海外情報レポート

急成長中のインドで見た「たくましく生きる動物たち」

動物福祉に関して、これまでドイツやスイスといった日本よりもずっと進んだ取り組みをしている国を紹介してきました。今回は、「インド」です。ドイツ、スイスとはまた違った発見のあるお話を聞くことができました。

 

 インドは、人口が13億人超と世界で2番目に多く、2017年には名目GDPが世界第7位になるなど、急成長を遂げる新興国のひとつ。多様な民族、言語、宗教によって構成されており、貧困や汚職、栄養不足、不十分な医療といった問題にも未だ直面している国です。

 

そんなインドへ仕事のために移住し、実際に暮らした南さんにお話を聞きました。

Profile

 

 南 浩市
様々な経験をした大学5年間の後に、インドに就職。 現在は、日本に帰国し、インドで実際に見聞きした動物に関する情報をアニドネに共有し、サポートしている。

🐾経歴🐾
昔から動物好きで、幼い頃から犬を飼っていた。大学時代には、当時気になっていたオーストラリアの動物保護の実態を見るために、ナショナルサンクチュアリ(動物園と保護施設をミックスした場所)にインターンシップ生として勤務。 その後、縁があった最初の就職先でインドに滞在することになる。様々な動物が野生で自由に生きている環境や、日本とかけ離れたペット事情であることに大きな驚きを感じた。思わずその感想をまとめて記事にした結果、アニドネに情報共有という形でサポートすることが決定し、今に至る。

いたるところに野良犬のいるインド

ーインドでの犬はどういった扱いでしょうか?

 

「ご存知の通り、インドでは牛を大事にする国です。街中には自由に闊歩する牛がたくさんいますが、それ以上に野良犬がたくさんいます。街中の日当たりの良いところでは気の合う数匹が寝ています。もちろんリードはつけてないので、ほとんどが野良犬なのでしょう。

僕が住んでいたインドのハイデラバードという都市にも、いたるところに犬がいました。日本のように行政が飼育頭数を公開していないか調べたことはあるのですが、見当たりませんでした。管理が日本ほど進んでいないのと、野良犬をペットとして勝手に飼っている家庭や、逆に家庭内で飼っているペットが半野良犬として現在は生きている場合も非常に多く、混同しているため計測が非常に難しいからかもしれません。

ニュース記事によるとハイデラバードだけでも84万頭の犬がいるとの記事がありました。」

出典:https://www.deccanchronicle.com/nation/current-affairs/090917/strays-dog-increasing-in-hyderabad.html?fbclid=IwAR3qcUGCgHBUVu3zAhQgKMSnAuX_AB5d3raJccjiA6vnsI3BcspoPB6J6bE

 

ー狂犬病の発生している国ですね。

 

「はい。現在、狂犬病洗浄地域である日本。未だに野良犬が多いインド。

世界の狂犬病による死亡の約36%は、毎年インドで発生していると言われています。インドへ旅行する際は現地の犬がいくらかわいくても触らないよう注意されますよね。

人数で表すと、世界中で毎年59,000人の狂犬病死亡者がいるなか、インドでは年間約2万人が死亡しています。

そのほとんどは、子供が感染した犬と接触したときです。」

出典:https://www.vaccineconfidence.org/latest-news/india-delhi-reports-rabies-vaccine-shortage?rq=india-delhi-reports

狂犬病…発症すると、致死率ほぼ100%の病気。歴史上、発症後に生き残った人は数人しかいない。

 

ー現地ではどのような対策をしているのでしょうか?

