動物行動治療の獣医さんに感謝!むーたんのトイレ奮闘記
愛犬がおうちにやってきたら、初日から始めなければならないトイレトレーニング。すぐに覚えてくれる子もいるようですが、むーたんは2歳頃になってやっときちんとトイレができるようになりました。私たちのトレーニングはなかなかうまくいかず、最終的には動物行動治療学の先生の力を借りることになったのです。ここではそんな私たちのトイレトレーニング奮闘記をご紹介します!
トイレトレーニングの大原則
トイレの失敗を怒ってはいけない
世の中には実に様々なトイレトレーニングの方法がありますが、全てに共通して言えるのは「失敗したときに怒ってはいけない」ということです。言葉を話せない犬と細やかなコミュニケーションを取ることは難しいので、「言ったら伝わる」と考えない方がいいでしょう。しかも犬を迎えたばかりで、まだあまりお互いのことを理解できていない状態で怒るのは、いたずらに犬に恐怖心を植え付けてしまう恐れがあるので絶対にやめた方がいいです。
怒るという手法が抱えるリスク
何度言ってもトイレを失敗する愛犬に対して、イラッとすることは誰にでもあると思います。でもそんな時に怒りの感情を伝えてしまうと、それが変な風に愛犬に伝わることがあるので注意しなければなりません。
例えば、飼い主は大切な絨毯の上で粗相したことに怒っていても、言葉を理解できない犬からすると、排泄行為そのものを怒られていると勘違いしてしまうことがあります。そうすると飼い主に見つからないようにソファの裏などで隠れておしっこをするようになったり、ウンチを隠すために自分で食べるようになったりするケースもあるのです。
むーたんのトイレ失敗談
むーたんが子犬の時のトイレ事情
トイレトレーニングについては本でもネットでも色々なことが書かれていますが、方法としてはだいたいこんな感じです。
- そわそわしてきたらトイレシートに移す
- トイレに失敗したら何もなかったかのようにすぐに片付ける
- 上手にできたら褒める
しかし、むーたんはトイレにいくそぶりを欠片も見せなかったので弱りました。「時間的にそろそろトイレかな?」と思ってトイレシートを敷いたケージの中に入れても、「遊んで!出して!」と大騒ぎ。全くトイレに行く気配がないので、ケージから出して遊んでいると、前触れもなくいきなり絨毯の上に粗相します。
しかも当時は毛足の長いカーペットを敷いていたので、目を離した好きに粗相されるとなかなか気付くことができません。そのまま気付かずに粗相された場所に座ってしまい、私は何度もスカートやズボンを洗う羽目になりました。「もー、カンベンしてよー。」などとブツクサ言いながらカーペットを綺麗にしていると、遊びたい盛りのむーたんに邪魔される始末。怒ってはいけない、怒ってはいけないと自分に言い聞かせながら、何度も何度も絨毯を掃除しました。
トイレの場所を覚えた後も…
ようやくトイレの場所を覚えてからも、むーたんはトイレシーツ以外の場所でトイレをすることが度々ありました。基本的には絨毯の上にすることが多かったのですが、たまに私たちの寝ているベッドシーツにもすることがあって、夜遅く仕事から帰ってシーツ交換をするのは結構辛かったです。
この頃は私たちがいるときはきちんとトイレシーツでしていて、ごはんの準備などでむーたんから目を離している隙に他のところでやられることが多かったので、粗相していることに気付かない私は、しょっちゅうむーたん爆撃に被弾していました。
むーたんパパとも相談して、「トイレシーツの場所はわかっている。さらに、トイレシーツ以外の場所でするのは悪いことだというのもわかっているはず。だから絨毯の上でトイレをするときは、私たちの目を盗んでしているに違いない。」という結論に至りました。
問題は、なぜトイレシーツ以外の場所でするのか、ということです。何か私たちに不満があるのかもしれないという不安から、私は怒らないでやっぱりブツクサ言いながら粗相の跡を片付けていたのでした。
ついに怒るという手法に…
しかし、それからしばらくすると、今度は私たちが見ている目の前でも平気でカーペットの上で粗相するようになったのです。その時のむーたんの顔がいかにも「えーい!ここでしちゃえー!」みたいな風に見えて、私はつい「コラー!やめろバカー!」と、声を荒げるようになりました。むーたんパパも怒るようになり、トイレトレーニングの大原則である「怒ってはいけない」を2人で無視してしまいました。そんなとき、動物行動学を専門とした行動治療の獣医さん知り合ったのです。
行動治療の獣医さんの話で不安に
行動治療の先生のところには、様々な問題を抱えた犬たちがやってくるそうです。飼い主さんから離れることに極端に不安を感じる子や、合わないしつけが原因で攻撃行動をするようになってしまった子、ストレスから自分の手を噛むようになった子など。その先生のお話を聞いていると、犬も人間と同じように、繊細な感情を持っていることがよくわかります。
そんな話をたくさん聞いているうちに、私は「動物が問題行動を起こすには、必ず何かしらの理由があるのではないか。」と考えるようになりました。むーたんのトイレ問題も、実はトイレの場所を覚えていないのではなくて、他になにか原因があるかもしれない、と思うようになったのです。
むーたんがトイレを失敗する原因
長いお留守番が原因か?
