キミと過ごした1ヶ月
To:パル
From:ポロすず

ブリーダー引退犬としてキミは我が家に来た。たくさんの友達を作れるようにと、仲間という意味を持つ「Pal」と名付けた。 我が家には先住犬すずがいて、それが最初の「仲間」。お留守番、お散歩、ショッピングカートに乗ってのお買い物…パルにとって初めての経験は、すぐ横にいつもすずがいた。 ふたりの距離は急速に縮まり、1週間後にはパパのウデ枕で並んで居眠りするまでになった。 2週間後、かかりつけの獣医師さんにて健康診断を実施。すず、異常なし。しかしパルは…。 触診で腹部に違和感があることを察知。レントゲンとエコー検査をしたものの詳細はわからず。先生の紹介で大学病院での再検査を受けることになった。 大学病院では盲腸にたくさんの異物が混入し、それが原因で腹部が腫れていることがわかった。数日後に入院・手術の流れになった。 手術当日、すずとパパとママはお散歩したりご飯を食べたりしながら、こんな機会がないかぎり訪れない大学の構内で楽しく過ごした。 数時間後、担当の先生から手術成功の報告を受ける。異物はすべて取り除かれ、もう安心。ただ経過観察のため、その日はパルを残して帰宅。 翌日、退院祝いに買っておいた洋服を持って病院へ。すぐに診察室へ案内され、そこには担当の先生がいた。 「パルくんが、麻酔から覚めないんです」最初は先生の言うことが理解しきれなかった。 次の日も、また次の日も、さらに次の日も状況は変わらず。「そろそろ覚悟をしてください」と、先生は言った。 「覚悟?」 パルは麻酔中に脳ヘルニアを発症し、脳が頭蓋骨から脊髄へ流れているとのことだった。「覚悟」とは、つまり安楽死。 返事をしないまま病室を出る。そしてすずを抱きしめながら、クルマの中で泣いた。1時間、2時間があっという間に過ぎ、ついにパパとママは無言のまま意思を確認し合う。 先生に私たちの意思を告げると先生は頷き、パルに取り付けられていた呼吸器をひとつずつ外す。私たちは、やがてパルの心音が静かになるまでそれを見続ける。 パル、入院中に誕生日を迎えて4歳。我が家に来てほんの1ヶ月。すずという仲間と出会い、たくさん遊んで、悪さもして、美味しいものを食べて。 パルとの日々は数字にしたらすごく短いけど、すずとパパとママは充実した時間を経験させてもらった。 ありがとね、パル!