海外情報レポート

期待高まる、韓国の動物福祉の未来<海外情報レポート・韓国編②>

撮影:Mei D. Haさん 韓国釜山のノラ猫ちゃん

 

日本の動物福祉を考える上で、世界各国の動向や考え方を知ることは大きなヒントになると私たちは考えています。

海外のリアルな動物福祉事情をリサーチ情報と共にお伝えしているアニドネの海外情報レポート企画。

 

2部作でお伝えしている韓国編の後編です。
日本の動物福祉事情と似ている状況に位置している韓国ですが、韓国行政の動きは日本を一歩牽引するような動きが出ています。

 

前編:ペット市場急成長中、韓国の動物福祉事情<海外情報レポート・韓国編①>

 

 

Profile

🐾 Mei D. Haさん(ペンネーム)🐾

 韓国釜山生まれ、ソウル市在住

2001年に交換留学により初来日。

現在はメーカーの海外営業部署にて勤務。2019年までの約10年間、日本と韓国を行き来。

仕事で動物関連の情報を得ることになり、韓国・日本の動物福祉の違いに興味を持つ。

愛猫Meiちゃんの”伴侶人間”と称すほどの愛猫家。

~message~
韓国はペットや動物についての精度の高い統計資料も少なく、記事やメディアに取り上げられた内容を参考し、インタビューにさせていただきます。
私と意見が違う方もいるかと思いますが個人的な考えとしてお読みいただければと思います。

 

 

キャットマムと行政のTNR事業によって減少している野良猫

―韓国の野良猫事情を教えてください。

 

韓国では、野良猫たちのお世話をしているボランティアさんのことを「キャットマム(Cat Mom)」「キャットダディ(Cat daddy)」と呼んでいます。

野良猫たちに餌をやったり、病気になった子を治療してあげたり、繁殖制限のためにTNR※をするボランティアさんのことを言います。

 

有名になり啓発本を出版するキャットマムやダディーもいて、ある意味、社会の文化として認識されています。」

 

※TNRとは・・・Trap(捕獲して)、Neuter(不妊手術をして)、Return(元の場所に戻す)こと

人間と猫が共生するために、野良猫を増やさずに一代限りの命とすることで殺処分される猫を減らすことが目的に行われる愛護活動。

 

 

■有名キャットダディー、 イ・ヨンハンさんのInstagramはフォロワー5.3万人

ブログやSNSから彼が面倒を見ている猫たちの写真を投稿し、遺棄・野良動物の存在を紹介し、あまり野良動物に興味がなかった人も気軽に理解できるように活動を続けている。

イ氏のブログ「雲と鮭、あるいは雨季の旅人宿」に掲載された<野良猫報告書>が書籍化された、「さよなら、猫よありがとう」は2009年発売当時、韓国で6週連続でベストセラーとなり、韓国の猫本として歴代最多販売数を記録。日本でも出版された。

 

『共存のための野良猫ガイドブック(案内書)』 著:イ・ヨンハン、韓国ねこ保護協会 出典:http://www.yes24.com/Product/goods/57823465?scode=032&OzSrank=1

 


 

 

―行政による野良猫対策はされていますか?

 

「2008年から行政によるTNR事業が進められた結果、ソウル市では2013年約25万頭だった野良猫の個体数が2017年には13万9千頭まで減少したと報告されています。

行政がTNR事業を始めることになったのも、精力的に働きかけたキャットマムたちが背景にいます。

野良猫たちの不妊手術の必要性をキャットマムや民間ボランティア団体、獣医師が連携して、海外事例を調査したり、行政や一般の人々にアピールしてきた結果、ソウル市ではTNRの予算が出るようになったり、保護所を運営する自治体も増えたようです」

 

資料:ソウル市 動物保護課 出典:http://www.newsis.com/view/?id=NISI20180115_0000094784

 

 

「またソウル市内では、30ヶ所以上の『野良猫給食所』が設けられています。

ゴミ捨て場でゴミをあさる野良猫たちを巡るトラブルが後を絶たず、周辺住民の苦情を解決しTNRを効率的に行うことが目的で導入されました。

韓国国会の敷地内にも野良猫給食所があるんですよ」

 

 

出典:ハンギョレ新聞 http://www.hani.co.kr/arti/society/area/777352.html

 

出典:https://cm.asiae.co.kr/article/2013072216331921201

期待が高まる、韓国の動物福祉の未来

―2020年1月に発表された「動物保護と福祉文化の拡散のための5年計画」について教えてください。

 

