【日本動物福祉協会(JAWS)】地域猫活動で、猫好きさんと猫嫌いさんが共生できる社会づくり
アニドネ認定団体の公益社団法人 日本動物福祉協会さん。
1956年の設立当初より、命にやさしい社会を目指して、日本の動物福祉向上のために啓発活動を行われています。
今年から始まった全9回の『動物福祉市民講座』では、誰でも多角的に動物福祉について学ぶことが出来ます。
今回のテーマのひとつが『ノラ猫問題』ということで、大の猫好きのアニドネスタッフが受講してきました。その内容をレポートします。
講師は練馬区の地域猫活動を牽引した行政マン
講師は地域猫活動アドバイザーの石森信雄さん。
石森さんが保健所の担当をされていたのは今から10年程前。
1年間で400件以上ものノラ猫を原因とするクレーム電話が保健所に入り、「これはどうにかしないと」と立ち上がったそう。
活動から10年ほど経った今、クレーム電話は激減。
飼い主のいない猫は激減したといいます。
そのご経験を活かし、他部署に移動した現在も、地域コミュニティにおける人と猫との共生のあり方や、行政とボランティアの協働のあり方について、各地で講演や研修を行うなど、普及啓発をされています。
「猫好きさんと猫嫌いさんが共生できる社会」が「人と猫が共生できる社会」
ノラ猫は何が問題なのでしょうか。
「ウチの庭がネコのフンだらけで困る!」
「庭の草花がノラ猫に荒らされた!」
「夜中にうちの前でエサをばらまく人がいて、臭うし、虫だらけになるし不潔!」
これらがノラ猫被害にあっている方から来るクレームです。
そもそも、世の中には猫好きさんもいれば、猫が嫌いな人もいます。
石森さん曰く、その割合は猫好きが2割、猫嫌いが2割。
残りの6割、つまり過半数の人は「好きでも嫌いでもない人」と考えられるそうです。
そして、異なる立場の三者は、それぞれノラ猫をこう思います。
2割の猫好きさん:「この子たちが不憫。こんな子たちはもう生まれないで欲しい」
2割の猫嫌いさん:「猫は嫌だ。とにかくいなくなってほしい」
6割の好きでも嫌いでもない人:「殺処分とかは良くないと思うけど、ノラ猫だらけの状況はマズイ」
つまり、立場が異なる三者ですが「ノラ猫がいる状態は良くない」と思っていることだけは一致しています。
覚えておいて欲しい!ノラ猫の5つの特徴
①驚異の繁殖力
猫は何歳くらいから、一年にどれくらい出産できるか知っていますか?
早い個体で生後半年の、一見してまだ子猫と思うほどの小さな外見のときから妊娠の可能性があります。
猫の妊娠期間は約2ヵ月(60~68日)で、一度の出産で平均5頭(4~8頭)出産します。
そして、約2ヵ月後に子猫が離乳すると次の妊娠が可能になるのです。
この計算でいくと、1匹の猫だったはずが、1年後には20頭以上にも増えてしまう可能性があるのです。
②意外と狭い行動圏
日常生活圏は、直径100m以内と意外と狭く、その中で複数のエサ場、トイレ場、出産場所などを決めて一日中を過ごしているそう。
③強固なテリトリー意識
仲間以外の猫の侵入は許さず、侵入者がいればボス猫が中心となって撃退します。
ノラ猫にとってテリトリーは命。
④食事の習性
複数のエサ場をもっていてそれらを上手く巡回しています。
(ただ、エサをあげている人は「自分だけがエサをあげている」と信じ込んでいるそう)
毎日同時刻に給餌し、片付けをすれば、その時間に来るようになります。
(ノラ猫の腹時計はお見事なんですって!)
⑤寿命が短い
完全室内飼いの飼い猫の寿命は15~20年と言われています。
一方、ノラ猫の平均寿命は4~5年。
言わずもがなですが、外での生活はとても過酷。
交通事故や病気などによって命を落とすため短命なのです。
「地域猫活動」を成功させるための4つのポイント
「猫好きさんも、猫嫌いさんも共生できる社会」をつくることが、結果として「人と猫が共生できる社会」となります。
それでは、ここまでで学んだノラ猫の特徴を踏まえて、地域猫活動成功のポイントを講義内容から抜粋してお伝えします。
-
ポイント1:対策はテリトリー単位で!
エリアを決めずに闇雲に対策しても無意味。
-
ポイント2:テリトリー内のすべてのノラ猫に不妊去勢手術を!
短期間に、一気に全頭手術をして、繁殖を止める。
-
ポイント3:手術済みの猫にテリトリーを守ってもらおう!
流入猫(未手術)を追い払ってもらうために、手術した猫(特に成猫)は原則として現場に戻す。
-
ポイント4:テリトリー内の住民みんなが「地域猫活動」を事前に知っていること!
人間が一番嫌うことのひとつが「知らないこと」なんだそう。
また、地域猫活動の中で最大のトラブルが起こるのは、外飼いにしていた飼い猫を手術してしまった時です。
捕獲の予告から、途中経過、完了したことを住民みんなに知らせることが地域猫活動を成功させるためにとても重要になってきます。
地域猫活動で「持ち込みゼロ」に
「殺処分ゼロ」という言葉をよく耳にするようになってきました。
しかし石森さんは目指すべきなのは「殺処分ゼロ」ではなく、その先にある「持ち込みゼロ」であると提唱しています。
そのためには、猫が嫌われないような地域社会づくりが必要です。
地域猫活動を終えた(周知まで完了して終わり)地域では、不思議と6割を占める猫が好きでも嫌いでもない人たちは、猫に優しくなるんだそうです。
そして、もしもあなたが24時間食べ放題の状態でエサを置いているのなら、猫のために、同じ時間、同じ場所でエサやりをする習慣に変えましょう。
フン被害がひどい場合は、猫のために、より良いトイレを作ってあげましょう。
2割の猫好きさんは、猫が嫌われものにならないために動かなくてはなりません。
ノラ猫問題を解決する主役は、実は地域住民
ノラ猫問題は、行政がやるべきことでもなく、ボランティア団体がやるべきものでもありません。
地域トラブルであるのですから、その主役は地域住民です。
もし、あなたが住む地域でノラ猫問題が起きているのなら、是非一歩を踏み出す勇気を持ってほしいと思います。
石森さんは講演でも使用した資料を無料でホームページに公開してくださっているのでどなたも見ることが出来ます。
実践編にはかなり詳しく長年培ったコツやポイントが載っていますので、ご参考にしてください。
地域猫活動の成功のために重要な「知らせる」ためのツールである、チラシのテンプレートなども載っています。
石森さんのホームページはこちらから。
そもそも“ノラ猫“というものは人間が作りだしたものです。
未手術の飼い猫を捨てたり、外に出して飼うことで“ノラ猫”が誕生してしまいました。
一人ひとりの動物福祉の知識を高めて「不妊去勢手術は当たり前」「完全室内飼いが当たり前」という価値観を常識にしていきたいものです。
今後の動物福祉市民講座の予定は、日本動物福祉協会さんホームページよりご確認ください。
日本動物福祉協会さんへの寄付金はこうした動物福祉向上のための研修会やセミナー開催費用に使用されます。
日本動物福祉協会への寄付はこちらから。
※掲載の文章・写真はアニマル・ドネーションが許可を得て掲載しております。無断転載はお控えください。