新潟で25年にわたり犬猫の命と向き合ってきた、新潟動物ネットワーク(以下NDN)。譲渡活動から多頭飼育崩壊、畜産動物や展示動物の福祉まで、ジャンルにこだわらず、行政と共に必要な社会課題に取り組んできた団体です。
今年のフェスティバルのテーマは「カキネヲコエル」。立場の違う人たちが垣根を超えてつながったとき、動物たちの未来はどう変わるのか。フェスの取材に先立って訪れた一つの現場から、レポートを始めます。

垣根を超える現場「にゃんがたセンタークリニック」
はじめに訪ねたのは、新潟市動物愛護センターです。「愛護センター」というと少し暗い雰囲気を思い浮かべるかもしれませんが、ここは「食」と「花」をテーマにした複合施設「いくとぴあ食花」の中にあり、子どもから大人までが楽しめる明るい場所でした。


併設の動物ふれあいセンターには年間35万人が訪れ、無料ということもあって、市民が気軽に立ち寄れるのが大きな特徴です。
そのセンターの中に、全国でも珍しい取り組みがあります。にゃんがたセンタークリニック。多頭飼育崩壊を防ぐために生まれた、猫の不妊去勢専門の病院です。
運営するのは一般社団法人新潟県動物愛護協会。場所は愛護センターが提供し、NDNが協力団体として関わっています。利用できるのは認定登録された保護団体です。新潟には、たくさんの猫を一度に手術できる専門の場がなく、その「足りないピース」を埋めるかたちで2024年に開設されました。



麻酔器と生体モニターも大活躍!
開設からこれまで、手術を受けた猫はのべ1,000頭以上だといいます。
この現場を支えているのは、多くの人の手でした。登録している協力獣医師は19名。手術を補助する助手が16名、ボランティアが15名。あわせて約50名の協力で運営が成り立っています。
NDNは、この連携の中でボランティアの役割を担っているほか、利用団体として、センターと分担しながら、地域で困っている猫を捕まえ、この病院へとつないでいます。ここで手術を受けた猫は、飼い主のもとに戻る場合もあれば、新しい迎え主を探す場合もあります。

この取り組みは、全国でも高く評価されています。動物愛護協会・行政・獣医師会の協力獣医師・動物愛護団体が一体となった実践が認められ、令和6年度獣医学術学会年次大会では、「にゃんがたセンタークリニック」に関する発表が全国一位となりました。その先進性から視察も相次いでいて、地方の保護団体や議員など、各地から関係者が訪れているとのことでした。一方で、手術を必要とする猫はまだ多く、手術をもっとコンスタントに実施していく必要がある。それが現場の実感でした。
大雨の中、大盛況!垣根を超えるマルシェ
翌日、いよいよNDNフェスティバル当日を迎えました。当日はあいにくの大雨。それでも開始前から行列ができるほどの盛況で、人々の関心の高さがうかがえます。

出店は、アニマルウェルフェアに配慮されたお店が厳選されていました。
動物福祉に配慮した畜産品、地元のエシカルな食、こだわりの詰まった食材が並びます。特に佐渡のパン屋さんは大人気でした。動物愛護を応援する雑貨や、猫をモチーフにしたアート作品も並び、子どもから大人までが楽しめる一日です。会場では、写真で保護猫を紹介する「写真DE譲渡会」や、日本の畜産動物のアニマルウェルフェアを学べる展示も行われていました。



このイベントには、筆者もボランティアとして参加させていただきました。会場には学生さんの姿も多く、幅広い世代が運営を支えていました。目玉のガラポンは、景品をすべて企業やマルシェの出店者が無償で提供したもの。1回500円でハズレなし、その利益はすべてNDNの保護活動に充てられます。
その他、スタンプラリー・アニマルウェルフェア宣言など、参加した人みんなが楽しみながら動物福祉に関われる工夫が、会場のあちこちにちりばめられていました。


「私のアニマルウェルフェア宣言」
人の福祉と動物の福祉をつなぐ
会場では、心に残るセミナーがいくつも開かれました。そのひとつが「知ってほしい。ペットからのSOS
~人の福祉と動物の福祉を適切につなぐ~」。新潟市西区役所健康福祉課の吉岡大輔さん、テンプスタッフフォーラム株式会社の倉島昇さん、そして家庭に入り込んで問題を解きほぐす活動をする「どうぶつがかり」代表の三浦真美さんが登壇しました。


