コロナ禍で犬や猫を守るために、私たちが知っておくべき「知識と対策」とは?
未だ世界中で猛威を振るい、終息のめどが立っていない新型コロナウイルス感染症。
突然の脅威により、海外では人々がパニックになり、動物を遺棄する事件も起こりました。
いま、私たちに求められるのは、正しい情報を知り、正しく怖がること。
ペットを守るために身に付けておきたい新型コロナウイルスの基礎知識について、獣医学博士の増田健一氏にお伺いしました。
(2020年10月取材)
Profile
Kenichi Masuda
理研ベンチャー 動物アレルギー検査株式会社
代表取締役社長
増田 健一さん
1992年、鹿児島大学獣医学科卒業。
約2年間の動物病院勤務を経た後、米国イリノイ大学大学院にて獣医学修士号、
東京大学大学院にて獣医学博士号を取得。
現在、動物アレルギー検査株式会社 代表取締役社長。
感染拡大中の新型コロナウイルス、人からペットへの感染報告はあるが…
コロナウイルスというものは世界中にあり、動物の間にもたくさんあるのですが、
今回の新型コロナウイルスのように病気を強く引き起こすタイプは、非常に珍しいものです。
では新型コロナウイルスは、人からペットとして飼育されている犬や猫に感染するのか?という疑問については、
獣医学の世界では「人から猫、犬への感染はあり得る」と考えています。
現在のところ欧米からはそういう詳しい検査報告は公表されていませんが、日本や香港では実際にそうした例が報告されています。
感染したかどうかの判断は、人間と同様にPCR検査で行います。
ただ、たまたまウイルスが犬猫の喉、唾液、あるいは糞便に付着しただけではないかという疑いもありますから、
ほんとうに犬猫の体内でウイルスが感染して増えた、つまり感染が成立したかどうかを判断するには、抗体価のチェックが必要になります。
我々も含めて血清で検査をしている機関はありますが、野外で抗体価が上昇した犬猫がいるという報告はまだ出てきておらず、
犬猫の体の中で猛烈にウイルスが増えるのかは明らかになっていません。
抗体を検出する検査システムの問題、検査をするタイミングなど、クリアしなければならないことがたくさんある現状では、
PCR検査が一番信頼できる検査方法であると言えるでしょう。
感染しても犬は無症状、猫は症状あり。具合の悪そうな猫は隔離をする対策を
犬は、基本的には新型コロナウイルスに感染しても無症状で、症状が出たという報告がまだありません。
もし犬自身に話が聞けるなら、「ちょっとだるい」というような報告はあるかもしれないですね。一方、猫は発症します。
実験においては、感染すると人間と同じように肺炎などの呼吸器症状や下痢を起こすことがわかっています。
ただ、発症させるには大量のウイルスが必要になります。
感染した猫とずっと濃厚な接触をさせ、ウイルスが十分に体内に入る状況を作れば感染する可能性がありますが、
一瞬触れただけくらいではうつらない、それほど感染力は強くないと思います。
保護団体さんなどで大切なのは、症状が出ている猫を見分けることです。
ボランティアの方々は、普段から咳や鼻水、高熱を出して食欲がない、下痢など便の調子がおかしい子がいたら隔離されていると思うのですが、対新型コロナに関してもその対応で正しいと思います。
ただし、新型コロナウイルスは人に感染するウイルスですから、ワンステージ過敏になっておく必要がありますが、
すべての犬や猫に防護服を着て対応する必要はなく、ポイントだけ気をつける方法でも効果があると思います。
ポイントとは、濃厚接触を避けることと衛生観念をしっかり持つこと。
新型コロナウイルスに感染した猫とキスをしたり、ぺろぺろ顔を舐めさせたりしたら、うつる可能性がありますし、
糞尿を始末した手で口や目を触ったら感染する危険があります。
世話するとき専用の服を上から着て、手袋、マスク、さらにゴーグルをしてアルコール消毒を励行していれば大丈夫です。

犬猫のコロナウイルスはアルファ型。ペットから飼い主へは感染しない
新型コロナウイルスはハクビシンやコウモリがもともと持っていて人に感染したと考えられています。
そこで、犬猫のコロナウイルスが人に感染するのではないかと懸念されるかもしれませんが、その心配はありません。
コロナウイルスは、アルファ、ベータ、ガンマウイルスにさらに分かれていて、我々が新型コロナウイルスと呼んでいるのはベータウイルスに分類されるもの。
一方、犬や猫のコロナウイルスはアルファウイルスであり、ベータウイルスとは性質が異なります。
なお、猫には猫特有の高病原性コロナウイルスである猫伝染性腹膜炎ウイルスがあり、これは最強に悪いウイルスです。
もし、猫が感染して発症したら助かりません。
我々獣医学者は、何十年もの間、猫伝染性腹膜炎ウイルスのワクチンを作ろうとしてきたのですが、未だ成功に至ってはいません。
現在、海外でワクチンとして売られているものがあるにはあるのですが、本当に効果があるのかどうかは不明なのです。
ただ、コロナウイルスはちょっと口に入ったくらいでは感染しません。
猫伝染性腹膜炎もたくさんの量のウイルスが体内に入らないと発症することはないので、あまり過度に恐れる必要はないと思います。
大量にウイルスを吐き出していれば、猫同士がぺろぺろ舐めあったりすることでうつる可能性はあるかもしれません。
獣医学で恐れているのは、新型コロナウイルスと猫伝染性腹膜炎ウイルスが混ざり、新しい未知のコロナウイルスが出現することです。
混ざることで新しいウイルスが出てくることはぜひとも避けたいので、猫伝染性腹膜炎にかかった猫をお飼いになっている飼い主さんは、新型コロナウイルスに感染しないよう十分に気をつけていただきたいです。
それは、公衆衛生学的にも大切なことだと思います。
飼い主自身が感染しないことが、大切なペットの命を守ることになる
犬や猫を新型コロナウイルスから守る一番の対策は、飼い主がウイルスを家に持ち込まないことです。
ペットが外で新型コロナウイルスに感染し、家に持ち込むことは現在の日本の飼育環境ではあり得ないからです。ただし、外猫は少し様子が違ってきます。
オランダでは、今年の春、牧場の猫がミンク牧場で新型コロナウイルスをうつして、ミンクの間に新型コロナが流行ってしまい、
すべてのミンクを安楽死させたという報告がありました。
しかしながら、外猫がそもそも誰からウイルスをもらってくるのかといえば、人間なわけです。
外猫が悪いわけではなく、感染する人間がいるから猫にうつってしまいます。
猫や犬を守るという観点で言えば、まず人間が感染しないことがペットを新型コロナウイルスから守る最大の防御策になります。
ペットオーナーに気をつけていただきたいのは、感染予防の基本を徹底して守ることです。
手洗いの励行、マスクの着用、3密を避ける、しゃべるときはマスクを着けるなど、政府が推奨している感染予防対策は正しい方法です。
感染予防には、そうしたベーシックな対策を忠実に実行することが大事です。
そこをないがしろにして、なにか一足飛びに感染を抑える画期的な予防法などはありません。
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コロナ禍においてペットの命を守るのは、人間の責任であることを痛感しました。
一日も早い終息を願い、私たち一人ひとりが感染予防の基本をしっかり守って生活しましょう。
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