海外情報レポート

動物保護機関SPCAの役割とカナダにおける「ペットとの最期」とは? カナダの動物福祉事情<海外情報レポート・カナダ編②>

 

 

 

日本の動物福祉を考える上で、世界各国の動向や考え方を知ることは大きなヒントになると私たちは考えています。

海外のリアルな動物福祉事情をリサーチ情報と共にお伝えしているアニドネの海外情報レポート企画。

 

国際的な大都市もありつつも雄大な大自然を有するカナダの動物福祉事情をお送りいたします。

今回は、前回に引き続きカナダ・バンクーバー在住で保護施設からダルメシアンミックスの男の子をお迎えしたKさんにお話を伺い、カナダ最大の動物保護非営利団体SPCAについて深掘りしていきます。

 

前半の記事はこちら→「ペットを飼うなら保護施設から」が一般的。カナダの動物福祉事情<海外情報レポート・カナダ編①>

Profile

🐾Kさん🐾
結婚を機にカナダ・バンクーバーに移る。2人の娘さんが大きくなったこともあり、大型犬を飼うことを決意。2006年に動物保護非営利団体・SPCAにいたダルメシアンミックスのオレオ君をお迎えした。

カナダ最大の動物保護非営利団体SPCAとは?

―Kさんがダルメシアンミックスのオレオ君をお迎えした保護施設、SPCAについて詳しく教えてください。

 

「SPCAThe B.C. Society for the Prevention of Cruelty to Animalsはアメリカ発祥の非営利団体で、カナダにも数多く支局があります。行政とのつながりも太く、動物保護法の改訂にも携わっている大変影響力のある機関です。バンクーバーのあるブリティッシュコロンビア(BC)州だけでも44の支局があります」

 

―そんなにたくさんあるのですね。つまりSPCAは、飼えなくなった動物を保護して譲渡する施設、という理解で合っていますか?

 

「はい。犬だけではなく猫や自然動物の保護と譲渡も行っています。どこに素敵な出会いがあるかわからないので、里親が見つかるまでSPCAの支局内で動物を巡回させるということも行っています。

 

あと、SPCAは動物のことで困ったときの駆け込み寺のような存在でもあります。飼えなくなったときの相談だけではなく、『隣の家で虐待の疑惑があるので調べてほしい』という通報にも応じ、警察が立ち入り調査ができる権利も持っています」

 

―日本ではペットを飼えなくなった時の相談機関がないために、保健所で殺処分という結果になってしまいがちなのですが、カナダにはSPCAが相談の役割を担っていて心強いですね。しかし、活動資金はどのようにやりくりしているのでしょうか?

 

「国からの補助もありますが、ほどんどドネーション(寄付)で成り立っていると聞きます。州によって金額は異なりますが、譲渡の際にも金銭が発生し、それが活動資金になっています。たとえばBC州だと現在は成犬の譲渡でだいたい5万円以上かかります。

 

あと興味深いのが、夏休み期間中に有料のキッズキャンプを実施しているということです。子どもに向けて、動物の命の重みについてや動物の飼い方について教えるというとても意義のあるプログラムです。金額は高いのですが、それが活動資金になるのでとてもよいことだと思いました」

 

―まさに三方良しですね。ちなみにSPCAはアニマルポリスの役割も担っているとのことですが、日本で問題になっている多頭飼育崩壊のようなことはカナダでもあるのでしょうか?

 

「ニュースなどでは見たことはありません。私の周辺でも聞いたことはないですね。虐待の疑いがあったら通報できるということはつまり、周囲の人がちゃんとした飼い方をしているか見ているということです。そのため、多頭飼育崩壊になる前に誰かが通報すると思うので、未然に防げているのではないでしょうか。ちなみに私は30年以上バンクーバーに住んでいますが、野良猫や野良犬は1匹も見たことがないんですよ」

 

―なるほど。SPCAは動物愛護に関心のある飼い主だけではなく、一般市民にもよく知られた存在なのですね。ペットを飼っている人も飼っていない人も、動物に関することであればSPCAがセーフティーネットになっているということでしょうか。

 

「そうなのです。あと、たとえばカナダでもペットをブリーダーから買うという選択肢はありますが、飼育環境が悪いブリーダーだとわかればSPCAに通報がいくので、悪徳ブリーダーを阻止する抑止力にもなっています」

 

オレオ君との散歩コース。秋には鮭が登ってくるそう

 

動物の尊厳を守るための安楽死

―ちなみに、カナダには殺処分は存在するのですか?

