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一緒に暮らす愛犬に、芸を教える必要は本当にある?

一緒に暮らす愛犬に、芸を教える必要は本当にある?

2018/07/11

先日、仕事でトレーニング教室主催のパピーパーティーに参加した際、教育熱心な飼い主さんを見かけました。飼い主さんと一緒にいたのは生後半年の快活なポメラニアンの男の子で、完璧に「おて」や「おすわり」、「伏せ」ができるだけでなく、飼い主さんの手の動きに合わせてくるくる回ったり、飼い主さんが銃を撃つふりをするとパタリと倒れたりする、芸達者な子でした。楽しそうに飼い主さんを見上げてはいろいろな芸を披露し、飼い主さんもとても嬉しそうに褒めたり撫でたり、見ていて思わず笑みがこぼれる光景でした。

ちなみに私もヨークシャーテリアの女の子と暮らしているのですが、私はその子に芸を教えるつもりはありません。これからも教えることはないと思います。

「そんなこともできないの?」と言われても

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私たちと暮らしているのは、もうすぐ3歳になる「むーたん」というヨーキーの女の子。心優しいのんびりした性格で、私たちは今までむーたんが本気で怒ったところを見たことがありません。

そんなおっとりしたむーたんに、私は「おすわり」と「まて」しか教えていません。犬と一緒に暮らしたことのない人からは「え!この犬、『おて』もできないの?」と驚かれることもありますが、今後も私は「おて」を教えるつもりはありません。それにはきちんとした理由があるのです。

想定外のドッグライフの幕開け

▼ むーたんがお家に慣れるまで

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今でこそお家が大好きなむーたんですが、お家にやってきたばかりの頃はなかなか新しい環境に慣れてくれませんでした。心を閉ざしたむーたんと過ごす最初の1ヶ月は、思い描いてたドッグライフと全く異なっていて、むーたんにとっても私たちにとっても、苦しい時期になりました。しかしその経験があったからこそ私は、当たり前のことですが、「犬にも色々な感情があるのだ」ということに気付くことができたのです。

私たちは「犬は人間のことが大好きで、一緒に暮らせばすぐに仲良くなれるもの」と思い込んでいました。生まれ育った慣れ親しんだ場所で、お母さん犬や兄弟たちと幸せな日々を過ごしていたところを、ある日突然家族と引き離され、ショーケースでひとりぼっちの時間を過ごし、いきなり見たことのない人たちに引き取られ、全く知らない新しい土地で暮らすむーたんの気持ちを、全くわかっていなかったのです。きっととても不安で心細かったでしょう。本当に怖かったでしょう。そんなむーたんの気持ちに気付いてあげるまでに、随分と時間がかかってしまいました。

▼ 苦手なものがたくさん

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私たちに心を開いてくれた後も、むーたんは色々なものが怖いようでした。家の中に慣れるまで時間がかかったむーたんにとって、外の世界はもっと怖かったようで、お散歩に行ってもほとんど歩けませんでした。さらに、あまり子犬育ての知識がなかった私は、むーたんにお友達を作ってあげようとしてドッグランに連れて行ってしまい、大きな犬に追いかけ回されたせいで、他の犬まで嫌いになってしまいました。

なんのためのトレーニングなのか

犬を迎えると多くの飼い主さんが、ネットや雑誌で見つけてきた子犬の育て方を実践しようとします。私もむーたんがお家にやってくる前までは「とりあえず、『おすわり』と『おて』は教えなくちゃ!」と思って、インターネットでトレーニング方法を検索したりしていました。しかし、想定外の連続だったむーたんとの暮らしのおかげで、むーたん自身に必要なことがなんなのか、じっくり考えることができるようになったのです。

▼ 楽しいことを覚えるトレーニング

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いろいろなことを怖がっていたむーたんには、「世界は楽しい」と知ってもらうことが何よりも必要だと私は思いました。そのためには、大嫌いな外の世界に慣れなければいけません。

そこで上手にお散歩する「つけ」のトレーニングは一旦中止し、お散歩の気持ち良さを知ってもらうことに専念しました。家の近くにあるお寺の境内まで抱っこして出かけていき、そこで土の匂いを嗅がせたり、好きなように歩き回らせたりしました。できるだけむーたんの好きなようにさせてあげて、元気に歩いた時はいっぱい褒めてあげました。行きよりは帰りの方が歩けるようだったので、帰りは歩けるようなら歩いて帰り、無理な場合は抱っこして、バイクなどの大きな音がした時には不安を取り除いてあげられるように、なるべく明るい声で話しかけながら帰りました。