「2020年1月14日に『動物保護と福祉文化の拡散のための5年計画』が発表されました。

計画では、伴侶動物だけでなく、畜産動物や使役動物、実験動物も対象に含まれ、動物福祉全般を段階的に高めていく方針が示されています。

 

伴侶動物に関する主な内容は、飼い主が守るべきルールの強化、動物虐待の厳罰化、教育の充実、登録制度や生産・流通環境の改善等です。

 

その中には『動物の購入を希望する場合は、事前に一定の教育を受けなければならない。』という内容が盛り込まれました

具体的な内容はまだ決まっていませんが、飼育する動物についての基本的な知識、責任、倫理などになるのではないでしょうか。

 

また販売経路のひとつにあった『家庭分譲』ですが、2022年から管理下に置くようにする仕組みも構築される計画となっています。

今後の議論がされるためどうなるかは分かりませんが、いわゆる『ペット税』の検討もされるようです。

 

向こう5年間で、韓国の動物福祉行政は大きく変わるのではないかと期待しています」

 

出典:http://www.dailian.co.kr/news/view/861208?sc=Naver(韓国語記事)

 

 

―今回の計画が出された背景にはどんなことがあるのしょう?

 

現大統領の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、自身が保護犬と保護猫を迎えるほど、動物愛護に理解があります。

2017年4月の大統領選の際、ペットや野良動物、実験動物などについて社会的に問題意識が高まる中、ムン大統領は伴侶動物が幸せな大韓民国5大核心公約』を挙げました。その公約の実践が背景にあります」

 

保護猫のチンチンイとムン大統領

 

溺愛っぷりが噂されるほどの動物好き

 

動物愛護団体から保護犬トリを迎えたムン大統領

 

保健所に視察行った際の写真

 

 

■写真出典:文在寅大統領公式Twitterより

Message

ー日本にも滞在していたことのあるHaさん。日本と韓国をを比較して思うことはなんでしょうか?

 

「欧米などの動物福祉の先進国に比べると、まだまだ後進国ではありますが、韓国も近年、少しずつ人々の意識が変わってきているように感じています。

今年初めに発表された政府の計画もありますし、これからの改善を期待しています。

 

人間は誰もが幸せに暮らしだがっています。動物も同じだと思います。

ペットを飼っている世帯が増え、動物からお肉や卵、乳製品、革などをもらって人間が生活をしている以上、動物の権利もきちんと考えていかなければならないと思っています。

 

殺処分という言葉自体が要らない社会になってほしいし、ペットを飼う時には、より慎重に、命の重さを感じて飼ってほしいし、畜産動物、使役動物、実験動物も最低限にし、きちんと動物の権利も守れる法制が設けられてほしいし、無駄に繁殖させられ、殺される動物がいなくなってほしいです。

 

人間と動物そして自然が共存できる社会になることを心から願っています」

 

 

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2部作でお届けした海外レポート・韓国編いかがでしたでしょうか。

時に保護猫ボランティアでもあり、7頭の猫たちの母でもある、アニドネリサーチャーの岡部が担当させていただきました。

 

何かと比較される韓国と日本ですが、動物福祉の在り方も両者肩を並べるカタチで改善に向かっているようです。

ムン大統領の公式Twitterでは『ペットは私たちの生活を豊かにする貴重な仲間ですよ。そのため、本当に住みやすい国は人だけでなく、動物たちも幸せな国です。』と発言もされていました。

 

キャットマムたちの地道な努力により始まり、著名人の後押しで動物福祉向上への世論が高まっている韓国。

気になったのでinstagramハッシュタグを検索してみたところ、投稿数に大きなが差がありました。

 

■韓国  #사지말고입양하세요 (買わずに養子縁組してください)(218万投稿/2020年3月現在)

■米国  #dontshopadopt(110万/2020年3月現在)

■日本  #保護猫を家族に(8.9万/2020年3月現在)#保護犬を家族に(21.4万/2020年3月現在)

 

SNSで情報が拡散される時代、日本も何かいいキャッチフレーズと共に運動が起きるといいのかもしれません。

 

世論、そして動物福祉に理解のあるリーダーも揃った韓国。

今後の動向に注目したいと思います。

 

 

 ※掲載の文章・写真は、アニマル・ドネーションが許可を得て掲載しています。無断転載はお控えください。