幸せなペットを増やそう

愛犬と暮らし始めてから、ペットショップに行けなくなったワケ

私たちの元にヨークシャーテリアの女の子がやってきたのは、今から2年半くらい前のことです。心穏やかな優しい子で、ぽーっとした見た目から「むーたん」と呼ぶことに決めました。毎日たくさんの幸せを運んでくれるむーたんと過ごせている私は、声を大にして世界一幸せ者だと言いたいのですが、実はむーたんがお家に来たばかりの頃は全然うまくいっていなかったのです。

出会いは六本木のペットショップ

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むーたんと出会ったのは六本木のペットショップでした。当時、付き合って半年くらいだった私たちはペットショップ巡りにはまっていて、可愛い子犬や子猫を見た後に美味しいごはんを食べながら、「あの子は可愛かった」「もし飼ったらどうなるかな」という話で盛り上がるのが定番の流れでした。

そんな中、六本木の騒々しい大通りに面したペットショップでむーたんに出会ってしまったのです。運命的な出会いを感じたのは、私ではなく彼の方でした。他の子たちは店員さんがケージの扉を開けると、嬉しそうにしっぽを振りながら駆け寄って来るのに、むーたんは扉が開くと同時にクルクル回りながら後ずさりするという、不思議な行動をしていました。店員さんから「もしかしたら脳に障害があるかもしれません。」と言われたのですが、完全に心を奪われてしまった彼は「ちゃんと冷静に考えないといけない。」と言いつつも、一晩考え抜いて翌日すぐにペットショップへ迎えにいくことを決めました。

実際には引き渡しに1週間ほどかかったので、その間に私たちはお部屋の準備をしたり、色々情報を集めて勉強したりして、2人でワクワクしながらお迎えの日を待ちわびていました。そしてついにやってきたお迎え当日、むーたんの入ったクレートをできるだけ揺らさないように、大切に大切に運んだのを今でも覚えています。

子犬とふたりっきりの生活が始まった!

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さて、楽しい子犬との生活が始まったかと思いきや、現実は思っていたのと少し違いました。彼は仕事上接待が多く、平日は基本的に夜遅くまで帰ってきません。それに合わせて、私も外で友人と夕食をとることが多かったのですが、むーたんがやって来てからは仕事を早々に切り上げ、お家に帰るようになりました。いきなり友人たちの時間がなくなってしまったのは少し寂しかったのですが、ここまでは想定の範囲内だったのです。しかし、むーたんがいつまで経っても懐いてくれないことは想定外でした。

どんなに急いで帰っても、むーたんはあまり嬉しそうにしてくれません。しっぽをピクリとも動かしてはくれないのです。ボール遊びは好きなように見えましたが、それでも私との間には大きな壁があるのを感じていました。

むーたんはまだ生後3ヶ月くらいだったので、お迎えに行った日にペットショップの店員さんから「こまめにごはんをあげないと低血糖症になるので気をつけてくださいね。」と言われていました。子犬はまだ体ができあがっていないので、体内にエネルギーを蓄積することができません。ごはんを食べずに動いてばかりいるとすぐにエネルギーが枯渇し、命に関わるのだと、言われていたのです。帰宅後、急いでごはんを準備するのですが、むーたんは食欲がないのか、ちょこっとかじるだけで全然食べてくれません。「むーたん、ちゃんと食べないと死んじゃうよ!」そう心配する私をよそに、ボールを追いかけて跳ね回ります。彼のいない静かな部屋で、ボール遊びをするむーたんを、私は半分泣きそうになりながら見守ることしかできませんでした。

こんなに心配して、仕事を放り投げて走って帰っても、むーたんが懐いてくれる気配はありません。友達の誘いを断ってむーたんと遊ぶために飛んで帰っても、獣医さんからは「まだお家に慣れていないようですね。もうちょっと遊んであげてくださいね。」なんて言われる始末。トイレも私といるときは失敗が続くのですが、なぜか彼が帰ってくるとちゃんとトイレシーツでします。ごはんも彼がいると全部食べるのです。

私のことが嫌いなのかな・・・。だんだんそんなことを考えるようになりました。小さい頃から動物が大好きだったはずなのに、少しずつ子犬の顔を見るのが嫌になっていきました。そんなひどいことを考えるなんて、最低の人間です。こんな悩みを誰かに相談することはできませんでした。

旅行中に動物病院へ預けてみたら

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むーたんを迎えてから1カ月くらい経った頃、私たちはむーたんをかかりつけの病院に預けて旅行に出かけました。ずっと前から計画していたとはいえ、小さな子犬を置いていくのは気が引けます。でも、精神的に疲れていた私を心配した彼が、「もしかしたら旅行が転機になるかもしれないよ。」と言ってくれたので、気分転換も兼ねて出かけることに決めました。

