研究者の立場から考察するペットの現状
「動物と人とが真に共生する」。
よく聞く言葉です。 動物も人も幸せであり続けるための方法はなにか、 答えはそんなに簡単ではないでしょう。
社会の中での動物や人間のポジション、人間はペットにどう接するべきなのかなど、長年研究を重ねている山崎恵子さんにお聞きしました。
Profile
Keiko Yamazaki/1954年生まれ 国際基督教大学(ICU)人文学科卒業 ペット研究会「互」主宰 米国デルタ協会認定 インストラクター ATT(動物介在療法)・コーディネーター 優良家庭犬普及協会 常任理事 医療法人 雄心会 山崎病院嘱託 新潟国際ペットワールド専門学校 特別教師 動物に関連する執筆、講演、講義、翻訳、通訳に幅広く活躍中 |
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―まず、日本は動物に対して優しいのか、冷たいのか?どのようにお考えですか?
「私は日本は根本的には『優しい』と考えています。
というのも、一般的に動物愛護の面で先進国と言われているイギリスでは1824年に虐待から動物を保護する組織が誕生しています(王立動物虐待防止協会:RSPCA)。
驚くべきことに人間を取り締まる警察組織(1829年創設)より早い段階で、RSPCAの審査員(インスペクター*動物虐待の調査・救助・違反者の告発業務等)が組織化された歴史があります。
ただ、これは裏を返せば、それだけ動物虐待が多く必要性があった、ということなのです。
ちなみにアメリカにおきましても、現在3大レスキューと言われる組織が1860年代に創設されています(ASPCA:米動物虐待防止協会1866年、MSPCA:マサチューセッツ動物虐待協会1868年、OHS:オレゴンヒューメインソサエティ1868年)。
そして、ここ日本においては動物愛護面から取り締まりを行う専門の組織は存在いたしません。
行政が行う保健所は保護し処分する役割が大きいのが現状です。海外のように民間での大規模な保護施設はありません。
その背景にあるものとしては、やはり日本が農耕民族であり家畜文化ではなかったという歴史的背景が大きいと思っています。
さらに日本には古来から八百万の神々というよう、すべてのものに神が宿るという神道の考え方がベースにあります。
ゆえに、なんとなくすべてをふわっと受け入れるという精神性があったのでしょう。
ですから、日本の古い家屋には動物たちがおかれている納屋が人間と同じ屋根の下に作られていたり、江戸時代の庶民の生活文化を描いた絵画や図版には犬や猫が自由に町を闊歩するような姿がたくさん出てくるというわけです。
つまりは命を「コントロール」するより、「ありのままを受け入れる」という思想が古くからあったように私は考えています。
過去を振り返れば、動物愛護先進国は日本と比べてより目立つ動物虐待が街に横行した歴史を持っていた、その反省のために組織が早く出来あがり動物福祉・愛護の活動が進んでいる、というふうに私は考えています」
―最近20年の日本の動物事情の変化を教えてください。
「最近では、すごく飼い主さんの意識が変わってきたように思います。
番犬として家の外につないで飼うことが当たり前だったのが、室内飼いのほうが多くなり、動物福祉面も進化してきました。
ペットはともに生きる伴侶である、というふうに飼い主さんが感じ我がペットのために何をすべきなのかを考え、自らが積極的に情報を得ていく、これはとても素晴らしいことでしょう。
ただ、まだ動物虐待と文化の線引きは曖昧なところがあると言わざるを得ない現実もあります。
日本は闘犬文化が残っています。4県(東京・神奈川・石川・福井)以外は合法です。『伝統文化だからしょうがない』ということでうやむやにしない、『おかしいことはおかしいと声を大にして言う』そんな意識を皆が持つことで、さらに動物に優しい国へと発展していくのではないでしょうか」
―動物も人も幸せになるには、どうすればいいでしょうか?
「『動物は環境のバロメーターである』ことを私たち人間が認識することが、まずは最初のステップだと思います。
なぜなのか?少し視点を高くして考えてみたいと思います。
古来、人は自然界の一員でした。自然界は人間にさまざまな信号を送り続けてきました。
そのひとつが、動物の行動です。小鳥たちが一斉に飛び立てば近くに敵がいる、小動物が逃げだせば危険が迫っている、等を人は誰かに教えられなくても肌で感じ取る力が備わっていました。
また、これらの危険信号とは反対に、動物達が安心して過ごす姿に人間たちも同じく安心して過ごせる場所であるという信号を受け取っていたと思います。
ゆえに、現代においても今足元でスヤスヤと無防備に眠るペットたちに、この上ない安心感とリラックスを感じるのではないでしょうか。
これこそが『癒し』というものの本質だと思います。
ですので、動物が好きとか嫌いとかの問題ではなく、お互いに地球に存在するものとして、過干渉は避け、かつ補いないあうような関係を維持していくことこそが、人間と動物において最も望ましい関係ではないでしょうか。
街のスズメが農薬で死んでしまった、となれば環境バロメーターのなにかが崩れようとするのを感じる、動物虐待からは深い闇を感じる力を持つ、そのうえで自分たちがどう行動するのかを考えていけば、よりバランスのとれた関係を動物との間に築いていけると思っています。
動物を愛する心は誰しもに本能的に備わったものであり、自然界や動物たちからの声なき声を聞くアンテナを高く豊かにしていけば、おのずと動物と人との幸せの構図は見えてくると思っています」
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山崎さんは、海外で行われるAAT(動物介在療法)のシンポジウムや施設(保護施設や研究所)の視察に定期的に行かれています。
海外の保護施設で印象的なことは?とお聞きしてみたところ「とにかく明るい!」とのこと。
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施設内も明るくキレイであり、パンフレットひとつとっても楽しげな作りになっているとのこと。
犬を飼えなくなった人には「ありがとう!この子にとってもっといい飼い主を見つけるわ!」と明るく対応し、新しい飼い主には「おめでとう!犬とのすばらしい生活を!」と、ハッピーが生まれる場所であるようです。
次世代を担っていく子供への心の教育がなにより重要、と考え、このような塗り絵をつくって子供が集まる場所に置かれる活動もされています。
英語も学べて、動物を愛する心も学べ、塗り絵も楽しめる、一石三鳥?!
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現在一緒に暮らすのは、犬とうさぎたち。
今回撮影に協力してくれたのは、どちらも犬の女の子。キューちゃん(左)とフーちゃん。
どちらもママン大好き!で個性豊かな、もと保護犬たちです
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キューちゃんはなんでも受け入れる優しい子、フーちゃんは女王様のような気高さ
山崎さんの研究会の名前「互」とは「お互いさま」という気持ちから。
『愛「護」や保「護」という言葉はキライなの』とおっしゃる山崎さんと動物たちの間には強い信頼感で結ばれた相互に幸せな関係が確かにありました
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