撮っていることもあり、動物福祉に対しては人一倍強い想いを持っています。だけど、あくまで映画としてヒットさせないといけない。

 

動物たちを面白おかしく扱うことで、一過性のペットブームを作り、結果として犬猫たちにとって不幸な影響をもたらすことに加担するのではないかと抵抗がありました。『犬部!』のプロデューサーにそうした私の想いを伝えると、『あなたの動物愛護精神をないがしろにしない』と覚悟が聞けたんです。犬部の活動自体は本当に素晴らしいし、多くの人に知ってほしいと思ったこともあり、この作品を脚本化しようと決めました。

 

引き受けたからには観てくれた人に楽しんでもらえるよう、娯楽作品としての要素は散りばめつつ、伝えたい動物愛護精神との両立は意識しましたね」

想いを持って動物に向き合う人の姿を伝える

ー脚本を書くにあたり意識した点はどういったところでしょうか。

 

「映画『犬部!』はフィクションでありながらも、実在した動物愛護サークルを題材としています。モデルがいる以上、現実に今この瞬間を生きている本人たちを傷つけたり、迷惑をかけたりすることがあってはいけないと気をつけました。主人公の花井颯太は獣医師の太田快作先生がモデルですが、他はみな架空の人物。

 

花井が三度の飯より犬が好きな『犬バカ』で、周囲から変人と疎まれるくらいまっすぐで熱い男だとしたら、その親友は対照的な人物が良いなと。そう考えている時に、以前取材した、台湾の保健所で働く獣医師さんが、殺処分をなくそうと奮闘している過程で自ら命をたった事件を思い出しました。日本でも青森の動物愛護センターや保健所で働き、非常に葛藤しながら犬の殺処分数を10分の1にまで減らした方を取材したことがあります。私自身大きな衝撃を受けて、こうした想いを持って動物たちと日々向き合っている人たちのことを伝えたくて、柴崎のキャラクターを描きました。

 

二人が強烈な動物愛護精神を持つ獣医師だったので、それだけでは映画を観る人が置いていかれてしまうと思い、三人目の秋田はどこにでもいそうな『普通の』獣医師に。とくべつ動物愛護精神が高いわけでもないけれど、主人公たちの奮闘する姿を目の当たりにして次第に心が動かされていく。その姿を丁寧に描写しました」

 

 

ー映画『犬部!』をご覧になった感想を教えてください。


「泣きましたね(笑)。もちろん脚本を書いたのですから、ストーリーも全てわかっているのに、です。
『この後どうなっちゃうんだろう?』と、一観客としてのめり込みながら観ていました。

 

そのくらい、林さんや中川さんはリアリティを持って、役を『生きていた』と感じて。林さんは、まるで太田先生ご本人かと錯覚するくらい。犬を愛するがあまり、時に周囲とぶつかってしまう不器用さをもうまく表現してくれました。また親友の柴崎を演じた中川さんも、動物に対しての理想が高く、挫折を経験するという難役を見事に演じてくれたと思います。

 

特に劇中のあるシーンでの表情はすごく印象的で、心が震えました。この脚本を引き受けて良かったと思いましたね」

「ヒーロー獣医師になりたくない」

ー今回主人公のモデルになった太田先生のような獣医師を見て、どう感じますか。


「すごく理想的でもあるし、動物たちを救うために獣医師として技術も磨いているんだけど、どこか医療の限界を悟っているような気がするんです。
動物たちにとって一番大切なのは、どんな最善の医療を施したかではなく、飼い主の『愛情』だと言う。

 

それは太田先生の愛犬・花子への接し方を間近で見た時に実感しました。溺愛するのでもなく、『あ、そこにいるな』くらいの適度な距離感を保って接していて。それは花子の看取りの瞬間にもよく現れていました。太田先生だけではなく、看護師さんみんなが花子を心の底から愛しているからこそ、最期まで悲しい表情を見せず、楽しいひとときを過ごすことに心を砕いていました。

 

『犬だから』ではなく、一つの対等な『命』として尊重して対峙している姿に胸を打たれましたね。

 

病院を訪れる患者さんへの向き合い方もすごく素晴らしいんです。飼い主さんたちは、ぎりぎりまで、ペットにできる限りの手を尽くしてあげたいですよね。だけど経済的な面でそれが叶わなかったり、必ずしもそれが動物たちのためにならなかったりする時、飼い主さんたちに後悔や罪悪感が残らないよう、『どんな選択をしたとしても本人は喜んでくれているよ』と言って気持ちを救ってあげているのです。本当にすごい人だなと思いました。

