動物の専門家インタビュー

動物の力は子供にどう影響するのか グリーンチムニーズ&ファーム

地球にとってなにより大切なもの。 美しき自然&自然と共に生きる動物、そして未来を担う子供たち、、。

動物と子供を「心」でつなげることで成果を上げているのが 子供のための長期療養型施設「グリーンチムニーズ」です。

インターンで渡米してから18年目を迎え、 現在、教育プログラム部長としてご活躍する木下さんの熱い想いが伝わるインタビューです。

(2015年1月取材)

グリーンチムニーズ&ファーム サム&マイラ・ロス研究所 教育プログラム部長 木下美也子さん

 

Profile

profile  Miyako Kinoshita/兵庫県生まれ
関西学院大学院英文科を卒業
大学時代にカリフォルニアに交換留学生として渡米
その後日本で3年の銀行勤めの後、1997年グリーンチムニーズでインターン
2000年に北米障害者乗馬協会から上級障害者乗馬インストラクターの認定を受け、グリーンチムニーズ馬介在療法部門の責任者
2009年よりファームの教育プログラム部長として、インターンの育成、グリーンチムニーズのあらゆる部署との架け橋として活躍

 

―「グリーンチムニーズ」とは、どのような施設なのでしょうか?

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「1947年にサミュエル・ロス氏によって開設されたAAT(動物介在療法)やAAA(動物介在活動)、AAE(教育)等を行う、情緒障害・学習障害を持つ子供を治療するための長期療養型施設です。現在、5歳〜21歳までの約200人の生徒がいます。

うち約半数は寮で暮らし、半数は自宅から通っています。

子供たちの多くは、虐待などで心に傷を負う子や、対人関係に問題のある高度自閉症、アスペルガ―症候群など、身体的障害よりもメンタル面に問題を持っています。

そのような子供たちに、動物介在療法・植物介在療法・環境セラピーを用いて治療をしています。

生活を共にしますから、24時間体制で約650人のスタッフ(教育・医療・動物等の専門家)でサポートしています。

施設内には学校、寮、幼稚園、ヘルスセンター、ファーム・野生動物のリハビリテーションセンターがあり、精神科医や小児科医、心理学者、看護婦、特殊教育専門教師、ソーシャルワーカー、動物の専門家、野外活動専門家など様々なプロフェッショナルが協力して子供たちと過ごしています。グリーンチムニーズで療養することにより、行動や情緒が安定し社会復帰ができることを目指しています。

グリーンチムニーズの使命は『地域と自然との関わりをつくり育てる環境で寄宿、教育、臨床、娯楽プログラムを提供することによって若者が個人の持つ最大の可能性を実現するための援護を行うこと』です。

安全で安心できる自然環境で子供たちの長所を探し発見する機会を与えられたら、自尊心や思いやり、対人関係や社会性を伸ばすことができるという信念に基づいています。

そして、グリーンチムニーズの哲学は、1、ミリュー(環境)セラピー 2、グリーンケア 3、アウトドア教育 4、エコサイコロジー(環境心理学) 5、バイオフィリア(生命愛)の5つの柱で構成されています。

人間と動物のふれあいーそして自然とのふれあいーは人間に深い影響を与えます。こういった要素はグリーンチムニーズのキャンパスや組織としてのアイデンティティに不可欠であり、私たちのすべてのプログラムは生きるすべてのものの威厳と価値を尊重しています。」

―子供たちが動物と触れ合うことでなにが変わるのでしょうか?

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「ファームプログラムでは馬の世話を子供が行うプログラムがあります。

乗馬をするだけではなく、馬の食事の世話、身体のケア、馬具の掃除等も行います。

馬に乗るのであれば、世話をしなければなりません。

お世話をすればするほど、馬のコンディションは良くなり、子供達とも意思疎通を交わします。

馬の行動を理解すると自分をコントロールすることも同時に学びます。問題行動を抱える子供達に共通しているのは、ある事象で自分がコントロールできなくなり、自分あるいは他者に危害を及ぼす状態になることなんですね。

つまり、動物と関わること自体で、問題行動を自ら抑えるを自然と学んでいくのですね。

例えば、子供たちの目に装置をつけて馬の視野を再現するプログラムがあります。

馬の視野は350度もあり、左右の目がそれぞれ独立して働きます。

また、両目が個別に働くため焦点を合わすのに時間がかかるとも言われます。

そういった理由から死角からモノが出てくると大変驚き、子供たちに怖い思いをさせることがあります。馬の視野を体験するようなことによって、動物の行動や気持ちを理解でき、優しい気持ちを育成することができるのです。

