海外情報レポート

ペット先進国ドイツの犬猫保護事情から学ぶこと

 

日本で動物福祉先進国として名高いドイツ。

その象徴ともいえる動物のための保護施設が「ティアハイム・ベルリン」です。

 

今回ご縁あってティアハイム・ベルリンに2年間勤務していた野原真梨花さんにお話しを聞くことが出来ました。広大な施設を持ち、数多くのセクションに分かれているティアハイム・ベルリン。野原さんの担当は親子猫舎だったそうです。

実際に勤務されていたから分かるティアハイムの色々、動物福祉先進国ドイツでの経験を踏まえて今思うことを取材しました。(2019年4月取材)

 

Profile

 

 野原 真梨花
ドイツ Akademie fur Tiernaturheilkunde校認定
犬猫対象動物自然療法 ティアハイルプラクティカー(動物の自然療法士)
動物看護士(pirica medical group
🐾経歴🐾
子供のころから大の動物好き。ドイツが動物に優しい国と知り興味を持ち大学でドイツ語を専攻、在学中にティアハイムを訪問しいつかここで働くことを決意。
会社を退職し、2015年にワーキングホリデーを利用して夢であったドイツへ。ドイツ国内でも最大規模を誇るティアハイムベルリンのほか、2つの民間の猫の保護団体と併せて3つの団体で計2年間ボランティア&アルバイトスタッフとして勤務。
帰国後、東京世田谷にある東洋医学・ドイツ自然療法・行動診療専門の動物病院ピリカメディカルサロンにて動物自然療法士/動物看護士として勤務したのち退職。

広大な敷地!ドイツ最大の動物保護施設「ティアハイム・ベルリン」

ーティアハイムとはどういう意味ですか?

「ティアハイムとはドイツ語で Tier(動物)Heim(家)、つまり動物の家という意味です。なので犬猫だけでなく、畜産動物や爬虫類、鳥類など様々な動物が暮らしています。」

 

ー施設の大きさはどれくらいでしょうか

「広大な土地を使っており、サッカーコートにして22面分の広さがあります。ですので、猫が暮らす猫舎にしても一般譲渡用、シニア猫用、外猫用、親子猫用などといったように状態に分けられた施設となっているのが特徴です。」

 

犬猫だけでなく様々な保護された動物たちが暮らすティアハイム。その中でもティアハイム・ベルリンは欧州最大の規模です。 その広さなんと東京ドーム3個分とは驚きです!

 

犬舎も一頭一頭の個室になっています。

徹底的な衛生管理。感染症対策はきっちりと!

ーティアハイムではどんなお仕事をしていましたか?

「親子猫舎のお掃除とお世話の担当をしていました。その猫舎には20~30の猫部屋と療養中の子のためのゲージが30個ほどあり、それをフルタイム職員2名、アルバイト1名で見ていました。

給餌、お部屋の掃除、トイレ掃除、健康チェック、おもちゃを作って運動させたり、人慣れのために撫でてあげたりと基本的にやっていることは日本の保護施設と同じかと思います。」

 

ー写真で見ると施設は清潔感がありとてもきれいですが、掃除を徹底されているのですか?

「衛生管理がとても徹底されていました。使用するモップは部屋ごとに分かれてましたし、毎日水拭きと空拭き両方行っていました。トイレ砂も毎日全部取り換えるんです。資金があるから出来ることでもありますが、沢山の動物が暮らす環境なので感染症対策は必須でした。」

 

 

各猫部屋の前にはその部屋専用のお掃除セットが。 部屋に入るときは靴の上から使い捨ての靴袋をかぶせ、手袋も着用が必須。トイレ砂も毎日全取り換えとは恐るべしです。

譲渡率の高さはあまり意識しない?!

ー譲渡率はどれくらいでしょうか?

「あくまでボランティア、アルバイトという立場で正直分からないのですが、日本と比べると譲渡率に関して全体的にあまり意識していなかったように思います。」

 

ー頑張って譲渡しようという感じではないのでしょうか
「飼育担当のセクションとは別に広報などを担当するセクションがあり、譲渡アピールや啓発はもちろん頑張っていましたが、
収容スペースには余裕があるというのと、常に動物の出入りはあるので、譲渡を頑張ろうとか、収容頭数を少なくしようとかいう意識はあまり強くなかった気がします。」

バケーション前に持ち込まれる事が多いという悲しい現実

ー保護された猫はどういう経緯で持ち込まれるのでしょうか

「飼い主からの持ち込みが多かったかと思います。ドイツを初め欧州各国には3週間程度のまとまった休み(Vacation)を取るの文化があるのですが、悲しいことに長期休暇に入る前に持ち込みが多くなります。」

 

ー野良猫の保護などはありましたか?

