ペット業界人インタビュー

「映画監督の枠を超えて犬猫を救いたい」団体設立への思い

映画『犬に名前をつける日』『犬部!』など数多くの犬猫の映像作品を手がけている映画監督の山田あかねさん。本年5月、俳優石田ゆり子さんとともに飼い主のいない犬や猫の医療費を支援する団体として「一般社団法人ハナコプロジェクト」(以下、ハナプロ)をスタートさせました。団体設立のきっかけには、映画監督としてだけでなく、保護犬猫のために何かしたいという思いがあったそうです。団体を設立するまでの歩みやこれまで取材を通して見てきた世界の動物福祉について話を伺いました。

 

(2022年7月取材)

 

Profile

一般社団法人ハナコプロジェクト 代表理事 山田あかねさん

テレビディレクター、作家、映画監督。2010年愛犬を亡くしたことをきっかけに、犬と猫の命をテーマにした作品を作り始める。主な作品に映画「犬に名前をつける日」(2015)、映画「犬部!」(脚本・2021)、「ザ・ノンフィクション 犬と猫の向こう側」(2018・フジテレビ)、「ザ・ノンフィクション 花子と先生の18年」(2020・フジテレビ)、「犬は愛情を食べて生きている」(光文社・2021)など。元保護犬、ハル、ナツと暮らす。昨年8月より一般社団法人ハナコプロジェクトを設立し、飼い主のいない犬と猫の医療費を支援している。

 

 

現場で向き合う人にカメラを向ける葛藤から行動を起こすきっかけに

ーテレビディレクターや映像監督といった立場に留まらず、動物福祉に携わろうと思ったきっかけを教えてください。

 

「これまで10年ほど犬猫のために頑張る動物保護団体さんを取材し、映像作品を撮り続けてきました。毎日保健所を訪れ殺処分寸前の犬たちをレスキューしたり、何百匹もの犬猫のお世話をしたりする保護団体のメンバーや個人ボランティアを取材してきました。私生活を犠牲にして、辛いことからも目を背けずに無償で頑張る姿を見るといつも頭が下がります。

一方、犬猫を救う人たちの前で、私はただカメラを向けることしかできないということに気づきました。皆さんの懸命な姿にカメラを向けることが申し訳なくなって、ときにカメラを向けられなくなることもありました。私も撮るだけでなく現場で犬猫と向き合い、直接助けられる力になりたい。次第にそういう思いが芽生え、自らできることを考えるようになりました」

 

ー何かしようと思ったなかで、医療費支援に着目したのはなぜでしょうか?

 

「現場の最前線で保護犬猫を救うならシェルターを作ることです。でも取材を通して、シェルターを作るには相当な覚悟が必要だと知っていたので『本当に私にできるのか?』と問うと自信がありませんでした。それでも何かしたくて、私にできることを考えました。

私はこれまで世界の動物のシェルターに取材に行き、日本との違いを目の当たりにしてきました。台湾では公的なシェルターが中心となり、2017年より殺処分を行っていないこと、イギリスではチャリティで無料の動物病院や、保護団体が医療費を支援する仕組みがあることを知りました。動物を保護する方たちにとって、医療費はかなり負担の大きいものです。保護団体と動物病院、動物を助けたいという思いを持った三者が連携しているのはすごく理想的な姿ではないでしょうか。日本にもこのシステムを取り入れられないかなと思い、医療費を支援しようと決意しました。ハナプロの理事である俳優の石田ゆり子さんも同じ思いを持っていらしたので、2人で団体を立ち上げることにしました」

 

ほんの少し力を貸してもらえたら多くの犬を救えるはず

ーハナプロの活動内容を教えてください。

 

「現在は10の動物病院に2つの医療費を支援をしています。1つは不妊去勢手術、もう1つは子犬・子猫のケアです。いづれ、治療の幅や病院の数も増やしていきたいと思っています」

 

ーハナプロの基盤を作り上げるまでに何をされたのでしょうか?

 

「私も石田さんも、獣医療の知識があまりない状態でのスタートだったので、時間はかかりましたね。まずはこれまで取材した繋がりもとに、何人かの獣医師の方に話を聞いて方向性を考えました。『何の治療を支援するか』『支援する金額はいくらにするか』などを決めるために獣医師の方にアンケートを取った結果、今の2つの医療費支援を行うことに決めました。保護犬猫への医療費をすべて支援するには莫大なお金がかかるので、優先すべきことを絞って支援をしています。医療費をすべて支援しているのではなく、獣医師の方のボランティア精神もあってのことです」

 

 

 

ーハナプロを通して、日本の動物福祉をどう変えたいと思っていますか?

 

「理想は47都道府県に1つは保護犬猫のための病院があるといいなと思います。獣医師の方が何もかも無償で行うのは当然難しいんです。ですが、例えば『1つの病院で毎月2~3匹は引き受ける』といった動物病院が1万あればすごく多くの犬猫を救えるはずです。今はまだ小規模ですが、ハナプロだからこそできる医療費支援に最善を尽くしていきたいと思います」

世界中の動物福祉を見て思うこと

ー今年4月にウクライナ、ポーランドへの取材に行かれたようですね。

 

「はい。今まさに戦争が起きている地域で犬や猫は一体どうしているんだろうと思い、何があるかわからないけれど行ってみることにしました。ウクライナとポーランドの国境地帯に行くと、飼い犬を連れて逃げてくるウクライナの人、世界中から犬猫を助けようと来ている団体の人などたくさんいました。戦争禍でも犬猫を愛し、助けようとする姿に感動しました。いつかハナプロでも世界の犬猫のために支援したいと思います」

 

 

ーウクライナの動物福祉の現状はどうでしたか?

 

「ウクライナには今も街中に野良犬がたくさんいました。野良犬を見つけたら公営のシェルターが犬をつかまえて不妊去勢手術を行い、マイクロチップを装着して飼い主が現れなかったり、里親が見つからない場合は街に放すそうです。街の人たちは野良犬がいることを特に気にしていないんですよね。ときどきご飯をあげている姿を目にします。日本で暮らしている身からすると、野良犬が街中で生きていけるのは少しうらやましく思いました」

 

 

 

ー世界を見てきた上で、伝えたいことはありますか?

 

「欧米は動物の生きる権利(=アニマルライツ)を人間は守らなくてはいけないという思いが強いです。だから、戦争中でも必死で動物を助けます。そこには動物の命への敬意を感じました。そういう意識改革ができたらいいと思っています」

 

 

一般社団法人ハナコプロジェクト

https://hana-pro.com/

 

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