子供たちのグリーンチムニーズでの平均滞在期間は2年です。

長い子で7~8年でしょうか。私は馬の専門ですが、その他の動物や、自然と関わることにより、落ち着き社会復帰を果たす子供たちを多々みてきました。

人間は自然の一部であり、その関わりを経験したときに、本来の自分が取り戻せると考えています。

ファーム、ワイルドライフセンターは一般開放もされています。

土日には動物園に来るような感覚で近隣の家族が遊びにきます。

また、小さな子供たちのイベント、秋の収穫祭、6月には恒例の猛禽類のイベントなどもあるんですよ。学校には動物教育ツアーなどで毎年何千人もの人が訪れます。」

―なぜグリーンチムニーズで働かれているのですか?

interview_image「私はもともと日本の大学で教育学部を専攻していました。

教育実習を断念したので資格は取りませんでしたが、アメリカで初頭教育学と特別支援を大学院で学びました。

また上級障碍者乗馬インストラクターの資格を持ち、子供たちの心や行動の危機トレーニング(コーネル大学)の教師の経験もあります。

日本で大学を卒業後、3年半の銀行勤務をしていたときに、私は自分にとって有意義な仕事をしたいと強く思ったんです。

大学時代から子供のために難民キャンプでボランティアなどしてきました。

障害があったり貧しい子供たちのための仕事をしたい、そして動物が好きなことから動物と子供たちと一緒に仕事をして子供たちの未来を変える手伝いをしたいと思いました。

それが、私にとって転機となった1997年です。

グリーンチムニーズで学びたく3カ月のインターンのため渡米しました。

インターンの後、日本に帰って動物と子供にかかわる仕事をしようと漠然と考えていたのですが、考えは甘かったです(笑)。

たった3ヶ月のインターンではとても知識が身につかないということ、日本に帰っても私の希望が生かされる職場がなく派遣会社に逆戻りになると気づいてこちらに残ってもっと勉強をしようと覚悟を決めました。

それから18年、今ではインターンやスタッフに教えることが仕事になり、また国際会議や大学でのレクチャーなどが多くなりました。

子供たちは私たちの未来です。動物と自然は地球の未来の健康のために不可欠です。

その2つの未来を背負う大事なものたちを『心』でつなげたいから、グリーンチムニーズで働いているのです。

私自身、8歳の子供がおります。子供はまさに未来を担っています。」

―日本でもグリーンチムニーズのような施設を実現することは可能なのでしょうか?

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「グリーンチムニーズは68年かけてゆっくりと作られたもので最初から大規模の動物介在施設であったわけではありません。

また、日本とアメリカは社会や福祉制度が違います。

特に市街地では動物を飼う土地や設備もないこと、動物に関する文化や理解も違います。こういった施設を作るのは難しいかもしれません。
一方で日本でもいろいろな団体が動物介在活動を行っています。

もちろん規模は小さいですし、ボランティアでされているところがほとんどかと思いますが、すばらしいプログラムはあります。

昨年の7月に帰国した際には国、そして地方公共団体、行政のサポートや取り組みを見せていただきました。

日本では日本らしいプログラムでなければいけないと思います。政府や行政のサポートや理解が広まれば活動も盛んになるのではないでしょうか。」

―木下さんのお仕事に憧れを持つ日本の若い方々にメッセージがあれば御願いたします。

「私たちは、自分たちができる最高のプログラムを作っていこう、と考えています。何かを行う方法や工程において、その実践例の中である基準にしたがって最も優れていると評価されたものを採用するという、ベストプラクティス哲学を持っています。

日本では動物の問題は動物専門分野で、子供の問題は子供の専門家で、というように、分離して考えることが多いように思いますが、そうではありません。

問題の根底にある社会問題や社会構造を理解したうえで、問題を解決できるベストを探るべきです。ダイナミックなプログラムを作るには、過去や現在のやり方とは違った斬新な考え方が必要ではないかと思います。

今後、子供・自然・動物と地球規模で向き合っていくべきです。

人間の未来は地球の未来です。どうか視点を高く、そして広く学び、社会の問題が理解できる動物の人になってほしいと思っています。」

 

グリーンチムニーズのWEBサイト

 

グリーンチムニーズでは、スタッフトレーニングに重点を置いているそうです。

勤務するにあたって、3週間半に渡り、約150時間のトレーニングを受けます。

さまざまな専門家がいるため、それぞれの立場を理解することから始まります。

約650名のスタッフのうち動物の専門スタッフは30名弱

保護施設出身の犬のお世話をする生徒たち。

レスキューした犬たちは人間を怖がることがあったり、過程で生活するためのマナーを知らない(トイレしつけができていない、物をかんだり壊したりするなど)犬たちがいます。

犬の様子から、言語を持たない動物の気持を汲みとることも、問題を抱える子供の精神ケアとなります。

施設には、馬、家畜、障害を持つ野生動物を含め300あまりの動物たちがいます。

動物に対して福祉面を考慮した規則が設けてあり、例えば馬が一日に騎乗する回数や時間は決められています。

また、体調の悪い動物をふれあいに参加させないようにしたり、動物が動物らしく生活できる時間を保つ(馬はできるだけ放牧、羊や家畜は群れで生活が基本など)など動物の身体、精神面での健康が基本になっています。