「都市部には野良猫はほとんどいません。なので野良猫の保護だったり、乳飲み子の収容だったりというのは少なかったですね。」

猫と犬で譲渡の条件が少し違う

ー譲渡条件はどのように決められているのでしょうか

「猫に関してですが、生後8週齢以降というのは絶対でした。これまでの飼育の経験、家の広さや留守番の時間などを考慮していましたが絶対という決まりはなく個体に応じて柔軟に判断していたと思います。」

 

ー当日に譲渡することもありましたか?
「猫に関しては問題がなければ当日譲渡するので、キャリーバックを持参してくる人が多かったです。譲渡後は2~3週間後に電話して様子を確認していました。」

 

ー犬の譲渡も同じ条件ですか?

「犬の当日譲渡はほぼなく、初めて犬を飼う人や、扱いが難しい子を希望した人は何回も通ってもらってお散歩などの練習をしてゆっくり譲渡を進めていた印象です。」

 

特に危険犬種は飼うことが難しいため譲渡希望者は何度も通ってトレーニングを受ける必要があるとのこと。

 

日本とドイツ、動物福祉に対する意識の違い

ーティアハイムの素晴らしい点を教えてください

「ティアハイムが素晴らしいなと思うのは、動物が動物らしく生きられるような工夫がしっかりされていたなということです。

その個体ごとのストレスを考えて、ずっとお外で生活してきて人間が嫌いな子用の外猫舎があったりとか、一般公開しない部屋があったりとか。私が勤務していた親子猫舎も一般公開はしていない部屋でした。」

 

ずっとお外で生活してきたため室内や人間とのふれあいがストレスになってしまう猫用の外猫舎。遊具も充実していますね。

 

ー日本は動物先進国と言われるドイツを見習うべきと感じましたか?

「私はドイツが大好きで、また戻りたいと思っているくらいですが、日本がドイツを真似しよう、真似しなきゃというのは違う気がします。動物福祉先進国と言われていますが、実際に驚くべき理由でティアハイムに動物を捨てに来る人もいます。」

 

ードイツが動物福祉先進国と言われるのはなぜでしょう

「一方で、社会全体として動物に寛容だなあと思うことが多々ありました。例えば街中はリードを付けて散歩することが州によっては条例で定められているのですが、実際はノーリードで散歩させてしまっている人も多いです。でもそれはちゃんと呼び戻しが出来るようにしつけされているということでもあります。

そして犬を飼っていない人も犬の扱い方が分かっているのです。街中でノーリードの犬と出会ったときに犬のシグナルが分からないと危険なので小学校の生物の授業では犬のシグナルを勉強しています。」

 

ードイツの人達の動物に対する意識が高いということでしょうか

「一つの例ですが、公園として使われていた空港跡地があり、その一部はドッグランとしても使われている場所がありました。そこに商業施設を建てるという開発計画があったのですが、その開発自体が世論の反対で中止されて、ドッグランもそのまま開放されるということもありました。経済が第一の日本ならまずあり得ないと感じました。」
 

ー日本の動物福祉に期待することは?
「動物が好きな人だけでなく、そうでない人も動物に対して寛容な社会になって欲しいと思っています。」

 


こちらの飼主さんはリードを付けていますが、街中にはノーリードで散歩している人も多い。それでもトラブルにならないのは、犬のしつけはもちろんのこと、犬を飼っていない人でも犬のことをきちんと理解しているから。

 

 

商業施設が建設予定だった空港跡地。市民からの反対でそのまま開放されることになりドッグランとしても自由に使われているとのこと。

動物の社会的地位を上げるために

ーティアハイムでの経験を経て、野原さんの目指すところを教えてください

「日本の動物の置かれている環境を良くしたい、それがずっとの目標です。まだ模索中ですが、まずは動物自然療法、動物看護士として飼い主さんの知識をあげることに力を入れたいです。

『人はヒト、犬はイヌ、猫はネコ』というように、自分が飼っているパートナーとちゃんと向き合って欲しい。ちゃんと習性を理解してミスマッチを減らせばヒトも動物も幸せになれると思っています。

そうした良い関係のヒトとペットが増えていくことで、ゆくゆくは社会全体が良くなればいいなと思っています。

動物にとっても人にとっても幸せな社会を目指して出来ることから頑張ります。」

 

 

==============================================

 

 

今回のインタビューアーは猫を愛してやまないアニドネスタッフ岡部がやらせていただきました。
世界一とも言われているティアハイムの猫舎で勤務されていた野原さんのお話しを聞くことが出来て、猫ラバー魂に火がついてしまい気が付けば3時間?(笑)これまで知らなかったティアハイムのこと、ドイツのことを知ることが出来てとても勉強になりました。本当にありがとうございました!

 

 

 

 

※掲載の文章・写真はアニマル・ドネーションが許可を得て掲載しております。無断転載はお控えください。