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万が一の時にも愛犬・愛猫が幸せに暮らせる仕組みを

活動レポート

「シニア for シニア」という社会処方ー動物行動学の知見から

2026.04.21

目次

前回は、医学研究の観点から、動物と暮らすことが高齢者の健康や生活の質にさまざまな良い影響をもたらす可能性について紹介しました。では、この「シニア for シニア」という高齢者がシニア犬猫を迎える仕組みは、譲渡されるシニア動物にとっても望ましいものなのでしょうか。この問いについて、動物行動学の視点から見てみます。

お話を伺ったのは、25年以上にわたり動物行動学や動物介在療法の研究を続けてこられた専門家、動物科学の増田宏司先生です。

結論から言えば、増田先生はこう語ります。

「動物にとって“特定の保護者がいること”は、幸せになるための大前提です」

動物行動学が示す「シニア for シニア」の合理性

犬猫にとっての「安全基地」とは

動物行動学では、犬や猫が飼い主を「安全基地」として認識していることが、研究によって示されています。(1 不安を感じたときや体調がすぐれないとき、犬や猫は、特定の人の存在によって安心を取り戻します。つまり彼らにとって大切なのは、シェルターではなく、「この人が自分の保護者だ」と分かる家庭で暮らすこと。それは単なる居場所ではなく、動物の情緒の安定を支える心理的基盤になります。

とくにシニア犬猫は、若い頃よりも体調や行動の変化が現れやすい時期です。だからこそ、1対1で目が届く家庭環境は、動物福祉の観点からも理想的な環境だと考えられます。

猫にとって人間は「社会的パートナー」

猫は単独で生活する動物というイメージがあります。しかし研究では、猫は人が操るおもちゃで、人と一緒に遊ぶことを好むことが示されています。つまり猫にとって人間は、単なる同居人ではありません。社会的な関係を築く相手なのです。人と穏やかな時間を共有することは、猫にとっても大きな満足感や刺激につながります。

犬猫は人に「寄り添う力」を持っている

近年の研究では、犬が人間の体調や心理状態を読み取り、行動を調整する可能性も示唆されています。ゆっくり歩く、そばに座る、静かに寄り添うなどといった行動は偶然ではなく、人の状態を感じ取り反応している可能性があると考えられています。(2

高齢者の穏やかな生活リズムは、シニア犬猫にとっても無理のない環境になります。双方のペースが自然に重なり合う関係が生まれやすいでしょう。

シニア犬猫は「飼いやすい」という事実

シニア動物との暮らしに不安を感じる人もいるかもしれません。しかし、動物行動学の観点から見ると、シニア犬猫は必ずしも飼育が難しい存在ではありません。犬は1日およそ12時間以上、猫は16〜17時間ほど眠るとされています。 若い頃に比べて活動量は落ち着き、生活リズムも穏やかになります。散歩についても、シニア同士であれば運動量の負担は大きくありません。
また、「シニア for シニア」の仕組みでは、すべての希望者に無条件で譲渡されるわけではなく、責任感や生活基盤を含めた一定の条件を満たした方に対して、審査を経て譲渡が行われています。

こうした特徴を踏まえると、シニア世代がシニア犬猫と暮らすことは、決して特別に難しいことではないと増田先生は言います。

「これまで動物を幸せにしてきた実績のある人たちであれば、その実力を、家族を待っている動物たちに返すことに、何の懸念があるでしょうか」

動物福祉としての「シニア for シニア」

「シニア for シニア」は、単なる優しさや寂しさをうめるためとして生まれた取り組みではありません。

・動物にとっての安全基地を取り戻す

・高齢者の自立と役割を支える

・双方の健康や情緒の安定につながる

こうした要素が重なった、科学的にも合理性のある仕組みです。

人と動物の関係は、年齢によって制限されるものではありません。むしろ人生の後半だからこそ生まれる、穏やかな共生の形があります。

「シニア for シニア」は、人と動物が支え合って生きる社会を実現するための、新しい動物福祉・高齢者福祉のモデルです。

海外でも広がり始めている「Seniors for Seniors」

こうした「シニア for シニア」の考え方は、日本独自のものではありません。海外ではすでに、高齢者とシニア動物を結びつける取り組みが広がっています。

ここでは、その代表的な事例を紹介します。

アメリカPets for the Elderly Foundation

アメリカでは、31州53のシェルターと連携した「Pets for the Elderly」というプログラムがあります。この取り組みでは、参加している動物保護施設から高齢者が犬猫を迎える際、獣医による検査や避妊去勢手術などの費用を支援。経済的なハードルを下げることで、高齢者と保護動物のマッチングを後押ししています。

URL: https://petsfortheelderly.org

カナダHumane Society of Hastings Prince Edward

カナダのオンタリオでは、スポンサー企業の支援によって「Seniors for Seniors」プログラムが運営されており、医療やマイクロチップ装着などの財政支援が実施されています。

URL: https://www.humanesocietyhpe.ca/

イギリスThe Cinnamon Trust

イギリスでは、高齢者や終末期の飼い主が動物と暮らし続けられるよう、ボランティアが生活をサポートする仕組みがあります。 たとえば、犬の散歩、買い物の手伝い、通院・入院時の短期預かり。さらに、飼い主が亡くなった後の「Forever Foster」など、高齢者特有の不安に対応する支援体制が用意されています。

URL: https://cinnamon.org.uk/

人と動物が支え合う社会へ

これまで見てきたように、

・医学研究は、人と動物の共生が高齢者の健康に良い影響をもたらす可能性を示しています。
・動物行動学は、特定の保護者との関係が犬猫の情緒の安定にとって重要であることを示しています。
・そして海外では、高齢者と動物の共生を支える社会的な仕組みづくりが広がっています。

つまり、「シニア for シニア」は、医学・動物福祉・社会政策の観点からも合理性を持つ取り組みなのです。

超高齢社会を迎えた日本では、高齢者の孤立や保護動物の増加といった課題が同時に進んでいます。こうした社会課題を前向きに解決していくためにも、人と動物が支え合う新しい共生モデルが求められています。

「シニア for シニア」は、その一つの答えです。

高齢者の動物飼育を止めるのではなく、安心して続けられる仕組みを社会で整える。

それは、人の健康にも、動物の福祉にもつながる未来の選択肢と言えるでしょう。

AWGsでは、こうした「シニア for シニア」の取り組みが広がっていくことを後押していきます。

アニマル・ドネーションでは、「シニア for シニア」の取り組みを支えるために、「アニドネシニア for シニア基金」を設けています。

この基金は、アニドネ認定団体が行うシニア世代とシニア犬猫のマッチングを支援するものです。この取り組みにご関心のある方は、ぜひご覧ください。

アニドネ シニア for シニア基金はこちらから


出典

(1 Palmer and Custance 2008、Vitale. et al 2019

(2 2025.学部生卒論

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