『保護犬・保護猫』という言葉が日常になった今、その根本原因である“過剰繁殖”を止めるために、最前線でメスを握るプロフェッショナルたちがいます。2025年12月から新しくアニドネ認定団体となった『一般社団法人 Spay Vets Japan』代表・橋本獣医師に、世界基準の不妊去勢手術と、彼らが目指す『保護活動のいらない未来』について伺いました。

驚異の傷口1cm『子宮吊り出し術』とは

ー最近は(少なくとも都市部では)動物病院も良く見かけます。『繁殖防止を目的とした手術が出来る獣医師が不足している』とは、どういう事でしょうか?

「過剰繁殖防止の為の不妊去勢手術が最も必要とされるのは、野良猫のTNR実施時や多頭飼育崩壊現場のレスキュー時です。そういった時の手術は、一度に多くの頭数(約30頭~)を施術する”速さ”が求められるからです」

和歌山県南紀白浜繁殖予防病院にて
2025年10月28~30日 岡山県瀬戸内市の一斉手術にて

ー普通の動物病院では考えられないスピードですね。Spay Vets Japan さんではどうして可能なんでしょうか?

「スぺイフック(子宮吊り出し鉤)という特殊な器具を用いた術式を採用しているからです。『子宮吊り出し術』は1cm程度の傷口で行うので、1頭にかかる絶対時間が削減されます。この術式を抜きにスピーディな手術は不可能です」

2026年1月24日 トレーニング講習会にて

ーSpay Vets Japan さんでは、『子宮吊り出し術』を多くの獣医師に習得してもらうために、トレーニング講習会や臨床実習を開催していますね。

「実際に1日30頭の手術を可能にするには、少なくとも1000頭余りの執刀経験は必要でしょう。けれども、まずは『子宮吊り出し術』の技術習得がスタート地点です。それを応援するのが私達のトレーニングプログラムなんです」

マンツーマンでしっかり指導します
貴重な臨床現場を体験できる機会を提供しています

ー『子宮吊り出し術』は普通の手術に比べて、猫に大きな負担がかかるという事はありませんか?

「はい。ありません。

猫に負担の少ない鎮静薬・麻酔薬を厳選して、熟練したスタッフが外野をサポートし、安全かつスピーディな手術を実現しています。むしろ傷口が1cmなので、術後の回復が早いという利点があります」

見事なチームワークで、安全な手術を実施しています。

猫の不妊去勢手術は『生後6ヶ月齢から』はもう古い?常識を覆す科学的根拠

Spay Vets Japan さんは、猫の早期不妊去勢手術は”生後5ヶ月齢までに”と提唱されています。”生後6ヶ月齢から”ではないのですか?

「実は、世界最大の獣医師団体である米国獣医師会(American Veterinary Medical Association)は、2017年に『猫の不妊去勢手術は5ヶ月齢までに行うべき』との支持を表明しています。猫は早ければ4ヶ月齢で妊娠してしまうという現実があるからです。かつてのアメリカも日本同様、根拠なく6ヶ月齢まで待つ文化でしたが、現在は14の州獣医師会や多くの愛護団体がこの『5ヶ月齢以下』に賛同しています

2025年11月30日日米合同カンファレンスにて

世界基準はすでに変わってきているのですね。では、日本の現状はどうなのでしょうか?

私たちが2022〜2023年に全国の動物病院を対象に行った調査では、いまだに80%以上が『6ヶ月齢以降』を推奨しているという結果が出ました。科学的根拠のない旧来の慣習が、日本には根強く残っているのです。私たちはこのギャップを埋めるため、日本の臨床現場での発情・妊娠実態を調査し、エビデンスに基づいた有効な繁殖予防を広めようとしています」

貴重な臨床現場の実態調査(母体数:2193頭)※2022~2023年に実施

生後6ヶ月齢に満たない猫に手術して弊害はないのでしょうか?

「大多数の動物病院が、”発育・形成不全になるのではないか?””麻酔に耐えられるのか?”といった不安から、早期不妊去勢手術を行っていません。発育不全については、前述の通り科学的根拠はありませんし、術中のリスクも『子宮吊り出し術』であれば回避できる問題です」

ー逆に、早期不妊去勢手術を行うメリットはあるのでしょうか

「発情してしまった子宮は充血して固くなるので、術創(傷口)が大きくなったり出血が多くなりますが、発情前であれば短時間で手術ができます。また、幼齢で使用薬品の量が少ないため、手術費用も抑えられます」

発情前後の不妊手術の違い

「初回発情がくる前に不妊去勢手術を受けた方が、腺腫瘍の発症率を著しく下げることや、一貫して長生きをするということは証明されていますが、もちろん個体差による判断は必須です。ただ、何の根拠もなく漫然と”生後6ヶ月齢以降”という今の常識は変えていくべきだと考えています」

近年は、海外でも生後5ヶ月齢以下での不妊去勢手術がスタンダードとなっているそうです。Spay Vets Japan さんは、日本の繁殖防止活動が世界基準から立ち遅れないように海外の獣医師とも技術交流を行っています。

2025年12月1日日米合同勉強会にて

※犬の不妊去勢手術の時期は、犬種によって体格も様々であることから、現在議論がなされています

『保護活動を不要にする』ために。獣医師たちが描く、究極の動物福祉

Spay Vets Japan さんは、和歌山で『繁殖予防病院』も展開されていますね。なぜ和歌山なのですか?

「南海トラフ地震を想定して和歌山を選びました。完全室内飼いの猫でも、ひとたび大災害に見舞われたら、どうなるでしょうか?家屋は倒壊し、飼い主と離れ、放浪動物となってしまいます。その時、不妊去勢手術を行っていなければ、望まぬ妊娠をして行き場のない命が生まれます。震災後ではなく、平常時から不妊去勢手術を普及させておくことが、動物にとっての防災だと考えます」

東日本大震災での1例。避難中に過剰繁殖した猫達

「災害でなくても、単なる『脱走』から放浪動物になってしまう事例もあります。私達が目指すのは、早期不妊去勢手術を行うことを法制化して、保護しなければいけない動物が存在しない、保護活動そのものが不要な世界です」

早期不妊去勢手術の普及を、全身全霊をかけて取り組む代表 橋本獣医師

Spay Vets Japanさんでは、科学的根拠に基づいた海外文献の紹介や、現役獣医師だからこそ可能なリアルな臨床現場の調査結果を公式ホームページで公開されています。かなり専門的な内容ですので難解な部分もありますが、一般の方にも分かりやすい講演会のご依頼も受け付けています。『生後5ヶ月齢までの早期不妊去勢手術』の是非を、不妊去勢手術前に譲渡を行っている保護団体様やブリーダー・ペットショップ関係者様に、一度ご検討頂きたいと思います。

2026年2月1日 和歌山県田辺市講演会にて

一般の注目を浴びるレスキューの裏側で、メスを握り続けるSpay Vets Japanさんの“静かな戦い”こそが、不幸な命の連鎖を断ち切る唯一の手段なのです。今後ともSpay Vets Japanさんへのご寄付・ご支援をどうぞよろしくお願いいたします。

★緊急のお知らせ★

Spay Vets Japanさんでは、クラウドファンディング『不幸な犬猫が生まれないために|過剰繁殖を止める獣医師育成にご支援を』に挑戦されています。2026年3月26日(木)午後11:00 までの期間限定です!こちらも是非ともご協力お願いします。


2026年3月26日(木)午後11:00 までの期間限定です!

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