環境省動物愛護管理室インタビュー

2024年の取り組みを取材。動物福祉を推進するために必要なことは?

2024年、環境省では動物愛護に関してどんな取り組みを推進していくのでしょうか。2023年に室長として着任された立田氏に、現状と今後の方向性についてお話を伺いました。
インタビュー日:2023年12月27日

 

プロフィール

動物愛護室 室長 立田氏

立田 理一郎(たつた りいちろう)
1977年生まれ
環境省 自然環境局総務課動物愛護管理室 室長
2002年、環境省入省
環境省本省と日本各地で国立公園の保全計画、野生生物保護等の自然環境行政に従事
2023年9月から現職

 

保護犬猫の高齢者への譲渡、広域譲渡、マイクロチップ装着をさらに推進

ー伴侶動物(おもに犬・猫)に対しての環境省のお取り組みについて教えてください。

 

「環境省では、2022年から保護犬・保護猫の高齢者への譲渡や広域におよぶ譲渡の促進に取り組んでおります。動物愛護管理法は、自治事務で都道府県ごとに業務を行っているので、県をまたいで保護犬・保護猫譲渡を行うことに課題があるといえます。そこで、2022年度から2024年度までの3年間で広域譲渡のモデル事業をやっております。2024年度は区切りの年にもなるので、力を入れて行こうと考えております。

あと具体的な話でいうとマイクロチップの装着がありますね。2022年の6月からマイクロチップの一部義務化が始まり、登録件数は令和5年11月現在で約110万頭になっています。飼い主さんの中には、『しっかり見ているからそれほど必要ない』と考える方もおられるかもしれませんが、じつは迷子になってしまう犬や猫が意外と多いのが実情です。また、災害の際には何があるかわからないので、マイクロチップの装着の促進にはさらに力を入れていかなければならないと考えております。この制度を運用して一年半ぐらいがたち、多くの飼い主の方に御登録をいただくとともに、いろいろな課題もみえてきました。今後は、もっと自治体や警察と連携して登録情報を活用できるように検討していきたいと考えております。

さらに、犬・猫以外の飼養管理基準についても検討しており、さまざまな動物の中では哺乳類に関する議論が先行しています。たとえば、ふれあい系の施設で飼育されている哺乳類ですね。2024年度中には基準が出せるといいなあと考えています。その後にはなると思いますが、爬虫類などのエキゾチックも検討しています。ただひと口に爬虫類といっても種類がけっこう多いので、なかなか技術的に大変です。こちらは基準が出せるまで少し時間が必要かなと思います。」

 

ー保護犬・保護猫の高齢者への譲渡や広域譲渡に関して、この3年でどのくらいの成果が出ているのでしょうか。

 

「これらの取り組みはモデル事業としてシミュレーションしているので、譲渡件数を増やすことに主眼を置いているわけではありません。環境省で出している譲渡関係のガイドラインなどの中で、今後このモデル事業の例を紹介することなどによって、全国の自治体が円滑に譲渡へ取り組めるよう、技術支援をしていくようなことを考えています。

高齢者への譲渡推進については2022年からモデル事業を始めていて、各自治体でも意外と進んでいますが、広域譲渡の方は2023年度から着手したので、まだまだ課題が多いと感じています。そういう意味でまだ成果が出ていないのが実情です。」

 

 

ー高齢者への譲渡促進については、具体的にどういうふうに変わったのでしょうか。

 

「保護団体では、譲渡できる飼い主さんの年齢を60歳とか65歳までとしているケースが多いようです。たしかに、高齢者には健康面や経済面など譲渡しづらい状況があることは理解できます。ただ。譲渡できる人を年齢しばりにしてしまうと、譲渡できる件数は減ってしまいます。県によっては60歳を上限にしているところもあるのですが、今の時代、60歳といったら一般的にはまだまだ元気ですよね。

一方、年齢が若いからといって、この先もずっと健康かどうかはわからないでしょう。高齢であるということが、必ずしも譲渡できない理由ということではなく、何かあった時には譲渡する先があるとか、本人以外に世話をしてもらう体制があるとか、さまざまな条件や環境を検討して判断すべきかと思います。行政が譲渡に関してそういう指針を示すことによって、現在活動しておられる保護団体さんの方も同じような方向になっていくとよいなあと思います。

