海外情報レポート

「ペットを飼うなら保護施設から」が一般的。カナダの動物福祉事情<海外情報レポート・カナダ編①>

バンクーバーのあるカナダ・ブリティッシュコロンビア州。都会から少し離れると自然豊かな風景が広がっている。

 

 

日本の動物福祉を考える上で、世界各国の動向や考え方を知ることは大きなヒントになると私たちは考えています。

海外のリアルな動物福祉事情をリサーチ情報と共にお伝えしているアニドネの海外情報レポート企画。

 

今回は雄大な大自然に囲まれ野生動物も多いカナダの事例をご紹介します。

インタビューをしたのは、カナダ・バンクーバー在住歴30年のKさん。Kさんは2006年にカナダ最大の動物保護非営利団体・SPCAにいたダルメシアンミックスのオレオ君の里親になり、約15年間ずっと一緒に暮らしてきました。

 

オレオ君に出会った経緯や共に暮らした日々のこと、そしてカナダならではの動物福祉の考え方やシステムなどについて、2回にわたってお送りします。

Profile

 

🐾Kさん🐾

結婚を機にカナダ・バンクーバーに移る。2人の娘さんが大きくなったこともあり、大型犬を飼うことを決意。2006年に動物保護非営利団体・SPCAにいたダルメシアンミックスのオレオ君をお迎えした。

 

~message~
カナダの動物福祉事情は、考え方が日本とはまったく異なるため驚くかもしれませんが、日本の動物福祉を考えるきっかけになればうれしいです。

 

保護犬オレオとの奇跡的な出会い

―Kさんがオレオ君をお迎えした経緯について教えてください。

 

「次女が高校生になって子育てがひと段落ついたため、大型犬を飼いたいと思うようになりました。カナダでは動物を飼う際、保護施設から迎え入れるのが一般的なので、私もいくつかの施設を回って探すことにしたのです」

 

―カナダにもペットショップはあるのでしょうか?

 

「カナダのペットショップはペットグッズやフードなどを販売するだけのお店です。日本のように動物の生体販売を行っているお店は見たことがありません。ブリーダーから希望の犬種の犬を購入するという選択肢はありますが、その際にもブリーダーが飼い主の審査をすることもあるので、日本のようにお金を出せば誰でも買えるというものでもないのです」

 

―そうなのですね。Kさんがオレオ君に出会ったのも保護施設だったのだとか。

 

「はい。オレオと最初に出会ったのは、カナダ最大の動物保護非営利団体SPCAThe B.C. Society for the Prevention of Cruelty to Animals)でした。オレオは暴れん坊の寂しがり屋で分離不安の傾向があり、気に入らないと甘噛みをするという難しい性格。それでもオレオに惹かれたのですが、私は今まで犬を一度も飼った経験がないので、SPCAのスタッフから『この子はあなたのような初心者には無理。こっちの犬をお勧めします』と別の犬を紹介されてしまいました。もし他に探していい犬がいなければ、紹介された犬をお迎えしようとも考えたのですが、なぜだか踏み切れず……。その日はとりあえず家に帰ることにしました。

 

しかし後日、たまたま娘と立ち寄ったペットショップでオレオと奇跡的な再会をしたのです。先ほどお話したように、カナダのペットショップは生体販売は行っていないのですが、そのお店はSPCAの保護動物を1週間交代で展示していて、里親募集をしているシステムになっていました。そこにたまたまいたのが、なんとオレオだったのです」

 

―まさに偶然、いや運命の再会だったのですね。

 

「そうなのです! 『なんでここにいるの?!』と運命を感じてしまいました。お店のスタッフに頼んでオレオをケージから出してもらったら、扉を開けた瞬間に飛び出してきました。結局2時間も一緒に遊んでしまいました」

 

―その時のオレオ君はどのような様子でしたか?

 

「当時のオレオはまだ4歳で、とにかく元気いっぱいでした。あまりにもわんぱくなので、以前SPCAのスタッフが『あなたには無理』と言ったのがわかる気がしました。でも私は不思議と怖いとは思わず、むしろ面白いと感じました。オレオに実際に触れて遊んだことで里親になりたいという気持ちがより一層強くなりましたが、いったん帰宅してクールダウンして考えることにしました。

 

ところが車に戻ったとき、娘が『お母さん、飼おうよ』と言い出したのです。実は私もそう思っていたところでした。あんなパワフルな子、他の人でも無理かもしれない。そう思って私は答えました。『そうだね、連れて帰ろうか』」。

 

自然豊かなお散歩コース。なんと、元気すぎるオレオ君は、木の橋から落っこちたことがあるそう!

