海外情報レポート

世論に働きかける、150年の歴史を持つ動物福祉組織<海外情報レポート・オランダ編①>

 

日本の動物福祉を考える上で、世界各国の動向や考え方を知ることは大きなヒントになると私たちは考えています。

海外のリアルな動物福祉事情をリサーチ情報と共にお伝えしているアニドネの海外情報レポート企画。

 

今回は、うさぎのキャラクター「ミッフィー」の生まれ故郷でもあるオランダです。

 

数ある指標において先進的な数値を出しており、「報道の自由」、「経済的自由(注1)」、「クオリティ・オブ・ライフ(注2)」などにおいて、世界でも最上位国のひとつ。2019年には、世界幸福度報告(注3)で世界第5位、一人あたりのGDPで世界第7位を記録しています。

 

今回、取材をご快諾くださったのは、Hiroさん。オランダ在住の日本人で、動物好きな方。

アニドネスタッフとお仕事でご一緒したことがあり、そのご縁で記事執筆にご協力いただくことができました。

 

取材をさせていただいたのは、オランダの「ソフィア・ソサイエティ」という団体です。

動物を保護するシェルターの運営ではなく、政府に働きかけたり、民間に教育や情報提供をしたりすることで世論を動かし、動物保護に貢献されています。

 

(注1):基本的人権における自由権の一つ。自立した個人であるためには、経済的な活動基盤を獲得することが前提であるとし、それに対する国家や権力からの干渉を制約する目的がある

(注2):ある人が「どれだけ人生に幸福を見出しているか」を尺度としてとらえる概念。生きがい、身心の健康、良好な人間関係、やりがいのある仕事、快適な住環境、十分な教育、レジャーなど様々な観点から計られる。収入や財産を基に考える「生活水準」とは分けて考えられるもの

(注3):国際連合が発行する幸福度調査のレポート。この調査における幸福度とは、自分の幸福度を0から10で答えてもらう主観的な値の平均値

Profile

🐾 Hiroさん(左)🐾

日本に生まれ、現在オランダに在住。 一人旅で知ったヨーロッパの魅力にとりつかれ、現在はオランダからリモートでマーケティングの仕事をしています。日本の食材やビンテージの輸出入、トラベルブログの仕事もしています。 

~message~
実家では犬と猫を飼い、ペットはもちろん犬猫以外の動物達も人間も、命の大切さには変わりないことを実感しました。ヨーロッパは日本よりも進んでいるとはいえ、動物に関する問題がない訳ではありません。ヨーロッパの現状を現場からレポートしながら、日本だけではなく動物達にとって住みやすい世界がなるべく早くくるように、リサーチやインタビューなど私に出来ることを今後も続けたいと思います。

🐾 ステフィさん(右)🐾

取材を申し込んだところ、快くインタビューに応じてくださった「ソフィア・ソサイエティ(正式名称:Royal Sophia Society for the protection of Animals)」のマネージング・ディレクター、ステフィ・ヴァン・ホルクさん。

ソフィア・ソサイエティとは

ソフィア・ソサイエティは、1867年にウィリアム3世の妻・ソフィア女王によって設立された、オランダで最も古い動物関連団体のひとつです。150年以上の歴史があり、その間、犬や猫・うさぎ・鳥・馬・魚など、さまざまな動物が人と共存できるよう、キャンペーンや啓蒙・署名活動を行ってきました。

これらの活動は、動物たちが大切に扱われるよう、また飼い主がペットの本来兼ね備えている『動物としての欲求』や『社会の一員となりたい欲求』を認識できるようにするためです。さらに、オランダでの動物に関するより良い法律の制定に向け取り組んできました。

だからこそ、オランダの動物福祉において課題を解決できる強力な組織として、オランダのペットにとって重要な存在となっています。

 

ソフィア女王。ヨーロッパ中の政治家、作家、学者と連絡を取り合い、知的で芸術的な女性として知られていました

 

