行政施設レポート

神奈川県動物保護センター 新施設レポート

アニマル・ドネーションでは、
行政施設への取材を積極的に行っています。
行政の施設というのは、いわゆる「保健所」や「動物愛護センター」と
呼ばれている施設です。都道府県や市町村の予算によって運営管理されています。
少し前までは、動物を引き取り処分する場であった行政の施設が、
ここ数年の間に徐々に「新しい飼い主を探す場」に変わってきました。

今回は、神奈川県動物保護センターが計画している新施設の
ご担当者様に取材をいたしました。(2018/1/22)

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神奈川県動物保護センター
所 在 地: 神奈川県平塚市土屋401
開設予定 : 平成31年4月

神奈川県保健福祉局生活衛生部生活衛生課 動物愛護グループ
八木一彰さん(獣医師)にお話しをお聞きしました。

CIMG45301

 

 

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 【 1 】「まずは、なぜ新施設が必要なのかを教えてください」
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「現在の施設は、1972年(昭和47年)に作られました。この時代は、日本全国で年に100万頭を超える犬が保健所などに収容されていました。多くが殺処分対象となっていたので、現在の施設はその目的を果たすという意味では、大変合理的なつくりになっています。
例えば、5日間収容される犬たちのいる部屋の壁は一日ごとに動き、最後に殺処分機にうつされるまで職員は犬たちに触れることなく作業ができました。野犬が多く殺処分が多かった、また狂犬病が発生した場合を想定した施設です。45年経っておりますので、当然老朽化も進んでおります。」
1241現在の施設。新しい施設は同じ敷地内の別の場所に平成31年4月に完成予定

0371以前は使っていた殺処分機。新しい施設には処分機は設置しない、とのこと

 

「当センターでは年々殺処分は減り、2013年(平成25年)に都道府県としては初の犬の殺処分ゼロ、翌年猫の殺処分ゼロを達成し現在も継続しています。時代の流れは変わり、犬や猫を家族として想いをもって暮らす方々が増えました。動物を処分するための施設から生かすための施設へ変わらなければならない、そのために新しく施設を建設することになったんです。」

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 【 2 】「どのような施設を計画中なのでしょうか」
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「はい、4つのコンセプトを持って計画されています。ひとつは、まさに殺処分するための施設から生かすための施設への転換の部分です。収容された動物たちは一定期間この施設で過ごしますが、譲渡に向けて快適な環境を整備します。例えば犬猫の性質や大きさや健康状態等に応じて保護できる様々なタイプの部屋や、自宅をイメージしたような部屋を設け、そこで新しい飼い主候補の方と触れ合うことができる「ふれあい譲渡室」などを作ります。ガス処分室や焼却炉はありません。」

外観1

 

「2つ目のコンセプトは、啓発普及活動の場、であることです。例えば、譲渡会や動物愛護イベント、しつけ教室などが開催できるふれあいホールをつくります。動物は人間と同じ大切な命、その大切さを広く伝えらえるイベントなどができれば、と考えています。

3つ目は、ボランティアと行政の協働の場、であること。現在、殺処分ゼロを達成しているのは、ボランティアさんの協力があるからこそ、だと考えています。譲渡対象の犬を引き出して新しい飼い主さんを見つける活動や乳飲み子の子猫たちに数時間おきにミルクを与えて育て譲渡先を探す活動など、さまざまなボランティアさんに協力をしてもらっています。その活動のひとつひとつには本当に頭が下がります。」

0141人間の都合により保護された犬達。ボランティアさんたちと協働して新しい飼い主探しをしている

 

「最後は、災害時の動物救護機能の充実です。残念ながら災害国である日本、大規模災害を想定し迷子や負傷動物たちの一時保護のための設備にも配慮したつくりにする予定です。」

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 【 3 】「以前の現場での経験を教えてください」
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「現在、私は新施設のために県庁内で働いておりますが、2005年~2008年の4年間、動物保護センターの現場で獣医師として勤務しておりました。
もちろん、動物が好きで獣医師になりました。なのに、なぜ動物を殺しているのだろう、、と葛藤の毎日でした。自らの手で薬を打ち命をとめたことも多々あります。仕事とはいえ消さねばならない暖かいぬくもり、この薬を打つことで二度と戻らないと考えると注射器を持つ手が震え力が入らないことも度々でした。」

0401過去使われていた殺処分機の操作パネル。ボタンひとつでガス処分、そして焼却炉へと運ばれる仕組み

 

「そのころは、同センターでも年に400頭~500頭の犬を処分しておりました。ここで最期を迎えるのではなく飼い主のあたたかい腕の中で寿命を全うさせてあげたかったと思うと『かわいそう』などという言葉では言い尽くせない、あえて言うなら『無念』です。また、私はその時譲渡会の担当でもあったのですが、新しい飼い主さんが見つかれば心から嬉しくなります。幸せになってよかった、と涙しながらに送り出しておりました。一日のうちに、処分と譲渡が混在する日もあり、精神的に混乱をきたしそうになることもあったんです。」

CIMG45351自らの経験を発信することで現状を変えたいと考える八木氏

 

「こんな経験もありました。犬を飼えなくなった、と連れてきた家族がいました。よくよく話を聞き説得もしましたがどうしても引き取ってほしい、となり致し方なく犬を引き取りました(*現在、動物愛護管理法が改正され安易な引取り要望には対応できない法律となっています)。その直後に犬を引渡した家族の会話が漏れ聞こえてきたんです、ファミリーレストランの名前を耳にしました。食事に向かう元家族が乗った二度と戻らないその車を見えなくなっても追うその犬の目は今でも鮮明に覚えています。
このようなつらかった経験を説得力に変えよう、と思いました。なので譲渡会や講習会などで自分が経験してきたことをみなさんに伝え、生きものを飼うということはどういうことかを考えてもらいたいと訴えてきました。」

 

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 【 4 】「今後の展望を教えてください」
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「殺処分はゼロになってもそれは終わりではなく、次の段階へのスタートだ、と私は考えています。新センターは人と動物がともに幸せになるためのチャレンジです。神奈川県の取り組みから動物愛護の精神を日本、そして世界に拡げたいのです。同じ地球上の動物です。幸せを主張してもいいのです。

この転換期に新施設整備計画の一端を担えることに心から感謝をしています。」

 
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八木さんのとても熱い想いが伝わるインタビューでした。
神奈川県では建設基金を立ち上げ、広く寄付を募集されています。http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f532971/

平成29年12月28日時点で、7,194件、合計228,500,414円の寄付が集まっています。ふるさと納税での寄付も可能ですし、現在は終了していますがクラウドファウンデイングによる資金調達(見事達成!)もされております。さまざまなチャレンジをする神奈川県の取り組みはとても心強い!と、アニドネスタッフは思いました。http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f80192/

八木さんの想いは「人と動物の真の共生」というアニドネの理念と一致しています。
今後のご活躍に心から期待をいたします!インタビューにご登場いただきありがとうございました。