中庭で遊ぶ犬達

今回は、MuttvilleのCOO(最高執行責任者)へのインタビューをお送りします。

この方は、アン・モールリングさんという女性で、三ヶ月前に同職を始めたばかり。しかし、その見識と経歴は、まるでシリコンバレーの一流企業の幹部のようでした。

Emi&Kenny 2026
アニマル・ドネーション ボランティア
菊池恵美 きくちえみ
大学時の交換留学、大学院留学を経て現地(シリコンバレー)で就職し、米国永住権を取得。AOL、Yahoo、スタートアップでプロマネとして働いた後、引退。現在は、北カリフォルニアで漫画(原作者)の修行をしながら、動物愛護施設をサポート中。家族は、夫と雄のワンコ(チワワ・テリアミックスの元保護犬、10歳)。趣味は、バレエ、旅行、映画とコミック。

一流企業のような運営ー妥当な賃金も

―なぜMuttvilleに転職されたのですか?それまでは何をなさっていましたか?

「前職は、SF SPCA(米国でも大手の動物保護施設)で救難・厚生部長をしていました。今回は、自分の心の命じるままにMuttvilleに転職したんです。
スタンフォード大学でMBAを取得してから、元々は、シリコンバレーのIT企業のマーケティング畑に長くいたんですよ。SEGAでも働きました(微笑)」

MuttvilleのCOO(最高執行責任者)アン・モールリング
MuttvilleのCOO(最高執行責任者)アン・モールリングさん

―Muttvilleには組織図がありますか? どのような指揮系統になっていますか?

「あります。まず私は、CEO(最高経営責任者)のローリー・ルーティアの直属です。私の下には、獣医科、受け入れ、譲渡、カスタマーサポート、フォスター、ボランティア、行動療法などがあります」
(筆者注:まるで一般企業のようです。それにしてもアンさんの管轄範囲は広い!)

―フルタイムのスタッフは何人ですか?またパートタイマーは?

「現在約40名です。すみません、パートタイマーの正確な数字は今、(照れながら)ちょっとわかりません」
(筆者注: サイト情報によれば6人。因みにMuttvilleの従業員には全員に、SFでの非営利団体の相場の給料が支払われている。例えば、フルタイムの場合、推定年六万ドル〜十五万ドル<900万円〜2250万円>)

スタッフのオフィス(奥)とラウンジ

―スタッフは毎日オフィスに来ますか?それともリモートで働くこともできるのですか?

「部によって違うのですが、大体週四日は出勤するようになっています。勿論、外部との折衝が多い部門では週二日だったり、犬と直接関わる部門ではリモート勤務はなかったりしますが」

―スタッフ紹介ページには、38人中男性は5人しかいません。これには理由がありますか? それとも動物愛護業界共通の現象ですか?

「うーん、考えたことはなかったのですが‥、確かに今まで会った愛護施設のリーダーはほとんどが女性でした。(ここでしばし考え込むアン氏)。

個人的に思うことは、女性の方が他者を助けたい、直接関わって支援したい、という気持ちが強いのではないでしょうか」

獣医のギャビーさん

―Muttville はCRM(顧客関係管理)などの活用が際立っていますが、ITの専門家はいますか?

「はい、寄付・後援者の管理はCRMがフル活用されており、IT担当がフルタイムでそのプラットフォーム等をマネージしています」

―ファイナンスの専門家は?

「ファイナンスの専門家と、会計担当(フルタイム)がいます。前職の方は、新たに人材を募集中ですが‥。 」
(筆者注:SFの非営利団体の同等職の平均年棒は、十五万ドル<2250万円>といわれている。因みに、私企業での同等職の年棒中央値は、五十万ドル<7500万円>なので、「もうお金はガツガツ稼ぐ必要のない」動物愛好家のための職とも言えよう。)

現在の課題と目標

―現在の「課題」は何ですか?それにどのように対応していますか?

「とてもいい質問ですね‥。今、私たち(Muttville)は、非常に大きな目標を立てました。

『創立25周年に当たる2032年までに、シニア犬の引き取り・譲渡件数を二倍にする』というゴールです
(筆者注:年1400頭から2800頭にするということ)

これが個人的に現在の一番大きな『チャレンジ』ですね。これを達成するためには、沢山の準備と、ベンチマークを超えていかなくてはいけません。現在その具体的な筋道を計画している段階です。

もう一つは、私たちのシニア犬保護のノウハウをシェアする『コンテンツプラットフォームの構築』です。Muttvilleではこれまでの運営や経験から、どうシニア犬を扱うのかという知見を増やしてきました。

問い合わせでも、『私もMuttvilleのような活動を始めたいんです』という声が多数寄せられています。 

それには、きちんとした情報の倉庫(ライブラリ)の設立が必要で、それをどのように展開していくかを現在検討中です。まずはシンプルなプラットフォームを作って、『どのような人々がどのように利用しているか』というメトリクスを作り、より良い形式を作成していきたいと思っています」