1800年代半ば、ソフィア・ソサイエティは、一部の取引業者の間で増加していたドラフト犬(引綱を引く犬)の使用を禁止する草案を提出。アムステルダム市議会にて可決されました

 

1898年~、アムステルダムに15個の動物用飲料水ボウルを設置。高さは、低いものから犬用、馬用、鳥用と3パターンがありました

 

 

 

1922年、ドラフト馬(引綱を引く馬)が活用されることはほとんどなくなりましたが、それでも数少ない活躍している馬のため、学校・図書館・警察署に貼られたポスター。周囲を吸収するのを妨げる尾と目隠しのドッキングは、協会の主要な焦点でした

 

現代でいう『マイクロチップ』の前身である『犬用バッジ』の配布を1950年に開始。バッジが提供されたすべての犬がアムステルダムのオフィスで登録され、行方不明になった場合に飼い主を追跡するのが簡単になりました

これまでの活動

Hiroさん:活動として、キャンペーンを実施したり、動物愛護に関する署名を集めたりされていますね。

最近の実績のひとつには、ロビー活動での取り組みが『ブリーダーが犬・猫を処分(殺害)することを禁止』する法改正にまでつながったことが挙げられます。このほかに、実際に法改正へつながったような事例はありますか?

 

ステフィさん:「例えば、私たちは2009年に、容姿や遺伝的欠陥に苦しむ動物を繁殖させないためのキャンペーンを開始しました。2014年からは、容姿に問題のある動物を繁殖させることが禁止されました。この規制の監督と執行は非常に難しいため、政府は現在、より具体的なルールを作っています。

また、『動物をペットショップのショーウィンドウで販売することを禁止』する署名を行政に提出し、実際、禁止になった事例などがあります。現在私たちは、お店やウェブサイトでの動物の一切の販売が禁止となるよう、取り組んでいます。

 

参照:Nederlandse voedsel-en Warenautoriteit https://www.nvwa.nl/onderwerpen/honden-en-katten/welzijnseisen-honden-en-katten?fbclid=IwAR20ixBPPFaE89ek9L9YGiKavFr8Fi92FtG1oysEq1xmImFnhPPOcXAZL0A

 

事例①:デザイン犬の生産禁止について

Hiroさん:まず、デザイン犬についての取組みを詳しく教えてください。

 

ステフィさん:「デザイン犬とは、健やかな健康を無視して、見た目を人の好みのためにデザインされた犬のことです。

これは、犬にとっては弊害になることが多く、例えば、平たい鼻を持つようデザインされた犬は息がしにくかったり、肌にしわが多くなるようデザインされた犬は肌にトラブルをかかえやすいです。また、顔の骨格が小さくて丸くデザインされた犬は慢性的に頭痛やてんかんを引き起こすと言われています。

2009年から、ペットが見た目のために苦しむデザイン犬の繁殖の禁止に向けてキャンペーンを始めました。

 

犬は本来の行動をそぐような肉体的な特徴、そして不快な感覚や痛みを起こすような外見にされるべきではありません。具体的には、しわ、長い毛、平な鼻、通常より短い足、通常より長い背中、小さな骸骨などを指します。

近親交配もされるべきではないと考えています。例えば、ガンや骨の病気、心臓の病気など、見た目には分からない遺伝性の病気を生むからです。

私たちは、将来犬を飼う可能性のある人向けに純血種の健康について発信したり、政治家やブリーダー、ケネルクラブにこれらの問題について話すことでこの問題に取り組んでいます。また、ドッグショーや外見を重視した繁殖に反対するための請願(書)を提出しました。

 

それから徐々に、オランダの各都市でドッグショーが禁止されるようになり、2014年からは容姿に悩む動物の繁殖が禁止され、2019年には鼻の平らな犬や猫の繁殖について政府は監督と執行を容易にするため、具体的なルールを作り始めました。
現在は、ある一定の条件をクリアしないと、フレンチブルドック、イングリッシュブルドック、ペルシャ猫など、平な鼻を持つ犬・猫の繁殖が禁止となりました。しかし、いまだにそのような犬や猫が飼育されているのは、監督が不十分だからです。政府は、他の肉体的特徴で禁止されるべきものがあるかどうかを調査しています。

