STORY with Pet

Vol.5 映画監督 山田あかねさん

Vol.5 映画監督 山田あかねさん

STORY with Pet

「自らの愛犬の死が、映画を作らねば、という原動力になりました。」

アニドネでは、さまざまな分野の第一線で活躍する方へ、
ペットとのスペシャルな関係をインタビューさせてもらっています。

今回は、映画監督の山田あかねさんにお話をお伺いいたしました。
山田監督は共に暮らしていた愛犬ミニを病気で亡くしたことで、
「犬の命」をテーマにした映画を作り上げました(書籍としても発売。キノブックス)。
4年にわたり取材を続け、撮りためた映像は200時間を超えたそうです。

なぜ、そこまでして犬たちの命にこだわり、
そして作品を作り上げたのか。
じっくりお話をお伺いいたしました。

 

  • PROFILE

    山田あかね

  • 東京生まれ テレビ番組のディレクター、ドラマの脚本、演出、小説家、映画監督などとして多くの作品を制作。
    主な作品に映画
    「すべては海になる」(2010年・主演佐藤江梨子、柳楽優弥)、小説「ベイビーシャワー」「しまうたGTS」(以上小学館)、「まじめなわたしの不まじめな愛情」(徳間書店)など。2012年より、犬の殺処分をテーマにひとりで取材を開始し、「むっちゃんの幸せ〜福島の被災犬がたどった数奇な運命〜」(NHK総合2014年9月放送)、「生きがい1000匹の猫と寝る女」(ザ・ノンフィクション・フジテレビ2015年3月放送)などを発表。

 

まず、『犬の命』をテーマに映画を作られた経緯を教えてください。

 

「私にとって、出産のときから一緒だった
ゴールデンレトリーバーの愛犬ミニは家族同然、子供と一緒でした。

その愛犬が10歳でガンとなり、余命はあと3ヶ月という宣告を受けたんです。

私はそれまで仕事で動物番組も作ってましたから他の方よりは知識もある、
獣医さんのネットワークもある、私ならこの子をなんとか治せる、と思ったんです。

できることはすべてやりました。

輸血に抗がん剤治療、病院を転々とし、いいと思えることはすべて行いました。

治療でつらそうな顔を見せる愛犬を励ましながらがんばったつもりでした。

しかし、わずか1ヶ月で愛犬の身体はぼろぼろになり、亡くなってしまったんです。

それはそれはショックでした。

自分なら助けられると慢心し、犬につらい思いをさせました。

私があの子を殺してしまったに違いない、と思いつめペットロスになり、
仕事もなにもかもしたくない、何もいらないから犬に帰ってきてほしい、と
考えるばかりだったんです。

その時に、映画にも実際に主人公を励ます役として出演してくださっている
映画監督の渋谷昶子さん
(1964年に、日紡貝塚バレーボールチームの映画『挑戦』をカンヌ国際映画祭に出品し、
短編部門で日本初のグランプリを受賞した映画 監督)に
『悲しんでばかりいないで、犬のために映画を撮りなさい』を薦められ、
カメラを担いで取材を開始したのが始まりです。」

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日本、海外、さまざま活動を取材されたそうですね。

 

「はい、最初は取材というより、犬のことを勉強しようと思ったんです。

自分の犬を殺してしまったのだから、すべてのキャリアを捨て、
一から勉強しなおして犬の命を助けられる人になろう、と思ったんです。

2011年の秋にイギリスに渡り、
保護施設のボランティアから始めたんですよ。

そこは日本の保護施設とは、違う側面がありました。

例えば、クリスマスには一人暮らしの方や、一緒に過ごす相手のない方々が集まるんですね。
保護された動物たちと共に暖かくクリスマスを祝える場がそこにはありました。

また、スーツを着たビジネスマンの男性が仕事帰りに
毎日のようにボランティアに来るんですね。
なぜなのか、聞いてみたんです。

そのときの答えは印象的でした。
『自分は愛犬をなくした。悲しいけれど泣いてばかりもいられない。
しかしまだ犬と暮らす気にはなれない。ここにくれば犬たちがいる。とても安らぐんだ』と。

犬のためだけではなく、人のための施設でもあると思ったんですね。
ボランティアの方々が多く出入りすることによって
犬たちがどんな人とも接することができるようになるし、人も助けられている、
そういった施設の機能がすばらしい、と感じました。

日本国内では、さまざまな保護団体の活動を取材する中で、
殺処分される動物たちを必死で救おうとする方々の懸命な姿に驚きました。

日本は欧米のようなレスキュー機能も寄付文化もあまり根付いていませんが、
救おうという気持ちで活動している方を目の当たりにし、
このことをテーマに映画にしようと決心したんです。」