リラックスする犬達

―これからの目標を教えてください。

「先ほど申し上げた二つの課題。『引き取り・譲渡頭数を(2032年までに)二倍にする』ということと、「ノウハウシェアのプラットフォーム作り」が何と言っても大きな目標であり柱ですね。

スタッフの拡充と、インフラへの更なる投資、犬の施設滞在期間の短縮も目標に挙げられています」

―Muttvilleでは年に1400頭もの犬を引き取り・譲渡しているわけですが、そのうち「他の保護施設から来る頭数」、「(飼い主)の放棄」の割合は?また、「多頭飼い崩壊」現場からも犬を引き受けていますか?

「多くは、過剰な頭数に悩む他の施設からの受け入れです。去年は、全米の93の施設からシニア犬を引き取りました。
大部分は、西海岸からで特にカリフォルニアのセントラルバレー地区(内陸部)からが最多です。

飼い主の放棄と多頭飼育崩壊現場からのレスキューもしていますが、大多数は他の施設からのものです」

訪問者からのサンキューレター

―米国の他の動物愛護施設と協力していますか? 特にSFベイエリアの施設とは?

「シニア犬プログラムを持つ施設は、この辺では僅かで、他に三つ程でしょうか。

正直言って、十分な連携やナレッジ共有がなされていないので、『アライアンス作り』が必要です。これも、今後の課題の一つです」

シニア犬の受け入れの現場で+日本の施設へのアドバイス

―日本では、シニアが「犬猫を飼いきれなくなった」という理由で保護団体に引き渡すことに対して、批判的な見方とともに、後ろめたい感情が伴います。アメリカではどうでしょう?

「ないとは言い切れませんが、個人的には見聞きしたことはありません。何故でしょうね‥」

(筆者注:ここで筆者が『飼いきれなくなった』ということを批判するより、『今できる最善のことは何かを考えて行動する』ということがアメリカ流の気がしますが」と言うと、アン氏は「その通りです!」と答えた。)

―どんな犬が引き取られやすいですか?

「業界でよく言われるのが「『white and fluffies(白くてフワフワ)』という言葉です(笑)。具体的には、シーズー、ポメラニアン、それに次いでチワワに人気があります。

引き取りから譲渡までは早いですよ。平均して20日です。SF SPCAでは、安楽死ゼロポリシーがあるので、最長で一年余りいた犬がいました。ここでの最長は六ヶ月です」

人気の出そう(?)な犬達

―Muttvilleでは、遠隔地からの引き取り手のために、ZOOMでの犬紹介もしていると聞きましたが。

「はい、やっています。全体の15%が「バーチャル(対面)オンリー」で貰われていきます。これは主にフォスター家族が、引き取り希望者に対して行っています」

―譲渡された犬がMuttvilleに『出戻り』となる確率はどのぐらいですか?その場合はどうしますか?

「5%の犬は、飼い主の死亡や病気等の理由でここに戻されてきます。でも、また新しい飼い主を探すまでです。

そのような場合(飼い主による返却)でも、理由は尋ねません。『ノークエスチョンアスクド(理由は問わない)』です」

静養中の犬

― Muttvilleで働いていて、「幸せを感じる瞬間」は?反対に「悲しい時」は?

「幸せなのは、何と言っても譲渡が決まった時ですね。職員、ボランティア皆で『やったー!イェーイ!』という歓声が上がります。犬たちが新しい家族と一緒に、ドアから出ていく瞬間はいつ見てもいいものです。

悲しい時は、犬たちと違った意味でお別れしなくてはいけない時です。百頭受け入れると、平均七頭は安楽死となってしまいます。これはシリアスな病気や行動の問題がある場合です。

決して簡単な決定ではありません。皆がその犬達を心を込めて世話してきたからです。でもそれを敢えてやらなくてはいけない場合があります。スタッフの誰もが非常に辛い思いをします」

― 最後の質問です。日本のシニア犬保護団体に対して、何かアドバイスをしていただけますか?

「まずは、シンプルに小さく始めることです。最初は、リソースが少ないでしょうから、手を広げすぎないことが肝要です。

保護する犬の頭数を多くしすぎないこと、そして犬の施設滞留期間に注意を払ってください。長過ぎるのなら、改善点があるはずです」

インタビューを終えて

知性的で経験豊富なCOOであるアンさんは、全ての問いに率直かつ明解に答えてくれました。感謝するとともに、こういう人が最高幹部になる団体、Muttvilleに改めて敬意を覚えました。

Muttvilleの「低額の去勢手術提供等はしていないが、他施設で余剰となったシニア犬を積極的に引き受け譲渡していく」という姿勢は、日本の施設でも学ぶ点があるような気がしました。