行政施設レポート

新潟県動物愛護センター 見学レポート【第2回】

アニマル・ドネーションでは、動物のためにがんばる行政施設への取材を行っています。
行政の施設というのは、いわゆる「保健所」や「動物愛護センター」と呼ばれている施設です。都道府県や市町村の予算によって運営管理されています。

 

2022年4月。およそ3年ぶりに、「新潟県動物愛護センター」に取材する機会をいただきました。
▶︎2019年5月のレポートはこちら

 

今回で2回目の取材ですが、「新潟県動物愛護センターの取り組みがもっと広く伝わったら、もっと幸せな動物たちが増えるのではないか」と、改めて感じる機会となりました。

 

この3年間で、社会の状況も目まぐるしく変化しています。
あれから変わったこと、変わらないこと。施設を見学させていただきながら、様々なお話を伺いました。

施設概要

新潟県動物愛護センター

所在地:新潟県長岡市関原町1丁目2663-6

長岡駅から、タクシーで20分ほど。信濃川を越え、自然豊かな道をひたすら走り、ゆるやかな丘を登っていくと施設にたどり着きます。

外観や内装は、前回訪問したときと変わらず綺麗なまま。動物たちや来訪される方のために、常に整備されていることが伝わってきます。

 

新潟県動物愛護センター センター長 遠山さん

『人と動物がふれあえる県民参加型の施設』として、2012年4月にリニューアルする前から在籍されています。施設の取り組みやこれまでの変化などを、詳しくお伺いさせていただきました。

「動物の気持ち」に寄り添った施設の取り組み

まず最初に、改めて犬・猫の部屋をそれぞれご案内いただきました。

迷子犬だった、しるこちゃん。

 

こちらは前回同様、犬の部屋。犬が隣同士にならないようにケージは間を空けて、ストレスにならないように工夫されています。犬は3年前と比べてほとんど施設に来なくなり、野犬も20年前からいないとのことです。

 

ここにいる『しるこちゃん』は、迷子犬でした。迷子犬は、2〜3週間PRしながら飼い主を待ち、その後里親募集をするため狂犬病の予防接種をするそうです。長い期間、飼い主の方を待っていてくださるのも心遣いを感じました。しるこちゃんは、募集をかけてから2日間という短い期間で里親さんが決まったそうです!

 

続いて、猫の部屋をそれぞれご紹介いただきました。
猫については、3つのステップに部屋を分けられていました。こちらもそれぞれ、猫の状態や性格に合わせてストレスをかけないように意識した作りになっているとのことです。

 

最初のステップは、施設に来たばかりの子たち。2段になっているケージで、掃除をしても上の段に逃げられるようになっています。子猫が多かった時代は、ステンレス製で1段のケージが使用されていましたが、人慣れしていない成猫は飛び出してしまうため、今はほとんど使用されていないそうです。

不妊手術をした猫には、手術部位をひっかいたりしないよう術後服が着せられていました。
人慣れしてもらうために、様々な道具も活用。
リアルな手の形で本格的!

猫たちの状態をみて、次のステップへ。この部屋は元々、うさぎやモルモットのふれあい体験室の場でしたが、いまは猫たちを慣らすための部屋として使われています。譲渡対象としてホームページに掲載されている子もいれば、まだ人馴れ不足で掲載できない子も。一般の方から希望があれば、個別での面会対応も行っていただけるそうです。

譲渡しても問題ないか、猫たちの様子を常に観察されています。

最後のステップは、見学もできる部屋。いまは猫が多いので、猫のみの部屋になっています。新型コロナウィルス感染症対策で、現在は2家族までの入室制限をしているとのことです。

広めのラグジュアリー(猫向け)ルームも!
スタッフの方が掃除しながら猫に触れて、人慣れできるように工夫されていました。

行政職員の力で、年間500〜600頭を譲渡へ

前回訪問させていただいてから、3年経ちました。変わったことや成果はありますか?

 

「収容数は年々減っており、特に子猫は減ってきました。野良猫の数も、10年前から比べると3分の1くらいに減少しています。一方で、多頭飼育崩壊の割合は増加しています。譲渡数はコロナ禍の前後で変わらず、年間500〜600頭くらい。以前は子猫が8割ほどでしたが、現在は成猫の方が多い状況です」

 

年間500〜600頭!とても多いように感じます。里親希望の方の来訪者数は、どれくらいなのでしょうか?

 

「コロナ禍の前は年間で約16,000名でしたが、昨年(2021年)は約9,600名でした。それくらいの来訪がないと、年間500〜600頭の譲渡は難しいと考えています。こちらの人数は延べ人数。家族でいらっしゃる方もいれば、3〜5回通う方、見学のみの方もいらっしゃいますので」

 

里親の方への対応など、どのように運営されているのでしょうか?

