海外情報レポート

24時間、犬猫を受け入れるスイスの動物シェルター〈海外情報レポート・スイス編〉

 

スイスのジュネーブ州で一番大きな規模のアニマルシェルター「SPAジュネーブ」(以下SPA)にアニドネスタッフが来訪しました。なんと設立は1868年。すでに157年もこの地で活動しています。

日本とは法律も一般の方の動物に対する向き合い方も違うスイス。

しかしながら、実際に話を伺い、行き場のない犬猫を救いたい活動の根底にあるものは、人としての優しさや動物への尊厳。国は違えど共通点も感じた来訪となりました。

 

Profile

公益社団法人アニマル・ドネーション 代表理事 西平衣里
「日本の動物福祉を世界トップレベルにする」というミッションを掲げ2010年に法人設立。寄付サイト「アニドネ」や提言サイト「AWGs(アニマルウェルフェアゴールズ)」などの活動を行う。今回は都合で渡欧した際にシェルターへ来訪。

補助金は受けず寄付で運営している民間シェルター

来訪した日は6月後半。温暖化の影響かスイスといえど、とても暑い日にシェルターに伺いました。場所は、スイスのフランス国境に近い場所。ジュネーブの中心からは車で40分ほどの距離となります。周りを田園に囲まれたとても自然豊かな場所にありました。

 

犬のリーダーと猫のリーダーに施設を案内してもらいながら話を聞きました。施設自体は豪華ではなく温かみのある平屋の建物。約60頭の犬と約50頭の猫、そしてうさぎ、モルモット、魚が保護されていました。野生動物は対象外とのことでした。

 

シェルターを掃除する間は、屋外にいる犬達。仲良しは同じスペースで過ごすそう。1日3回お散歩に行くそう

 

犬は多くが中型犬以上、大型犬もたくさんいました。中にはオオカミと戦っても勝つと言われている超大型犬も(私は初めて見ました。その大きさに圧倒されました!)。小型犬の多い日本とはベースが違うな、と感じました。

 

猫ちゃんは、日本と同じく雑種が多々、たまに純血種もいます。やはり人気ですぐに譲渡されていくのだとか。エイズや白血病の子は譲渡されづらいのは日本と同じでした。

 

大型犬も多くいました。一般の方から保護依頼された犬
入口には、新しい飼い主を求めている犬猫たちの情報が貼られていました
施設入口あたり。私は平日の昼間に来訪しましたが、ペットを求める家族らしき方々が来ていました
毎日ボランティアさんが来てくれるそう。このウエアを着てお散歩やお掃除など。特に積極的に募集をしなくてもたくさんの動物好きの方が自主的に来訪
個室に分かれている犬たちの部屋。気の合う犬同士は同じ部屋になることも。お掃除が行き届いている
犬の施設。歴史ある施設ですが機能的な構造。近々新施設ができるそう
屋外にあるドッグラン。暑かったので犬たちは木陰にいました
この子達はバカンスに出かけた飼い主さんから預かっている犬たち
見たこともないような頑丈な業務用洗濯機。毛布やタオルを綺麗に保つためにフル稼働
医務室。毎週火曜日には獣医さんが来るそう

 

早ければすぐに譲渡が決まる、とても長くて2年の滞在

譲渡に関して聞いてみました。

スタッフ曰く「シェルターにいる犬たちの性格は私たちが詳しく把握しています。だから、犬を引き取りたいといった人たちの希望や家庭環境を事細かに聞き、その方にマッチする犬たちを紹介します。当然70歳の方が子犬を飼いたい、といった希望は叶えることができません。それは犬も人もハッピーにはならないからです。」

 

希望を叶えることを最優先にするのではなく、マッチングを大事にすることは、最終的に再度保護されることを避けるためでもあるのですね。トライアル期間は1か月だそうです。

 

これまでで最長でシェルターにいた子は2年弱だったそう。純血種や雑種であることはあまり関係なく、小さいサイズの犬は新しい飼い主が決まりやすい傾向にあるそうです。

 

子猫ちゃん。遊ぶスペースが豊富。よい飼い主さんと出会えますように
エイズや白血病の猫も保護される。やはりなかなか譲渡されづらくなるそう。必ず避妊去勢手術をして譲渡となる
犬猫たちの名前と食事の記録などが記載されている

4000名の会員に支えられた組織

SPAの運営について聞いてみました。日々の運営を支えるスタッフは約16名。猫のリーダーが一番長く働いていてなんと14年にもなるのだとか。犬のリーダーは5年の勤務となり、前職は軍の犬の訓練士さんだったそう。個人的に8頭の犬と暮らす根っからの愛犬家。

運営費は4000名もいる会員からの会費に加え、動物を愛する方からの遺贈もあるとのこと。スイスは日本と同じく高齢者も多い国。愛する犬猫のためにアニマルシェルターに自身の財産を寄贈することは当たり前のようでした。これは日本とは大きく違うところでした。

 

ロイヤルカナンの支援を受けているそう。犬猫を譲渡した際にフードをセットにして渡しているとのこと
たくさんのクッション。犬猫たちが快適に過ごすための物資支援も多々あるそう

 

セーフティネットとして認知された存在

手厚いサポートをしているシェルター。果たして、保護される犬猫たちはどこからくるのか?を聞いてみました。

 

「飼育困難になった飼い主さんからです。電話がかかってきて引き取って欲しいと言われます。宿直のスタッフもいるので24時間体制で行っています。夜中の2時に『引き取ってほしい』という電話があることもあります。特に説得をしたりはしません。聞いても仕方がないこと。私たちは目の前の犬猫の福祉を考えて行動をしています。」


 当然ですが、どこの国でもペットを正しく飼育出来ない人はいます。来訪した日は通常より多めの犬たちを保護していました。それは「夏のバカンス前だから犬を手放す人が多いのだ」とスタッフは話していました。人間の都合や致し方ない事情はスイスにもあり、犬猫の福祉のためにシェルターは必要なのです。ただ、日本と違うのがその存在は一般の方に認められ、運営に理解があり、寄付も潤沢に集まっているところ。まだまだ発展途上の日本の民間シェルターとは大きく異なると感じました。

 

こちらはうさぎのスペース
SPAの車。この車で譲渡や保護活動を行う
施設の入り口。多くの緑に囲まれ静かな場所

 

来訪した際には、お散歩ボランティアさんなどのスタッフ以外の方も多く見られました。
決して便利な場所ではないですが、地域に受け入れられ必要な場所なのだと感じました。
また保護している犬たちがまだ若くてとても元気なことも印象的でした。

150年以上前から犬猫のシェルターがあり、人々の生活に根付いていること自体が日本と大きく異なります。しかし、今回来訪した施設は決して豪華でもなく最新の設備が備え付けられているわけではありません。基本にあるのは、行き場のない犬猫や困った人々を支えたいという想いで、その想いに共感する支援者や寄付に支えられた優しくポジティブな場所でした。

日本は保護活動の歴史は長くはありません。保護犬猫という認知自体がここ15年ほどのこと。スイスのようにその存在や保護活動がもっと当たり前になれば、と心から思いました。

 

 

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