海外情報レポート

子供に動物の大切さを伝える保護施設の工夫<海外情報レポート・スイス編②>

スイスにある動物保護施設の来訪レポートの第2回目です。第1回目では、施設の紹介をしました。
動物への心理的なアプローチを大切に!スイスの動物保護施設の現状とは<スイス編①>

 

今回は、年間500人の小学生が課外学習の場として訪れ、そして16歳未満の子達が参加できるジュニアクラブのある保護施設であるSociera Protezione Animali Bellinzona (通称 SPAB)がどのように「子供達に動物の大切さをどのように伝えているか」をご紹介します。

アニマル・ドネーション代表の西平衣里がお伝えします。(2019年8月取材)

 

Profile

 Besomi Emanuele


🐾経歴🐾
スイスのティチーノ州にある動物保護施設 『Sociera Protezione Animali Bellinzona 』President

1954年創立、2019年に65周年を迎えた施設、通称SPABの代表を務める。

Emanuele氏のお父様が作られた施設を継いで運営。

生まれたときからこの施設と生きてきた方で取材当時45歳。

3代目候補の息子さんと共に取材に応じる。

まずは自分たちの周りにいる動物を知ること

スイスの南側のティチーノ州では一番大きな施設のSociera Protezione Animali Bellinzona (通称 SPAB)。年間に500名の小学生の訪問があるそうです。昔の軍事施設を動物のための施設に改築しています。施設自体は大きくはないですが、温かみのある造り。街の中心部からもほど近いですが、豊かな自然に囲まれた場所にあります。

 

小学生が来訪したときに説明をするお部屋の壁には、動物の絵がずらり!
SPABの冊子の表紙にもなっています。

SPABの紹介冊子。自分たちの身近に共に暮らす動物たちのことを知ることが大事

 

それは、まずティチーノ州にどのような動物が住んでいるか、を子供たちに説明するそうです。ルガーノという街の中心地は湖沿いにあり、水鳥がたくさん住んでいます。豊かな山々に囲まれとても自然が多い環境。たくさんの自然動物が住んでいます。ペットの犬猫だけでなく日常的に動物が身近な環境なのでしょう。

 

日本の保護施設は犬猫(たまにウサギやフェレットなども保護していますが)が中心です。しかしこちらの保護施設は野生の鳥や大型動物(馬やアルパカなど)も多数いました。犬猫だけではなく、同じスイスに暮らす動物の存在がごく身近にあると感じました。

 

野生動物のレスキューも多数行うことから、専門の車を所有

 

レスキュー風景を紹介(SPAB冊子より)。保護した後、野生に戻す活動もしている

 

小学生たちには、私(西平)が案内されたように、保護されている動物たちがなぜここにいるのか、や、動物たちの習性を説明するそうです。とても素直な子供たち、動物が大好きになるそう。

 

課外学習風景(SPAB冊子より)。動物たちには感覚(センシビリティ)があって、人間側が動物の気持ちを考える、と伝えるそう

 

動物は人間とは異なる存在、ということを理解

動物のことを理解するには、人間とは違う存在であるということを理解せねばなりません。施設でも配布しているスイスが作った幼児(4歳以上)向けの絵本のような冊子はとても学びが多いと感じました。

この本の目的はとてもシンプルで「咬傷(こうしょう)を防ぐこと」です。子供も犬も守ることが目的です。保護者や教師が子供に説明するときに使っているそう。

この冊子の目的は「咬傷(こうしょう)予防」。万が一噛まれた場合どう行動するか、連絡先も明記されています

中身を見てみると、、

『登場する犬はビリージョ。ビリージョは、いい気分の時だけでなく悪い気分の時もある、病気になる可能性だってある犬。手がなく歯でものを動かします。

飼い主さんが近くにいない場合は犬に近づかずそっと立ち去りましょう。

スクーターやスケートボードは犬は怖いかもしれません。歩道では降りてゆっくりと歩いて。

ビリージョが話せません。彼は犬の言葉で、私が彼に触れようとすると落ち着きたいと言い、彼の歯をみせます。

ビリージョにとって食事は大事。ゲームではありません。ビリージョはあなたと食べ物を共有したくありません。』

 

「犬がものを欲しがった時は渡して像になろう。」と教えています

 

私が日本でお散歩をしていると、よく子供が犬に触りたいと近寄ってきます。うちの犬は、私に子供が生まれてからは子供が大好きになりましたが、それまでは、急に触ろうとする子供に対しては身構えてました。

大人の方でも、昔吠えられた、噛まれた、などの経験から犬に苦手意識のある方も多いのではないでしょうか。

 

それでいくと、この冊子は「犬を大切にしよう」ではなく「犬から噛まれないためにどう行動するか」をわかりやすく伝えています。小さい子に最初に教える内容としては、理にかなっている教え方だな、と感じました。

 

門戸は広く。学びのある場所に

SPABには、16歳未満であれば加入できるジュニアクラブがあるそうです。

動物について学べたり、施設に訪れて様々な動物と触れ合うことができるのです。

こちらにいる動物たちは、何かしら事情がある動物が多いので、その背景を知るだけでも動物を大事にせねばならない、と思えるのではないでしょうか。

 

ジュニアクラブの看板。HPから誰でも申し込みができる

 

真ん中の女性は小学生が来訪したときに説明するボランティアを長年されている方。右の男性は野生鳥の専門家として40年も続けているボランティアさん

 

スイスはマイクロチップは義務付けされている。子供たちにマイクロチップの意味や意義を説明。リーダーを読み取る説明

 

人が集まるマルシェに動物を連れて行って啓発活動も行っている。動物とは一生付き合うもの (SPAB冊子より)

 

SPABはおもに会費や寄付を支えに運営されています。年に1000件ほどの問い合わせがあり、各専門スタッフが対応されているそうです。トップのエマニュエル氏も普段は別の仕事を持ちダブルワークで携わっています。

スタッフのみなさんは、動物たちが好きで仕方なく、常に優しく接し(いずれリリースする野生動物の目は見ない工夫もしているそう)、自分たちがいかに動物や自然を大切にしているか、をストレートに語ってくれました。

そんなスタッフの方々に動物の大切さを学べる子供たちは、とてもうらやましいと感じました。同じ場所にどんな動物たちがいるのかを知り、動物の生態を学ぶ、そしてなにより動物の気持ちを考えるということを学べば、自然と大切にする気持ちが芽生えると感じました。

 

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3部構成でお届けしているスイス事情。

次回3回目は、街中で見かける動物への配慮、接し方をお伝えします。

 

動物への心理的なアプローチを大切に!スイスの動物保護施設の現状とは<スイス編①>

日本と大きく異なるスイス動物事情。犬との豊かな日常<海外情報レポート・スイス編③>

 

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