認定団体の活動レポート

【日本動物病院協会(JAHA)】傷ついた子どもの心に寄り添う<付添犬>

虐待などの被害者が、裁判のためにその出来事を司法の場で証言しなければならないことは、最も忘れてしまいたい記憶を呼び起こすこと、また加害者の復讐への恐れなどから、言葉にすること自体、大変な勇気を必要とします。

ましてその被害者が子どもであった場合、その精神的な負担は計り知れません。その後の子どもの人生をも左右することとなります。

そんな場面では多くの専門家が関わり、子どもの心のケアに最大限の尽力をしていますが、それでも上手くいかない場面で子どもの心を癒すことの出来るチカラを持つのが誰だか分かりますか?

 

それは太古からヒトのパートナーと言われる犬です。

 

公益社団法人日本動物病院協会JAHAさんでは、セラピー犬による動物介在活動や動物介在教育をされていますが、『傷ついた子どもの心に寄り添う、付添犬』の活動も行っています。

 

今回、JAHA理事で獣医師の吉田尚子先生に貴重なお時間をいただきオンラインにて取材させていただきました。

吉田先生は米国での事例を参考に日本に付添犬の主旨を導入し、実現に向けた調整を重ねてきた第一人者のお一人です。導入に至った経緯や、実際の付添犬の活躍の様子など非常に貴重なリアルな情報を教えていただきました。

JAHA理事 吉田尚子先生


 

子どもを守らなければならないという使命から、ついに実現した付添犬

―まず、付添犬とは何でしょうか

 

「付添犬とは、『被害を受けた子どもが、安心して自分の受けた出来事について、他者(司法関係者/医療従事者など)に伝えられるよう手助けをする犬です。虐待などでトラウマを受けた子どもが、事情聴取などでさらなるトラウマを受けないように精神的にサポートします。』(引用:「神奈川子ども支援センターつなっぐHP」より)

その原型ともいえるのが、コートハウス・ファシリティドッグ(Courthouse Facility Dogs)で発祥は米国です。

法廷や司法面接の場で被害者に寄り添い、精神的にサポートしています。20206月時点でアメリカ国内だけでも241もの犬たちが活躍しています」

法律事務所でのフランのリラックスした表情


―付添犬が日本に導入されるまでの経緯を教えてください

 

「実際のセラピーの現場で、犬が付き添うことが大きなサポートになると実感していました。当時ご一緒していた専門家の先生方と米国の学会、組織や関連施設を視察し、その存在やその社会的役割の重要性を知り、日本にも導入する必要があると強く思い続けていました。

今から6年前の2014年に、子どもを守りたい・守らなければならないという志を同じくする専門家(児童精神科医、学者、弁護士、獣医師など)が集まり、米国のCourthouse Dogs Foundationと連携しながら、準備委員会として活動を開始。

2019年に『神奈川子ども支援センターつなっぐ』が設立され、付添犬認証委員会としてこちらに活動拠点を移し、日本の現状に即した付添犬制度の確立を目指し活動しています。

 それぞれの国によって司法関連の状況や事情は大きく異なります。また、この付添犬は実際の証言の場面だけでなく、それまでのプロセスや、担当者との関係の構築などのさまざまな場面で、とても有用だとわかってきました。そういう意味でも、多職種でこの日本の子ども達に、まずは丁寧にしっかりと、よりよいサポートができるよう、名称もどなたにもわかりやすくして、立ち上げることができたことを、大きな一歩として、引き続き検討を重ねてまいります」

※吉田先生は理事として参加されています。

 

共感性を持つ犬は子どもに寄り添い、励ますような仕草をする


子どもの凍った心を溶かす付添犬

―実際に付添犬はどんな活動をしているのでしょうか

 

「虐待や事件、事故などの被害を受けた疑いのある子どもから、できるだけ正確な情報を聴取する場を司法面接といいます。被害者である子ども自身の口から発せられる証言が虐待事件などの場合唯一の証拠ともなり得るため重要な場です。しかし、大人でも緊張感漂う司法面接という場で、事件当時の言わば忘れたい過去を口に出すことの精神的ストレスは大きく、黙り込んでしまう子やそもそも面接会場に行くことの出来ない子も多いのです。

そんな場面において、付添犬の役目が、司法面接の直前まで寄り添い触れ合うこと、中には司法面接時に足元に寝そべること。まさに子どもに寄り添うことが付添犬の役目です」


子どもに寄りかかっても包みこむような温かさがある


 ―どのような効果が期待できるのでしょうか

 

「実際に私が目の当りにした事例でいうと、児童精神科病棟に通われていた患者さんで、それまで全く口を開いてくれなかった子どもが付添犬と触れ合うことで、口を開いてくれました。児童精神科医などの専門家や長年そばで見守り、愛情をかけている親でさえ、ほぐすことができない心の壁を瞬時に低くし、話す勇気を与えることが出来るというのが、他のセラピー犬とも違う付添犬がもたらす力です。

7年前、初めて付添犬を面接前後のセラピーで導入し、調査官による面接を終えたとき、私もとてもホッとしましたが、それ以上に、主治医が涙ぐんで『この犬の効果は素晴らしいです。ぜひこれは広げなければ』と感動していたことをよく覚えています。

 

ほかにも、犬は誰が教えるわけもなく、医師や獣医師、面接官や保護者など多くの大人と被害者である子どもが待機する部屋に入ると同時に、その部屋の中で最も緊張し、辛い思いをしている子どもが誰なのかが分かるようで、瞬時に寄り添おうとします。もし被害者が兄弟などで子どもが複数いる場合は、その中で一番先に面接室に行く、最も緊張している子のところに近づくのです。それは驚くべき光景でしたが、人間の気持ちに同調できる唯一の動物といわれる犬の力を目の当たりにした瞬間でした。

