〜犬と猫のアニマル・ウェルフェアを考える〜 クリステル財団 フォスターアカデミースペシャル2019 参加レポート
青山学院大学 本多記念国際会議場にて、一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブルにより、動物福祉先進国ドイツにあるヨーロッパ最大の動物保護施設「ベルリン・ティアハイム」よりゲストを迎えフォスターアカデミースペシャル2019」が開催されました。
■一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブルとは
アニマル・ウェルフェアに則った犬猫の殺処分ゼロ・生物多様性保全を目的に滝川クリステルが設立。
代表理事:滝川クリステル
犬猫の置かれている状況を知ってもらい、考え、行動し、広めてもらうための活動を実施。
■フォスターアカデミーとは
動物保護活動に対する認知度を高め、フォスターとして、動物ボランティアとして活動するために必要な知識と経験を身につけることができる講座を2015年7月から開催。
当日、会場へは380名ほどの参加があったということでアニドネスタッフも参加させていただき、とても有意義なお話を拝聴することができました。参加レポートとしてお伝えしたいと思います。(取材日:2019/11/16)
一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブルの公式ホームページはこちら
犬猫たちと共に生きるため、私たちが向き合い話し合うべき事とは
フォスターアカデミースペシャル2019では、〜犬と猫のアニマル・ウェルフェアを考える〜 をテーマとして、ベルリン・ティアハイムのアネッタ・ロストさんをはじめとし、様々な知見を持つ専門家の先生方からのお話を聴くことができました。
当日は、出産を間近に控えた滝川クリステルさんもご挨拶に立たれておりました。クリステルさんの動物に対する活動の想いの深さを感じました。
◯講演内容
◆基調講演「ティアハイム・ベルリン ~ヨーロッパ最大の動物シェルター 課題と挑戦~ 」
講師:Annette Rostさん(ティアハイム・ベルリン ファンドレイジング、幼児・青少年動物保護部門マーケティング&コミュニケーション担当)
◆セッション1「動物のニーズを満たす」
講師:加隈 良枝先生(帝京科学大学准教授)
◆セッション2「殺処分方法の理想と現実」
講師:佐伯 潤先生(公益社団法人日本獣医師会理事(動物福祉・愛護部職域担当))、田中 亜紀先生(日本獣医生命科学大学助教)
基調講演「ティアハイム・ベルリン ~ヨーロッパ最大の動物シェルター 課題と挑戦~ 」
ー「ティアハイム・ベルリン」とは
動物福祉先進国ドイツにあるヨーロッパ最大の動物保護施設。
1841年に設立。シェルターは1901年に建設され、2001年により広い土地へ移転。
現在シェルターには、犬猫だけではなく、鳥、ウサギやハムスターなどの小動物、ロバ、ヘビ、エキゾチックアニマルなど1400匹の動物を保護。敷地は16ヘクタールあり、サッカーフィールド約22面分の広さ。従業員は180人、そのうち8人が獣医師で、ボランティアは800人。彼らでティアハイム・ベルリンの活動をサポート。
ー活動概要
開設時間:水曜〜日曜 午後13:00-16:00
この時間内であれば、訪問者は自由に各譲渡エリアの施設内を見学可能。希望があればそのエリアの担当飼育員から直接話を聞いて面談もできるそう。ティアハイム・ベルリンでは、保護犬・保護猫たちがここへ戻ってくるという再び悲しい気持ちになることがないように、やや疑い深くもしっかりと面談希望者の状況や話を聴き、その子の里親として適正かどうか判断。
そして5日間のテスト期間を設けて、その間に先住犬がいる家庭などではそれらの相性を見て最終決定。
このティアハイム・ベルリンの年間費用は、約1000万ユーロ。日本円にすると約12億円です。
驚くことに、国や政府などの公的機関による支援はほぼ受けていないということです。費用は寄付によってカバーされており、その寄付のほとんどが一般の方からの支援であり、うちの約60%はご支援者からの遺産によるものだそうです。
動物たちは各セクションごとに管理されており、犬舎には中と外を自由に行き来できるバルコニーエリアがあり、夏場にはシェルターの真ん中にあるドッグランにプールも設置されます。
