動物の専門家インタビュー

獣医師に聞くペットと乗り越えるコロナ危機:犬の飼育者のために

        

 

新型コロナウイルスの感染拡大は、私たち人間はもちろん、動物たちにも影響が出ています。大切な家族として共に生活する動物を守るために、飼い主が気になることを獣医学博士 山本和弘先生に聞いてみました。

(2020年5月取材)

Profile

Kazuhiro Yamamoto

 

帝京科学大学生命環境学部アニマルサイエンス学科 

准教授 山本和弘さん

 

獣医学博士

専門分野は予防獣医学、アニマルシェルター・メディシン、獣医疫学、人畜共通感染症、公衆衛生

日本獣医生命科学大学卒業後、アメリカ・カリフォルニア大学デイビス校にて修士号および博士号取得

 

2003年 国際NGOJapan International Food for the Hungry」奉職

2010年 大阪府にて動物病院 勤務医

2017年〜現職

海外では動物への感染事例も。慎重な行動を

―もし自分がコロナになってしまったら愛犬はどうすればいいのでしょうか?

 

「まずは家族やペットホテルなどに預けることが必要になります。

できればペットにもストレスがない慣れた場所が望ましいですが、どこにも預かり先が見つからなかった場合、東京都に電話相談窓口が設けられていますので、そちらでご相談ください。」

 

★参考:東京都福祉保健局 「新型コロナウイルス感染症による入院・宿泊療養の際のペットの飼育について」

https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/smph/kankyo/aigo/doubutsu_oshirase/coronavirus_pet.html?fbclid=IwAR3ZZkMx_UzWobcOQjkS8HXu8RZbR0vHSDxBUI1yAyPB8RkdEW0jDZuU-0Y

 

 

―新型コロナ罹患者から犬を預かる場合の方法を教えて下さい。

 

「新型コロナウイルスに感染した可能性が飼い主にある場合は、その飼い主はまず犬との接触も避けるべきです。犬の身体や気道中にウイルスが付着する可能性があるからです。

預かる方は最初に必ず、マスク、グローブ、エプロン、メガネなどを着用し、細心の注意を払い、犬を扱う必要があります。犬を受け取ったあとは、シャンプーをし(界面活性剤でウイルスは落ちる、もしくは、ほとんどが不活化されます)人と同じく2週間は隔離するほうがベターだと思います。」

 

★参考:

・東京都獣医師会 「新型コロナウイルスに感染した人が飼っているペットを預かるために知っておきたいこと(Ver.2)

https://www.tvma.or.jp/public/items/1-20200424.pdf

・環境省 「新型コロナウイルス関連情報」

https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/1_law/coronavirus.html

・厚生労働省 「新型コロナウイルスに関するQ&A

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q2-4

 

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参考として、山本先生よりOIEの記事をご紹介いただきました。

日本の飼い主さんにも大変参考になりますので記事を抜粋して記載いたします。

 

以下OIEQ&Aより

 

Q: 動物は新型コロナウイルス感染症に感染するでしょうか?

A: 現在、新型コロナウイルス感染症の症例は、広く人の集団において広がっており、感染した人との濃厚接触を通じて、何匹かの動物は感染する可能性があります。(中略)新型コロナウイルスの、現在の広がりは人から人への感染の結果です。現在まで、伴侶動物が新型コロナウイルスによる病気を広め得る重要な役割を担う証拠はありません。したがって、伴侶動物の福祉を損なうおそれがある対策を講じる正当な理由はありません。

 

Q: 新型コロナウイルスの感染の疑いがある人や感染が確認されている人と伴侶動物やその他の動物が濃厚接触する場合、どのような予防措置を講じる必要がありますか?

A: 現在、新型コロナウイルス感染症の人での感染拡大において、動物が重要な疫学的役割を担うという証拠はありません。しかしながら、動物と人は人獣共通感染症として知られる病気を共有することがあるため、新型コロナウイルスの疑いがある人や感染が確認されている人は、動物との接触を制限することを勧めます。

動物の取扱いや世話をするときは、基本的な衛生対策を常に実施する必要があります。これには、動物、動物のフードや動物が使う用品を扱う前後での手洗いが含まれます。また、動物とのキスや、動物に舐められたりすること、食べ物をシェアすることも同様に避けるべきです。(中略)

可能であれば、新型コロナウイルスに感染している人は、ペットとの濃厚な接触を避け、動物の世話ができる他の方に依頼することが望ましいと考えます。もし、感染した人が世話をしなければならない場合は、適切な衛生習慣を維持し、可能であればマスクなどを着用する必要があります。また、新型コロナウイルスに感染した人が飼っている動物については、できる限り屋内で飼育し、そのペットとの接触は出来るだけ避けてください。

 

出典:国際獣疫事務局OIE Webサイト

*OIE(国際獣疫事務局)World Organization for Animal Health

 OIEQuestions and Answers on the 2019 Coronavirus Disease (COVID-19)」令和2427日時点版

 

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―犬もコロナにかかるのでしょうか?

