活動レポート
優良ブリーダーを見抜く目を持とう_第二回~海外基準に見るヒント~
2025.11.11
優良ブリーダーを見極めるには、犬舎の清潔さだけでは不十分です。
大切なのは、繁殖への理念、遺伝学的な健全性の確保、犬たちの生活環境、行動学に基づいた社会化への配慮、そして「命をどう託すか」という販売姿勢までを総合的に見ること。
海外では英国ケネルクラブ(KC Kennel Club)や国際畜犬連盟(FCI)などが具体的な規範を定めています。
この記事では、それらの海外事例を参考に、優良ブリーダーを見抜くための5つのポイントを紹介します。
1.犬の健全性を守る繁殖の基本

ワンちゃんを迎える際に最も重視すべきなのは「健全性」です。健全性とは、見た目がかわいいとか流行しているといった要素ではなく、その犬が心身ともに健康に一生を過ごせるかどうかを意味します。
優良ブリーダーは、犬種本来のスタンダードを守ることと、遺伝子検査・健康スクリーニングを通じて、未来の世代に健康な犬を残す努力を欠かしません。
一方で、流行を追った極端な繁殖や、検査を行わない無計画な繁殖は、犬の福祉を犠牲にし、深刻な遺伝病や行動問題を次世代に残すリスクがあります。
スタンダードを守る繁殖
犬種標準(スタンダード)は、その犬種が持つ健全な体つきや性質を守り、健康的に一生を過ごせるようにするための指針です。優良ブリーダーはこのスタンダードを尊重し、犬に負担をかけるような流行や見た目重視の繁殖は行いません。
スタンダードを逸脱した繁殖は、健康や福祉を犠牲にするリスクがあります。代表的な例としては以下が挙げられます。
- ミックス犬(デザイナーズドッグ):遺伝の出方が予測できず、両方の犬種が持つ疾患リスクを引き継ぐ可能性がある
- 極小犬(ティーカップ、豆柴など):骨折や低血糖、内臓疾患などを起こしやすく、短命につながる恐れがある
- レアカラー:色素異常に伴う先天性の聴覚障害や皮膚疾患が報告されている
- 短頭種の過剰な繁殖:呼吸困難(BOAS)や熱中症のリスクを高める
「優良ブリーダー」のみを厳選して紹介するマッチングサイト『Breeder Families』を運営する株式会社ペトリコウェルの調査によると、獣医師の約7割がレアカラーや極小犬、ミックスに反対しているいう結果も出ています1)2)。


👉 スタンダードを守ることは「見た目を揃える」ためではなく、犬が健康で快適に生涯を過ごすために不可欠な原則なのです。
遺伝子検査と健康スクリーニングの重要性
外見のスタンダードを守るだけでは、犬の健全性は保証できません。近親交配や無計画な繁殖は、目に見えない遺伝病を広げてしまう危険があります。そのため優良ブリーダーは遺伝子検査や血統管理、健康診断をしっかり行ったうえで、慎重に繁殖を行います。
- 遺伝子検査:進行性網膜萎縮症(PRA)、変性性脊髄症(DM)などの遺伝病を事前に把握し、リスクのない組み合わせを選ぶ
- 血統管理:過去の血統を分析したり、近親交配を避けた繁殖をする
- 健康診断:股関節・肘関節のX線検査、心疾患の検査、眼科検査などを繁殖条件に組み込む
👉 こうした取り組みは「子犬を売るため」ではなく「犬種を健全に残すため」の責任ある姿勢です。
海外の事例に学ぶ
海外では、スタンダードを守ることと遺伝的健全性を確保することが、両輪として制度化されています。
- KCケネルクラブ(英国)
倫理規定 Code of Ethics では「健康や品種の健全性を損なう繁殖は禁止」と明記し、見た目だけで健康を犠牲にする繁殖を否定しています。さらに Health Standard として犬種別に必要な健康検査リストを公開し、ブリーダーに実施を義務づけています3)。 - FCI(国際畜犬連盟)
International Breeding Rules において、DNA検査や識別(マイクロチップ等)、遺伝性疾患キャリア同士の交配禁止を規定。さらに加盟国や犬種クラブに対し、健康検査を条件とした繁殖許可制度の導入を求めています4)。
2.住環境の整備と健康ケア

