動物愛護管理法 数値規制案決定「中央環境審議会動物愛護部会」レポート
年の暮れも差し迫った2020年12月25日、数値規制案の最終議論の場となる「中央環境審議会動物愛護部会」(第58回)が開催されました。
前回(第57回)はパブリックコメントを募集する前に行われ、アニドネは以下の記事を掲載しました。
動物愛護法改正 数値規制「パブリックコメントに参加しよう!」
約1カ月間の国民からのパブリックコメントを募集し、その意見を反映させた最終案が決まる第58回の愛護部会。
これまでになく注目を集める動物愛護管理法の数値規制案。さて、どのような議論がされたのでしょうか。
今後の動物福祉事情に大きく影響する法改正の最新情報をレポートいたします。
数で勝負ではなかったパブリックコメント
アニドネスタッフも傍聴していて初めて知った事実。パブコメは意見数で案が大きく変わるわけではありませんでした。
電子3065、郵送25947、合計29012。延べ提出意見数168036
意見内容の傾向としては、基準の緩和や適用の除外(反対意見)、基準の強化や追加を求める意見(もっと厳しくの意見)、そして経過措置に対する意見(準備期間確保と直ちに改善の両方)があったようです。
少し怪訝に思ったことは、15万件(郵送)は提出様式に同一の意見が記載されていたそう(つまりコピペでの提出)。内容としては基準案を適用しないことや十分な経過措置を求めるものなどであったそうで、組織票として提出されたことが想像されました。
しかし基準案は大きく変わることなく2021年6月に施行となります。つまり、パブコメは「数」で法案がガラリと変わるわけではありませんでした。
では、目的は何か。法改正をするにあたって「齟齬や矛盾がないか、広く意見を求める」であったようです。
例えば、大きさの違う犬が同スペースにいる場合どの個体の体長を元にスペースを算出するのか、は案段階では明記されていませんでした。パブコメを受け「もっとも体長が長い犬」と追加されました。
いくつかポジティブに更新をされていて、パブコメの意義を感じました。
また、アニドネスタッフの個人的な感覚としては、電子3065は少ないと感じました。この問題はもっと世間の関心を引くべきです。残念ながら、まだまだ一部の方の関心事にとどまっているという印象を受けました。
環境省 動物愛護室では、パブコメをすべてチェックし内容をカテゴライズしたサマリーを作ってました。サマリー資料なのになんと72ページ!大変な労力をかけていると感じました。
最長5年の経過措置
主な規制内容は7事項に及びます。該当部分を配布された資料より抜粋いたします。
今回の数値規制は、大きな法変更でしょう。よって、現場での混乱や行き場のなくなる犬猫を生み出さないために、経過措置が前提とされています。
結果「飼育施設に関すること」「従業員の員数に関すること」「繁殖の方法に関する事項」の3つに関しては附則として、経過措置が取られることとなりました。員数一人当たりの頭数規制は、第1種で4年、第2種(非営利)だと5年をかけて段階的に頭数が減っていくこととなります。第2種も同じ年数にするべきである、という意見は複数の委員から出ていました。
*図表参考
出席委員からは「経過期間が長すぎる」の意見は述べられませんでした。最終決定は、どうなるのでしょうか。
1のケージ(飼育スペース)は1年の経過措置となり、令和4年6月1日から適用となりそうですが、ここは臨時委員である一般社団法人全国ペット協会の方から現況報告がありました。
「年間20万頭の子犬が出産=親の頭数を算出とする。現状は8割以上のゲージが数値規制をクリアできていない。ケージの買い替えもコロナの影響で基準をクリアしているものが日本に入ってこない。またコストがかかる」と。
確かに8割も変更となるのは大変でしょう。ですが、8割もの繁殖犬猫たちは今回の数値規制よりももっと狭い場所で今現在暮らしているということを考えると、一刻も早い施行が望まれます。
レッドカードが切れるように
これまでの愛護会議を傍聴していると、目に見える数値規制を決める理由は明確にレッドカードが切れること、という文言が飛び交っていました。つまり劣悪な業者は排除する、という強い姿勢が見られます。そのレッドカードを切るのは、動物愛護センターなどの行政職員さんとなります。この負担増に対しては、東京都動物愛護相談センター所長からは深刻な意見が述べられました。
「現に監視するマンパワーが足りてない、そして今は動物より人間の命。新型コロナで人間の方の手伝いにも駆り出されている状況にある。経過期間内にできるか不安。このような立派な改正に対応できないとは言いたくない」
主旨賛成、実施には懸念。コロナの影響は、動物行政にも大きく不可をかけていました。
私たちにできることを考えよう
2時間の予定を20分ばかりオーバーして、大変濃密な会議は終了となりました。
以下はアニドネスタッフの感想となります。
動物愛護管理法は5年ごとの改正が行われてきました。数年前から、数値規制は実施予定に入っていました。何年もかけて海外の法案や現場をリサーチし、専門家の話を聞き、と国は着々に準備をしてきた感はあります。
しかし、いざ決まるとなった時、現場の混乱や反対意見がこれほど強くあるものか、と驚きました。
今後、一番被害を受けるべきではない動物たちが破棄・遺棄されるとならぬよう、そして保護活動への負担が増えぬよう進めねばなりません。
例えば、
ブリーダーさんたちが(オークションに頼らずとも)自活できるやり方はないのでしょうか。動物福祉に最大限に配慮した犬猫との出会いの場を作るチャンスかもしれません。
また、行政の負担が減るような動物愛護推進員の活躍や新しいボランティアの在り様はないでしょうか。
そして、数年前までは「保護犬猫」という言葉すら一般的ではありませんでした。ブリードを早めに卒業した犬猫たちを「引退犬」という新たなカテゴリーとして世間に認知し、子犬信奉を変えられないでしょうか。
最も大事なことは、この法改正の意味意義を多くの方が理解し行動変容をすることだと思います。
日本の動物福祉の問題点を考えるとき、動物福祉の概念より営利目的が勝ってしまった結果を感じることが多々あります。
今回の法改正は動物福祉に立ち返って基軸をどこに置くのか、を考えるターニングポイントだと感じています。
物言わず、ただただ人に寄り添う愛情の塊である犬猫たちの環境整備をすることが人間の責任です。コロナ禍だからこそ、命の大切さを身をもって教えてくれる存在を社会全体で守っていかねばらないと強く思います。
今回のレポートはかいつまんでのご紹介となります。
参加委員からは他にも多数意見が出ていました。最終答申は部会長に託されるようです。
議事録や配布資料は環境省の動物愛護部会HPに追ってアップされますので、詳細はそちらでご確認ください。
2021年は人間にも動物たちにも良き年となるよう願ってやみません。
※掲載の文章・写真はアニマル・ドネーションが許可を得て掲載しております。無断転載はお控えください。