 

 

実際の犬部ができたのは、獣医科大学の外科実習を変えるため、殺処分寸前の犬猫たちを救うシェルターを作ろうとしたのが原点でした。当時、日本のほとんどの獣医科大学では、保健所からもらいさげてきた犬を実習に使って、その後、安楽死させていました。動物を救いたくて獣医師になるのに、どうして勉強のために動物たちを殺さないといけないのかという葛藤があったんですね。

 

長い時間はかかりましたが、現在の獣医科大学では犬の命を犠牲にする外科実習は中止になっています。それでも彼の中では、思っていた以上に獣医師の世界を変えられなかったというもどかしさがある。だからこそ、『僕なんて街中の『ただの獣医師』ですよ』と謙遜するんです。

 

太田先生は、『僕がヒーローとして扱われているうちは日本の動物福祉はまだまだだ』と語ります。それは、自分が獣医師として、また動物と向き合う一人の人間として、ごく当たり前のことをやっているだけだと思っているからです。

 

一人でも多く、太田先生のように動物福祉と向き合う獣医師の方が増えてくれるといいなと思いますね」

「世界は変えられる」ーー今の日本に感じた希望

ー今の日本の動物たちが置かれている環境についてどう感じますか。


「動物福祉の最前線で闘う人たちを目の当たりにしてきた立場としても、率直に『よくぞここまできたな』と感じています。
私が動物を扱うドキュメンタリー作品を撮り始めた10年前と比較すると、殺処分数は大幅に減り、『保護犬・猫』という言葉も浸透してきました。この10年近くでここまで来れたのだから、これからの動物福祉の未来にも希望を持っていますね。

 

私が取材をした動物愛護センターでは、訪問するたびに動物たちをめぐる環境が改善されていきました。大部屋で管理されていた犬たちは一部個別の部屋で過ごせるようになったり、ウイルスで亡くなることがないよう全頭にワクチンを打つことになったり。しまいにはドッグランもできました。昔『仕事だから』と割り切って働いていたセンターの職員さん(獣医師)に話を聞くと、『保護団体やボランティアの方々が動物たちのために懸命に動く姿を目にしたら、職務だからと諦めるわけにいかなかった』と言うんです。その言葉を聞いて、世界は変えられるんだと強く感じました。

 

『殺処分反対』と声高にアナウンスすることもたしかに重要です。でも、それ以上に人を変えるのは、目の前で淡々と行動すること。それを体感してきたからこそ、私は動物たちのためにアクションする方々の姿を映像におさめ、地道に世の中に伝えていきたいという想いでこの仕事をしています」

 

 

ー最後に、動物たちのために私たちができることは何でしょうか。


「まずは動物たちのために、自分に何ができるか考えることですね。その上で大切なことは3つあると思っています。

一つ目は、今犬や猫を飼っているなら、彼らを最期の瞬間まで愛情を持って大切に育てること。二つ目は、もしこれから動物を家族に迎えたいと思っているなら、保護犬・猫の選択肢を考えてほしいです。

 

そして最後に、もし今すぐ動物を飼うことができないのなら、『寄付』をしてほしいのです。寄付をすることで、動物のために頑張っている人たちを支えることに繋がるからです。日本は欧米と比べると寄付文化があまり根付いていないと思っていて。決して『偽善』ではなく、当たり前のこととして寄付をおこなってほしいですね。

私は、犬や猫は人間にとって『最後の友達』だと思っています。目指すのは、どんな人でも犬や猫と暮らせる社会です。条件が揃っている立派な人だけが動物を迎えられるのではなく、たとえ経済的に貧しくても、高齢でも、動物と暮らせる世の中になってほしいと思うのです。そのくらい、動物たちが私たち人間に与えてくれる幸せや喜びは大きいから。

 

そして、もし近くに動物と暮らすことができなくなり、困っている人がいたら手を差し伸べてあげられる、優しい世界になってくれるといいなと心から願っています」

 

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山田さんが映画『犬部!』主人公のモデルになった獣医師 太田快作先生を取材し、その生き様に迫った著書「犬は愛情を食べて生きている」は現在光文社より好評発売中です!ぜひご一読くださいね。

 

 

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