実際に付添犬のサポートを受けたお子さんが私に宛てくれた手紙の内容をご紹介します」



 

 

穏やかに寄り添い、子どもも大人も癒す

―付添犬として活動するための資格はあるのでしょうか

 

「付添犬認証委員会で定めた基準に基づき、認証した犬のみが付添犬として活動できます。現在は社会福祉法人日本介助犬協会さんとJAHA2団体が提携しています。

前提条件は、犬の福祉が遵守され、基本的なトレーニングが陽性強化によって行われていること、そして犬がどのような場面でも落ち着いていられることです。

加えて、子どもが好きで、ゆったりとして心地良い動きが自然にできること、はしゃぐことをせず、どこでも穏やかに横たわって、落ち着くことができ、周囲を安心させるような空気感を持っていることです。

トレーニングは完璧に施されますが、元々の生まれ持った性質が大きいと思います。例えば、ハッシュやフランはどんな場所でも落ち着いて寝ることが出来るんですよ」


JAHA付添犬フランと(向かって左)ハッシュ(日本介助犬協会)


―実際にどんな犬・ハンドラーさんが活躍していますか

 

JAHAでは組織としてセラピー犬を持っておらず、CAPP活動に参加する犬はすべて会員の飼い犬、ハンドラーはその飼い主です。付添犬も例外ではありません。

犬は家族としての愛情を存分に受けて過ごし、またハンドラーである飼い主は、ご自分の犬を育成し、ボランティアとしての責任、適切なマナーやハンドリングを習得しています。飼い主にとって犬はセラピー犬である以前に、大切な家族であるため、無理な負荷を犬にかけることは望みませんから、犬たちはイキイキと楽しんで安心して活動することができます

飼い主がやりがいを感じている様子をみて、犬も『お母さんの役に立ってうれしい』という、犬ならではの、達成感のようななんともいえないカッコいいパートナー同志のオーラが漂っています。そういった安心感や信頼関係がなければ、人を癒す動物の効果は生まれないと思っています」

 

奇跡のような犬の力で、より多くの子どもたちに助けを

―犬がもたらす力について教えてください

 

「お伝えしてきたように、ほぼ奇跡と言えるような効果を目の当たりにしています。この子が助かるなら、どんなことでもしようと長年向き合ってきた医師や弁護士、親たちを驚かせてきました。付添犬のもたらす力は『あったらいいことがある』というセラピーではなく『なければ助けられない』『子どもの人生を大きく左右する』といことが他のセラピー犬とは違うところです。

 

2015年に東大のチームで行われた研究などから、ヒトとイヌが相互にもたらす力は科学的にも証明されています。
信頼関係にある飼い主と犬が見つめ合うとどちらからも幸せホルモンと呼ばれるオキシトシンが放出されることは広く知られているかもしれませんね。実はこの幸せホルモンが放出されるのが飼い主と犬だけに限らないことが発見されました。
JAHAの動物介在活動では、小児がん病棟に月に1度の訪問活動をしていましたが、活動後には小児がん患者である子どもと犬、両者の7割以上において、幸せホルモンの上昇が確認されたのです」

(参照記事:Peppy 犬セラピーの効果ってホント?!「しあわせホルモン」でみんな笑顔に


付添犬は、公共機関やはじめての場所でも落ち着いた行動ができることが重要


―今後の展望についてお聞かせください

 

「虐待被害によって、加害者から逃げるために人目を避けて暮らしたり、どんな子どもにも与えられるはずの、楽しく明るい時代を過ごせない子どもたちが存在することに心を痛めています。より多くの子供たちに助けが及べるように活動を普及していかねばならないと思っています。

 

そのためにはまずは関わる専門家の理解と共感が必要です。事例の周知を広めていきたいと思っています。犬の寿命と活動できる期間には限りがあります。前述のような付添犬の条件には犬とハンドラーの適性が関わるため、すぐには頭数を伸ばすことは難しいのですが、社会に付添犬という認知を広めていかねばならないと思っています。

 

この活動において、犬は主役ではありますが、その場面を丁寧に作り、犬の素晴らしい特別な力が発揮できるように持っていくのは、あくまで真剣に向き合う人間の力です。この人と犬の相互作用がうまく発揮できてこそ、子どもの人生をも変える力となりうるのだと実感します。それは簡単にできることはありません。お利口な犬がそばにいればいい
、という簡単なものでは決してないのです。いずれのプロセスにおいても徹底して被害者と周囲、被害者に関する情報を守り、そこに何かを妥協することはできません。
関係者やご支援いただける方々にもその難しさ、組織、システムの確立、主旨などをしっかりとお伝えし、ご理解いただき、社会にも発信していかなくてはならないと思っています。

 

そして、大好きな犬という動物が、このような力を持つことは、きっと動物好きのみなさまにとっても、誇らしく思っていただけたかと思います。是非、応援していただければ幸いです。」

 


 

JAHAさんが30年以上もの間続けられている、人と動物のふれあい活動、CAPP活動にまたひとつ、素晴らしい取り組みが始まりました。

 

CAPP活動はすべてボランティアによって成り立っています。活動を継続する上では、犬の適切な健康管理と衛生管理、トレーニングとそれらの評価がなされていることが必須条件となります。JAHAさんへのご寄付はこうしたCAPP活動に参加する犬たちの健康管理のために使っていただいています。引き続きご支援の程よろしくお願いいたします!

 

□■セミナーのご案内■□

『傷ついた子どもの心に寄り添う<付添犬>』

講師:飛田桂先生(ベイアベニュー法律事務所)・田野裕子氏(CAPP認定パートナーズ)

視聴可能期間:11月3日~11月末まで

⇒お申込みはこちらから(JAHA HP)

 

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