ティアハイム・ベルリンで最も多く保護されている動物が猫で現在400匹以上の猫がおり、各セクションごとに分かれて保護されています。
訪問者が自由に出入りできる譲渡セクションとは別に、ストレスに弱い子や人馴れしていない子には、訪問者が入ってこない安全で静かな環境が用意されています。
子猫は原則二匹以上で引き取れる人にしか譲渡しないそうで、兄弟や仲良しの二匹をペアとして譲渡します。
去勢避妊処置費用はティアハイムが負担するため、新しい飼い主の負担にはなりません。
野良猫は去勢避妊処置が済んだ後は元に暮らし慣れている地域へ戻し(TNR)、その中で外で生き残れそうにない子はティアハイムで引き取って保護します。
病的で一生涯治療や投薬が必要な子であっても、その費用は一生涯ティアハイムが負担するため新しい飼い主の負担にはなりません。そのため、里親が見つかりにくい慢性疾患や糖尿病の子にも、里親が見つかりやすいのです。
ー動物先進国における殺処分、安楽死の考え方
譲渡の見込みのない子でも、ティアハイム・ベルリンでは下記の2点を例外として、原則安楽死は行いません。
●医学的観点から、著しくその動物が痛みを伴って回復の見込みがない場合。
●ドイツ動物保護連盟が倫理委員会で、重度高度障害を伴う犬に対する安楽死の基準となる12項目において判断を下した時。
1 重度高度障害を伴う犬に対する安楽死の基準となる12項目(ティアハイム・ベルリン)その犬が顕著に苦痛を示す様子はあるか(常動行為、自傷行為、無気力)
2 その個体の行動障害の原因として、疼痛や臓器系疾病を主治医が認めたか。
3 その犬が1回もしくは複数回以上、人間が認知できない理由でもって、あるいは行動障害のせいで、人や他の動物に怪我を負わせたことがあるか。
4 この犬は、トレーニングが入った状態でなお、このような状態に陥るのか。
5 少なくとも2名以上のドッグトレーナー、または行動治療専門家が集中的にその犬との関係性を築いてきたか。
6 処方された向精神薬では成果が出なかったか、もしくはこの犬に処方できる薬がないのか。
7 少なくとも1回は、通常の西洋医学以外に代替療法等の対応策が考えられたか、または実行されたか。
8 その犬はティアハイム内において少なくとも2週間、ストレスが少ない環境下で過ごしていたか。
9 他の収容所に移る可能性は検討されたか。
10 事故防止の策がなされた安全な状況下であっても、この犬を担当する人間全員が危険を伴うことなく、この犬を扱うことは不可能なのか。
11 この状況下では、犬種による特性を含め、この犬を生物学上あるべき姿の状態で飼育することは不可能か。
12 これがあなた自身の飼い犬だとしても、安楽死措置に賛成するか
上記、12項目すべてにイエスを答えられることが安楽死の条件となります。いかに、ドイツが動物先進国であるかを実感させられる内容です。ドイツでは、犬の殺処分は上記の内容を越えられる正当な理由でないかぎり禁止されているのです。
実際に、ティアハイムには9年間ずっと施設に残っている犬がいるそうですが、その子も絶対に安楽死なんてさせないとアネッタさんも熱く話されていました。人にも慣れているのでスタッフが働く仕事場でフリーにさせているそうです。
セッション1「動物のニーズを満たす」
ー犬と猫のアニマルウェルフェアとは何か
一般には「動物福祉」と訳されます。「福祉」という言葉は、人間の場合は高齢者や障害者など弱い立場の人たちを守るための事業の意味合いで使われることが多いですが、動物たちに使われる「動物福祉」とは、人間に使われるのと同じ意味合いではなく、動物たちに何が提供されているかということよりも、動物たちにとってどうなのか?ということが大切になります。
動物福祉という考え方では、人による動物の利用や飼育を認めながらも、動物ができるだけ苦痛を感じることなく、心身の健康が良好な状態で生活を送ることができるようにすることを目指します。
ー動物のニーズ(=福祉)とは
動物福祉の分野ではニーズは要求ともいいます。動物は人間のように正確に言葉で伝えることはできません。動物には一般に5種のニーズがあるといわれています。
1 身体的なニーズ(食物と水、適切な温度湿度、空気や光の条件)
2 社会的なニーズ(単独・ペア・集団のいずれか)
3 心理的なニーズ(適切な刺激や活動)
4 環境に関するニーズ(すみか、空間や縄張り等)
5 行動上のニーズ(生得的な行動等)
ー5つの自由と動物福祉の評価
