環境省動物愛護管理室インタビュー

2021年6月「改正動物愛護管理法」施行。今回初めて数値規制を導入

2019年(令和元年)6月、「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護管理法)が改正され、2022年までに段階的に施行されることになりました。法改正は1973年(昭和48年)に法律が公布されてから今回で4回目。その背景には、改正のたびに動物取扱業の規制が強化されてきたにもかかわらず、不適切に犬猫を飼養する業者があとをたたなかった現状があります。今回とくに注目されるのは、「数値規制」を導入したことです。改正法に基づき飼養管理基準を省令として公布した環境省に、その狙いと今後の課題等について伺いました。

 

プロフィール

 


 

野村 環(のむら たまき)

環境省 自然環境局 総務課 動物愛護管理室・室長

1999年環境庁(当時)入庁し、20218月に動物愛護管理室の室長に就任

基準を数値で具体化したのは規制の実効性を高めるため

―「数値規制」(飼養管理基準の具体化)を導入するにいたった経緯を教えてください。

 

今回の改正法では【第21条】2項において、「飼養施設の規模や構造」「従事員数」「繁殖の方法、回数」など7項目にわたり犬猫の飼養管理基準を定めることが明記されています。さらに3項では、「犬猫等販売業者に係る基準はできる限り具体的なものでなければならない」と特出しされており、動物取扱業の規制をより明確にする強い意思が示されています。

 

今回、環境省が省令を作るにあたって基本としたのは、動物愛護の精神です。「動物愛護管理法」は、もともと議員立法で成立した法律ですから、立法者が大事にした動物愛護の精神に則って立案しました。

 

基準の具体化に当たって目指したのは、現場で自治体の職員が指導しやすいものとすることです。今までは飼育に適切な頭数や従業員数、ケージの大きさについて具体的に規定されておらず、現場で事業者に言い逃れをされてしまう部分がありました。事業者側も基準が明確でないために、これまでの経験等から問題ないと思い、自ら改善しようとしないケースがあったと思います。そこで、自治体の職員が現場で根拠をもって判断し、指導に当たれるよう、基準を具体的な数値で表すことにしたのです。基準を守っていない場合は改善させ、速やかに改善しなかったり、改善の意思がなかったりする事業者に対しては、最終的に動物取扱業を取り消すための「レッドカード基準を作る」ということに主眼を置きました。

 

ただ「数値規制」というと、「数値さえ守っていればOK」と捉えられるのではという危惧もあります。たとえば、「夏場の温度管理は20℃〜30℃」と定めた場合、「範囲内なら30℃でもいいじゃないか」ということになってしまいます。けれども、犬猫の種類や個体の状態によっては適さない場合もありますよね。このように数値が必ずしも万能ではないため、我々は「数値規制」というより「飼養管理基準の具体化」と表現するようにしております。

 

 

―実効性のある基準にするためには何が必要になるでしょうか?

 

「事業者の対応」「自治体の対応」「環境省の対応」という3つが必要かと思います。

 

まずは「事業者の対応」ですね。悪質な事業者を排除するために定めた基準であって、不適切に動物を飼養している業者には、レッドカードを出すことを認識していただきたいです。行政が立入検査をして是正させるだけではなく、事業者自らもルールを守る姿勢が大事で、それも実効性を担保する行動のひとつであると考えます。2021525日に公表した「動物取扱業における犬猫の飼養管理基準の運用指針〜守るべき基準のポイント〜」には、チェックリストも入れてありますので、まず自分たちはきちんとできているかを確認してほしいです。

なお、今回の運用指針では数値による基準で守ってもらうことに加え、動物福祉の観点から環境エンリッチメントの内容も加えてあります。その部分は必ずしも守る義務があるものではないですが、動物愛護の精神に則り、飼養管理してもらうために必要なことだと考え、あえて明文化してあります。

 

次に、「自治体の対応」について。現場で指導してもなかなか改善されない、少しずつ改善しているので動物取扱業を取り消すまでには至らない、というようなことが多々あったと思います。しかしながら今後は、基準が守られていない場合は、躊躇せずに取り消しに至るような厳格な運用をしていただきたいですね。それが実効性を担保するうえでとても大切だと思います。

 

そして、「環境省の対応」について。我々が直接、事業者を指導することはできないので、自治体からの問合せや相談を受ける窓口を設け、そこを通して法改正と基準の内容が世の中に徹底されていくよう、日々努力しております。事業者、自治体、環境省が同じ方向を向いて対応することが、悪質な事業者を失くすためには必要だと考えています。

 

 

経過措置を設けたのは、今生きている犬猫のため

―基準を数値化するうえで、とくに議論が分かれた内容があれば教えてください。

 

「ケージの大きさの基準」「従業員数の基準」「繁殖の基準」の3点については議論が分かれました。

 