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日本には今、高齢化、少子化、貧困化と、犬や猫の問題以外にも諸処の問題があります。

その中で、犬のことにこだわり、取材を続けました。
人も大変なのに、犬なんて……という批判は承知の上でした。
ですが、この問題は犬や猫のためだけではなく人の心に深く関わってくるものだと思っています。

映画にもどうすべきか、の答えは出していません。

また、例えば俳優の上川隆也さんがかっこいいな、と
思って見に来てくれるだけでもいいと思っています。

犬猫のことに興味がなくても、普通の方にこのことを知っていただきたい、
一般の方にこそ関係がある映画だと思っています。」

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監督にとって「犬」とはどのような存在なのでしょうか。

「(何度も考え込みながら)まず、私は犬の造作が好きです。ピンと張った耳とか垂れ耳、シッポとか。見た目が全部好きです。

そして、犬には、私たちがついつい見失いがちな自然があります。危険な場所には自ら近づかないとか、一度出会った人の匂いは覚えているなどの天賦の才があります。
犬という生き物に自然の偉大さを感じます。
それから、犬の愛情表現の豊かさも私の力になります。

取材時には、シェルターでレスキューされる犬達を多く見ました。
どの犬も捨てていった飼い主を恨みはしていません。
今を生きていることに喜びを感じていて、それを最大限に表現することに感動します。

私の愛犬・ハルは保護犬です。

映画で最終部屋(明日は殺処分となる部屋)から救い出され、
小林聡美さんにシャンプーをしてもらう犬がハルなんです。

実際に最終部屋に彼女はいました。
やせ衰え、排泄物が身体にこびりつき、ひどく汚れいて、体中、傷だらけでした。。
私は取材中だったのですが、シャンプーを頼まれたんです。
おっかなびっくりシャンプーしましたよ。
ハルもとても怖がっていました。

ただ、シャンプーをしているうちに、ハルも私も心が穏やかになり、
洗ったあとにはハルに感謝をされているのが伝わってきました。

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ハルは、現在は私と暮らしていますが、毎日会っているのに帰宅すると全身で喜びを表します。

同じご飯でも本当においしそうに食べます。

私にとって犬は『今を生きる強さ』を感じさせてくれる存在なんです。」

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今後のご活動の予定は?

「まずは、映画を世に出せたことはほっとしています。

実は、金融機関から資金を借りての映画制作です。
銀行の方には映画はギャンブルだから、、と言われました(笑)。
御想像の通り、映画はお金も労力も相当かかります。

そんな状況で協力してくれた、友達のカメラマンや
スタッフたちには心から感謝しています。

そして、現在このような日本の状況を世界に知ってほしくて、
イギリスやドイツというドッグフレンドリーな国の映画祭に
出展するための資金をクラウドファウンディングで募っています
(2015年12月25日23時59分まで実施中)。

ぜひ、みなさまからのご支援で拡げていければ、と考えました。

https://motion-gallery.net/projects/inu-namae

私は、ただの犬好きです。その視点を映画にしました。
大それたことはできませんが、
映画によって少しでも犬の命が救えれば、
愛犬ミニも天国で尻尾を振って喜んでくれると信じています。」

取材後記

監督の現在の愛犬、映画にも出演していたハルちゃんに、
アニドネスタッフもご挨拶をさせていただきました。
茶色いまつげのとても美人(美犬)な犬でした。
保護されたときからはまるで別の犬のよう。
ほっそりとスタイルがよく、安定したメンタルを感じさせる雰囲気で、
薄茶色の毛がキラキラと輝かいて神々しくも見えました。

ハルちゃんは、映画のパンフレットに書いてあるフレーズを体現しています。

『犬の幸せはどんな人と出会うかで決まる。』

はるか昔から人間と共に生きてきた犬たち、
それは犬が選んだ道なのか人の都合でそうしたのか、は判りません。

ですが、アニドネスタッフはなんとなく思います。
もし、犬が人間と暮らすことを選んでくれたのなら、
私たちはもう少し犬達に感謝してもいいのではないか、と。
動物への配慮のある社会にすべきでないか、と感じました。

映画は、つらいシーンも心暖まるシーンもあります。
動物が好きならばハンカチ無しでは見ることはできません。
ただ、見終わった後、つらい気持ちではなく、とても前向きな気持ちになります。
自分にもなにかできるのではないか、そう感じられるから、だと思います。
ぜひ多くの方に見ていただきたい映画です。

『犬に名前をつける日』

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ホームページ: http://inu-namae.com
公開表記:2015年10月31日(土)からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
コピーライト:(c)スモールホープベイプロダクション