行政施設レポート

徳島県動物愛護管理センター 見学レポート

アニマル・ドネーションでは、動物のためにがんばる行政施設への取材を行っています。
行政の施設というのは、いわゆる「保健所」や「動物愛護センター」と呼ばれている施設です。都道府県や市町村の予算によって運営管理されています。

 

今回は、「徳島県動物愛護管理センター」を取材し、お話を伺いました。(取材:2022年4月)

施設概要

徳島県動物愛護管理センター
・所在地:徳島県名西郡神山町阿野字長谷333
・開設:2003年4月29日(譲渡交流拠点施設「きずなの里」2018年3月)
・開館時間:8:30〜17:15(利用時間:9:30〜16:00)
・休館日 :年末年始

 

徳島駅から車で約30分。徳島県愛護管理センターは、自然豊かな山あいにあります。

徳島県動物愛護管理センター

建物は、事務所や動物に関する啓発展示が行われる「愛護管理棟」、譲渡動物の管理やボランティアの方が集う「譲渡棟(きずなの里)」、保護されたばかりの犬や猫が収容されている「収容棟」の3つに分かれています。

愛護管理棟の1階には、多目的ホールや図書コーナー、犬や猫とのコミュニケーションを体感できる楽しい展示などが用意されていました。

愛護管理棟
愛護管理棟
多目的ホール
多目的ホール。譲渡会「飼い主をさがす会」で、里親候補の方が受講する譲渡講習会の会場でもあります。
譲渡講習会のようす
譲渡講習会のようす。条件を満たす全ての譲渡希望者は、この講習会を受ける必要があります。(※徳島県動物愛護管理センターHPより引用)

展示1

展示2
頭や背中を触ると、犬や猫がしゃべる楽しい仕掛け。触り方のコツなどを教えてくれます。

譲渡棟「きずなの里」1階は、譲渡に向けて犬の健康管理を行うスペース。2階は、猫の収容スペースのほか、里親候補の方と猫とのマッチングを行う部屋などがあります。このマッチングスペースは、猫との暮らしを具体的にイメージできるように、一般家庭のリビングを再現したつくりになっているのだそうです。

譲渡棟「きずなの里」
譲渡棟「きずなの里」
犬の飼養室
犬の飼養室。1部屋1頭で新しい飼い主さんを待ちます。(※徳島県動物愛護管理センターHPより引用)
猫用のマッチングスペース
リビングをイメージした猫用のマッチングスペース。(※徳島県動物愛護管理センターHPより引用)

野外には、犬が運動できるスペースや、広大なドッグランも!

ふれあいサークル
ふれあいサークル。普段の運動のほか、譲渡希望の方と犬のマッチングスペースとしても使用されます。
ドッグラン
ドッグラン。譲渡犬でなくても、申し込めば利用が可能です。(※利用条件あり)

外観も内装もとても明るくきれいで、展示設備も充実しているのが印象的。特に愛護管理棟1階の学習スペースは、子どもも大人も楽しみながら犬や猫について学べるような工夫を感じました。

1頭でも多く救いたい。徳島動物愛護管理センターの地道で新しい取り組み

さて、今回お話を伺ったのは、同センター係長の成田琢郎さん。

長年、獣医師として県内の動物愛護に関わってこられた成田さんに、徳島県の現状と、さまざまな取り組みについて伺いました。

※インタビュー中は、コロナ対策のため、アクリル板のついたてを立ててご対応いただきました。

—まず、センターの役割を簡単に教えていただけますか?

 

「動物愛護の拠点として、犬や猫を保護するとともに、啓発活動も行っています。毎年4月29日の開所記念日に開催される『動物ふれあいフェスタ』や、動物愛護週間中の秋分の日に開催される『動物愛護のつどい』では、一般の方へ当センターを開放しています。動物とのふれあいや講演会を通じて命の大切さや飼い主の責任について考えてもらうイベントで、2020年以降はコロナ禍のため開催できていませんが、2019年には約1000人もの来場がありました。

 

それから、災害時には動物救護の役割も果たします。『きずなの里』は平常時は譲渡施設ですが、動物用の災害備蓄をしており、災害時には動物を救護する拠点になります。徳島県は南海トラフの被害が予想されていることもあり、動物に対しても常に備えを万全にしています」

南海トラフ巨大地震の震度分布(強震動生成域を陸側寄りに設定した場合) (※気象庁HPより引用)

 

—南海トラフを想定した対策は、太平洋側の地域ならではですね。他にも、この地域だから言える特徴はなにかありますか?

 

「西日本の多くの地域が抱える問題の一つは、野犬が多いことです。山や河原が多く、気候がいいので、寒冷地よりも動物が繁殖しやすいからです。職員が野犬に対応する頻度も高く、当センターに勤務する34名のうち、狂犬病予防技術員が7名在籍しているのも、野犬が多い地域ならではの特徴かと思います。野犬の増加に伴い捕獲数が増え、その結果、殺処分数が増加してしまうという負の連鎖が発生しているのが現状です」

 

—難しい問題ですね。

 

「その状況を少しでも改善するために、当センターでは、『助けられる動物の殺処分ゼロ』を目指して日々業務に取り組んでいます。これまで、譲渡適性があるにもかかわらず、適切な譲渡先が見つからないために殺処分される犬や猫も少なからずいました。その数を限りなくゼロにしようと活動を続けた結果、2020年度の殺処分数は開所当初の4%以下となり、2021年度には、目標に掲げた『助けられる動物の殺処分ゼロ』を達成することができました