 

「狂犬病を未然に防ぐ為にも、近年では、避妊/去勢に関する取り組みも行われるようになっています。2016年、ハイデラバードでは、犬の避妊/去勢手術に関する訓練実習が政府獣医師向けに実施されたようです。                                     

この訓練に伴い、訓練期間内で2,300頭以上の犬に、滅菌および予防接種が行われたと言われています。

その他にも、手術器具や犬を捕まえるための車両、術後ケアのベストプラクティスに関する知識など、その後の活動に必要なものも獣医師へ提供されました。」

 

「しかし、インドの一部の州では、狂犬病対策として州政府自ら野犬を大量に殺害したり、住民が私的に大量に殺害してきた事実もあります。
人口約350万人のケララ州では、2015年に狂犬病対策として、州政府が公的事業として4万頭を殺処分したと、イギリスのメディアは報じました。民間の犬殺害を含めれば、50万頭が殺害されたとの推計もあります。

 

こういった虐殺に対し、処罰規定がないのが実情です。

刑法では、牛などの特定の動物か人の『財産(つまり、飼育動物・経済的価値がある動物です)』に対する殺害・傷害は最高で懲役5年と罰金の併科で処罰されるとの規定があります。
しかし、野良犬猫など経済的価値がない(と定義されている)場合、『財産』ではないので、刑法上の処罰から除外されるのです。」

ハイデラバードはIT先進都市

出典:David MarkによるPixabayからの画像

 

ーIT都市で働いていたそうですね?

 

「ハイデラバードは、インド南部にあるIT都市です。
インドのIT都市といえば、バンガロールが有名でしょうか?

 

しかし、ここハイデラバードも負けていません。

ハイデラバードに開発拠点を置く企業で有名どころをいくつかご紹介しますね。

 

•Microsoft(CEO:サヤト・ナデラ氏(Satya Nadella))
•Google(CEO:サンダー・ピチャイ氏(Sundar Pichai))
•Oracle
•IBM
•Amazon

 

世界的IT企業が開発拠点をハイデラバードに置いているのがわかりますよね。

しかもMicrosoft、Googleに関してはCEOがインド出身ですよね。

デザインソフトである『Photoshop』や『Illustrator』でお馴染みのAdobeのCEOもシャンタヌ・ナラヤン氏(Shantanu Narayen)というインド人の方です。

 

ご紹介した3人はハイデラバード出身だったり、ハイデラバードにあるインド工科大学(Indian Institute of Technology)出身だったりします。インドには、世界のITを牽引する都市ハイデラバードが存在しているんですよ。」

 

ー食事は口に合いましたか?

 

「文化面でいうと食べ物は『ビリヤニ』という食べ物が有名で、多くの人が好んで食べています。
また、基本的に牛や豚は食べない国なので、鶏ややぎを主に食べており、日本と大きく異なった食文化が形成されています。

僕も現地では食べてましたが美味しかったですよ。」

出典:Seb PowenによるPixabayからの画像

ハイデラバードの自由な動物たち

ー最初は日本との違いにびっくりされたとか?

「都市の風景は動物に溢れており、水牛や牛、ラクダや豚、犬、猫が自由に野生として暮らしています。

 

靴を噛もうとして、怒られたあとの顔。

 

インド人は幼少期から、一種の体験としてラクダに乗っている。

 

この光景には驚く人も多いと思いますが、インドではこれが普通。

野生の動物-特に犬-と共存していかないと生活はできません。

 

ただ、最近では、その動物事情も少しずつ変わってきています。

富裕層では、犬や猫をペットとして大事に育てる家庭もできはじめ、ハイデラバードでは、最近、豪勢なdog parkが建設されました。猫はといえば、あまり見かけませんでした。

 

このように、西欧や日本のペット環境にどんどん近づいて来ている都市の一つとして、徐々にハイデラバードの名前を上げることが出来るようになってきています。」

 

出典:The NEWS Minute
出典:The NEWS Minute

出典:https://www.thenewsminute.com/article/attention-pet-parents-hyderabad-now-home-india-s-first-ever-dog-park-88121?fbclid=IwAR0l78hmS4_tIuXPcGTY8gkbaAh1miDDVbj5xflwRWUurpQU-M1oyx_GQYU

ペット分野の成長を感じさせるハイデラバード

ー日本との違いはどう感じましたか?

