君のとくとくという、少し早い心臓の音

To:スタン

From:ひかり

スタン。 ジャックラッセルテリア、オーストラリア生まれ、日本育ち。 好きなことは、撫でてもらうこと。気持ちのいい場所で寝ること。美味しいご飯を食べること。散歩に行くこと。私達家族に、名前を呼ばれること。 強くて大きな瞳でいつも語りかけてくれていたことを、あれから10年経った今も思い出す。 そしてあの、とくとくという、少し早い心臓の音も。 湿った鼻先。小さな前歯。アシンメトリーの耳の柄。カサカサの肉球。お尻のうずまき。 背中にある黒いパッチ。 透明で硬い、頬のひげ。長い睫毛。キラキラと輝く瞳。 感情豊かな、あの長いしっぽ。 共に過ごした時間。行った場所。食べたもの。見たもの。 君のいない寂しさを、君との思い出が柔らかく埋めてくれる。 今でもまだ、ふわふわの君の首筋に顔をうずめて、思いっきり息を吸って、幸せを噛み締めた日々を思い出し泣きそうになるときがある。 途方もない感情の渦に負けそうになるときがある。 でも君に伝えなきゃいけないのは、一番に言わなきゃいけないのは、スタン、一緒に生きてくれてありがとう。 一緒に怒ったり笑ったりしてくれて、ありがとう。 君の大きな瞳に、この世界がどう映っていたのか、また会えたときにどうか教えて。