 

—大きな変化だと思いますが、どのようにして減少させることができたのでしょうか。

 

「理由はいくつかあります。犬も猫も殺処分数は減っていますが、最近は猫に対する取り組みが盛んです。例えば、『不妊去勢手術助成金制度』の利用が少しずつ増えてきたこと。飼い主のいない猫の不妊去勢手術に助成支援を行う市町村に対して、助成金の経費の最大2分の1を、県が助成しています。

 

それから、2021年にできたアニマルケースワーカー制度。この制度は、猫の飼育管理適性度を向上させるために、専門知識がある人を県から任命し派遣するものです。飼い主のいない猫にTNRを行う際の捕獲などの技術支援に対して、委託料が支払われます。また、小学校を訪問し、情操教育を行う際には旅費が支給されます」

 

—すでに活動をしている方にも、これから始めようという方にも、大きな助けになる制度ですね。

 

「その他にも、一般の方から犬猫の引き取りの要請があった際、経緯を聞き取り、みだりに捕獲されたと判断された場合は引き取りを拒否するよう、県から県警に対して文書などで通知しています。動物愛護法の改正で、『所有者不明の犬猫の引き取りに関して、相当な理由がなければ拒否できる※1』ようになりましたよね。これまでは駆除目的で近隣の方が野良犬・野良猫を警察に持ち込むケースが多かったのですが、今はそもそもの引き取り数がかなり減少したため、警察経由で当センターへ収容される犬猫の数も減りました。

 

※1 (動物愛護管理法 2019年改正 第35条第1項、第3項 全文)都道府県等は、所有者の判明しない犬又は猫の引取りを求められたときは、これを引き取らなければならない。ただし、周辺の生活環境が損なわれる事態が生ずるおそれがないと認められる場合その他の引取りを求める相当の事由がないと認められる場合として環境省令で定める場合には、その引取りを拒否することができる。

 

また、徳島県はケーブルテレビが発達しているので、番組内やCMで収容された犬の情報を流していただくこともあります。飼い主がいそうな犬猫に関しては、徳島新聞などに写真や特徴を掲載したり、捕獲した現場付近の犬の登録原簿を見て、それらしき飼い主のところに個別に連絡を取り、元の飼い主探しをしています」

 

—地道な努力をされていることが伝わってきます……! 今伺ったのは、県内に対する取り組みでしたが、県外に対してはいかがですか?

 

「県内のみの犬猫の譲渡には限界があるので、県外へ譲渡を行うことも多いのですが、輸送費がかかるため、県外輸送を行うボランティア団体に多大な負担がかかっていました。この金銭的負担を少しでも軽くするため、2020年、2021年には、当センターで『助けられる命を新しい飼い主へ~命のバトン活動』と題してクラウドファンディングに挑戦しました。

 

その結果、125万円の目標に対して、2020年は、105名の方から130万2千円、2021年は、115名の方から192万8千円の支援をいただきました。今後もこの『命のバトン活動』をさらに推進していこうと考えています」

 

—新しい取り組みにも挑戦されているのですね。クラウドファンディングなら、県外からでも力になれそうです! それでは最後に、これから動物を飼おうと思っている方に向けて、メッセージをお願いします。

 

「動物を飼う前に、あらゆる可能性についてきちんと考えてほしいと思います。当たり前のことでありながら、深く考えずに飼い始めてしまう人は意外と多いです。例えば、飼い主のライフスタイルの変化や高齢化、動物が病気にかかる可能性……。災害が起こった時はどうするか、自分が病気にかかったら預け先はあるのか、そういったあらゆる問題に対する解決策を考え尽くした上で、動物を迎えるようにしてほしいですね。

 

それに、必ずしも飼うことだけが動物に対する愛ではありません。ボランティア活動をするなど、別の形で動物とふれあうことも、ぜひ選択肢の一つとして心に留めておいていただきたいと思います。職員の立場からしても、動物はもちろんですが、飼い主さんが困っている姿を見るのもつらいです。どうしようもない事態が起こる前に、今一度、飼い主の責任について考えてほしいと思います」

収容されていた子犬

 

啓発活動などの地道な取り組みから、クラウドファンディングを使った新しい取り組みまで、あらゆる手段で動物のために手を尽くされている徳島県動物愛護管理センター。懸命に積み重ねられた努力が、確実に命を救うことにつながっていると感じました。

 

現在も、毎月第1〜第4日曜日には、新型コロナウィルス感染防止に配慮しながら、譲渡会「飼い主をさがす会」が開催されているそうです。興味がある方は、ぜひサイトを訪問してみてください。

 

また、インタビューの中でお話があったクラウドファンディング「命のバトン」ですが、2022年度も支援を募集中です!

詳しくはこちらから→命のバトン活動2022 〜助けられる命を新しい飼い主へ

期間は、2022年10月31日まで。ぜひチェックしてみてくださいね。

 

 

▶︎徳島県動物愛護管理センター

▶︎命のバトン活動2022 〜助けられる命を新しい飼い主へ(2022年度クラウドファンディングサイト)

 

コロナ禍の中、取材に快くご協力いただいた徳島県動物愛護管理センターの皆さまに、心より感謝申し上げます。

 

※抗原検査にて陰性を確認の上、訪問しております。

※掲載の文章・写真はアニマル・ドネーションが許可を得て掲載しております。無断転載はお控えください。