 

譲渡前の講習会は開催しておらず、個別での説明対応を行っています。動物に対する知識は人それぞれ。飼育方法など詳しくない方には、必要なことを一からお伝えしています。

また、ここで決めた方だけでなく、ペットショップで決めた方向けに『犬・猫の飼い方セミナー』や『愛犬飼育相談室』などを月に数回、開催しています。『犬・猫の飼い方セミナー』は、コロナ禍前の参加人数は60〜70名くらいでしたが、現在は20名くらいに規模を縮小して開催しています。

行政の仕組み上、トライアルの制度はありません。ですから戻りも許可していますが、実際に戻りの頭数は100頭に1頭いるかいないかで、ほとんどありません」

犬・猫だけでなくモルモットやうさぎとのふれあい教室なども。

動物と関わる上で「必要なこと」を伝えるために

−なにか、この地域ならではと言える問題はあるのでしょうか。

 

「現状、新潟県では『多頭飼育崩壊が起きても分からない』ことが問題になっています。

2、30頭いても苦情が来なくて、発覚したらとんでもないことになっているケースが多いです。例えば、亡くなったご親族の家を整理をするために、ご家族が行った時など。福祉の方と連携することもあります」

 

そういった問題を踏まえて、今後センターとしてこの3年間で変えたいことはありますか?

 

「センターとしてはこの3年間で、1、2頭飼い始めたら不妊去勢手術をするように伝えていきたいですね。猫が好きな方はご存知ですが、そうでない方にも意識を持っていただくことが大切だと思っています。

例えばこの施設のことも、タクシーの運転手さんに知られていない。そういった一般の方に、もっと知っていただきたいです。説得することで助けられることもありますし、啓発は役所の務めでもあります。メディアに出る機会もありますし、より多くの方に知っていただけるように、これからも啓発活動をしていきたいと考えています」

 

実際に、アニドネスタッフが施設に行く際に利用したタクシーの運転手の方も、場所をご存知ありませんでした。今回の取材で、新潟県動物愛護センターのことを、もっと多くの方に知っていただきたいと強く感じました。

新潟県動物愛護センターならではの取り組みと発信

新潟県動物愛護センターは、休館日(毎週月曜、月曜が祝日の場合は翌日)と年末年始以外は、いつでも譲渡できる体制になっているそうです。

 

公式サイトでも、譲渡に向けて様々な工夫をされています。
例えば、猫たちの特徴などの説明だけでなく、新潟県動物愛護センターのスタッフ推しの猫(『オシ猫!』のページ)を載せたり、なんとYouTubeで動画をアップしたり。それぞれの猫たちの性格を捉えた紹介も可愛くて、スタッフの方々の熱い想いが伝わってきます。コロナ禍でありながら、年間の施設での譲渡数が変わらず多いままの秘訣を感じました。

 

下記に、公式サイトの一部を抜粋させていただきましたが、ぜひ実際のページも見ていただきたいです。YouTubeでは、写真では伝わらない実際の動物たちを動画で確認することもできます。ぜひチェックしてみてくださいね。

 

▶︎公式サイト

▶︎YouTube

▶︎Twitter

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新潟県動物愛護センターでの殺処分の数は、(年間600頭ほどの保護頭数のうち収容中に死亡したものも含め)60頭くらいとのこと。近年減少してきてはいるものの、十数年前は年間1000頭以上が注射器で殺処分されていたそうで、遠山さんご自身も「なんとかしないといけない」と感じたと、お話しいただきました。

 

施設内をご案内いただきながら、遠山さんが何度も「(動物たちに)ストレスのかからないように・・・」とご説明されていたのが、とても印象的でした。

そのお陰で、犬猫ちゃんはみんな、落ち着いて過ごしているように見えました。なかには、撫でると喜ぶような表情を見せてくれる、人懐っこい犬猫ちゃんも。猫の状態や性格に合わせて部屋を分けるなど、皆さん一丸となって動物たちの気持ちを考えて行動されていることが伝わってきました。

 

動物たちのためにいつも尽くしてくださっている、皆さんの愛のある想いや温かさを感じる取材となりました。ペットショップに行く前に、ぜひ新潟県動物愛護センターのような行政施設に足を運んでいただきたいです。お近くの施設などを調べてみると、新しい発見もあるかもしれません。

 

コロナ禍の中、取材に快くご協力いただいた新潟県動物愛護センターの皆さまに、心より感謝申し上げます。

 

※抗原検査にて陰性を確認の上、訪問しております。
※掲載の文章・写真はアニマル・ドネーションが許可を得て掲載しております。無断転載はお控えください。