環境はワンちゃんの体調や免疫力に直結する要素です。子犬期は特にデリケートなので、優良ブリーダーは以下の点を徹底して管理します。加えて、海外規範・法律がどのように環境基準を設けているかも示します。
なぜ環境が健康を左右するのか
犬は、生まれてからの環境刺激・衛生・ストレスなどに強く影響を受けます。糞尿がこもった不衛生な空間では皮膚疾患・寄生虫感染・呼吸器系疾患が起きやすく、温度・湿度管理が不十分だと体温調節能力が未熟な子犬は体調を崩します。
また、運動スペースがないと骨格形成にも悪影響を及ぼします。さらに、日々の獣医ケアがなければ感染症リスクが高まり、子犬や親犬の健康維持が難しくなります。
優良ブリーダーは、こうしたリスクを最小化する環境づくりと健康管理をセットで行うべきです。
優良ブリーダーが満たすべき環境・健康ケア要件
以下は、良好な飼育環境・健康管理として典型的に期待される要件です:
- 衛生管理:犬舎・居住スペースは毎日掃除・消毒を行い、糞尿や臭いが滞留しないよう配慮する。汚れや湿気がこもらない設計・換気が必要。
- 温度・湿度管理:冷暖房および換気設備を備え、夏場・冬場の極端な気温には対応できるようにする。湿度も過乾燥・過湿にならないよう調整。
- 十分なスペース/運動可能性:狭いケージに閉じ込めず、犬が自由に歩ける・伏せたり転がったりできるスペースを確保。飼育場所の間取りや通路にもゆとりを持たせる。
- 医療ケア:定期ワクチン接種、寄生虫駆除、健康診断、異常時の迅速な獣医介入。繁殖犬も含めて定期チェックする。
海外の事例に学ぶ
海外では、住環境や健康ケアの基準が法律や規則として明文化されています。
FCI(国際畜犬連盟)
- 「Welfare, Well-Being and Protection for Dogs」ガイドライン にて、犬は「清潔で安全な環境で、十分に動き、社会化できる環境で育てられるべき」と明記。
- 飼育区域は常に整理され、物が散乱していない状態であることが求められる5)。
KCケネルクラブ(英国)
- Code of Ethics には「犬は十分な食事・水・運動・獣医ケアを受ける権利がある」と明記。
- 繁殖者は犬舎の清潔維持と、病気やけがに対する適切な対応を行うことが倫理的責任とされている6)。
ドイツ動物愛護法(Tierschutzgesetz)
- 第2条で「動物はその種に応じた行動をとれる環境で飼育されなければならない」と規定。
- 照明・温度・空気環境など、飼育施設の条件を法律で定め、過度なケージ飼育を禁止7)。
3.子犬の社会化

子犬が心身ともに健全に育つためには、体の健康だけでなく「心の成長」を支える社会化が欠かせません。特に生後3週〜12週頃の「社会化期」は、一生の性格や行動の土台をつくる大切な時期です。この時期に適切な経験を積めなかった子犬は、臆病さや攻撃性などの行動問題を抱えやすくなり、最悪の場合は飼育放棄の原因にもなりかねません。
優良ブリーダーは、母犬や兄弟犬との関わりを確保し、人との触れ合いや日常の音への慣れを意識的に取り入れています。こうした取り組みは、家庭犬としての安心感と社会性を育て、将来的に飼い主と良好な関係を築くための土台になります。
社会化とは?
子犬は生後3週〜12週頃に「社会化期」と呼ばれる大切な発達段階を迎えます。この時期に十分な経験を積めないと、成犬になってから臆病さや過度な警戒心、攻撃性などの行動問題を抱えるリスクが高まります。
逆に、豊かな社会化経験をした子犬は、人や犬に対して安心して接することができ、家庭犬としても安定した性格に育ちやすいのです。
優良ブリーダーが行う社会化の取り組み
- 母犬や兄弟犬と過ごす時間:兄弟犬とのじゃれ合いや母犬からのしつけを通じて、犬同士のルールや加減を学ぶ。早すぎる引き離しは社会性の欠如につながる。
- 人との触れ合い:抱っこや声かけ、遊びを通じて、人との信頼関係を築く。子犬の時期から複数の人間と関わることで、人懐っこさや安心感を身につける・
- 遊びと刺激:おもちゃを使った遊びや、探索できる空間を提供。好奇心を伸ばし、ストレスを和らげる。
👉 社会化を怠った子犬は「問題行動を起こしやすい犬」として手放されるリスクも高まります。ブリーダーの取り組みは、その犬の一生を左右すると言っても過言ではありません。
海外の事例に学ぶ
FCI(国際畜犬連盟)
- FCIは「社会化はブリーダーの責任」と定義し、子犬を新しい家庭に送り出す前に十分な経験を与えることを求めています。
- 人や音、環境に慣れるプロセスを繁殖者の責任範囲として位置づけているのが特徴です8)。
EU「責任ある犬の繁殖ガイドライン」
- EU委員会が示したガイドラインでは、繁殖犬・子犬に対して「十分な運動・刺激・社会化時間を確保すること」が推奨されています。
- さらに「五つの自由(飢え・不快・痛み・恐怖・正常な行動の自由)」を尊重することが社会化を含む繁殖活動の大前提とされています9)。
4.飼い主を選ぶ販売姿勢 ― 命を託す責任

