海外情報レポート

畜産業の動物福祉を考える<海外情報レポート・フランス編>

3度のメシより動物が好きなアニマル・ドネーションのリサーチャーの吉村です。

といつつ、お肉も大好きで、ほぼ毎日お肉を食べてます。

スーパーや飲食店に行けば安くて美味しいお肉が食べられる、それだけで幸せですよね。

でも、美味しいお肉を安く食べられるのは、なぜでしょう?

それは、動物たちと畜産業の皆さんの努力のおかげです。

今回は、そんな畜産業の動物福祉に関して、フランスからのお届けです。

この度、フランス在住の動物に詳しい弁護士法人より、フランスの工場畜産問題に関するパネルディスカッションを行ったという情報をいただき、日本でもシェアしてほしいとの連絡を頂いたため、そのポイントをまとめました。

最近動物関連の法改正などが目覚ましいフランスでも、畜産業の動物福祉に関して悩める実情が浮かび上がってきました。

 

 

パネルディスカッションの概要

テーマ:行き過ぎた畜産業の問題点
パネラー :以下4名

・Louis Schweitzerさん(ビジネスリーダー・元ルノー)
・Sebastien Arsacさん(L214協会・フランスの動物権利団体の創始者)
・Sebastien Demangeさん(プラントベースダイエットの専門家)
・Caroline Lantyさん(弁護士)

フランス畜産業の動物福祉の実態

さて、まずはフランス畜産業の動物福祉の実態について、パネラーの皆さんからの発言をまとめました。

法令での規制はあるものの、中には酷い扱いを受けているケースもあるようです。

 

鶏について

■工場畜産では、鶏は大きな苦痛を味わっており、平均27日しか生きられない

・平均成長速度が30~40年前比で3倍も早められ、体重の増加に足の成長が追い付かず、歩行困難となる

・狭い空間(1羽A4の紙位!)に押し込められ、慣れない食べ物を与えられる

・毎日16時間人工ライトを当てられた結果、速い産卵ペースとカルシウム不足から骨粗鬆症になり、骨折も多い

■オスのひよこは生まれた瞬間に殺され、フランスでは年5000万羽のひよこが殺されている

■突っつき防止のために、麻酔なしで熱せられた刃や赤外線カッターでくちばしを切断される

豚について

■豚は最も消費される肉で、1年で2400万の豚が殺される

■豚は人間と近い感覚を持ち、認知能力も高いが、こういった属性を無視して、過酷な成育環境に置かれている

・母豚は狭い空間で出産し、振り向くことができず、赤ちゃんを見ることもできない

・自然界の豚は100㎡のエリアが必要だが、工場畜産の規則では、0.15㎡(10㎏まで)、1㎡(110㎏以上)の広さでよいことになっている

・箱の中に閉じ込められるので、フンがたまってしまう

■普段攻撃的ではない豚がケンカをするため、畜産業者は歯を砕いたり、しっぽを切ったりする

うさぎについて

■フランスで、ほとんどのうさぎは工場畜産で育てられる

■うさぎに関する規制はないため、99%のうさぎは生涯狭い檻の中で過ごさねばならず、立ったり、ジャンプすることもできない

■畜産動物の中では死亡率もおそらく一番高いと思われる

・子どもは狭い環境で生まれるため、ケージの中で動けず死んでしまうことも多い

・多量の抗生物質を使用するにもかかわらず、22%のうさぎが病気で死んでしまう

解決に向けた各団体の動き

一例だとは思いますが、悲しくて涙がでてきそうですね。

 

フランスでは、そんな畜産業の動物福祉問題に関して、各団体が解決に向けて活動しているようです。

 

LFDA (動物愛護法協会)について

■LFDAは、消費者への適切な情報提供を目的に、畜産業者を動物の扱い方の観点等で以下のようにラベリングしている

A:最優
B:優
C:良/可=標準
D,E:違反

 