動物福祉についての説明で必ず出てくるのが、イギリスの家畜福祉審議会で提唱された「5つの自由」です。
1 飢えと乾きからの自由(新鮮な水、完全な健康及び活力を維持できる適切な食餌を与えること)
2 不快からの自由(避難所や快適な休息場を含む適切な環境を提供すること)
3 痛み、怪我、病気からの自由(予防または速やかな診断と治療をすること)
4 正常な行動を発現する自由(十分な空間、適切な施設、同種の仲間の提供すること)
5 恐怖と苦悩からの自由(精神的苦痛を避ける状態や対処を提供すること)
この5つの自由は、動物のニーズが満たされているかを検討するための指針となります。
ー犬猫のニーズを満たすために私たちにできることとは
動物の福祉の状態は、動物のニーズが満たされている程度について科学的評価を行なっていくことでわかってきます。しかし、動物たちの状態と私たちが何をすべきなのかと考え実際に行動に移すには、少し慎重になって切り分けて考える必要があります。
例えば、猫にとって見た目の可愛さや柄は本人にとってはほとんど快適さ(福祉状態)に関係ありません。しかし猫の譲渡先を見つけるためには外貌も考慮しながら活動指針を決めていく必要があるのです。
動物福祉の考えからは、何らの目的のために動物の命を奪うことは仕方ないといえますが、状況さえ許せば人と一緒に暮らせる犬猫を死なせることは理にかなっているとはいえません。また、命があるかないかということばかりに目を向けてしまうと、肝心の動物が何を感じているのか、という動物福祉の部分がないがしろにもなってしまいかねません。
固定観念や様々な基準は参考にしつつも、目の前にいる動物をよく見て、彼らの状態を冷静に受け止め判断することも私たちにとって大切なことではないでしょうか。
セッション2「殺処分方法の理想と現実」
◯日本における犬猫の殺処分方法
自治体による犬猫の殺処分方法として、炭酸ガス(薬剤投与との併用含む)による致死処分方法を行なっている自治体数は115自治体(都道府県、政令市、中核市)のうち、犬50自治体、猫52自治体。(平成29年度版)
◯殺処分される犬猫の分類
2017年度は、犬猫合わせて約4.3万頭が殺処分されている。(犬0.8万頭、猫3.5万頭)
<分類の内訳>
譲渡することが適切でない理由で処分された犬:4,854頭 猫:11,058頭
上記以外の理由で処分された犬:2,251頭 猫:17,282頭
引取後の死亡犬: 987頭 猫: 6,525頭
そもそも殺処分動物を上記のように分類することへの違和感が指摘されていて、譲渡の見込みがないと判断する前に看取るであったり、攻撃性をトレーニングで軽減するなどの選択肢はないのか。また、譲渡することは可能なのに、それ以外の理由で殺処分するとはどういうことなのか。引取後のケアに関しては十分だったのか、など様々な問題点が指摘されています。
殺処分と安楽死については、様々な見解があるかと思いますが、今回のイベントで獣医師の佐伯先生のとても印象に残ったお話がありました。
動物病院で飼い主ご自身が、取り除くことのできない苦痛で苦しんでいるペットの安楽死を希望された場合、後から自分のことを責めないように、この方法が最善の選択であったと思います、と必ず声をかけると仰っていました。飼い主さんはきっとご自身で本当に正しい決断であったか悩み続けます、そうならないように必ずお声をかけられるそうです。
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本講演会では、『犬と猫のアニマル・ウェルフェアを考える』をテーマに動物先進国であるドイツと現在の日本での動物への扱いとの違いを痛烈に感じるとともに、人間目線ではない、本当の意味での動物にとっての幸福やアニマル・ウェルフェアとは何か、動物福祉とは何かを考えさせられる時間となりました。国内では、現在殺処分ゼロに向けた取り組みが功を奏し、全国の自治体に引き取られる犬猫の個体数は減少していますが、まだまだ課題は山積みです。
「キモチ」を「カタチ」に。アニマル・ドネーションはこれからもコツコツと活動を続けてまいります。
フォスターアカデミーでは、動物たちを取り巻く現状について知っていただくための様々な講座やセミナーイベントを主催されています。ぜひ公式ホームページをご覧ください。
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