2026年6月24日(水)、公益社団法人アニマル・ドネーション認定保護団体向けの学びの場「アニドネカレッジ」、第6回を開催しました。
第6回のテーマは「地域に愛されるシェルターを目指して」。
アニドネカレッジの立ち上げ時に実施したアンケートでは、「地域に根差した団体になりたい」という声が数多く寄せられていました。地域と共に歩む団体運営のヒントを分かち合いたい。そんな思いから企画したこの回には、多くの団体にご参加いただきました。
スピーカーは、特定非営利活動法人キドックスの事務局長・岡本達也さんです。茨城県つくば市を拠点に、犬と人が支え合う場づくりに取り組んでこられました。さらにゲストとして、ジャパンアニマルシェルターアライアンス(JASA)の小黒江莉果さんにもご登壇いただき、アメリカのシェルター事情から学びを深めました。

犬と人が、可能性を発揮できる社会へ
岡本さんは、キドックスのやり方が正解ではなく、各団体のヒントになる話題提供として聞いてほしい、と前置きして話し始めました。
キドックスが掲げるのは、人と犬の豊かな関係性が溢れ、人がその人らしく、犬がその子らしく可能性を発揮できる社会です。
原点は、代表の上山琴美さんが高校時代に出会った一冊の本、今西乃子さんの『ドッグ・シェルター 犬と少年たちの再出航』でした。アメリカの少年院で、捨てられた犬と過ちを犯した少年が、共に信頼を回復していくドキュメンタリーです。
その後キドックスは、本の舞台にもなったアメリカ・オレゴン州の動物介在プログラム「Project Pooch」を実際に視察します。そこで目にしたのは、少年たちが犬との関わりを通して責任や忍耐、愛情を育んでいく姿でした。
犬をただ与えるだけでは足りない、適切な関係性を育む土壌があってこそ、人も犬も変わっていける。
その確信から、引きこもりや不登校の子ども・若者の支援と保護犬活動を組み合わせた「動物介在活動」が始まりました。これまでに500人以上の子ども・若者と、100頭以上の保護犬を支えています。

コミュニティシェルターを目指したきっかけ
2012年の活動開始から何年も続けるなかで、岡本さんにはずっと抱えていた葛藤があったといいます。キドックスが出会うのは、犬も人も、すでに困りきってしまった存在ばかりだったからです。
行き場をなくした犬。
何年も家から出られない不登校や引きこもりの若者。
手立てが少なくなってから出会うことの多さに、もどかしさを感じていました。
そんな考え方を変えたのが、一本の電話でした。子育てに疲れ果てた母親からの「犬を引き取ってほしい」という訴え。夫が、「子育ての気が紛れるだろう」と子犬を迎えてきたものの、子育てと子犬の世話が重なって限界が来てしまったという相談でした。

最初は無責任だと感じたものの、岡本さんはすぐに「これは犬の問題ではない」と気づきます。犬を引き取っても、この方の抱える課題はなくならない。そう思い、引き取るとは言わずに、「お子さんは元気ですか?」「お母さんは眠れていますか?」とただ話を聞いていきました。すると電話を切るとき、その方は「ここまで話を聞いてもらえると思わなかった。もう少し頑張ってみます」と言ってくれたそうです。
取り巻く環境は何も変わっていないのに、30分ほどお話ししただけで前を向けた。不安を話せる相手がいるだけで、また明日を頑張れる。岡本さんは孤立や孤独の深刻さと、つながりが持つ力を、この電話から実感したと語ります。
目指すのは、コミュニティを編み直すシェルター
この気づきはキドックスのシェルター像を形づくりました。コミュニティの分断が進むなかで、生きづらさを抱えた人の孤立が深まれば、その先に多頭飼育崩壊や動物虐待といった問題の深刻化が待っている。動物の問題と人の問題は根っこでつながっている。岡本さんはそう考えます。

だからこそ目指すのは、失われたコミュニティを編み直すシェルターです。訪れた人同士に良質なつながりが生まれ、その場にいるだけでプラスのエネルギーをもらえる。そんな場所をつくることが、シェルターの社会的な役割なのではないか、と話されました。
街の中にある複合施設「HACCキドックス」
その実践の中心が、2022年4月につくば市に開設したヒューマンアニマルコミュニティセンターキドックス(HACCキドックス)です。

ここにはドッグシェルターのほか、保護犬と出会えるカフェ、トリミングサロン、ドッグホテル、ドッグランが集まっています。保護犬カフェには年間5,000人ほどが訪れ、1年間で850頭以上の犬がここで過ごす、地域のハブとして機能しているそうです。
地域に愛されるための3つのポイント
施設をつくればコミュニティができるわけではありません。キドックスは、地域の人が単なるお客から当事者へと変わっていく流れを、「興味・愛着・主体」の3つのステップで考えています。
まず興味です。日本で動物と暮らす世帯は約20%といわれ、多くの人は動物に積極的な関心がありません。そこで自分たちの目的は一旦忍ばせ、「楽しそう」「面白そう」という相手の興味を入り口にします。