 

「まったくないと言うと嘘になります。実は殺処分はSPCA内でも行われています。ただしそれは病気や怪我で治る見込みがない動物を苦しみから解放するという意味合いで、数が増えすぎて管理できないからという理由ではありません。SPCAは基本的にNo,Killをモットーにしていますし、やむを得ず殺処分した場合でもその数もきちんと公表しています」

 

―殺処分はどのような方法が採られているのでしょうか?

 

「カナダでは安楽死です。殺処分にかぎらず、カナダでペットを飼う人にとって安楽死は避けて通れません」

 

―それはどういう意味でしょうか?

 

「たとえばペットが高齢になって自分でご飯を食べられなくなったり、立ち上がれなくなったりしたら、日本では延命治療をしたり家族で最期を見守ったりしますよね。カナダではそういったことをせず、ペットとのお別れといえば獣医さんに安楽死の処置をしてもらうのが一般的なのです。そういった感覚は日本に住んでいると驚くかもしれませんが、カナダでは回復する見込みがないのに薬などで生かすのは動物の尊厳を尊重していない、という価値観なのです。考え方としては『苦しいのになぜ生き延ばせるのか?』ということで、動物のQuality Of Lifeが見いだせなくなったら安楽死を検討して最期を決める、といったらわかりやすいでしょうか」

 

―たしかに、ペットの最期を獣医師の手で安楽死させるのが普通、というのはちょっと驚きです。安楽死させたあとはどうなるのでしょうか?

 

「獣医さんにペットを預けたあと指定の日に迎えに行くと、遺灰の入った容れ物の状態で戻ってきます。獣医さんと焼き場が提携しているのです。これが、カナダでの一般的なペットとのお別れです。うちのオレオももう18歳。2ヵ月ほど前から食べ物らしい食べ物を口にしておらず、水しか飲めない状態になっています。なのでもうそろそろ、獣医さんに相談しに行かなければならないときが来ているな、と感じています」

 

18歳のオレオ君。

 

―獣医師に引き渡したあと死の瞬間には立ち会えないのは複雑な気がしてしまいますが、ある意味とても合理的ですね。

 

「そうですね。もちろん合理的といっても愛情が薄いというわけではなく、これが西洋の価値観なのだと思います。でも私は”動物のQuality Of Life”という言葉は大好きですよ」

 

―最後に、Kさんがカナダの動物福祉について思うことはほかに何かありますか? たとえば食品などについてはいかがですか?

 

「日本もそうかもしれませんが、動物福祉を尊重して作られている食品はお値段も高いのでカナダでもまだそこまで一般的ではありません。でも、卵に関しては今では放し飼いの鶏のものが一般的になりつつあります。世界的な風潮として、今後こうした動物福祉の意識は高まってくると思います」

 

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二部構成でお送りした海外情報レポート・カナダ編。

 

「人にも動物にも優しく」がモットーのアニドネリサーチャー富永が担当しました。

 

第二部で紹介したSPCAのような機関は日本にもあればいいな、などと思いながらお話を伺っていました。カナダにおけるペットとの最期については、驚きつつも動物が苦しまないという意味でいろいろと考えさせられます。

 

実はこの取材の数日後、Kさんの愛犬のオレオ君は19歳を目前にして天国に旅立たれました。衰弱が激しかったため、これ以上苦しませたくないとの思いから、獣医師と日程を決めて安らかに眠ったそうです。Kさんが取材でおっしゃっていた「動物の尊厳」と「quality of life」という考え方は、今後日本の動物福祉について考えていく中でも重要なキーワードになるかもしれません。

 

木箱に入ったオレオ君の遺灰。Kさん曰く「胸に抱いた時、思いのほかずっしりと重かったです」。

 

 

取材にご協力いただいたKさん、カナダの動物福祉事情についていろいろと教えていただきありがとうございました。