そんなトレーニングを根気強く続けていくうちに、たまにテンション高く出発できる日が出てくるようになりました。そして2歳の誕生日を迎えることには、やっと普通にお外でも楽しく遊べるようになったのです。

「思い込み」に要注意

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長い間愛犬と一緒に暮らしていると、その子が何を考えているのか、飼い主さんは大体理解できようになります。愛犬が言葉を話せなくても、耳の立ち具合や尻尾の向き、目の輝きなどから、その子が今どんなことを感じて、何を求めているのか、理解できるようになります。けれど、まだお互いのことがあまりわかっていない時期は、意外と言葉を話せない相手とのコミュニケーションに苦労することがあります。そのとき最も邪魔になるのが、飼い主側の「思い込み」です。

むーたんをお迎えした時の私は「犬は人懐っこいもの。」と思い込んでいたために、なかなかむーたんの気持ちに気付けませんでした。もしも「犬は散歩が好きなもの。」と思い込んでしまっていたら、きっとむーたんはいつまで経っても外の世界に慣れることができず、今でもお散歩の楽しさを理解できなかったでしょう。

  • ・怒ればわかるはず。
  • ・飼い主の言うことをきちんときくはず。
  • ・犬は吠えてはいけない。
  • ・遊ぶことと食べることは好きなはず。
  • ・子犬育ては楽しいはず。

このような思い込みが、慣れない非言語でのコミュニケーションをさらに混乱させてしまうのです。間違ったコミュニケーションは飼い主さん自身を追い込んでしまったり、子犬に辛い思いをさせてしまったり、ひどい場合には、子犬に噛む・唸るなどの攻撃行動を植え付けてしまうケースもあります。

もし、飼い主さんが子犬との関係に不安やストレスを感じているようなら、早めに行動治療学の獣医師やドッグトレーナーなどの専門家に相談した方がいいと思います。話を聞いてもらうだけで気持ちが楽になりますし、正しいコミュニケーションの方法を教えてもらうことができるからです!

なぜ「おすわり」と「まて」だけできるのか?

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「好きなことを増やす」という目的のトレーニングの他に、もう1つむーたんにとって必要なトレーニングがありました。それは怪我をしないように、危険な行動を抑止するためのものです。

小型犬は膝が細いため、すぐに骨折をしたり関節の病気になったりするそうです。フローリングの上で滑って転んだり、ソファやベッドから飛び降りたりした時に怪我をしやすいので、お部屋の環境を整えた上で、きちんと注意して生活するようにと獣医さんから言われていました。

しかし、大好きなごはんの時間が近づくと、むーたんは大騒ぎ!ベッド脇に作ったスロープを駆け上がり、そのまま床へジャンプしたり、ごはんの準備をしている私の膝下でぴょんぴょん飛んだりして、いつか怪我をしそうな勢いでした。

ぴょんぴょん飛び跳ねるむーたんに必要なのは、落ち着いて待機できるようになることでした。もしも怪我をして入院をすることになったら、また怖い思いをすることになってしまいます。怖いものをなくしていく練習をしているのに、怪我をしたらもっともっとお外が嫌いになってしまいます。そこで「おすわり」と「まて」だけはできるように、じっくり時間をかけて練習しました。今ではごはん前などに飛び跳ねそうになった時は「おすわり」で落ち着けるようになったし、お散歩中の赤信号もきちんと座って待つことができるようになりました。

トレーニングの目的を見失わないで

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むーたんの場合はこんな性格なので、「おすわり」と「まて」しか教えていませんが、もしも次に体を動かすのが大好きな子を迎えたら、きっとアジリティなどのドッグスポーツを教えると思います。また、元気いっぱいの子を迎えたら、色々なトレーニングをしてたくさん褒めてあげるでしょう。

どんなトレーニングをするのかは、その子の性格によって変わると思いますが、トレーニングをする目的は、飼い主さんの思い込みや自己満足ではなく、あくまで子犬のためのもの、子犬と飼い主さんが素敵な関係性を築くためにするものであって欲しいと思います。

冒頭でお話しした飼い主さんと元気なポメラニアンの場合、きっとたくさんの練習時間を二人で共有することで、より素敵な関係性を築くことができたのでしょう。一緒に練習することでたくさんコミュニケーションを取れるようになりますし、上手にできるようになった時は愛犬と一緒に喜ぶことができます。愛犬をいっぱい褒めてあげるためのきっかけ作りにトレーニングは最適なのです。

まとめ

子犬が人間世界で快適に暮らせるようになるには、トレーニングが必要不可欠。その子が楽しく幸せに暮らせるかどうかは、飼い主さんにかかっています。愛犬にしっかり向き合って、どうか幸せいっぱいの一人前のワンコに育ててあげて下さい!

 

 

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