地域猫活動が必要な理由
地域猫活動は、ただ単に猫に餌やりをすることではありません。また、不妊・去勢手術をするだけの活動でもありません。野良猫を捕獲(Trap)し、不妊・去勢手術(Neuter)を行い、元のテリトリーに戻す(Return)=“TNR”をした上で、糞尿対策や節度ある餌やりなどの見守り活動(適正管理)を行うことで、地域との共生を図っていく活動を言います。
地域の人がその猫を認知し適正管理しているという点で「野良猫」とは異なり、捕獲後に新しい飼い主を探す「保護猫」ともまた違います。
猫は繁殖力の強い動物で、メス猫は生後4ヵ月程度から妊娠し、年間で2〜4回の出産が可能です。一度の出産で4〜8頭の子猫を産むので、単純計算で1頭のメス猫から1年で20頭、2年で80頭以上に増えることになります。
野良猫の増加は、糞尿被害をはじめとするさまざまなトラブルに繋がります。不妊・去勢手術などによって猫の生態を適切にコントロールし、地域住民と共生できるようにすることが重要となります。
地域猫活動の実践 ~その1:事前準備~
地域猫活動は自分が住む地域の野良猫対策を、ご近所の協力を得ながら行い、人と猫が共生する地域にしていくという活動です。活動主体は地域住民ですが、地域猫活動を理解している動物愛護ボランティアがサポートをするとより効率的に対策が進みます。地域住民を含めた2〜3名のグループで活動することをおすすめします。
1.必要な手配を済ませておく
- 動物病院
TNRに対応している動物病院を見つけておきます。「捕獲器内にいる状態で鎮静の注射をすること」、「術後はリリースするため抜糸が不要なこと」、「再度捕獲されることのないように、耳先をカットをする」等、TNR独自の施術が必要となります。動物病院によって、受付方法、持込方法、値段など様々ですので、事前によく確認してください。
当日の運搬方法もイメージを固め、運転の協力者も探しておきましょう。
- 捕獲器
野良猫の捕獲器は複数台数あると便利です。貸し出ししている行政や動物愛護団体もあります。
- チラシなど広報物
地域猫活動では、チラシを使った地域住民への広報周知がとても重要です。ある程度パソコンができる協力者がいると良いでしょう。
2.地域住民向けチラシの作成
地域猫活動は、猫の被害で困っている人をはじめとする、地域の一般住民をどれだけ味方につけられるかで、成否が大きく左右されます。このため、「猫を大切にしましょう」ではなく、「野良猫被害対策を開始します」という中立的な文言が有用です。困っている人が「おっ、被害対策が始まるのか!」と安心してくれるようなチラシにしましょう。
- チラシに記載する内容
・「野良猫対策を開始します。」
・「不妊・去勢手術を行います。これにより、野良猫は一代限りとなり、数が減少します。」
・「首輪や迷子札が無い猫は野良猫と判断せざるを得ず、手術対象とします。」
・「野良猫に餌を与えている方へ。餌を置いたままにすると、周りの地域から猫が集まってしまいます。近隣の迷惑とならないよう、餌の食べ残しはすぐに片付け、常に清潔を保ってください。」
- オススメしないワード
・「猫にも命があります」
・「小さな命を守りましょう」
・「人と猫の共生するまちにしましょう」
愛護的な表現は、被害に困っている方の共感を得られず、活動への協力を得られなくなるため意識して控えましょう。
3. 地域の代表者へ挨拶
チラシを持参して、地域住民有志で町会長・自治会長等に挨拶をします。地元行政が地域猫活動を推奨している場合、可能であれば行政担当者に同行してもらいます。「野良猫の被害が出ているので、不妊・去勢手術などの対策をしたい」と趣旨説明をし、「活動周知チラシの回覧や町会掲示板への貼付について、ご協力いただきたい」とお願いをします。
町会長・自治会長等の協力を得られないときは、『野良猫対策の説明会』をさせてもらえないか相談してみてください。
『猫を愛護しましょう』は残念ながら地域の全員が共有できる価値観ではありませんが、『被害を減らしましょう』は地域の誰もが共有できるコンセプトです。このため、地域猫活動では『被害を減らしましょう』をコンセプトとして、地域に訴えていくことが重要です。
保健所などの行政機関では、原則として野良猫の引き取りは行っていません。「保健所に引き取ってもらえばいい」との意見に対しては、このことを丁寧に説明してください。
「追い払えばいい」「餌やりしなければいい」という意見もあるでしょう。猫はテリトリーを重んじる習性があるため、追い払っても遠くへは行きません。餌やりを止めても、餌を求めて近接エリアに移動して繁殖を続けるので、根本的な問題解決にはなりません。このことを丁寧に、粘り強く説明します。
4. 行政への挨拶
チラシを持参して、役所や交番に挨拶と趣旨説明をしてください。まれに、住民から電話がいくことがありますが事前に説明しておけば安心です。