紹介されたのは、ある猫と飼い主のケースです。猫を適切に世話できず、悲しい結果を招いてしまった方がいました。三浦さんがペットシッターとして家庭に入ると、その人は冷たい人ではなく、知的障害と精神障害を抱え、自分自身のケアもままならない状態だったことがわかります。
三浦さんは西区役所の吉岡さんに相談しました。人の福祉の窓口である吉岡さんも、「動物のことで相談が来たのは初めてだった」と振り返ります。動物と暮らし続けられなくなる高齢者は必ずいるのに、行政にはそれを支援する制度がない。現実には、そうした問題がたくさん埋もれています。
そこで、それぞれの得意分野が持ち寄られました。金銭管理は社会福祉協議会、生活面の家事援助は障害者制度のヘルパー、就労支援は福祉事業所、そして動物の世話はどうぶつがかり。ひとつの窓口では抱えきれない問題を、横の連携で、垣根を超えて解いていったのです。
その後、この方はグループホームで暮らすことになり、今では施設の犬を可愛がりながら、生活も安定して穏やかに過ごしているそうです。三浦さんは語ります。動物の立場だけで見れば、虐待だと非難して終わってしまう。でも、人の福祉と動物の福祉が手を取り合えば、人も動物も一緒に救うことができる。ペットと暮らせない人への支援は、制度の狭間に置かれている。だからこそ横のつながりが、最適な道を照らしてくれるのだと。
地域を救う、多機関連携の挑戦
前日に訪ねたにゃんがたセンタークリニックについて、今度は関わる人たち自身がその意義を語るセミナーが開かれました。「地域を救え!にゃんがたセンタークリニックの挑戦」と題したセミナーです。

登壇したのは、執刀を担う「あさい動物病院」院長の浅井厚さん、上越で活動する「しっぽのなかま上越」の濁川渚さん、「小さないのちたすけ隊」の清水真由さん。コーディネーターは新潟市動物愛護センター所長の登坂友一さんです。

この取り組みは、動物愛護協会・行政・獣医師会の協力獣医師・動物愛護団体がひとつになって動く、全国でも初めての試みです。
浅井さんが大切にしていたのは、フラットな関係でした。ボランティア、動物愛護団体の関係者、事務方、獣医師や看護師の医療スタッフ。それぞれの持ち場に上下関係はなく、気づきや意見を言いやすい。各立場の人が、それぞれの責任を全うしている。その空気が現場を支えていました。
そして浅井さんは、こう問いかけます。野良猫の問題もペットの問題も、動物の問題ではなく「人間の問題」なのだと。原因となる人の暮らしにまで目を向け、根本から解決していくことの大切さが、深く心に残りました。
利用する団体からも声が寄せられました。しっぽのなかま上越の濁川さんは、多頭案件が増え、短期間に複数の頭数の手術が必要になる現実を語ります。上越から「にゃんがたセンタークリニック」までは距離があり、搬送の負担は小さくありません。それでも、複数の猫を一度に、費用を抑えながら質の高い手術で受けられる。遠くても一日かけて行く価値がある。もっと近くにあったら、という願いも添えられました。
小さないのちたすけ隊の清水さんは、経済的に厳しい地域の実情を語りました。手術費用も、病院までの交通手段も用意できない。それでも捕獲を始め、不妊去勢へとつなげていく。にゃんがたセンタークリニックは1日に25頭まで手術ができ、ボランティアの負担も費用の負担も少ない。猫にも、相談者にも、ボランティアにもやさしい場所だと語られました。

垣根を超えた先に
取材を通して心に残ったのは、NDN代表の岡田朋子さんが大切にしている言葉でした。
社会を巻き込む。相手を信じる。
互いにできること・できないことを理解して分担する。
そして、楽しく活動する。
立場や肩書きの違う人たちが、動物のために少しずつ垣根を超える。その積み重ねが、新潟の犬猫の未来を、そして人の暮らしまでも、確かに変えていました。
さまざまな分野で行政や地域、福祉と垣根を超えて手を取り合いってきた25年が、いまこうして形になっています。新潟動物ネットワークさんの活動への温かいご支援をよろしくお願いいたします。
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