「半年間ハイデラバードに住んで、実際、いろんな人の行動を注意深く観察してきましたが、インド人のペットや動物に関する価値観は日本人とえらい違うと感じることが多かったです。

そう感じた理由をいくつかご紹介します。」

基本的に放任主義

「まず、基本インド人は動物に関しては全く無関心に近いと感じました。

街中や道端にいるわんちゃん、猫ちゃんがいても基本は撫でることもなく、普通に動物と人間は別々で精一杯人生を生きている印象を持ちました。

常にワンちゃん、ネコちゃんはお腹をすかせ、出店の近くでご飯を待っているイメージで、その日暮らしを続けている完全に野生の動物です。

だから、日本のワンちゃんや猫ちゃんとは全く別物と思ってもらっていいと思う。

それくらい野生なんです。」

ゆえに強靭な精神力と素晴らしい危険察知能力がある

「どんな病気を持っているのかわからないので容易に触ることはお勧めしません。

そんな状況なので、基本的に日常において犬や猫と、人間は別々に生きています。

ただ、ここからがインドの面白いところでイレギュラーが存在することがある。

例えば、住んでいる家に勝手に番犬として生活し始める、とか。

住人は、餌をやることもなく、もちろんリードをつけることもない。にも関わらず、ワンちゃんはある家やアパートを基点に一定範囲を縄張りとして生活し始めるケースが多くありました。つまり、勝手に専属の番犬になっちゃうんです。

自分の縄張りの近くに入ってきたワンちゃん同士はよく追いかけっこをして、縄張り争いをしていました。

対して住民は特に干渉することもなく、安全だと思った犬をたまに撫でたり、食べ物のあまりものが出たらぽいっと道に投げて与える程度。

なかなかインド人も厳しいのですが、たまにデレるのです。」

ペットにすると言う概念がまだあまり浸透していない

「ハイデラバードでは、ペットとしてワンちゃんなどを飼っている家庭ももちろん一定数存在します。

チワワみたいな子やゴールデンレトリバーみたいな子、謎の大型ミックス犬などをリードをつけて街中を歩いている光景も3日に1回くらいの頻度で見ました。

ただ、傾向としてペットを飼っている家庭は富裕層です。
友人10人に聞くと、10人ともが”ちゃんとしたペットを飼っている家庭は富裕層だ”と答えます。

そもそもこれは当たり前で、貧富の激しいインドでは、自分の家庭を支えるために必死で生活している層がまだまだ多い。
そんな生活のなか、ペットを飼い、世話をし、ワンちゃんの食費まで出す家庭がどれだけいるか想像に難くないと思います。

要するに、ペット大国日本の水準に達するにはまだまだ時間がかかりそうです(日本は間違いなく世界有数のペット大国!)。

しかし、ハイデラバードでもペット事情に徐々に変わってきています。」

■インド・ペット市場のこれから

「最近、ペットブームの序章が始まっていると感じたのはYoutubeでのpedigree(ペディグリー)の広告の多さです。

Youtubeを見てるとやたらにpedigree(ペディグリー)の広告動画が流れて、ペットの食事は健康的なものに!というメッセージを絶えず発信し、インド人の一般的なペットに関する感覚をリノベーションしようとしている動きが見えました。

また、街にはペット用品を売っているショップが少しづつですが増えてきており、ペットブームの到来を予感しています。

個人的な仮説としては、経済的余裕が持てるようになったため、徐々に”ペット”と言うものをステイタスのように感じはじめているのが今のハイデラバードのような気がしています。」

 

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今回は、柴犬一筋25年のアニドネスタッフ信岡が編集を務めさせていただきました。

動物福祉を考えるときに、今までドイツやスイスなど先進国の実情ばかりが気になっていました。

 

だから、正直、インドのペット事情を考えたことがありませんでしたが、なんとも衝撃的なお話ばかりで自分の視野の狭さに気づかされました。

文化や経済状況が違えば、こうも違うんですね。

良い悪いだけで判断できる話ではないと思いますが、でも、狂犬病など未然に対策をすれば、人も犬もどちらも不幸にならずに済むのでは…と思わずにはいられませんでした。改善活動の輪が広がり、社会に浸透していくことを願うばかりです。

 

 

 ※掲載の文章・写真は、アニマル・ドネーションが許可を得て掲載しています。無断転載はお控えください。