“アダプション”という言葉からわかる、命を預かる重みについて

―日本では保護施設から譲渡するには審査などがありすぐに連れて帰れませんが、Kさんはオレオ君をその日すぐに連れて帰れたのですか?

 

「はい。いくつかの簡単な質問に答える形の申請書に記入してその場で審査が通ったので、そのまま連れて帰れました。ただ、最近のSPCAの申請書を見たら、以前は少なかった質問事項が59個に増えていて、審査もとても厳しくなっているようでした。質問の内容も、『家の中に18歳以上の子どもが何人いるか』とか『あなたの性格はどんなですか』『家族の生活のルーティンはどんな感じですか』など、結構踏み込んだものでした。もしかすると、これまでの簡単な審査では『やっぱり飼えなくなった』と再び保護施設に戻す飼い主が少なくなかったのかもしれません。審査も時勢に合わせてアップデートされているのだと思います

 

―家に着いたオレオ君は、どのような反応をしていましたか?

 

「とにかく家の中のものに興味津々でしたが、無駄吠えもしなかったですし、物を壊したりすることもありませんでした。とても頭がいい子なのだなと一瞬でわかりました。

 

その日からオレオとの生活がスタートしました。私が心配だったのは、お散歩中に近寄ってくる他の犬に対してオレオが激しく威嚇してしまうところでした。そんなとき私もどうしてよいかわからず、とりあえず阻止しようとリードを引っ張るのですが、なんと私の脚にガブリと噛みつく始末。ものすごく痛いし、何度も血だらけになったものです。ドッグトレーナーさんには『この子は頭がいいから自分から攻撃はしないけれど、売られた喧嘩は買ってしまう。それをいかに買わないようにするかは飼い主のテクニックだから』と言われてとても困りました」

 

―それは大変でしたね。正直なところ、血だらけになるほど苦労して『やっぱり無理、手放そう』と思ったことはありましたか?

 

「それはありません! オレオがどんなに予測不可能な動きをしても、飼ったことを後悔したことは一度もありませんでした。せっかく私がほれ込んだ犬で、信頼関係が出来てきたのですから。

 

そもそも保護犬や保護猫を迎え入れることを指す英語の“アダプション”という言葉には、養子にもらうという意味があります。つまり子供をもらうということです。たとえば自分の子どもが言うことを聞かないからといって、手放すなんてことしないですよね? 日本に限らずカナダにも飼育放棄はたくさんあって、その結果SPCAなどに連れてこられる動物がいるということなのですが、命を預かっているということの重みを考えると、動物を気軽に手放すということは私にはとても考えられないことだとあらためて思いました。

 

元気いっぱいの、若かりし頃のオレオ君。

 

 

ちなみに後から気づいたことなのですが、オレオには犬歯がありませんでした。オレオがなぜ前の飼い主に放棄されてしまったのかはわかりませんが、もしかすると誰かを思いっきり噛んだために犬歯を抜かれ、それでも噛み癖が治らず手放されてしまったのかなと思ったり……。私が噛まれても致命的な傷にはならなかったのは犬歯がなかったからともいえますが、その背景を考えるととても複雑です。

 

とにかくどんなにオレオとのコミュニケーションが大変でも、私は絶対にあきらめない。その気持ちをオレオに伝えながら、ずっと信頼関係を築いてきました」

 

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二部構成でお届けする、海外情報レポート・カナダ編。

「人にも動物にも優しく」がモットーのアニドネリサーチャー富永が担当しました。

 

今回の第1部はKさんと保護犬オレオ君との出会いを通してカナダの動物福祉事情を紹介しました。

カナダではペットを飼うとき保護施設からお迎えするのが一般的だということ、生体販売は行われていないこと、ペットショップで保護動物の譲渡会が行われていること(最近日本でも増えていますね)、など意外と知らないことがたくさんありました。

 

次回はカナダ最大の動物保護非営利団体SPCAについて、そしてペットとの最期の時間について深掘りいたします。

 

※掲載の文章・写真は、アニマル・ドネーションが許可を得て掲載しています。無断転載はお控えください。