 

「正直に申し上げて、まだ分からないことが多いです。

動物園のトラが感染したことがニュースで放映され驚いた方も多いことでしょう。さらに猫同士で新型インフルエンザが感染するとの報道もされています。OIEでも発表では、研究室内でのフェレットの感染、および検査によって犬や猫が新型コロナウイルス陽性という結果が報告されています。

しかし、私の個人的な意見ですがPCR検査は感受性が高い検査であるためウイルスが付着しているだけでも検出されることもあると思います。」

 

正しい知識でペットを守ろう

 

―犬と散歩しても危険はないのでしょうか?

 

「散歩はしても問題ないと思います。ただし他の人が近づいてきて犬をなでたりしないように直接の接触は避けられた方がいいと思います。疑いたくはありませんが接触者が新型コロナウイルスのキャリア(無症状病原体保有者)の可能性もあります。」

 

 

―散歩から帰ってきてからの家に入るときの注意事項は?        

 

「まず飼い主側の感染症対策をしてください。そして、手を洗う前はむやみに犬に触れないようにします。手を洗ってから、犬の足を洗うなどのケアーを行えばよいと思います。

フードを上げる、おもちゃに触れる、ペットのベッドに触れるなど散歩から帰ってきて飼い主が手を洗う前にやってしまいがちですが、これらのことは必ず手を洗ってからの作業です。」

 

 

―スーパーの入り口などによくある消毒液を犬に使ってもいいでしょうか?

 

「使えるものもありますが、一概にすべていいとは言えません。消毒薬の中には私達の手指の消毒には使用できても、犬にとっては毒となるのもあります。

私達は消毒液を口に入れませんが、犬は匂いが嫌だと舐めて除去しようとします。毒性があると危険です。とくにエタノール系は我々以上に犬は敏感です(ごく少量なら大丈夫かと思いますが)。」

 

 

―ちょうど春の予防接種の時期で、しばらく延期と言われているようですが、大丈夫でしょうか?

 

「少しは先延ばしできますが狂犬病予防注射を1年先にすることはできません。狂犬病予防法の法制上4-6月に打つこととなっています。

一般のワクチンは、数カ月先延ばしにしても大丈夫かと思います。欧米では数年に1回の接種を推奨している国もあります。抗体が残っている場合が多いからです。でも、なかには抗体価が下がる子がいるので毎年打たれる方がいいかと思います。飼育環境によりますがアニマルシェルターなど多頭飼育されているところでは海外でも1年に1回の接種は必須です。」

 

 

―予防注射には、コロナウイルス予防の成分も入っていますか?

 

「基本的には入っていません。ただ、不活化ワクチンにはアジュバンドといって不特定の病原(ウイルス)に免疫力を上げる成分が入っている場合があります。これがコロナウイルスに対しての共通の抗体上昇につながるのであれば、抵抗力を上げる可能性はあります。ただし、不確定なのでまだ分かりません。」

 

 

―人が犬をなでると免疫力が上がるというのは本当ですか?

 

「はい、免疫力は上がると考えられています。犬との関係が良いとアイコンタクトで人間も犬もオキシトシン(幸せホルモン)の分泌量が増えます。それは、リラックス効果があり免疫力アップにもつながります。唾液中のIgA抗体等が上がるという学会発表もあります。他にも科学的根拠が沢山あります。」

 

今回の新型コロナウイルス流行拡大を受け、今感じていること

「今はまだ、ウイルス自体の病原性、特に変異原性が分かっていません。未知です。ですので、質問に対しても明確に答えることができないことが歯がゆい思いです。ただ、私が懸念しているのは、不確実で科学的根拠もない噂が先走り、そのことが動物福祉に反する行為につながることです。そういうことはあってはならないと思っています。この先、自粛期間が終了したとしても、中長期的に慎重な行動が求められます。ペットを守るのは飼い主さんしかいません。

 

不安がとりまく自粛期間において、これほどまでに私たちを癒してくれるペットに、改めて感謝を感じた方も多かったのではないでしょうか。ぜひ、正しい知識を得て行動し、大事なペットを守ってほしいと思います。」