まず「ケージの大きさの基準」ですね。事業者団体からは、最終的に省令で定めた基準より狭いケージの大きさの提案もあったところですが、環境省としては動物愛護の精神に則って、専門家の意見を聴きながら決めていきました。

 

 

そして、「従業員数の基準」については、「基準を守ろうとすれば、行き場がなくなる犬猫がたくさん出る」という話がありました。だからといって、1人あたり50頭飼育してもよいというわけにはいきませんから、命ある動物の世話をするという観点から必要な人数を検討しました。事業者に対しては、終生飼養の義務があるのですが、繁殖を終えた犬猫を適切な飼い主さんに譲渡していただくとか、早めに繁殖を引退させて販売するとか、いろいろな方法で一頭一頭が終生幸せに暮らせるようにちゃんと考えていただきたいですね。ちなみに譲渡促進については、今後、環境省・自治体・動物愛護団体・事業者など関係者が一緒に取り組んでいかなければならないのではと考えています。

 

 

さらに「繁殖の基準」については、なるべく回数を少なくしてほしいという声がありました。一方、品種や個体による差も大きく、専門の先生へのヒアリングも踏まえて、検討会でご検討いただいた結果、高齢での出産の影響を考慮し、原則6歳まで、犬は6回までという基準を定めました。ただし、6歳以下ならいくらでも繁殖させてよいわけではありません。繁殖については、個体ごとの状況による差が大きいことから、回数や年齢だけを基準とするのではなく、獣医師による年一回の健康診断を受けさせること、その際などに繁殖の適否の診断を受けること、帝王切開を行うのは獣医師に限ることなどを明文化しました。一律に「6歳まで」「6回まで」ということではなく、一頭一頭の個体に対して獣医師の診断を得なければならないと定めたので、犬猫にとってより良い基準となっていると思います。

 

 

―経過措置(段階的な規制の開始)を設けた理由を教えてください。

 

経過措置は「ケージの大きさの基準」「従業員数の基準」「反則の基準」の3点について設けてあり、それらは基準を決める際に議論が分かれたポイントと一致しています。

 

では、なぜ経過措置を設けたのか。それは、基準を達成するまで猶予期間を設けることで、計画的かつ確実に実行していただくことを考えたからです。法令通りの頭数を遵守するためには、犬猫の譲渡や従業員の確保が必要で、それには一定の期間を要するでしょう。不適切に殺処分したり遺棄したりするようなことにならないよう、段階的に対処していただきたい。つまり、事業者側の負担を軽減するために設けた猶予期間ではなく、いま生きている犬猫たちの命が守られることを第一に考えた結果なのです。

 

そして、自治体の職員には、経過措置が終わったあとに基準を満たさない事業者が残らないよう、適切に指導してほしいです。

 

 

一般の方も非営利団体の方も「自分ごと」として捉えてほしい

―とくに一般の飼い主さんに知っておいてほしいことはありますか。

 

コロナ禍で新しくペットと暮らし始めた方もたくさんおられるようですね。ペットを飼うことは大きな責任を伴います。飼い始める前に、しっかり最後まで面倒をみられるかどうかをよく考えてほしいと思います。今回の基準は一般の飼い主さんに直接関わるものではありませんが、関心は持っていただきたいと思います。ペットショップで「動物取扱責任者はいますか」「運動させていますか」「親猫・親犬は見られますか」と尋ねてみてください。ブリーダーさんの飼養環境を見に行っていただくのもよいでしょう。消費者の目が厳しくなれば、事業者も対応しなければいけない環境にもなってきますからね。

 

 

―環境省から保護団体さんにメッセージがありましたらお願いします。

 

非営利で頑張っておられる皆様には大変なご苦労をおかけすると思うのですが、そこは動物のためなので、ぜひ基準に適合するようにご対応をお願いしたいと思っております。「非営利の第二種動物取扱業者が法令を遵守しているのだから、営利の第一種動物取扱業者はもっとちゃんとやらなくてはいけない」ということにもなると思います。

非営利の団体さんに対しても自治体から指導、命令は行います。第一種動物取扱業者の場合は、命令に違反したら登録取り消しを受けることがあるのですが、第二種の場合は、取り消しはないものの30万円以下の罰金に処されることはあります。

 

今回、省令を定めるにあたり、第二種の団体さんからはあまり要望が上がってこなかったことから考えると、自分たちは対象外だと思っておられる団体さんもあるのではないでしょうか。環境省ではさらなる情報発信、自治体では現場での普及活動に力を注いでいかなければと考えております。

 

 

野村室長のお話から、「悪徳な動物取扱業者を排除する」という強い意思を感じることができました。私たち自身が今回の改正法の中身に関心を持ち、厳しい目を持つことが不適切な事業者を減らす一歩になるのではと感じました。

 

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