ソフィア・ソサイエティは、政府のこの取り組みに対して、その他の動物愛護団体と獣医師と共にアドバイスを行なっています。さらに、オランダでの繁殖が禁止となった犬や猫の、輸入も禁止するよう請願しています」

 

Hiroさん:犬の過ごしやすさ、自然さを第一に考えられた主張ですね。

 

ステフィさん:「ありがとうございます。しかし、最初から賛成してくれる方ばかりではありませんでした。むしろ初めのうちは、デザイン犬を扱うブリーダーや、デザイン犬を好む飼い主の多くが、私たちに反感を持っていました。やっと最近、私たちに賛同してくれる人たちが増えてきました」

 

Hiroさん:その変化はなぜ起きたのでしょうか?

 

ステフィさん:「そうですね。多くの動物愛護団体が『ブリーダーに反対』という極端な姿勢をとり、対立する形になることが多いです。しかし、私たちソフィア・ソサイエティは、ブリーダーとコミュニケーションを取りながら進めることを大切にしています。だからこそ、対立ではなく、ブリーダーに向けて説明・説得をくり返し、共に解決したいという姿勢を持ち続けたことが大きいと思います」

 

Hiroさん:理解してもらえるまで根気が必要ですね。

 

ステフィさん:「ブリーダーを訴訟することは簡単かもしれませんが、それでは根本的な解決にはならないと思っています。大切なのは、ブリーダー自身に『何が、どう間違っているのか』を気づいてもらうことです。

 

オランダではよくあることですが、政治家は、法律を制定するのではなく『市場に委ねる』傾向があります。現在の農林水産省は、動物愛護に関して積極的な姿勢を見せてくれており、法規制にも取り組んでくれます。

 

しかし、来年春に選挙があるので、次の首相が同じように動物愛護に関して積極的な姿勢かどうかはわかりません。だからこそ、法規制に頼るだけでなく世論を形成する多くの人たちに理解・納得してもらうことが長い目で考えた際にとても重要なのです」

 

参照:Nederlandse voedsel-en Warenautoriteit https://www.nvwa.nl/onderwerpen/honden-en-katten/huisdieren-fokken?fbclid=IwAR03QvlYJNbFfbsgQhD1n-CoQ3NN287av8ZMQVS-I24xs0dhPGYN5XAODIM

参照:https://eenvandaag.avrotros.nl/item/5-verboden-katten-die-gewoon-rondlopen-in-nederland-door-gebrekkige-controle/ 

参照:Besluit houders van dieren https://wetten.overheid.nl/BWBR0035217/2021-04-21

事例②:ショーウィンドウでの動物販売禁止について

Hiroさん:ショーウィンドウでの動物販売禁止についても教えてください。

 

ステフィさん:「ペットショップでのショーウィンドウ販売は、動物を見世物のように扱っていることが問題です。

動物のショーウィンドウ販売は、人に衝動的に動物を買わせやすく、思わぬ結果になりかねません。私たちは、『ペットをショーウィンドウで販売することを禁止』する署名を行政に提出し、法律で禁止となりました。ただ、ペットのショーウィンドウ販売は禁止されていますが、うさぎなどの小さな動物はまだ店頭販売されています」

 

「オランダでもペットショップやホームセンターでの動物販売が行われてきましたが、昨年2019年に、152店が動物販売をやめました。今後、動物販売をやめる店舗が増えることを願っています。

 

ガーデニングストアやホームセンターなどでの、ペット販売の売り上げは4%程度だそうですが、それでもペットを販売するのは、子どもを中心とした人目を引くためです。『植物を買いに行って、結局は動物を買って帰る』というようなことが起こっており、動物を飼うことがいとも簡単な買い物になってしまっていることが問題だと考えています」

 

「簡単に買った人たちは、結局ペットを育てることができないか、育てられたとしても適切に育てることができないことが多いのです。もし幸運であれば、ペットはシェルターに行けますが、そうでなければ飼い主に殺されたり、不適切な扱いをされ続けて生きるのです」

 

Hiroさん:今後はどのように取り組まれる予定ですか?