我々が科学的根拠をもって言うことは難しいのですが、人間は動物と一緒に暮らすことでよい面がたくさんありますよね。精神的な癒しという面だけでなく、肉体的な面でも。たとえば、家にこもりがちな高齢者でも、犬の散歩となれば毎日外に出て歩くことが習慣になるでしょう。高齢の人に譲渡しないデメリットもあると言えるのかもしれません。
ただ、これからは譲渡してもらう側の意識も変えていかなければならない部分もありますね。譲渡希望の方は、年齢の若い犬や猫を欲しがる傾向があると思うのですけれども、最近は犬や猫の寿命が昔より長くなっています。猫だと20年の長寿もあり、そうなってくると子猫から高齢者が育てるのは難しいですよね。そのあたりも今後ガイドラインに盛り込んでいけるか、盛り込むとしたらタイミングはいつか、そのあたりの検討もしております。」

 

 

ペット業界、非営利団体には法令を遵守し、人とペットをつなぐ役割を

ー日本の動物福祉向上のための現状の問題点と解決策について、お考えをお聞かせください。

 

「2019年の動物愛護管理法改正では、生後8週以下の仔犬や仔猫の展示や販売を禁止したり、飼育のスペースや飼育する人員に関する基準を設けたりするなど、数値規制を行いました。しかし、法令が遵守されていないのではという懸念もあります。そこで、昨年11~12月に環境省からの要請で都道府県等の自治体職員がペットオークション会場や繁殖業者への立ち入り検査を実施しました。

法律で基準を定めることだけで問題が一挙になくなるわけではありませんが、繁殖業者もぺットショップも、動物と飼い主をつなぐ重要な役割を担う存在であることを忘れないでいただきたい。営利目的の事業とはいえ、ものを販売しているわけではなく、命ある動物を届けているという意識をもっていただきたいと思います。もちろん、両者をつなぐ役割を担っているという意味では、動物愛護団体さんも同じですね。我々が規制を強化していくのは、『人と動物の共生をする社会』を目指すためであって、規制によって動物と人が疎遠になってしまうのは本末転倒だと思います。しっかり法令を遵守していただき、ちゃんと人とペットをつなぐ役割として、自負を持って活動してほしいと思います。」

 

*環境省様の報道発表資料「ペットオークション・ブリーダーへの一斉調査結果について」

 

 

一般の飼い主さん、飼い主候補の方には、動物を飼育することに責任を

ー一般の飼い主候補ができることは。これから動物を飼育しようと思う方、また動物に関わるすべての人にメッセージをいただけますか。

「犬猫に限った話ではなく、動物を飼育することにきちんと責任をもっていただく。そういう当たり前の事が重要だと思います。同時に、動物を飼うことを迷惑であると感じる方がいることも認識していただきたいですね。動物愛護のためにちゃんと飼う、管理のためにちゃんと飼う。命あるものの未来にちゃんと責任持ってください、と伝えたいです。

コロナ禍でペットブームが叫ばれる昨今ですが、一時的なブームでは困ります。飼い主さん側もそうなのですが、渡す側、つまりペットショップも責任を持っていただきたいです。対面販売においては個体についていろいろ説明する義務があるのですが、ただ一通り話しただけでは不十分です。初めて動物を飼育する飼い主さんにも、ちゃんと伝わったか、正しく理解してもらったかどうかを確かめることが重要だと思っています。飼い主さんも、きちんと理解するまでとことん聞く。お互いが意識を高めないといけないと思います。

我々の世界には、動物が好きな人もいれば、そうじゃない人などいろいろな考えや立場の人がいます。立場上、動物を扱うことを生業としている方や保護団体の方などいろいろな方とお会いする機会があるのですが、そういう中で常々感じるのは『共感力』がいかに大切かということです。お互いがお互いの立場や意見を主張するだけでは、課題の解決に結びつかないものです。

私は、もともとレンジャー職といわれる自然系の技術系技官です。国立公園という自然のある環境の中で人と人を繋ぐ仕事をしてきました。開発側の人、保護側の人などさまざまな立場の人を繋いだりとか調整したりする仕事が多かったと思います。そして、昨年からは動物愛護管理室の室長という立場になり、業務の対象が飼育している動物になったわけですが、行っているのは動物を核として人と人をつなげていくという意味では同じようことが重要な仕事だと感じています。

自然保護の仕事も、動物愛護管理の仕事も、どちらにも共通していると思うのは、『共感力』から物事が始まるということです。ますは、お互いの意見をまず聞きましょう、相手の考えを理解しましょう、少しでも歩み寄ってみましょう、ということです。お互いに一歩たりとも動かないのでは話が前に進みませんからね。動物愛護管理の世界も、人同士がお互いの考えを理解しようとすることが重要ではないかと思います。」

 

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