5. 地域への周知&野良猫事情のリサーチ
チラシを使って、活動趣旨を地域に周知しながら、同時に地域住民それぞれが把握している野良猫情報を収集します。
- 野良猫で困っている家を戸別訪問
ペットボトルや猫除けグッズが設置されている家を、チラシを持参して一軒ずつ訪問します。困っている家の人は野良猫をよく観察しているため、色々な事情を把握していることが多いものです。お困りの事情に共感しながら、野良猫対策であることを説明し、野良猫情報を聞き取りましょう。
- 餌やりしている家を戸別訪問
餌を与えている人は「注意指導されるのではないか」と心配していることが多く、「餌やりをしていますか?」と質問すると、「いえ、していません」と隠すこともあります。そこで「餌やりしていただき、ありがとうございます!」と明るく声をかけ、餌やりしている人との信頼関係を築きましょう。
- 被害者か餌やりかよく分からない家を戸別訪問
「野良猫でお困りではないですか?」と声をかけ、チラシをお渡ししながら、野良猫対策を始めることを説明します。
- ポスティング、回覧、町会・自治会掲示板など
周辺エリア(野良猫がいつもいる訳ではないけれど、ウロウロしているのを時々見かけるようなエリア)の住民に対する周知はポスティングで行います。また、戸別訪問が終わっているエリアにも回覧や掲示板等での広報を繰り返しましょう。
地域猫活動の実践~その2:TNR~
TNRを行う日程が決まったら、チラシを作成して地域住民に周知徹底します。ここで周知徹底しないと、外に出ている飼い猫を手術してしまい、「私の猫を勝手に手術した」と言われ、大きなトラブルになりかねません。チラシには、「首輪や迷子札の無い猫は野良猫と判断せざるを得ず、捕獲対象となります。ご注意ください。」と目立つように明記します。
1. 野良猫の捕獲(Trap)
捕獲に際しては、餌やりしている人の協力が不可欠です。捕獲を行う日は、捕獲の前に決して給餌しないよう、餌を与えている人(複数の人たち)に徹底してください。
捕獲器を警戒して入らない猫については、まずは捕獲器に慣れさせる必要があります。捕獲器の扉が閉まらないように針金で止めた状態で設置し、その中で数日間給餌を行い、スムーズに捕獲器内に出入りすることを確認してから初めて扉が閉まる状態にして捕獲を行います。
2. 不妊・去勢手術(Neuter)
事前に予約をしていた動物病院または会場にて不妊・去勢手術を行います。手術時に手術済の証として、耳先をV字カットします。耳先をカットすることは、同じ猫を誤って再度捕獲し、手術しないための重要な目印となります。耳を見て性別が判断できるように、通常、オスは右耳、メスは左耳をカットします。念のため手術前に獣医師さんに確認しておくと安心です。
なお、一代限りの命ということで住民の理解を得て費用を集めることができれば、ノミマダニ駆除と三種混合ワクチンも同時に接種させる場合もあります。
3. 元の場所に戻す(Return)
手術が無事に終わったら、翌日元の場所に戻します。全身麻酔の手術のためフラつきが残っている状態でリリースするのは大変危険です。いつ放していいか獣医師に確認し、それまで半日から1日捕獲器の中で様子をみましょう。
4. 地域への報告
手術の進捗状況と会計報告をチラシにまとめて、回覧と掲示板貼付を依頼します。全頭のTNRが完了したら、同じように「完了報告」のチラシを作成、配布しましょう。
地域猫活動の実践 ~その3:地域猫としての見守り方~
猫を元の場所に戻した後、その猫が地域住民と共生して「地域猫」になっていきます。適正管理(見守り活動)が出来るようにルールを定めましょう。
1. 餌やりの方法
餌は決められた場所で、決められた時間に与えることをルールとします。これにより、毎日同じ時間に猫が集結することになり、頭数管理が可能となります。餌は頭数に応じて出来るだけ小分けにして餌皿に入れ、それぞれの猫の鼻先に置いていきます。量は猫が食べきれる程度にしましょう。食べ終わった猫の餌皿から順に片付け最後の餌皿を片付けたら、現場を清掃して清潔な状態を保ちます。
置き餌は禁止しましょう。臭いにつられて周辺地域から猫が集まってしまうので、いくら手術してもきりがありません。また、カラスや害虫が集まったり汚臭もしますので、苦情の元になります。
2. トイレの管理方法
トイレは、餌場の近くに設置しましょう。猫は掘りやすいサラサラの土を好むため、園芸用の土・砂などをホームセンター等で販売している育苗箱やプランターに入れて、掘り起こしておきます。最初は猫の糞を土の上に置いてあげると猫はそこがトイレであることを認識しやすいです。
トイレに排泄物があれば、それをスコップで取り除き、掘り返してふかふかにしてあげればOK。全ての猫がすぐにトイレを使用できるとは限らないため、定期的に見回り、トイレ以外の場所に排泄してしまっても速やかに処理できる体制を整えましょう。