活動レポート
医療現場で「心」を支えるという仕事―ファシリティドッグ・マサの一日にAWGs Specialアンバサダー星奈津美さんが密着
2026.02.25
病気と向き合う子どもたち、そのそばで支える家族、そして医療従事者。
緊張感が漂う医療の現場で、言葉を使わずに人の心に寄り添う存在がいます。
それが、ファシリティドッグです。
今回は、AWGs Specialアンバサダーである星 奈津美さんとともに、ファシリティドッグのマサとハンドラー権守さんの活動に密着しました。
高度医療の現場で、マサはどのように人と関わり、どんな変化を生み出しているのか。
星さんが現場で感じた想いとともに、その日常と価値をお伝えします。
病気と闘う子どもと家族に希望を届けるファシリティドッグ

ホスピタル・ファシリティドッグ®︎(以下、ファシリティドッグ)は、専門的なトレーニングを受け、病院で活動する犬のことです。主に小児医療の現場で、治療や検査に向かう患者さんの不安や痛み、緊張をやわらげ、そっと心に寄り添う役割を担っています。現在日本では、4つの医療機関で4頭のファシリティドッグとハンドラーのペアが活動しています。
今回密着させていただいたファシリティドッグであるマサの派遣元は、シャイン・オン・キッズです。小児がんや重い病気と闘う子どもたち、そしてその家族への「こころのケア」を目的に活動するNPO法人で、アニドネの認定団体のひとつでもあります。そして、その活動が認められホスピタル・ファシリティドッグ®︎の商標も取得したそうです。
ファシリティドッグお仕事の半日

実際に、星 奈津美さんと密着させていただいた、ある半日の流れをご紹介します。
10時
朝はマサの専用スタッフルームに出勤。ハンドラーがその日の予定を丁寧に確認し、準備を整えていきます。
ファシリティドッグが着用しているベストは、株式会社モンベルのオリジナルです。生地の厚みや柔らかさ、脱着のしやすさなど、犬の負担にならないことを第一に考え、細かな部分までこだわって作成したものとのこと。
10時半
病院の中庭で体を動かし、排泄を済ませたあとは看護部へご挨拶。顔なじみの看護師さんにお腹を見せ、うれしそうに身を委ねる姿から、日頃の信頼関係が伝わってきます。
10時45分〜
病棟に入る前には、毎回ていねいに体を拭いて“ファシリティドッグモード”に。
比較的幼いお子さんが入院する病棟では、お子さんと廊下をお散歩したり、一緒に遊んだりします。時には、痛みが伴う処置に寄り添うことも。
再び体を拭いて、今度は少し年齢の高いお子さんの病棟へ。一緒にジェンガを楽しむ場面もありました。水泳をしていたお子さんが、オリンピック2大会連続メダリストである星さんと会話を交わす、印象的なひとときも。
11時半
午前中のファシリティドッグとしての活動が終了。中庭に立ち寄り、思いっきり走って気分転換。
12時
院長室を訪問。この日は星さんの来訪もあり、ご挨拶へ。マサはこの日いちばんとも言えるほどの大喜びで、院長先生に甘える姿を見せてくれました。日頃から、病院全体に温かく見守られている存在であることが自然と伝わってきました。
子ども一人ひとりに向き合う、ハンドラーの専門性とまなざし

密着を通して強く感じたのは、マサの高い対応力はもちろん、ハンドラーである権守さんの存在の大きさでした。ハンドラーの仕事には、看護師としての資格と臨床経験が必須です。医療の現場を深く理解したうえで、高い志を持ち、ファシリティドッグとの活動に日々向き合っています。
ハンドラーの役割は、マサと一緒に病室を訪れ、介在活動を行うことだけではありません。権守さんの一日は、大型犬であるマサがしっかり満足できる距離の散歩から始まります。その後準備を整えて病院へ向かい、月曜日から金曜日まで午前・午後それぞれ病棟を回ります。帰宅後にも再び散歩に出かけるという、規則正しくも密度が高く、体力も求められる日々です。
そして何より印象的だったのは、権守さんとマサが「誰にでも同じ関わり方」をしているわけではない、という点でした。病棟を回る時間以外にも、担当医師や看護師と連携しながら、一人ひとりの病状やその日の状態を丁寧に把握し、どのようなふれあいが最適かを考えているといいます。
たとえば今回、廊下を一緒に散歩した男の子。入院生活が長くなる中で、少しでも筋力が低下しないように離床を促しているとのこと。また年齢相応の手指の巧緻性が育つようにと、おやつをキャンディのように包んで開けることを促したり、ボールを投げて全身を使った動きにつなげたりと、病状と発達の両面を見据えた関わりをされていました。その意図を踏まえたうえで、権守さんはマサに的確なキューを出しています。
権守さんは常に一人ひとりの患者さんの状態を的確に見極め、「今日の体調はどう?」と静かに声をかけながら、マサとともに寄り添います。医療的な判断力とケアの感性、そして温かなまなざしが重なり合う、その姿は確かな専門性を備えたスペシャリストとしての佇まいでした。
そうした日々の積み重ねについて、権守さんは「ファシリティドッグとハンドラーは医療チームの一員として協働し、子どもたちが本来持っている力を引き出す存在でありたい。これからも、その可能性をさらに広げていきたい」と話してくださいました。
高度医療の現場で、心を支える存在として

