犬猫が幸せになるための先進的な工夫満載のシェルター〈海外情報レポート・アメリカ編➁
海外の動物福祉事情を紹介しているアニドネの海外レポート。
今回はアメリカ・カリフォルニア州ロサンジェルスにある「Wallis Annenberg PetSpace」に来訪をしました。譲渡するペットたちを紹介する大きなデジタルサイネージ、一般家庭に近い猫ちゃん部屋など、犬と猫と人の絆を高める施策は私達にとってアイデアが満載でした。
Profile

池 英里先生
獣医師、株式会社ライフメイト経営企画本部長、株式会社LVG ライフメイト動物病院グループ事業部長。個人の活動としてアニドネのボランティアチームに所属する。愛犬は、多頭飼育崩壊からレスキューされた「きなこちゃん」。ライフメイト動物病院グループの山口獣医科病院は猫のTNR活動に積極的だ。
今回は仕事で来訪したロサンジェルス滞在中にシェルターを来訪。
年間500頭を譲渡。財団が運営する出会いの場
「PetSpace」 は、ウォリス・アネンバーグ財団によって運営されている中規模のシェルターです。
近郊にある提携するシェルターから犬猫を積極的に受け入れ、新しい飼い主さんとのマッチングの場を作っています。
来訪してまず驚いたのは、施設のおしゃれさ。自然光がたっぷり降り注ぐ館内には、犬猫毎に部屋が設えられとてもポジティブな雰囲気。
スタッフは獣医2名、その他スタッフ約30名。ドッグラン2カ所にトリミングスペース、グッズショップ、そしてセミナースペースと、大変充実した施設になっていました。




すべてがオープン。随所で犬猫について学べる
施設内はとにかく明るくて、設備面も充実しています。
私は日本で多数の動物病院を見てきましたが、こちらの施設には犬猫の診察に必要な医療機器設備は一通り揃っていると思いました。
処置室の窓にはタッチパネルがついていて、獣医師と来訪者が話せる設備がありましたが、日本で同様の物を私はまだ見たことがありません。
そして、犬猫を迎え入れたい方すべてが犬猫に慣れているわけではないので「犬との接し方」をイラストでまとめたパネルなどがあるのも良いなと感じました。
ドッグトレーナーによるしつけ教室や、子供たちが参加できるサマースクールも人気のようで、保護犬猫の命を助けることはもちろんですが、犬と人がいかに幸せに絆を作っていくのか、ということが施設内にあふれているな、と。こんな施設を日本でも当たり前にしたいと強く思いました。





ペットショップでの生体販売禁止のカルフォルニア州
この施設には予約はなしで来訪することもできます。そしてその日に気にいった子がいれば、連れて帰ることもできるんです。
このあたりは、日本と比べてあまり厳しくないというか、ラフな雰囲気もありました。約20%は何かしらの理由で戻ってくるペットもいるそうですが、次々とペットを求めたい方も来訪するのでおおらかに受け止めているのは国の文化の違いでしょう。
そして、譲渡費についても聞いてみました。
犬 – 100$、子犬 – 200$、猫 – 100$、子猫 – 100$。
すべて避妊/去勢手術を受け、マイクロチップが埋め込まれ、年齢に応じたワクチン接種を受けているそう。これは日本での保護犬猫の譲渡費(おおよそ1頭3万~5万円)と比べるととても安くなっています。つまり、財団による運営の土台があるからこそ、このすばらしい環境が提供でき、譲渡費は抑えられているのだと感じました。
アメリカのいくつかの州では犬猫の生態販売が禁止されています。ペットを求めたい方は、シェルターから譲渡してもらうか、認証を受けたブリーダーから求めることしかできません。
しかし認証ブリーダー自体が少なく販売価格も高いので、保護動物の譲渡を装ったグレーな動きがあったり、生体販売禁止によるペットの供給不足、市場拡大の鈍化を懸念する声もあるとお聞きしました。
日本とは異なる問題が発生していることも私にとっては学びのひとつでした。
需要と供給のバランスを上手にとっていかないと幸せな犬猫、そして飼い主さんが増えないということですね。





取材を終えて
この施設では、保護活動だけではなく、「Leadership Institute」という研究組織があることも特徴です。
人間と動物の研究分野における第一人者が集まり、議論し、研究を共有する場だそう。そしてその研究成果を開示しています。*https://www.annenbergpetspace.org/about/leadership
来訪して驚いたのは、財力に支えられたすばらしい施設でしたが、見た目だけではなく「犬猫人の絆」を作っていくことに注力している施設だと感じました。
日本の施設のすべてがこのレベルになるのは難しいでしょう。けれど、例えば関東近郊にティーチングシェルター的な位置づけでこのような施設があると保護活動への意識変革、一般の方の保護動物へ理解などが進むのでは、と感じ入った来訪となりました。
急な来訪にも快く対応くださった PetSpaceの皆様に心より感謝いたします。
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