保護犬カフェは「犬と触れ合える」と検索した人が見つけてくれますし、食事や子ども食堂的な取り組み、用途別のお問い合わせフォームも、最初の一歩のハードルを下げる工夫です。東京駅から高速バスで1時間という街なかの立地も、そのためのこだわりだといいます。
次に愛着です。ここで大切にしているのは、相手を主語にすること。「いらっしゃいませ」ではなく「こんにちは」と声をかけ、まず相手の話を聞いてから、自分たちの専門性をどう活かせるかを一緒に考えます。迎え入れのトライアルを断られたときも、背景にある課題を丁寧に聞き、家族で話し合う場を提案する。困難を一緒に越えた先に、強い愛着が生まれるそうです。
そして主体です。関わりしろを見えるようにしておくと、人は自然と動き出します。カフェの来訪者が勤め先に掛け合って100万円以上の寄付につながったり、迎え主がマルシェを主催したり、フレンチレストランのシェフがカフェのサンドイッチを監修してくれたり。こちらの「してほしい」を手放したときに、相手の「やりたい」があふれ出す。岡本さんはそう表現していました。

アメリカのシェルターに学ぶ、3つの鍵
続いて、フロリダ大学大学院でシェルターメディスンを学んだ小黒江莉果さんが、アメリカの事例を紹介してくれました。

現地のシェルターは、住民が日常的に通い、困ったら頼れる場所として根づいています。その鍵は、「開放性」・「飼育継続の支援」・「共創」の3つだといいます。
一つ目は開放性。施設に滑り台やキッズスペースがあり、子どもが保護犬や保護猫に読み聞かせをしたり、高齢者が毎日ボランティアに訪れたりする、ロサンゼルスの施設の例が挙げられました。シェルターを地域に開くことが、日常的に立ち寄れる場所をつくっていきます。

二つ目は、飼育継続の支援です。フードバンクや相談窓口を通じて、手放さずに暮らし続ける方法を一緒に探す。あるシェルターでは、相談者の約30%が動物を手放さずに済み、3年弱で約1,500頭の収容を防げたという調査結果も共有されました。

三つ目は共創。1日だけの預かりや、月に数時間だけのボランティアなど、柔軟な参加を受け入れ、地域全体で運営していきます。短期の預かりが犬のストレスや問題行動を和らげ、譲渡につながりやすくなることは、論文でも示されているそうです。
これら3つに共通するのは、徹底した情報公開と透明性です。透明性が信頼を生み、信頼が寄付や新たな担い手を呼ぶ。シェルターの運営方法は団体ごとに違っていい、だからこそ自分たちにできることを、できるところから。小黒さんはそう締めくくりました。
目指すのは、地域を牽引するシェルター
岡本さんがもう一つ、キドックスが大切にしている考え方として紹介したのが「アシロマー協定」です。標準を超えるケアを行うシェルターは、地域社会に従うのではなく、地域社会をリードしている。シェルターは問題の後始末をする受け皿ではなく、地域の価値観をアップデートし、社会のあり方を先導する存在だという、アメリカの動物福祉で共有されてきた哲学です。キドックスが目指すのも、まさにそんな地域を牽引していくシェルターです。

岡本さんは、こんな本音も明かしてくれました。「地域に愛されたい」という言葉の裏には、もっと活動を手伝ってほしい、寄付で支えてほしい、もっと理解してほしいという切実な願いもあるといいます。
ただその願いを正面からぶつけても、活動に打ち込む団体ほど、関心の薄い人との距離はかえって広がりやすい。だからこそ、まずは自分たちの「してほしい」を脇に置いて、相手が楽しめることや望むことから関わりを始める。回り道のようでいて、それが応援の輪を広げていくと教えてくれました。
そして最後に、地域に根ざすとは「つながろうとする」ことではなく、「一緒にいられる理由を作り続けること」だ、という言葉を残しました。目の前の一人ひとりに誠実に向き合い、自然と「ここにいたい」と思える理由を重ねていく。その先に、人も犬も自分らしく生きられる社会が広がっていく。参加団体には、巻き込みたいのはどんな人か(興味)、どんな関係を築きたいか(愛着)、日常のどこに関わりしろがあるか(主体)という問いも投げかけられました。
おわりに
キドックスさんが大切にしてきたのは、相手を主語にして関係を一から編み直していくこと。小黒さんが紹介したアメリカのシェルターも、地域に開かれみんなで一緒につくっていく場所でした。アプローチは違っても、お二人の話は、地域に開かれやがて地域を支え導いていくシェルターという、同じ方向を向いていたように思います。
動物の問題は、動物だけの問題ではありません。その根っこには、人の孤立やつながりの課題がある。だからこそシェルターや保護の現場は、犬や猫だけでなく、人と人とをつなぎ直す場所にもなれる。今回の二つのお話は、そんな可能性を見せてくれました。

セッション後のアンケートでは、8割を超える方が満足・非常に満足と回答してくださいました。寄せられた声の一部をご紹介します。
「とても素敵なお話でした。あるべき姿だと思いました。」
「相手の言葉を鵜呑みにするのではなく、よくお話をきいてみると本当の課題がみえてくるというのはとても同意できました。」
「この度シェルターを開設することになり、今後の運営に大変参考になりました。」
地域に愛されるシェルターをどうつくっていくか。その問いを、それぞれの現場に持ち帰る学びの時間になりました。アニドネカレッジは、認定団体が垣根を越えて学び合う場として、これからも続いていきます。

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