■鶏のラベリング

・専門家を集め、熟考された230もの基準を制定

・更に、年に一度独立した検査官により検査され、更にその検査官もダブルチェックされる

・肉用鶏は、生育環境と品質がリンクしており、ラベリングがうまく機能している

■豚のラベリング

・科学者やINRA(国立農学研究所)、畜産家、卸業者と協力した結果、300の基準を制定

・いい環境で豚を育成するには、多大なコストがかかるが、環境と品質がそこまでリンクしない

・ただし、ラベリングは、消費者の行動を変えるため、重要なインセンティブになる

■うさぎのラベリング

・まだ検討中の段階である

・まずは、協力してくれる畜産家を探さなければならない

・ラベルの適用によって、多大な費用がかかり、場合によっては破産してしまう

 

L214(畜産動物の保護団体)について

■L214は、畜産業者の従業員などから内部告発的に提供されるビデオや写真などの証拠をもとに、違法業者を訴訟する等の活動をしている

■中には、これらの活動が風評被害を引き起こしているといった訴えもあるが、L214は動物虐待に対して適切な手段で非難を行い、消費者や政治家に向けて現状を伝えていく

政治・法令の動き

各団体が上記の努力をする中で、政治・法令ではどのような動きがあるのでしょうか?

 

ここ数年で動物福祉の議題を国民議会などでも聞くようになった

■虐待に関する法律(loi contre la maltraitance animale)が2021/11/30に投票、12/2に施行された

■毛皮畜産やイルカ、水族館のシャチ、サーカスの動物などにも焦点が当たるようになった

■ただし、今盲点になっているのはこうした法律が厳守されていない現実

 

政府を動かすために、共有イニシアチブによる住民投票も行われている

■2年前から3人のビジネスリーダーによって始められた
■工場畜産、檻の動物飼育、毛皮畜産、犬を使った狩猟の禁止、代替品が可能の場合の動物実験の禁止、野生動物を使ったサーカスの禁止等について賛同を集めている

畜産業者の実態

ここまでは、動物福祉の観点から述べてきましたが、畜産業者の観点からも難しい問題があるようです。

 

畜産業者の経営は厳しい状況にある

■豚の畜産業者の平均借金額は30万€以上で、補助金に依存している

■フランスの畜産業は他国ほど産業化進んでいるわけではない

・オランダは、産業化が進み、コストも非常に安い

 

したがって、動物福祉だけに偏ると経営は立ち行かなくなってしまう

■現在のやり方を完全に禁止してしまうと、借金のある畜産家は全部破産に追い込まれる

■鶏卵の工場畜産では、6万羽を1人の作業者で見ることができるが、平飼いにすると6~7つの農場が必要となってしまう

消費者としてできること

最後に、畜産業の動物福祉問題に関して、消費者としてできることも語ってくれました。

 

動物福祉のキープレイヤーは消費者であり、適切な畜産業者を選ぶことが重要

■フランス人の85%は工場畜産の禁止に賛成しているが、習慣を変えることは少ない

■LFDA (動物愛護法協会)のラベリングやL214(畜産動物の保護団体)の情報をもとに、適切な畜産業者を選ぶことは畜産業の健全化に有効である

 

食習慣を変え、肉消費そのものを減らしてみる

■フランス人は肉の消費量が非常に多い

■代替食品に変えてみる

・レンズ豆や豆腐・ポートベローキノコ等は肉の代替となる

・植物ベースの食事に変えたうえで、必要な栄養素はサプリメントで補完する

さいごに

フランスの畜産業の問題点について、皆さんはどう感じましたか?

動物たちの悲惨な扱いは許せませんが、畜産業者の経営も厳しく、バランスが難しいですね。

私は今後、アニマル・ドネーションのリサーチャーとしてこのような情報発信を続けていくとともに、消費者として、普段から適切な畜産業者を選定するよう意識していきたいと思います。

 

最後にお知らせですが、以下youtubeでパネルディスカッション(英語翻訳つき)を閲覧することができます。ご興味のある方はご覧ください。

 

また、ご希望の方にはアニドネでまとめた動画の日本語訳のサマリー(エクセル資料)をお送りいたします。お問い合わせのタイトルに「フランスの畜産業の動物福祉について」とお書き添えください。(*パネルディスカッションの主催者に許可を得ております)

 

 

※掲載の文章・写真はアニマル・ドネーションが許可を得て掲載しております。無断転載はお控えください。