その旅行中、なんと彼の方から「実はむーたんとの間に壁を感じている」と打ち明けてくれたのです。私だけがそう思っていたわけではなかったことにホッとして、そこで初めて私も彼に胸の内を話すことができました。自分一人で悩んでいたのではないことがわかって、それだけで気持ちがとても軽くなりました。そして彼ときちんと話し合って、「もし今、むーたんがこの家のことを嫌だと思っていても、これからはもっともっとむーたんを大切にしてあげよう。いつかむーたんがこの家を大好きだと思ってくれるように、大事に大事に育ててあげよう。」と思えるようになったのです。

そう思えただけで十分だったのですが、旅行から帰ってむーたんを動物病院へ迎えに行くと、なんと今まで見たことがないくらい、ものすごく嬉しそうに出迎えてくれるではありませんか!家に連れて帰った後も「帰って来た!お家に帰って来た!」と言わんばかりに部屋中を駆け回ります。こんなに感情を表現してくれたことはなかったので、とてもびっくりするのと同時に本当に嬉しくて嬉しくて、「この子を絶対に幸せにしてあげよう。」と改めて思ったのでした。

怖がりで、何事にも時間がかかるだけだった

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その旅行を機に、むーたんと私たちの距離はぐっと縮まったように思います。今まで一切動かなかったむーたんの尻尾は、少しずつピコピコ動くようになり、仲良くなるにつれてその動きはどんどん大きくなりました。

今まではボールにしか興味がなかったのに、徐々に私の後をついてくるようになりました。トイレに行けばトイレの前で待っているし、ごはんの準備でキッチンとリビングを行き来すれば、その度にむーたんもついてきます。愛しい気持ちを感じると同時に、こんなに甘えん坊な性格だったのか、と驚きました。

それから色々な練習もしました。お散歩の練習、他の犬とあいさつをする練習、子供に撫でられる練習。どれもものすごく時間がかかりました。特にお散歩は1歳になっても上手にできなくて、突如路上でブルブル震えて前に進めなくなることがよくありました。

でも、その時の私はむーたんが色々なことに慣れるのに時間がかかる子だということをきちんとわかっていたので、励ましたり、おやつをあげてみたり、あえて明るく振る舞ったりして、ちょっとずつ苦手を克服していきました。ようやく普通にお散歩ができるようになったのは、確かむーたんが2歳になってからだと思います。

むーたんの性格を知れば知るほど・・・

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これだけ甘えん坊なむーたんのことです。きっとむーたんは、自分のお母さんのことが大好きだったのでしょう。お父さんや一緒に生まれてきたお兄ちゃんたちにも、たくさん甘えていたかもしれません。それなのにある日突然、まだほんの小さな子犬のときに家族から引き離されて、どんなに寂しかったでしょう。生まれた家を離れて、狭いショーケースに閉じ込められ、見ず知らずの人に抱っこされて、どんなに怖かったでしょう。幼いむーたんが経験したつらい過去のことを考えれば、お家に慣れるのに時間がかかるのは当然だと思うようになりました。

そしてそんなかわいそうな子犬たちを、デートがてら眺め、時に抱っこさせてもらっていた自分がとても恐ろしくなりました。今でも、むーたんのごはんや生活用品を買うためにペットショップへは定期的に行くのですが、そこには昔の私と同じような人たちがたくさんいるのです。

小さく生まれすぎて歩き方に違和感があるトイプードルの前で「きゃー、ちいさーい!可愛い!!」と言う女の子。むーたんを見て「この子みたいに目が大きい子が欲しくて、ペットショップを巡ってるんです。」と言う女性。「うちは最近、とても高いポメラニアンを買ったんですよ。」と誇らしげに言う男性。

彼らを批判するわけではありません。ペットショップを訪れる多くの人たちは動物が大好きで、子犬を迎えた後はきっといい飼い主になることでしょう。でも、むーたんと多くの時間を過ごした今の私からは、絶対にそんな言葉は出てきません。むーたんとの絆が深くなればなるほど、私はペットショップがひどく恐ろしい場所だと思うようになりました。

安い価格で売られていたむーたん

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むーたんと出会った時、他のペットショップにもヨークシャーテリアはいました。どの子も高額だった中、一番安く売られていたのがむーたんでした。親バカだと言われるかもしれませんが、むーたんはとても整った顔をした子です。見た目の可愛さで金額を決めるはずのペットショップで、なぜあんなに安く売られていたのか不思議に思い、真剣に考えたことがあります。あくまで私の考察ですが、おそらく2つの理由があったのだと思います。