ペットを迎えることは、“命を商品として買う”のではなく、“家族として託される”という行為です。優良ブリーダーは「売って終わり」ではなく、「譲渡後こそが責任の始まり」と考えます。子犬の未来を見据えた販売姿勢こそ、ブリーダーの良心を映すものです。
優良ブリーダーの販売姿勢における具体的取り組み
- ペットショップやオークションに流さない:子犬を流通チャネルに乗せることは、輸送や環境変化による心身の負担を増やします。優良ブリーダーはこうした販売方法を避け、直接のやり取りを基本とします。
- 飼い主を選ぶ面談・審査:住環境や生活スタイル、飼育経験、経済的余裕などを確認し、終生飼養が可能かを見極めます。安易に「誰にでも譲る」のではなく、犬にとって幸せな環境を整えられるかを重視します。
海外の事例に学ぶ
KCケネルクラブ(英国)
- また「飼い主が終生飼養できるかどうかを確認すること」が義務とされ、もし飼えなくなった場合にはブリーダーが再引き取りや再譲渡を支援する責任があると定められています。
- 倫理規定 Code of Ethics において、ブリーダーは「子犬をペットショップやディーラーに販売してはならない」と明記10)。
まとめ
海外では、犬の福祉を守るための繁殖基準や倫理規定がすでに制度として根づいています。
日本でも、そうした考え方を参考にしながら、健全な繁殖や適切な飼育環境を当たり前にしていくことが大切です。
優良ブリーダーを選ぶという行動は、ひとつの命の幸せを守るだけでなく、社会全体の動物福祉を前へ進める力になります。
私たち一人ひとりの選択が、ワンちゃんたちの未来をより優しいものにしていくのです。
次回は、優良ブリーダーのチェックリストについてご紹介します。
参考文書:
1)『Breeder Families』を運営する株式会社ペトリコウェルの調査 ”【獣医師の7割が反対!】見た目重視の繁殖に潜むリスク” URL
2)『Breeder Families』を運営する株式会社ペトリコウェルの調査 ”獣医師の75%以上がミックス犬のリスクを懸念!一方で飼い主の約8割は認識せず” URL
3)KCケネルクラブ(英国) KC Code of Ethics URL
4)FCI(国際畜犬連盟) FCI Statutes URL
5)FCI(国際畜犬連盟) FCI Welfare Guidelines URL
6)KCケネルクラブ(英国) KC Code of Ethics URL
7)ドイツ動物愛護法(Tierschutzgesetz) German Animal Welfare Act URL
8)FCI(国際畜犬連盟) FCI Welfare Guidelines URL
9)EU「責任ある犬の繁殖ガイドライン」 URL
10)KCケネルクラブ(英国) KC Code of Ethics URL
このテーマのゴール
ゴール 11
健やかな一生を
目の前にいる可愛い子犬・子猫が、どこで、どのように生まれたのか、思いを馳せてみましょう。親元から離され、長距離輸送により精神疾患を病んだり、遺伝子疾患などの健康問題を抱えた子が存在しています。多くの犬猫が健康体で人生のスタートを切れるようにするための方法を考えていきます。