むーたんが小さい頃、私もむーたんパパも働いていたので、平日はいつも長いお留守番をさせていました。そのことはかかりつけの獣医さんからも改善するように言われていて、ずっと私たちの負い目になっていることでした。もしかしたら長いお留守番がむーたんに大きなストレスを与えて、トイレを失敗するようになったのかもしれない…。私は徐々にそんなふうに考えるようになりました。
さらに、職場で分離不安(飼い主さんから離れることを極端に嫌う心の病気)の犬の話を聞いた私はますます心配になり、ついにお留守番カメラを買う決心をしたのです。残業が長引いたときにお留守番カメラを覗くと、クッションの上で寝ているむーたんが見えます。たまに玄関の方へ顔を向けて、悲しそうにじーっと扉を見つめていることもありました。おそらく近所の人が帰ってくる足音に反応していたのだと思います。
そんなむーたんの様子を見てしまうと余計にかわいそうになって、トイレの失敗なんてどうでもよくなってしまいました。わざと私の目の前で粗相をしても、「寂しかったんだね。ごめんね。」と優しく声をかけるようになったのです。
行動治療の先生に相談した結果
しかし、お留守番の時間を短くしようと努力しても、お家にいる時にたくさんむーたんと遊んでも、よくなる兆しは全くありません。むしろ悪化しているようでした。そしてある日、なんと横になっている私の背中の上で粗相をしたのです!これには私もびっくりしました。驚き以上に不安と悲しい気持ちが大きくて、仕事で知り合った行動治療の先生に相談することにしたのです。わざわざ自宅まで来て診察してくれた先生の口から聞かされた話は、私たちが全く想定していなかった結果になりました。
「おそらく、トイレの後のリアクションがご褒美になってしまっていますね。」
振り返って考えてみると、むーたんがトイレを失敗した時、私はブツクサ言いながら片付けていました。さらにむーたん爆撃(うんち)をうっかり踏んでしまった時はギャーギャー大騒ぎしていました。そして「コラー!」と声を荒げてみたり、優しい言葉をかけてみたりして、いちいち反応していたのです。
先生はこんなことを言っていました。
「これだけ人とじーっと見つめ合う子は珍しいです。この子はきっと自分のことを見てほしくてやっているのでしょう。トイレを失敗すれば飼い主さんたちが構ってくれるとわかってるんですね。リアクション全てがご褒美になっているので、これからは一切リアクションをしないでください。もちろん叱るのもダメですが、無視をするのもダメです。何事もなかったかのように振る舞うんです。難しいと思いますが、がんばってください。それと、きちんとトイレシートでした時は、思いっきり構ってあげてください。」
私は今までたくさんの本やインターネットで情報を仕入れてきたつもりでした。確かに「構うとご褒美になる」という情報もいろいろなところに書いてありました。しかし、長時間のお留守番をさせていることに罪悪感のあった私は、その情報を知っていたにも関わらず、そんな風に考えてみたことすらありませんでした。それよりも問題行動をする犬の話や、分離不安の犬の話などを聞いたせいで、とんちんかんな方に考えを膨らませていたのです。先生の話にとても納得できたと同時に、素人が下手な知識を持つことのリスクを実感した瞬間でした。
すっかりおトイレ上手に
それから先生のアドバイスに従ってノーリアクションを貫きました。私とパパがお話で盛り上がっているときに、むーたんが私たちから見えるように粗相をしても、私たちは何もなかったかのように話を続け、何事もなかったかのように笑い、むーたんがその場を離れると話を続けながら片付けました。反対に、むーたんがトイレシートでトイレできた時は、どんなことでも必ず中断して、全力で褒めてあげるようにしました。そんなことを1週間くらい続けていると、ピタッと粗相がなくなったのです。
最後に
たくさんの時間をむーたんと一緒に過ごした私は、むーたんの気持ちをすっかりわかったつもりでいました。しかしこのトイレ問題で、改めてコミュニケーションを取ることの難しさを痛感したのです。我が家の場合は半分笑い話で済んだのですが、こういった思い込みが不幸な結果を生み出すこともあります。1人で思いつめたり悩んだりした時は、気軽に専門家に相談してみるのもいいと思います。
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