動物の専門家インタビュー

獣医師が動物福祉の先頭に。何があっても動物たちの味方でいたい

2021年7月公開の映画『犬部!』主人公・花井颯太のモデルになったのは、ハナ動物病院 院長の太田快作先生。劇中で描かれた20年前から、日本の動物福祉事情は大きく変容しています。

 

映画に負けず劣らずの深すぎる動物愛を持って、日々診療に訪れる動物たちと向き合っている太田先生は、今の動物福祉をどう考えるのでしょうか。お話を伺いました。

(2021年7月取材)

 

Profile

獣医師 太田 快作先生

東京都出身。ハナ動物病院院長。2006年北里大学獣医畜産学部獣医学科卒業。在学中、行き場をなくした犬や猫を保護し、新しい飼い主を探す「犬部」を創設。卒業後、動物病院勤務を経て開業。野良猫や捨て犬など飼い主のいない動物の治療を積極的に行う。


 


だれも悪者にしない描き方に好感

ー映画『犬部!』をご覧になった感想を教えてください

 

「面白かったです。リアルな動物福祉の現場を描いてくれていたのがよかったですね。動物福祉に問題意識を持っている方の目線で誠実に物語を紡いでくれたんだな、と感じました。

 

だれも悪者にしない描き方にも好感が持てましたね。エンタメ作品ですから、だれかを敵にして倒す方が盛り上がると思うんです。ですが、現実でも殺処分を行う行政や獣医師、このテーマでは悪者にされることの多いペットショップやブリーダーだってみんな動物が好きでこの業界に入っているはず。人それぞれ、さまざまな事情や葛藤を抱えてます。登場人物一人ひとりを通して、根本的な動物福祉の問題が丁寧に描かれていると感じました」

 

手を取り合って動物福祉に取り組む

ー映画『犬部!』から20年。現在の日本の動物福祉をどう考えますか

 

「映画で描かれていた当時、動物福祉に携わる僕たちのような人間はみな変人扱いされていました。昔対立していた行政と民間が、いまは手を取り合って動物福祉に取り組むようになりましたよね。東日本大震災が発生して、被災動物をレスキューする保護団体が注目を浴びたのも大きなきっかけになったと思います。

 

日本の動物福祉の現状を語るとき、欧米諸国と比較されることが多いと思います。たしかにアニマルポリスやSPCA(動物虐待防止協会)が設置されていたり、ドネーションの文化も根付いていたり、見習うべき点も多くある。でも、日本と違い頭数コントロールの概念があり、問題行動が理由で安楽死させるケースもあるのです。

 

いまの日本は20年前から大幅に殺処分数も減っています。これはひとえに命と向き合い続けてきた民間のボランティアの尽力によるところが大きいと思っていて。世界で唯一、真の『殺処分ゼロ』が達成できる日もそう遠くないと信じています。

 

一方で、ボランティアの方々の善意に頼りすぎてしまっているのも事実。彼らが頑張ってくれている間に、僕たち獣医師や行政が体制づくりをしないといけないと感じています」

 

動物を救えるのは獣医師しかいない

ー日々どんな想いで動物福祉に携わっているのでしょうか

 

何があっても動物たちの味方でいたいと思っています。『野良猫だから』、『飼い猫だから』という命の区別をしないように。動物たちにとって、命を救えるのは僕たち獣医師だけです。獣医師が断ったら、彼らは命を失うことになる。最後の砦だという覚悟を持って、目の前の動物たちに向き合っています。

 

どうしても、すべての動物を完璧に治すことはできず、無力感を感じるときもあります。でもそれ以上に、頼られる喜びや、飼い主さんたちから感謝の言葉をもらったときは本当に嬉しいです。一方で、動物福祉に積極的に関わる獣医師が少ない現実があります。先頭に立って動物福祉に取り組む獣医師が、もっともっと増えたらいいなと思います

 

だれでも動物と暮らす権利がある

ーコロナ禍でのペットブーム、ペットショップの生体販売についてどう考えますか

 

「動物を飼う人が増えたことは純粋に嬉しいですね。僕は、お金や知識の有無にかかわらず、だれでも動物と暮らす権利があると思っていて。それだけ人間に与えてくれる喜びは大きいですから。

 

ただ、なんらかの事情があって一度迎えた動物を手放さなければいけなくなる人がいるのも残念ながら事実です。しかし、たとえそうなってしまったとしても、飼い主を一方的に非難するのではなく、社会全体で支えてあげられる仕組みが必要です。地域の動物病院も気軽に相談できる窓口でありたいですね。

 

ペットショップの生体販売についても同じ。命の売り買いに違和感はありますが、『善か悪か』の二項対立で悪者叩きをしてもなんの解決にもなりません。業界全体の体質改善は目指しつつ、そこでこぼれ落ちる命を確実に救えるようなセーフティネットを作っていく必要があると思います

矛盾を感じたら行動に起こしてほしい

ー映画を観て「動物たちのためになにかしたい」と思う人たちにできることは?

 

「今動物を飼っているとしたら、まずはその子を最期まで全力で愛してあげること。そして、世の中で起こっているおかしいことにきちんと『おかしい』と思っていてほしいですね。理不尽な理由で命を奪われる動物がいるって、どう考えてもおかしいんです。『仕方ない』で済ませず、身のまわりで起こっている矛盾に問題意識を持ち続けてほしいです。

 

今まで『殺処分』という言葉を耳にしても、どこか現実感がなかった人も多いと思います。この映画を観て、こうした現実にまずは目を向けるのが第一歩ですね。そして次に動物を家族に迎えるときは、保護犬や保護猫も検討してもらえたら嬉しいですね」

 

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