行政施設レポート

北海道旭川市動物愛護センター(あにまある) 見学 レポート

アニマル・ドネーションでは、動物のためにがんばる行政施設への取材を行っています。

 

行政の施設というのは、いわゆる「保健所」や「動物愛護センター」と呼ばれている施設です。
都道府県や市町村の予算によって運営管理されています。

 

少し前までは、動物を引き取り処分する場であった行政の施設が、
ここ数年の間に徐々に「新しい飼い主を探す場」に変わってきました。

 

今回は、北海道旭川市動物愛護センター「あにまある」を取材してきました。(取材:2019/5)

施設概要

  • 所在地    :旭川市7条通10丁目(市庁舎の一角にあります)
  • 開設     :平成24年9月
  • 敷地面積   :793㎡
  • 施設概要   :鉄筋コンクリート造 地上2階 地下1階、多目的ホール、ボランティア室、犬・猫保護室、犬・猫検疫室、その他動物保護室、洗浄室、治療・傷病室、レントゲン室、処置室、犬運動場(屋外) 等
  • 職員配置   :正職員7名(獣医師3名)、再任用職員2名(獣医師1名)、嘱託職員3名、臨時職員4名(繁忙期2名増)
  • 収容可能頭数 :犬28頭、猫42頭
  • 年間維持費  :約2千6百万円

 

お話しを伺ったのは、昭和57年入庁された深浦さん。
「動物愛護」という概念すらなかった時代から今日に至るまで、センターの変遷を見てきたからこそ分かるお話しを聞くことができました。

 

昭和53年入庁のベテラン職員深浦さん

「山奥の小屋」から「街の中心の施設」へ

―現在の「あにまある」設立に至るまでを教えてください。

 

「前身は『嵐山犬抑留所』狂犬病予防法に基づいて作られた施設です。
人目を避けるように分かりにくい山奥にありました。

 

収容室は1室のみで12㎡と非常に狭く、まさに『殺すため』の施設でした。

嵐山犬抑留所(引用元:こうほう旭川市民 平成22年12月号)


こちらが現在の旭川市動物愛護センター『あにまある』です。

平成15年動物愛護法の制定を機に、動物愛護センターの構想が起こりました。

『命の大切さを伝える施設』『動物にやさしい施設』『人と動物の正しい関わり方を学べる施設』をコンセプトとして計画は進み、市長の後押しもあり、議会はほぼ全会一致で可決。平成24年9月に完成しました。」

 

「命の大切さを伝える」施設づくり

ーそれでは、施設の特徴について教えてください。

 

施設に入って最初に目に飛び込んできたのは、思わず笑顔になるようなポスターや写真たち。

 

『あにまあるで新しい飼い主さんがみつかりました!』
『どうしてワンチャンにはハウスが必要なの?』
『増やさないのも愛情です』

 

すべてボランティアさんが作ってくださっています。

 


 

最初に案内して頂いたのは犬と猫の保護室。ケージで個体管理されています。
複数の職員さん、ボランティアさんがお世話をしているため、引き取り日や理由、性格などが記載された情報カードが各ケージに掲示されていました。

ステンレス製のケージが並ぶ保護室は、沢山の空室があるものの、大の動物好きである取材者にとっては胸が苦しくなる場所でした。
しかし、保護犬猫のこうした様子を一般の方に見てもらうのも大切な役割のひとつであるように感じました。

 

近年は、飼い主の死亡や入院するための引き取りが非常に増えているとのことです。

 


洗浄室、屋外運動場、支援品の保管室の様子です。
犬たちは毎日職員さんと散歩する時間が設けられており、必要に応じてシャンプーもしてもらいます。

 

保護された動物たちの食料は市民の方からの寄付品でほとんど賄えているとのこと。


 

大きな多目的ルームもあります。こちらでは啓発セミナーであったり、譲渡希望者との面談などを行っています。
犬や猫に関する本も沢山置いてあり、誰でも自由に来て読むことが出来るので、子どもたちにも人気の場所。
街の中心に位置するセンターの強みを活かしています。

 

 

市民に身近に感じてもらえることを大切に。

    ー頑張っている取り組みについて教えてください。

     

    「行政施設は一般的には土日は閉館していますが、あにまあるでは少しでも新しい飼い主さんとの出会いの場を提供するために、休日も月に二回日を設けています。
    年4回開催している『犬のしつけ・飼い方教室』は、広報に載せるとすぐに予約が埋まるほど関心が高くなっているんです。

     

    施設の入り口には『いま、センターにいる犬猫』というカウンターを設置しました。

    センターの中に入らなくても、少しでも身近に感じてもらうことが出来ているのではないかと感じています。

     

    また、旭川市では野良猫の繁殖を防ぐため、行政主導のTNR(※)『飼い主のいない猫の不妊措置事業』を平成25年から行っています。

    飼い主のいない猫の不妊手術への助成金を出している自治体は全国に沢山あるのですが、旭川市では申請を受けたら職員自らその場所に出向いて、捕獲器を設置して飼い主のいない猫を保護し、あにまあるで不妊手術を行い、その後元居た場所に再び戻すところまで行います。」

     

    ※TNRとは…飼い主いのいない猫を対象に「T…Trap(捕獲し)」「N…Neuter(不妊手術を行い)」「R…Return(元の場所に戻す)」こと。
    飼い主のいない猫の繁殖を防止し、その地域の猫として一代限りで命を全うさせ、苦情や殺処分の減少を図る方法を言います。
    尚、不妊手術済みの証として耳をV字にカットします。

     

    センター前の掲示板

    無責任な飼い主からの持ち込みが未だにある現状

    ー今後の課題について教えてください。

     

    「昔と比べると本当に動物愛護の機運が高まっていることを感じます。

     

    幸い、あにまある開設後の平成25年度から犬の処分数はゼロを続けられています。
    現在は収容頭数に余裕があるため収容期限を設けていないことが大きな要因かと思います。

    それでも、無責任な飼い主からの持ち込みや野良猫の収容は未だにあるのが現状です。

     

    譲渡推進はボランティアの協力も大きく大変有難い存在です。
    特に数時間おきの授乳が必要となる離乳前の子猫が収容された場合は、子猫を育ててくれるミルクボランティアさんのサポートが不可欠です。

     

    現旭川市市長(西川市長)が昨年(平成30年)の市長選の公約で『動物愛護基金』と『動物愛護条例』の制定を掲げました。
    今後は職員としてこれらの制定に向けて動き、『市民が動物とともに生きる心豊かな社会』の実現を目指していきたいと思います。

     

     


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    「あにまある」は、動物愛護センターにしては珍しく、主要駅から徒歩圏内、市庁舎の一角という素晴らしい立地にあります。(愛護センターはアクセスが不便な場所に建設されているところが多いのです。)

    他にも建設候補地はあったそうですが、近隣の住宅への配慮や条件などを考慮した際、市庁舎街に建てることが一番合理的だったそうです。

    施設は小さいながらも、街の中心にある強みが上手く活きているように感じました。

     

    助成金ではなく、行政は自らTNRを行っていることも驚きでした。忙しい業務の中で町内会との調整など大変な手間もあるようですが、行政がやるからこそスムーズに進むこともあるのかもしれません。

     

    こうした「イイところ」を全国の自治体の中で共有し合って、日本全体の動物福祉が底上げされることを願っています。
    お忙しい中、取材に応じていただきありがとうございました。

     

     

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