まず、むーたんは環境に慣れるまでにものすごく時間がかかる子だということ。他の子犬たちと比べると、ペットショップの店員さんに対しても、なかなか心を開かなかったのだと思うのです。店員さんからすると、「人懐っこくない子」と思われても不思議ではありません。それが金額を下げる一つの要因だったのではないでしょうか。

そしてもう一つは、脳に障害がある可能性を指摘されていたということ。むーたんを初めて抱っこさせてもらったとき、ケージの扉の前でクルクル回っているのを見た店員さんは「脳に障害があるかもしれない。」と言っていました。確かに、てんかんを持っている子は回ることがあるそうです。

しかし、一緒に暮らしてみてわかったのですが、このクルクル回る行動はむーたんが嬉しい時に取る行動なのです。ごはんの準備をしはじめたらものすごい勢いで回りますし、私がおうちに帰ったら、大きな耳をペタンと寝かせて、クルクル回りながらお迎えしてくれます。

ペットショップの店員さんが脳の障害を指摘していたあのとき、開いたケージの扉の前で一生懸命回っていたあのとき、むーたんは嬉しくてクルクル回っていたんです。ひとりぼっちのケージから出られることがわかって、新しい家族になる私たちに見つけてもらえたことがきっと嬉しくてクルクル回っていたのだと、そう思うのです。

私が出会った素敵なペットショップ

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今まで仕事やプライベートで、様々なペットショップを訪れました。ペットショップの中には、犬を商品としか思っていない姿勢に気分が悪くなったお店から、「こんなところで過ごせると犬たちも幸せだろうな」と思ったお店もありました。

様々なペットショップを見てきて思ったのは、今の日本で犬に優しいペットショップを運営しようとすると、どうしてもお店側に大きな負担がかかってしまう、ということです。

子犬に優しい環境を作るには、オークションを介さないで優良なブリーダーを見つける必要があります。さらに子犬に優しい環境を整えるために、広いケージを用意したり、ベッドやお水を完備したり、常にケアをする人員を配備しなければなりません。

一方、劣悪なペットショップはオークションで可愛い子犬を安く買いあさることができます。お水もトイレもない狭いケージに子犬を閉じ込めて、売れ残った子犬は処分すればいいので、時間もコストも優良ペットショップほどかかりません。コストが低ければ、当然販売額は安く抑えることができますよね。

つまり今の日本だと、劣悪なペットショップの方が可愛い子犬を安価で売りやすい仕組みになっているのです。飼い主である私たちが、可愛い子犬を安く買えるからという理由で、劣悪なペットショップを選んでしまっているのです。この状況は、私たち飼い主が正しい知識を身につけることで、改善していけると私は考えています。

飼い主である私たちにできること

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ペット後進国と言われる日本では、目を覆いたくなるような悲惨な問題が山積みです。毎年多くの犬猫が殺処分で命を落とし、動物虐待をした人間をきちんと裁く法律はありません。あまりに残酷な現状に、思わず目を背けてしまう人も多いと思います。私も今まで、自分にできることは何もないと思っていたので、そういう情報はなるべく避けて通ってきました。

でもせめて、自分の家族である愛犬が、お家にやってくるまでどのような思いで過ごしていたのかは、ぜひ一度考えてみて欲しいです。生まれてすぐにお母さんから引き離され、ダンボールに詰められて、オークション会場で見ず知らずの人に囲まれる恐怖。ひとりぼっちでショーケースに飾られる心細さ。そんな子犬たちの苦しみをリアルに考えられるのは、他でもない私たち飼い主だと思うのです。

「ペットは家族」とよく言いますが、その言葉の本当の意味を理解できるのは、実際に犬と一緒に暮らしている私たち飼い主だけ。その子がただ一緒にいてくれることの幸せは、これから犬を迎えようとしている人には完全に理解することはできないでしょう。

まずは私たち飼い主自身が、自分の中にあるペットショップのイメージを変えていきましょう。「そんなことをしたくらいで、悲惨な現状を変えられるわけではない。」と考える方もいると思います。確かにその通りです。

それでも、愛犬が経験したつらい過去に向き合ってあげれば、今以上に愛犬への理解が深まって、もっともっと大切に接することができるようになるかもしれません。二頭目を迎える時、ブリーダーから直接貰い受けたり、保護犬を譲り受けたりという選択肢を考えることができるかもしれません。知り合いがペットショップで犬を探している時、「あそこのペットショップは良くないんだよ。」と、伝えることができるかもしれません。

犬と暮らしていない人の意識を変える前に、犬と暮らす全ての飼い主さんの意識が変わることで、犬を取り巻く環境は絶対に良くなっていくはずです。ぜひ一度、愛犬の子犬時代について家族みんなで考えてみてください。

 

 

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