動物の専門家インタビュー

民法改正によって日本の動物愛護・動物福祉を

海外諸国に比べて動物福祉が遅れているといわれる日本。動物愛護や動物福祉の普及には、民法の改正が必要であると考える人が増えています。早くから人間と動物とが真に共生する社会を目指し、動物愛護、動物福祉の啓発とそれに関連する法律の改正に取り組んでいらっしゃる参議院議員の串田誠一氏と、「動物の法と政策研究会」の会長を務めておられる弁護士の細川敦史氏に、日本の民法の問題点と課題、改正への進捗具合について話し合っていただきました。

(2023年12月取材)

Profile

(左)串田誠一参議院議員 (右)細川敦史弁護士
(左)串田誠一参議院議員 (右)細川敦史弁護士

 

串田誠一

参議院議員
犬猫殺処分ゼロ議連事務局次長、アニマルウェルフェア議連事務局次長
元法政大学大学院特任教授、元衆議院議員
弁護士

 

細川敦史

弁護士
動物に対する虐待をなくすためのNPO法人「どうぶつ弁護団」理事長
動物の法と政策研究会会長、ペット法学会会員

 

民法と動物愛護法とでは動物の概念が異なっている

串田 日本の動物愛護とか動物福祉が欧米諸国などに比べて遅れているのは、そもそも民法に「動物はモノである」と規定されているからだと思います。そもそも民法は明治時代にできた法律で、一部改正はされているものの大枠はそのまま生きているわけです。「ペットは家族である」という社会通念が一般化しつつある日本の現状とは大きくずれているといわざるを得ません。早く「動物はモノである」という古い考え方から脱却しなければなりませんね。

細川 私も昔から「動物はモノじゃない」と思っています。しかし、残念ながら世の中にはモノとしてとらえている人がまだたくさんいます。その証拠に、野猫への虐待事件や多頭飼育崩壊など、動物虐待があとをたちません。串田先生がおっしゃるように、そもそも民法を改正して「動物はモノではない」と規定することからすべてが始まると思います。しかしながら、なかなか民法改正までは至らないのが現状ですね。そこで、まずは目の前の動物虐待をなくすことに力を注ぎたいと考え、NPO法人「どうぶつ弁護団」を結成しました。

串田 動物弁護団のパンフレットには、「モノ言えぬ動物たちを代弁し、私たちが護ります」と書いてありますよね。

細川 はい、一般の方が虐待を発見したら我々の情報提供窓口に通報していただき、弁護士、獣医師、学識者などからなるチームが情報提供者や動物たちの想いを聞き取り、当法人が刑事事件として告発する仕組みです。

細川弁護士
NPO法人「どうぶつ弁護団」を結成し精力的に活動する細川弁護士

 

串田 もし、民法が定めているように動物がモノであるなら、モノの気持ちを代弁する必要はないですからね。そこからも「動物はモノではない」という事実が明らかですよね。

細川 しかし、法律家の中にも「法律上は動物はモノだから」と言い切る人が、意外と多いのです。それは違うと思います。

串田 民法というのは、私人間の権利や義務に関わる法律です。つまり、人間を主体とする法律であり、民法においては「動物は動産」つまり「モノ」とみなされています。 しかしその一方で、動物愛護法においては「動物は命あるモノ」として、机や椅子のような一般的な「モノ」とは異なることが明記されています。そこには大きな矛盾があり、法律の中で抵触しあっているわけです。基本の法律で「モノである」といっておいて、現場で運用する法律では「動物はモノじゃない」と拒否するのは、なんだかおかしな話ですよね。

 

民法改正を念頭におきながら2025年愛護法改正を目指す

細川 串田さんは、早くから民法を改正すべきであると訴えていらっしゃいますね。

串田 はい、その通りです。そもそも日本の民法は、フランスやドイツなど外国の法律を基本にして成り立っていますが、それらの諸外国では「動物はモノではない」と規定しています。ですから、日本もそれに倣うのは難しいことではないと考えています。

細川 たしかに、ドイツ民法では「動物は物ではない。動物は、特別の法律によって保護される。動物には別段の定めがない限り、物について適用される諸規定が準用される」となっています。またフランス民法には「動物は、感覚を覚えた生命である存在である。動物の保護に関する法律を留保して、動物は財に関する制度に従う」とあります。そのほか、オーストリアやスイスの民法でも「動物は物ではない」と規定されています。諸外国では、国として「動物は物ではない」という明確な概念を打ち出しているのを感じました。

串田さんは、日本の民法改正に向けて、国会で法務大臣に質問されていますね。

串田 はい、2020年には法務委員会で上川法務大臣(現・外務大臣)に民法の改正をすべきだと訴え、ふたつの考え方を示しました。

ひとつは、「動物はモノではない」という民法そのものの改正。もうひとつは、民法はこのままにしておき、周辺の法律において「動物はモノではない」という前提で法改正を行うということです。

細川 ふたつめの形ですと、基本法である民法ではモノとしているのに、周辺法では異なる規定にするという矛盾が生じますよね。

串田議員
弁護士資格を持つ串田議員。動物愛護を掲げ活動中。日本維新の会

 

串田 その通りです。当時、上川大臣は民法の改正に対して頭から否定はしませんでした。ところが、法務官僚がふたつめの方法を主張したのです。

細川 それはなぜなのでしょう。

串田 民法で動物がモノであることを否定すると、準用する場合でも民法の規定が動物に合致するのかどうか見直さなければならなくなり、非常に複雑になる。だから、制度は維持したまま、必要に応じて特別法(動物愛護法)で対応していくという考えなのです。

細川 たしかに、法令の上位にある基本法が変わると、関係法令においても動物をどのように扱うか検討が必要になるのでしょう。実際は、2025年の動物愛護法の法改正を目指してさまざまな活動が活発化していると思いますが、その同じタイミングで民法改正を実現できそうですか。

串田 残念ながら、民法の改正までは難しいと思います。なぜなら、今回の動物愛護法改正にあたっては、実現したい喫緊の課題がたくさんあるからです。たとえば、アニマルポリスの設置、虐待されている動物の緊急一時保護、虐待した飼育者の所有権一時制限およびはく奪など。対象とする動物も、犬・猫だけでなく畜産動物や実験動物、展示動物などにも範囲を拡大したいと考えています。

現段階では、民法改正について法務省が頑なに抵抗しているわけですが、その代わり、周辺の法律で所有権を制限することに対しては、国会で「はい、協力します」と答弁してくれています。ですから、まずは緊急課題である虐待から動物を救うために、所有権の制限から手を付けたほうがいいのではないかと思います。もし、ここで民法改正の方を進めようとしたら、せっかくクリアしつつある所有権の制限が実現できなくなってしまうかもしれません。動物の所有権に関して改正を行い、その後、民法を改正しましょうという作戦なのです。

細川 なるほど、民法の改正について、じわじわその外堀を埋めているといったイメージでしょうか。

串田 そうです。ただ、大丈夫です。もうかなり追い詰めてはいると思います(笑)。期待していてください。

 

議員会館の串田議員のドアにも犬への愛が
議員会館の串田議員のドアにも犬への愛が

 

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