 

ステフィさん:「オランダにある全店舗1店1店に話して説得することは難しいですが、私たちが世論や政府にコミュニケーションをとることで働きかけることは可能だと思っています。

 

また、動物の販売を大目に見たい訳ではないのですが、全面禁止になるまで時間を要すると感じており、それまではどのように販売されたり、どのような流通経路で販売されているのかの法律を定めるよう、現在働きかけています。

ただし、私たちの当初の目的『動物販売の全面禁止』という姿勢には変わりありませんし、それを世論に向け、明確にコミュニケーションをしていきます」

HPより、動物の販売禁止を呼び掛けるページ(オランダ語のHPを自動翻訳で日本語に訳しているため、ニュアンスが異なる可能性があります)

 

参照:Government of the Netherlands https://www.government.nl/topics/animal-welfare/welfare-of-pets

多様な働きかけが成果につながる

―Hiroさん:解決すべき課題はまだあっても、活動が着実に実を結んでいて素晴らしいですね。

 

ステフィさん:「『特定の活動が、特定の結果を生んでいる』というわけではないと思います。これまでのさまざまな活動が影響して法改正や飼い主の態度の改善につながってきていると思います。

現在はYouTubeでペットについて啓蒙する動画を発信したり(https://www.youtube.com/watch?v=bWZCfmnHMfs など)、ソーシャルメディアでのコミュニケーションも強化していますが、それによって世論が変わり、世論が変わってきて政治家が世論に合わせざるを得なくなってくるような状況もあります。

つまり、私たちが情報を多くの人に広め、ロビー活動をしてきて、これらすべてが総合的に法改正に繋がっていると思っています」

ソフィア・ソサイエティが見る一歩先の未来

―Hiroさん:これからは何に取り組まれるご予定ですか

 

ステフィさん:「現在、血統書付きのペットだけがライセンス(血統書)を持つことができますが、私たちは『ライセンス(血統書)』は見た目の優秀さではなく、そのペットの健康面での情報を記載すべきだと考えています。さらに、これが国内だけのルールでなく国際的な取り決めになるよう目指しています」

 

―Hiroさん:なぜ国内だけのルールではだめなのでしょうか?

 

ステフィさん:「オランダでは昨年、平な鼻のデザイン犬を生産することが法律で禁止となりましたが、禁止されていない海外からデザイン犬を輸入する人がいたからです。これでは、問題の解決にはなりません。

また、血統書付き犬の標準は国際的なものため、この標準を変えるには私たちがグローバルに取り組むしかありません。

 

また、現在、犬には、安全に確実な個体識別をするためのマイクロチップが埋め込まれていますが、猫にも同様にチップを埋め込み、虚勢を義務化することもロビー活動をしています。すべての猫が去勢されてマイクロチップを備えれば、野良猫が減り、人々がペットである猫を道に捨てる、ということがなくなります。

そして、厳しい基準を満たしたブリーダーだけが、ペットを扱えるようにもロビー活動をしています」

HPより、デザインされた動物の輸入禁止について署名を呼び掛けるページ(オランダ語のHPを自動翻訳で日本語に訳しています)

 

HPより、猫への去勢とチップが必要であることを知ってもらうためのページ(オランダ語のHPを自動翻訳で日本語に訳しているため、正確ではない可能性があります)

 

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2部構成でお届けします、オランダ事情。

次回は、ソフィア・ソサイエティが子どもたちに向けて発信する動物教育についてです。