今回訪問させていただいた国立成育医療研究センターは、東京都世田谷区にある国立の高度専門医療研究センターです。小児医療・周産期医療・女性医療を中心に約490床を有し、小児救急やがん、アレルギー、遺伝疾患など多くの専門診療科を備え、総合的で高度な医療を提供しています。
日本でもトップクラスの実績を持つ医療機関であるということは、それだけ重い病状を抱える患者さんが多く入院しているということでもあります。入院が長期化したり、大きな手術を受ける必要があるケースも少なくありません。患者さん本人はもちろん、ご家族の心身の負担、そして医療従事者が常に高い緊張感を持って向き合う現場でもあります。
そうしたことを踏まえて、笠原病院長は次のように語ってくださいました。
「治療の現場では、患者さんの心に寄り添うケアが欠かせません。ファシリティドッグは医療スタッフの一員として、患者さんやご家族の心を支え、治療に前向きに向かう力を引き出してくれる存在です。同時に、医療従事者の心も癒してくれています。」
ファシリティドッグの導入当初から、院内の雰囲気がやわらぎ、明るさが生まれたとのことです。笠原病院長の言葉からは、病院側がマサと権守さんを「チームの一員」として、かけがえのない存在と捉えていることが伝わってきました。
星 奈津美さんが現場で感じた、ファシリティドッグの本当の価値

今回、マサに密着したAWGs Specialアンバサダー星 奈津美さんにお話を伺いました。
星さんは、事前にファシリティドッグについて調べる中で、ポジティブなコメントがほとんどの中、「かわいそう」というたった一つのコメントが引っ掛かったといいます。しかし実際に病棟で患者さんに寄り添うマサの姿は、それを大きく覆すものでした。無理をしている様子はなく、安心して過ごすその穏やかさが、自然と患者さんの笑顔につながっていく。休憩時間にはのびのびと過ごし、甘える場面では素直に甘える。そのオンとオフの切り替えの自然さに、ファシリティドッグという存在のあり方を実感したそうです。
密着を通して星さんが感じたファシリティドッグの価値は、「人の背中をそっと押してくれる存在」であること。マサがそばにいることで、「少し歩いてみようかな」と思える。その小さな一歩を引き出せることこそが、大きな存在価値だと語ってくださいました。
病院は、患者さんだけでなく、医師や看護師、ご家族にとっても緊張や不安がつきまとう場所です。言葉を使わず、ただ隣に座り寄り添うマサの存在は、触れるだけで心を落ち着かせ、安心感をもたらしていました。その包容力は、犬だからこそ果たせる役割だと感じたといいます。
さらに星さんは、ご自身の経験を重ねながら、家族の立場にも思いを寄せてくださいました。
「私自身、病気を患ったときは家族やコーチに支えられていましたが、そのときは正直、支える側の気持ちまで考える余裕はありませんでした。病気と向き合う子どもを前に、親は『一番つらいのは本人』と思うからこそ、自分が弱音を吐いてはいけないと無意識に自分を追い込んでしまうことがある。今、自分が親になってみて、その気持ちがよく分かるようになりました。」
だからこそ、患者さん本人だけでなく、そばで支える家族の心にも寄り添い、癒しを届ける存在として、ファシリティドッグは大きな役割を果たしていると感じたそうです。
「この存在や価値を、もっと多くの人に知ってもらいたい。子どもたちだけでなく、家族や医療の現場にいる人たちの心も支えていることが、きちんと社会に伝わっていくといいと思います。」
ファシリティドッグがもたらすやさしい力を、もっと広げていきたいという想いが、言葉の一つひとつからまっすぐに伝わってきました。
まとめ:取材を通じて感じた温もりと今後

マサとハンドラー、そしてシャイン・オン・キッズの活動を通じて、医療の現場に広がる温かな心の交流と前向きなパワーを実感しました。子どもたちの笑顔や、ご家族のほっとした表情は、ファシリティドッグの確かな力を物語っています。今後、この取り組みがより多くの医療機関に広がり、一人でも多くのお子さんの笑顔が増えていくことを願っています。AWGsは、このような介在活動をこれからも大切に伝えていきます。
このテーマのゴール
ゴール 3
秘めた能力を解放させよう
人を支える犬がいます。近年は、研究の成果、動物との触れ合いが、人の心を癒したり痛みを緩和する効果を持つことが分かってきました。人に寄り添って心を癒すことを仕事とする犬猫の活躍の場を広げていきます。犬に過度な負担をさせないのが原則だと考えています。