行政施設レポート

熊本市動物愛護センター【後編:改革内容紹介】

アニマル・ドネーションでは、
行政施設への取材を積極的に行っています。

今回は「熊本市動物愛護センター」の後編のレポート。
(施設紹介をメインとした前編はこちらです)

紹介をするのは、殺処分ゼロのための具体的な改革内容です。
10年以上かけての改革は、工夫とチャレンジの連続、、
そして多くの協力者の存在があったようです!

所長の村上睦子さん(獣医師)と
職員の後藤隆一郎さん(獣医師)にお話をお聞きしました。

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【 1 】「ゼロに向けての具体的な活動を教えてください」
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「はい、平成14年に『殺処分ゼロ』を目指してからは、
いろいろな施策を行ってきました。

すぐに着手したことは、安易な犬猫の引き取りを断ることを
本格化しました。なぜ、飼うことができないのか、
終生飼養するためにできることはないのか、
飼い主さんととことん話をすることを始めました。

そして、引き取った犬たちに関しては、
なるべく多くの犬に新しい飼い主さんをマッチングできるよう
『成犬譲渡マニュアル』を作成しました。
例えば、収容されている犬達に名前をつけ
写真入りの紹介ツールをセンターで作成する、といったような工夫です。

14年の12月には、迷い犬情報を熊本市のホームページに
掲載することを始めました。

18年からは、地域ねこ活動を始めました。
それ以外の施策として、『譲渡前講習会』も同年から開始されました。
新たに飼い主さんとなる方に、よりちゃんとした知識を持ってもらい
再び手放される犬猫達を減らすためです。
そのためには、職員の知識のボトムアップも必要でしたので
しつけのインストラクターに来てもらい(10回コース)
自ら勉強する、ということもスタートさせ
それは今も継続して行っています。

そうしているうちに、処分数はどんどん減少し、
19年にはガスによる殺処分を廃止することになりました。

ここ最近では、譲渡をさらに促進するために
犬猫達をもらってもらいやすい状態にする、という努力をしています。
平成21年からは、トリマーさんと契約をして、
犬猫たちをなるべくキレイにし、可愛らしく見えるよう
カットしてもらっています。
誰だってかわいい犬猫と暮らしたいですよね!

また、そういった見た目の印象も重要ですが、より重要なのが中身、
私たちは犬猫の個別の性格を把握する努力をします。
一頭ずつになるべく時間をかけて触れ合い、性格を理解します。
新しく飼い主さんになる方と犬猫たちがベストマッチするためには
私たちが個別の性格を把握しないと難しいと思っています。

そして、センターで過ごす時間もなるべくストレスは
軽減してあげたい、と思っています。
お散歩は、もちろん個別で行きます。
日中、日向ぼっこする場合も隣同士の相性を考えます。
大部屋での管理はせず、間仕切りなどで仕切って
個別で過ごせるような工夫をしています。」

犬たちが楽しみにしている職員さんとのお散歩。

もとは大部屋。中に間仕切りを作り、個体ごとにスペースが作れるように工夫していました。

犬ごとの紹介プレート。『売られたケンカ』は買っちゃう「うえじぃ君」だそうです(笑)

「猫は他行政と同じ悩みだと思いますが、
幼齢の子猫たちの引き取りは多いですね。
乳飲み子は、2~3時間おきに哺乳をしないと生きられません。
ですから、自宅に持ち帰り夜間にお世話することも
もはや当たり前のように行っています。」

仲良しさんは一緒のお部屋に入っていました。

もちろん猫ちゃんたちにも名前がつけられています。

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【 2 】「なぜこのような努力が継続して可能となったのでしょうか」
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「これは、多くの方にいただく質問です。

当センターが何故これまで頑張ってこれたのか、
大きな理由は『当市の動物愛護行政に対し理解ある市民の方々が
サポートや共に活動をしてくれたから』だと言えます。

ゼロを目指したと同時期に『熊本市動物愛護推進協議会』が
設立されました。
市の獣医師さんや愛護団体の方、動物取扱業の方等々、
25名で運営しています。
そこでは、殺処分を行わなければならない
動物愛護センターに対し批判するのではなく、
どうすれば殺処分減につながるのかを
行政と一緒に考え協働してくれております。

例えば『迷子札つけよう100%運動』を行ったときには
ボランティアでイラストレーターさんを探し、ポスターのデザインや
印刷、告知活動等を積極的にしてくださいました。

また、猫の乳飲み子の哺乳は、個人ボランティアさんの協力なしには
到底今の状況にはいたっておりません。

私たちが『スーパーボランティアさん』と呼んでいる西恵美子さんは
毎週、譲渡会を開催し、猫たちの新しい家族探しに奔走してくださっています。
主婦や会社員ら10数名のメンバーで『チームにゃわん』を組織し、
その活動はブログ『にゃわん奮闘記』で随時更新されています。」

子猫たちの哺乳はボランティアさんの協力が大きいとのこと。

「これすごく助かっているんです!」と後藤さん。猫砂代わりのチップ。個人の方からの物品寄付。

上記の猫トイレ用チップ。大量に寄付をくださるのだとか。

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【 3 】「この記事を読んでいる方にメッセージをお願します」
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「私たちの現状が完成形とは思っておりませんが、
この成功事例はより多くの方に知っていただきたいと思っております。
ですので、今後もオープンな施設として、
なにもかもお伝えしていきたいと思っております。

動物たちは、私たちに憩いをくれます。
真に人と動物が共生できる社会を、この熊本市から
作っていきたいと強く思っております。」

所長の村上睦子さん(獣医師)。取材した前日はお隣の大分県に呼ばれて講習をしていたのだとか。大分は譲渡動物へ無料でマイクロチップの装着をしていてすばらしい!とおっしゃっていました。熊本市のご出身。

職員の後藤隆一郎さん(獣医師)。取材の途中で『今、ちょっと乳飲み子の猫が収容されたんで、急いで哺乳してきます!』と爽やかな笑顔で退出されたのが、とても印象的でした。大分県竹田市のご出身。

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今回、前編後編に分けてお送りした、
熊本市動物愛護センターレポートはいかがでしたでしょうか?

動物福祉に興味のある方、レスキュー活動をされている方、
他地域の行政の方に、少しでも参考になれば、、、と思い
アニドネでは現地に向かい取材しました。
そして、このレポートではなるべく具体的な
努力内容をご紹介したつもりです。

全国にある100以上の行政の施設が、
熊本のような改革が進めば、処分数はぐんと減るに
違いありません。
今年の9月に施行される動物愛護管理法には
『終生飼養』の文言が明記されます。
行政施設でも命を生かすという方針へ転換されたことは
大きな前進だと思います。

最後にとても印象的だったワンちゃんを紹介します。

ブルくん。センター歴なんと5年。
案内をしてくださった後藤さんよりも先輩だそうです。

センターにいることが、彼の一番の幸せではないかもしれませんが
5年もお世話し続けている、熊本市のスタンスには感動しました。
早く、素敵な家族が見つかることを祈ります!